愚者が描いた世界

白い黒猫

文字の大きさ
10 / 51
~王子と剣~

2-1 <金環の瞳>

しおりを挟む
 ブルーム元帥の招待をうけ、王子専用近衛隊隊長ダンケと共に訪れた王国軍司令部。
  通りがかった修練場は、剣のぶつかる音、怒号が飛び交い、荒々しい活気に満ちている。
  芸術を愛し、穏やかな生活を好むフリデリックにとっては、その空気は何とも居心地の悪いもので、むせ返る汗の香りが、酔いに似ためまい誘う。近衛隊長を勤めるダンケにとって圧巻な光景でも、フリデリックにとっては足のすくむ、怖気つくだけの光景でしかなかった。
 「流石……アデレードが誇る、ブルーム元帥の軍隊の訓練風景ですね! 個々のレベルが驚くほど高い!」
  真剣ではないものの、逞しい男達が闘志丸出しで互いを倒すために打ち合う。
  剣技を磨き今の地位を築いてきたダンケは、その光景は胸を躍らせ、少年のような瞳でその光景を見入っている。その横で、フリデリックは青ざめていた。フリデリックは顔を引きつらせ思わず後退さってしまう、修練場を見入っているダンケをそのままに、修練場から逃げるように陽光がみえるテラスへと走り出す。
  勝手に離れたことは不味い事も理解していたし、すぐにダンケの元に戻らねばならないと思うものの、室内の奥から伝わってくる暴力的な空気に足がすくみ一人佇んでしまう。
  震える足と、激しく動悸を感じる胸を落ち着けるために、目を閉じ大きく息を吸い吐く。
  ゆっくりと目を開けると、何者かが心配そうにフリデリックを見つめている。
 『天使!?』フリデリックの脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
  黄金の髪に瑠璃紺の瞳の印象的なその少年。北方の遊牧民がするような、長い髪を額から後頭部にかけいくつもの細かい編み込みにして、後ろで一つに纏めるという髪型をしているため、黄金の鎖が頭部を彩っているように見える。そしてその顔は、今までフリデリックが見たその絵画に描かれた天使よりも美しい優しい顔立ちをしていた。
  その何より驚かせたのはその瞳で、深い湖を思わせる光彩は良く見ると黄金色で縁取られており、それがまずますその少年を神秘的な存在へとしていた。
  それは『金環眼』と呼ばれる聖なる印とされる瞳。
  その瞳は神の子が持つと言われる瞳。従兄弟のレジナルドのように絵の具を散らしたように金で彩られた金彩眼をもつ者は時々この世に存在しているものの、『金環眼』は物語の中にしか登場しない。もはや伝説の存在。
  その瞳をもつ人物を前にして、ただ呆然とするフリデリック。
 「ここで何をしているのですか?」
  その天使はフリデリックに落ち着いた静かな声で話しかけてくる。高名な職人の手で作られた笛を思わせる高め透き通った耳に心地よい声が静かに響く。
 「え……ブルーム元帥にお会いする為に来たのですが……え……と あの……」
  フリデリックは緊張に声が震えるのを感じ、その震えた情けない声が恥ずかしくなり頬を赤くした。
  天使はそんなフリデリックを暫く何も言わず見つめ、フッ柔らかい笑みを浮かべる。
 「あっ あと……連れの者とはぐれてしまって……」
 「とりあえず……ブルーム元帥の所に、ご案内いたしましょう」
  天使は優雅にフリデリックに礼の姿勢をとり、さっさと歩き出した。
  フリデリックは慌てて、その少年の後を追いかける事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...