俺の部屋はニャンDK 

白い黒猫

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カメラ教室開催

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 一月末に俺のインタビュー記事の載った猫雑誌は送られてきた。
  俺のサバたちとの馴れ初めのインタビューと共に俺のネットで公開してきた写真が掲載されている。
 読んでいるうちにギャラリーでサイン列の出来ている様子の写真まで載っている事に気が付く。そこには写真展まで開催され、それに熱烈なファンが集うかのような文章つきで……。
 更に誤解を広げる内容になっていることに、読んでいて俺は仰け反った。
 その為もあるのだろう、ブログの閲覧数も飛躍的に伸びてビビる。
「トラオさんの事もう少し知るのが早ければ、写真展見に行けたのに残念です ミケ子」
「こないだ行われたという個展行けなくて残念です。次回いつ行われるのでしょうか。 ブーニャン」
 そんなコメントがブログについていて、どう返事を返すか悩む。
 個展ではないし今後行われる予定もない……次回なんてある筈もない。
 お陰で小遣い程度だがポストカードの売上金、雑誌の取材料として図書カード。新商品のキャットフード等を頂けた事で良しとする事にした。
 しかしその新商品のキャットフード。二匹にとって衝撃的に旨かったようだ。皿を舐めきりエキスすら残さないくらい綺麗に食べる。
 次の日いつもの食事に戻った時、目の輝きがスっと消えるのを俺はシッカリ感じてしまう。しばらく俺に縋るような目で見つめ続けても、その猫缶を買い続ける資産は俺にはない。
 待ってもあの絶品猫御飯が出てこない。そう理解すると、仕方がないという感じで面倒くさそうに食べて離れていく。貧乏飼い主で申し訳ない。

 そんな俺の話を聞いて柑子さんはクスクス笑いながら、コンパクトカメラのシャッターを押す。彼女の目の先にはシマウマが走っている。
 二月になって大学が入学試験等でお休みも増えた。それで約束していた動物園に二人で来ている。シングも誘ったが寒いから嫌だと断られた。インド生まれのせいか、俺より彼は寒がりのようだ。
 冬だとはいえ、今日は小春日和で日向を歩く分には暖かい。
「猫さん結構グルメなのよね。
 知ってる? 猫缶をワンちゃんに食べさせると泣かんばかりに喜んでたべるとか。猫さんの方が味にはうるさいみたい。だから煮干も顔部分は苦いから残すでしょ?」
 アイツらはそういう意味ではお行儀良いのか出されたものは残さず食べる。食べ方と残し方と目の輝きで美味しいのか仕方がなく食べているのかは丸わかりだが……。
「そうなんだ。ウチのは全身食べるからね」
 俺は目の前のキリンにカメラを向ける。園内が広く、ゆったりと走る草食動物の姿が圧巻の一言。
 シマウマに麒麟と、猫とは違った味わいのある柄と毛の感じが新鮮である。
「キリンとかシマウマとかビロードのよう感じで手触り良さそうだよね」
 俺はファインダーを覗きながらついそう感想を漏らす。レンズ越しに観た彼らの姿を見てそう本当に思ったから。なんかつい触りたくなるようなツヤと風合いが本当に素敵。
 柑子さんは首を傾け俺のカメラのディスプレイをのぞき込む。艶やな光沢を見せる毛並の画像を見つめ嬉しそうに目を細める。
「ホント、綺麗」
 俺は自分の目でも迫りたいかなと、ネックストラップをはずし、カメラを渡す。柑子さんはその重さに驚きながらも動物に向けて構える。望遠鏡代わりに
「凄いね望遠で覗くと動物が近い!
 シマウマは馬と同じ感じなのかな? 色のせいかさらにやわらかい感じ」
 柑子さんの手がついシャッターボタンにかかったようでカシャッカシャッカシャッと音がする。慌てて柑子さんは謝る。
「そんな、謝る事でも……」
「乕尾くんの作品の中に私のしょうもない写真が混じって……消していいから!」
 申し訳ないなさそうに俺にカメラを返す柑子さん。
 俺は何故そんなに申し訳ながるのか分からず、受け取りメモリーを見かえす。
 顔をブルブル振ったためにブレまくったシマウマが映っていた。それが連射になっているからさらに面白さが増している。
「すごい! 決定的瞬間!」
 ブレているけど、動きがあって面白いと思ったからついそう声を出してしまう。
「どこが!」
 怒るように叫ぶ柑子さん。
「面白い写真だよ。
 それにこれが柑子さんの見えている世界なんだなと思うと、余計に良いな~と思う」
 俺の言葉に何故か柑子さんは顔を赤くする。馬鹿にしていると思われたのか?
「写真って結局風景の切り取りだろ? でも同じ風景を見ても人それぞれ感じる事は違うし見たいと思う所も違う。だから人の写真って面白いのかなと」
 柑子さんは唇を少し尖らせてコチラを見上げている。
「私は自分も興奮しながら、撮る相手も興奮するのかブレた写真ばかりになるのよね……。
 乕尾くんの撮った写真も見たいな」
 俺はディスプレイを柑子さんに見せて今日撮った動物の写真を見せていく。
「わ~! やはり上手い! そしてどれも可愛い!
 麒麟の耳ってこんなふうなんだ。毛皮も面白い!
 ……さっき言っていた意味よく分かるね。こうして乕尾くんが、とった写真を流れで見たらどう動物園見ているのか見えてくる」
 そう改めて言われると俺も恥ずかしくなる。さっき柑子さんが照れた様子になったのも分かった気がした。
「どの子も必ず全体の姿があって、どんな環境にいるのか分かる。そして顔とか身体とかを撮ってどういう子なのか見えてくるのよね」
 別に深く考えずに撮っていたから俺は何と答えるべきか悩む。
「風景を撮っていた時のくせなのかもしれない。写真整理の時にそれが何処であるのか後で見て分かりやすいんだ」
 柑子さんは俺の言葉に少し納得いってないように首を傾げる。
「それだけじゃないと思う。
 乕尾くんが、それぞれの場所、相手とシッカリ向き合おうとしている姿勢からでは?」
 なんか柑子さんからえらく良いように解釈されている気がする。俺は頭を掻く。
「今日は、私に写真の撮り方教えて! そして私も可愛い猫写真撮れるようになりたいから!」
 そう言われてどうしたものかと思う。最近のカメラは向ければ自動でピント合わせてくれるし、そんなに特別なノウハウなんて要らない。
 頭を下げられ、俺はハハハと笑い頷くしかなかった。
「取り敢えずは、手ブレはカメラの持ち方だけでもかなり軽減されるよ」
 昔カメラを教えてくれた叔父の言葉を思い出しながら言葉を選び教えていく。
 俺が知る範囲のカメラのノウハウと言われるモノを伝える事にした。
「あとそれぞれのカメラの癖を覚えて何処で焦点と光量を測るか覚えるんだ……。
 それでどんな写真が撮れるからのイメージがしやすいから。
 でも数撮って確認するのも手か……」
 俺の言葉にハイ! と良い返事をして頷き聞いている柑子さん。なんか不思議なカメラ教室が始まっている。
 俺の話を聞きながらカメラを撮る柑子さんの無邪気な様子がなんか可愛かった。
 猫に関しては先生の柑子さんが、写真に関しては俺が先生という立場にチェンジしている。
 二人で動物園を歩きながら様々な檻の前で写真を撮って進む。この動物をどうとったら可愛いのかとか話をしながら歩いた。
 肉食獣コーナーに向かうと、ライオンが日溜まりの中日向ぼっこをいていた。
 ライオンが香箱座りして欠伸している。こんな姿をみるとライオンも猫っぽい。というか同じネコ科仲間だ。
 俺の視線に気がついたのか、コチラを向いて首を傾げる。立ち上がりコチラに、ゆったりと歩いてきた。その太く逞しい足の太さに王者の貫禄を感じる。
「おっ、やはりライオンはカッコイイな」
 ライオンは口を開けガオ~と鳴く。その表情を押さえてから、逞しい|手(足)もズームで抑えた。大きい分、形もよく分かり可愛さも大きくなっていて、思わず微笑んでしまう。撮影しながら柑子さんと笑いあう。
 
 どう写真を撮るかを話しながら撮影している事で、自分がどうやって写真を撮っているのか見えてくる。
 そもそもカメラって人間が思っているよりもモノを写さない。明暗さのある所だと明るい所に合わせると暗い所が潰れ、逆もしかり。
 ハレーション起こしやすい状況、暗く沈む状況を避けつつ、撮りたいモノを撮る。
 確かにそれだけの事でも考えてみたら難しい事なのだ。目で見える感じとレンズ越しで写る感じはかなりズレがあるから。
 逆に主観的な意志の元景色を見る人間に対して、カメラは機械的にそこにある物を漠然と全て撮影する。つまり余計なものも何もかも全て写し込んでしまうのだ。
 その為、自分が撮りたいモノをどうしたら上手く写し出せるかを考える必要がある。
 カメラを撮るというのは前広がる風景の切り取り。
 漠然と広がる景色の中で、自分が撮りたいものを抽出したものそれが写真。
「結局は写真って前に広がる世界からの、引き算で突き詰めたものかもしれない」
 つい漏らした言葉に、柑子さんは目を丸くして俺を見つめてくる。
「乕尾くんのカメラ論面白いね。やはりカメラマントラオとしての視点?」
 俺は苦笑して首を横にふる。
「そりゃ、なんか柄になく偉そう事言ったのは分かっているけど……。からかわないでよ」
「からかった訳ではない! その言葉に感心したの。元々トラオくんの撮る写真が大好きだから!
 ああいう世界がそういう感じで生まれているのかなと」
 慌てたように柑子さんがそう返してくる。それはそれで、返答に困る。
「ありがとう……そう言ってもらえるのは嬉しい」
 なんか二人で照れ合う形になり、変な空気が流れる。
「でもさ、さっき俺が言っていた事って。普段誰もが自然にしている事だよね。
 人に何か伝えたい時とかに」
 柑子さんは首を傾げる。
「それは、どういう状況で?」
 俺は少し考える。
「例えばすごく面白い映画を観た時。それを友達に伝えたい時とか。映画事全部を漠然と説明するより自分が最高に感動した所を話して伝えるよね?
 会話とかも全てそんな感じなんだと思う。
逆にアレもコレもとダラダラ話すと伝わりにくい」
 フムと柑子さんは頷く。
「なるほどね。でも動物写真とか難しいわよね。どこもかしこもカワイイ! そういう動物を撮る時悩まない?」
「写真なんだから一枚で全て入れ込もうとしなくてもいいのでは? そのチャームポイントをそれぞれ別に押さえて切り取っていくとか」
 オオ~と声を出して柑子さん。
「乕尾くんはいつもそんな事考えて、猫さん撮っているの?」
 自分はどうなんだろうか? と考える。
「たぶんソイツらしい所を意識してとっているのかもしれない。目付きが面白いとか、柄が面白いとか、ポーズが面白いとか……それだけで深く考えていない」
 俺は頭を掻く。
「流石、乕尾くん」
それだけ感心させる事をしている訳でもない。返答に困っているのに柑子さんはニコニコしている。
 その表情がアレっという感じで俺から外れる。
「なんかさ、乕尾くん滅茶苦茶注目されているんだけど」
俺は言っている意味が分からず振り返ると、そこには俺を見つめるいくつもの目があった。
 動物園って動物を見る場所だと思ったが、実は違うらしい。
 動物も人間を見ている。さっきもミミズクにガン飛ばされてチョットだけビビった。
 どうやらカメラのレンズがその子にとって威圧的なものに思われたようで敵認定されて威嚇してきた。
 でもこのトラさんらの視線はどういう意味なのか考える?
 敵意は感じない。珍しく前の方に出てきて俺をジッと見ている。近所の地域猫のように。
 俺はどうリアクションするか分からなかったので、とりあえず手を振っておいた。
 ライオンは前足を振り返す筈もない。目を細めたり、シッポをゆっくりと動かしたりとしながらコチラを見つめ続けているだけだった。
 その様子はサバとモノが野良だった時に開けた窓から俺を覗いていた表情によく似ていた。
 戸越しに外を見つめるサバとモノの様子に重なる。昔野良だった時も、外の柵に嵌った状態で俺を見つめてきていた。
「俺達にとっては、動物園って動物を見学する事だけど、彼らにとっては逆なんだね。
今日はどんな人間がくるのか? ってチェックして楽しんでいると思うと、動物園の動物という職業も楽しそうだね」
 その後豹の檻や、虎の檻に行っても、彼らは好奇心に満ちた目で客である俺達を見つめてくる。それを見て俺はそう柑子さんにそう話しかけた。
 しかし柑子さんは目を細め納得いっていない表情をして首を傾げる。俺はアラ? と思う。
「俺変な事いった?」
 なんかバカな事を言って呆れられたのかもしれない。柑子さんは慌てて頭を横に振る。
「いや、その通りだと思うよ! 確かに動物園の動物は楽しそう。
 でもね、今あの子達が見ているのは……乕尾くんよね!
 それまで気儘にしていたのに、乕尾の姿が見えると妙にソワソワしだして近づいてくる」
 俺はそんな馬鹿な、振り向き比較的近くにいる虎に笑いかける。
「そんな訳ないよな? 俺達、人間面白い?」
 そう声をかけると、口を開けガオっと小さく虎は鳴きポリポリと首を掻く。普段どおりに気儘でいながら、人間を眺めているだけのようだ。やはり俺ではなく人間観察を楽しんでいる。
「ほら!」
 そう言うと柑子さんは苦笑する。
「たしかに乕尾くんにんげんが珍しくて、楽しんでいるのね」
 そう言って柑子さんはカメラを構え、虎の檻を背景に俺の写真を撮影した。
 
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