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AFTRE
言葉はなくても
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安住さんの言う通り、あんなに激しく届いていたキーボくんの漫画はピタリと来なくなった。もう大概の所まできていたので、ネタも尽きたのかもしれない。
就職決めて俺、俺が仕事以外で始めた事が一つある。それは朝のランニング。キーボくんをやっていくには体力が必要である。お蔭で体力もつき、前ほどキーボくんで転ばなくなった。キーボくんを着ての活動も以前より楽になったように感じる。 二号さんのように全力疾走は無理でも、かなり軽快な動きも出来るようになった気がする。
とはいえ、着ぐるみでの仕事はそんなに甘くない。というのは季節が冬から春そして夏に。着ぐるみにとって大きな試練を感じる時期になってきた。二月の状態でも着ぐるみの中はかなりの暑さで汗をかいたが、夏となるとそれどころでなく、滝のような汗というのを俺は初めて体験することになった。冷えピタしていても汗で冷えピタが落ちてしまう状態で、以前キーボくんの足元から冷えピタが落ちるという恥ずかしい事をしてしまった。そこで頭に巻くタイプのアイスノンを巻きその上からタオルを頭に巻く。キーボくんの中にはコールドドリンクと、汗拭きようのタオルを多めに用意して挑んでいる。それでも結構キツい。
駅前でのイベントの仕事を終え、俺は最後の気力を振り絞り喫茶店トムトムの扉を開る。紬さんは慣れたものでキーボくんのアイスコーヒー注文のハンドサインに頷き、最も冷房を感じられるクーラーの前のキーボくん専用シートに案内してくれる。一機にキーボくんの熱を表面から奪ってくれるクーラーの風に、文明の素晴らしさを実感する。そして少しましになってきたことで、ふと視線を外の世界を気にすると、目の前に人がいた。その人物はコチラを困ったように見つめている。
『璃青さん、奇遇ですね。ところで、お店は?』
もしかして、俺がめちゃくちゃ寛ぎすぎて、璃青さんが声をかけていたのに無視していたのだろうか? そう思いポケットから携帯を取り出しメールを出す。彼女は一人でお店を切り盛りしている為に、昼のお休み以外の営業時間に外を歩いているのは珍しい。メールを受け取ったらしい璃青さんは何故か背筋を伸ばし,キョロキョロと顔を動かす。
そうしていると、キーボくんの背後をポンポンと叩く音がして、チャック開き水筒に入ったアイスコーヒーが差しれられる。俺は頭を下げ紬さんにお礼を言う。
「璃青ちゃんのオーダーは?」
「は、あの、いえ、店番に母を置いてきてしまっているので、わたし、すぐに戻らないと………」
璃青さんと紬さんのそんなやり取りが聞こえる。なるほど、オープンには、お祖母さんのご病気でこれなかったというお母さんが来られているのかと納得する。だからこの数日お昼時にランチでみかけなかったのだろう。瑠璃さんとはお昼をとるタイミングが同じなようで、よく一緒にお昼を食べていたからだ。
『お母さんがいらっしゃったんですね。ならば安心ですね』
そうメールを送ると、また璃青さんはギョッとした顔になる。
あら? もしかして、気づいていない? 俺は通じるように前に座っている璃青さんに手をふってみる。おずおずと手を振り返してくる。その時に俺の携帯が何か受信する。瑠璃さんからで。
『ユキくん、どこにいるの?』
そして目の前の璃青さんは、コチラをハッとした顔でみてくる。良かった気付いてもらえたようだ。
「ま、まさか………。ええぇぇっっ?!!」
そう叫ぶ様子がまた面白くてつい笑ってしまう。良かったキーボくん着ていたから、こっちのつい笑ってしまった表情は分かっていないだろう。
『ごめんなさい、璃青さん知っているとばかりに。実はキーボくんの中身って俺なんです。あ、この青いの、“キーボくん”っていって、ここの商店街のマスコットなんだ』
『そうだったの……。大声出してごめんなさい』
璃青さんは、もう普通にしゃべっても大丈夫なのに、そうメールで返してきた。
『いやいや、知らなかったら驚いて当然なので』
『ユキくんは、どうしてここに?』
考えてみたら、メールでなかったら彼女の独り言になる。メールで正しかったのかもしれない。
『駅前のイベントの帰り。暑くて倒れそうだったから避難してきた。ここはよく水分補給に利用させて貰ってるんだ。そして今もここの美味しいアイスコーヒー飲んでいる所です。さっき入れてもらったのがソレなんだ』
『そうなのね。ねぇ、わたしもそのファスナー開けてみてもいい?』
その言葉に、ギョッとする。ハッキリいって今の俺はかなり見苦しい。頭にタオル巻いているし、汗で色の変わったTシャツとチノパン。
『ここで、ガバーと開けられると、困るかな』
そう返しておく。
『璃青さんはどうして、ここに?休憩?』
そして話題を変えることにした。
『ううん。実は、キーボくんを追いかけてきて………』
なぜ!
『俺を?どうして』
『ごめんなさい、そうとは知らず好奇心で付いてきてしまいました……』
責めているわけでもないのに。謝られてしまった。
『別に謝らなくても』
『ユキくんは、お店のお仕事の他に、そういうお仕事もしていたのね。大変そう』
真っ直ぐな瞳でコチラを見つめてくる璃青さん。そんな表情でこう言われるとなんか照れる。
『まぁ、流れでね。初めは仕方なくだったけど、今ではそれなりに楽しんでるよ。ちなみに他にあと一体いるんだけど、そっちは動きが激しいし、たまに声を出していることがあるんだ。見た目も少し違うけど、それが簡単に見分ける方法。そして出現率は俺より低め』
なんか、余計な事まで書いているような気がする。
「はい、アイスティー」
紬さんの声がする。
「ありがとうございます。………あっ、ユキ………じゃなくてキーボくん、お代わりいる?まだ喉が渇いてるんじゃない?」
確かに飲み切ってしまったのでもうアイスコーヒーはない。俺はハンドサインでお代わりを請求する事にした。
「もしかして、中の人の正体、分かっちゃった?」
「はい。携帯のメールで教えて頂きました」
「うふふ。ふたりはもう携帯のアドレスを交換してたのね」
紬さんと璃青さんとの楽しそうな会話が聞こえる。スッカリ彼女もこの商店街に溶け込んでいる様子なのが嬉しかった。
そして二人でいつものランチタイムの時のように会話を楽しむ。ただしメールを介して表面上は無言で。でもそのコソコソと会話するのがまた楽しくいつも以上にその時間が面白く感じた。そんな事していると小野くんのお迎えが来る。俺は黒猫の仕事をするために帰る事にした。
就職決めて俺、俺が仕事以外で始めた事が一つある。それは朝のランニング。キーボくんをやっていくには体力が必要である。お蔭で体力もつき、前ほどキーボくんで転ばなくなった。キーボくんを着ての活動も以前より楽になったように感じる。 二号さんのように全力疾走は無理でも、かなり軽快な動きも出来るようになった気がする。
とはいえ、着ぐるみでの仕事はそんなに甘くない。というのは季節が冬から春そして夏に。着ぐるみにとって大きな試練を感じる時期になってきた。二月の状態でも着ぐるみの中はかなりの暑さで汗をかいたが、夏となるとそれどころでなく、滝のような汗というのを俺は初めて体験することになった。冷えピタしていても汗で冷えピタが落ちてしまう状態で、以前キーボくんの足元から冷えピタが落ちるという恥ずかしい事をしてしまった。そこで頭に巻くタイプのアイスノンを巻きその上からタオルを頭に巻く。キーボくんの中にはコールドドリンクと、汗拭きようのタオルを多めに用意して挑んでいる。それでも結構キツい。
駅前でのイベントの仕事を終え、俺は最後の気力を振り絞り喫茶店トムトムの扉を開る。紬さんは慣れたものでキーボくんのアイスコーヒー注文のハンドサインに頷き、最も冷房を感じられるクーラーの前のキーボくん専用シートに案内してくれる。一機にキーボくんの熱を表面から奪ってくれるクーラーの風に、文明の素晴らしさを実感する。そして少しましになってきたことで、ふと視線を外の世界を気にすると、目の前に人がいた。その人物はコチラを困ったように見つめている。
『璃青さん、奇遇ですね。ところで、お店は?』
もしかして、俺がめちゃくちゃ寛ぎすぎて、璃青さんが声をかけていたのに無視していたのだろうか? そう思いポケットから携帯を取り出しメールを出す。彼女は一人でお店を切り盛りしている為に、昼のお休み以外の営業時間に外を歩いているのは珍しい。メールを受け取ったらしい璃青さんは何故か背筋を伸ばし,キョロキョロと顔を動かす。
そうしていると、キーボくんの背後をポンポンと叩く音がして、チャック開き水筒に入ったアイスコーヒーが差しれられる。俺は頭を下げ紬さんにお礼を言う。
「璃青ちゃんのオーダーは?」
「は、あの、いえ、店番に母を置いてきてしまっているので、わたし、すぐに戻らないと………」
璃青さんと紬さんのそんなやり取りが聞こえる。なるほど、オープンには、お祖母さんのご病気でこれなかったというお母さんが来られているのかと納得する。だからこの数日お昼時にランチでみかけなかったのだろう。瑠璃さんとはお昼をとるタイミングが同じなようで、よく一緒にお昼を食べていたからだ。
『お母さんがいらっしゃったんですね。ならば安心ですね』
そうメールを送ると、また璃青さんはギョッとした顔になる。
あら? もしかして、気づいていない? 俺は通じるように前に座っている璃青さんに手をふってみる。おずおずと手を振り返してくる。その時に俺の携帯が何か受信する。瑠璃さんからで。
『ユキくん、どこにいるの?』
そして目の前の璃青さんは、コチラをハッとした顔でみてくる。良かった気付いてもらえたようだ。
「ま、まさか………。ええぇぇっっ?!!」
そう叫ぶ様子がまた面白くてつい笑ってしまう。良かったキーボくん着ていたから、こっちのつい笑ってしまった表情は分かっていないだろう。
『ごめんなさい、璃青さん知っているとばかりに。実はキーボくんの中身って俺なんです。あ、この青いの、“キーボくん”っていって、ここの商店街のマスコットなんだ』
『そうだったの……。大声出してごめんなさい』
璃青さんは、もう普通にしゃべっても大丈夫なのに、そうメールで返してきた。
『いやいや、知らなかったら驚いて当然なので』
『ユキくんは、どうしてここに?』
考えてみたら、メールでなかったら彼女の独り言になる。メールで正しかったのかもしれない。
『駅前のイベントの帰り。暑くて倒れそうだったから避難してきた。ここはよく水分補給に利用させて貰ってるんだ。そして今もここの美味しいアイスコーヒー飲んでいる所です。さっき入れてもらったのがソレなんだ』
『そうなのね。ねぇ、わたしもそのファスナー開けてみてもいい?』
その言葉に、ギョッとする。ハッキリいって今の俺はかなり見苦しい。頭にタオル巻いているし、汗で色の変わったTシャツとチノパン。
『ここで、ガバーと開けられると、困るかな』
そう返しておく。
『璃青さんはどうして、ここに?休憩?』
そして話題を変えることにした。
『ううん。実は、キーボくんを追いかけてきて………』
なぜ!
『俺を?どうして』
『ごめんなさい、そうとは知らず好奇心で付いてきてしまいました……』
責めているわけでもないのに。謝られてしまった。
『別に謝らなくても』
『ユキくんは、お店のお仕事の他に、そういうお仕事もしていたのね。大変そう』
真っ直ぐな瞳でコチラを見つめてくる璃青さん。そんな表情でこう言われるとなんか照れる。
『まぁ、流れでね。初めは仕方なくだったけど、今ではそれなりに楽しんでるよ。ちなみに他にあと一体いるんだけど、そっちは動きが激しいし、たまに声を出していることがあるんだ。見た目も少し違うけど、それが簡単に見分ける方法。そして出現率は俺より低め』
なんか、余計な事まで書いているような気がする。
「はい、アイスティー」
紬さんの声がする。
「ありがとうございます。………あっ、ユキ………じゃなくてキーボくん、お代わりいる?まだ喉が渇いてるんじゃない?」
確かに飲み切ってしまったのでもうアイスコーヒーはない。俺はハンドサインでお代わりを請求する事にした。
「もしかして、中の人の正体、分かっちゃった?」
「はい。携帯のメールで教えて頂きました」
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そして二人でいつものランチタイムの時のように会話を楽しむ。ただしメールを介して表面上は無言で。でもそのコソコソと会話するのがまた楽しくいつも以上にその時間が面白く感じた。そんな事していると小野くんのお迎えが来る。俺は黒猫の仕事をするために帰る事にした。
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