ペトリコールに融ける二人

白い黒猫

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世界の秘密を求めて旅に出る

塩は万能

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 東京での雨が嘘のように、こちらは晴れ渡っていた。
 事故現場は見晴らしも良く、明るくて、驚くほど平和だった。
「霜月小学校」と書かれた校門の向こうには、広々としたグラウンドが広がっていて……この暑さの中でも、子どもたちがサッカーに興じている声が響いていた。
 門の右側にある校舎には、「サッカー部県大会準優勝」「美術部銀賞受賞」といった垂れ幕がいくつも下がっている。
 健全で、穏やかすぎるほど平和な光景だった。

「……本当に、ここですか?」

 マイちゃんは日傘をくるくると回しながら、門から左手へと歩いていく。
 そちらは壁があって、少しだけ日陰があるからだ。
 その壁には、子どもが描いたのだろう、自由で大胆なタッチの壁画が広がっていた。
 花や虫をモチーフに、それらをつなぐように描かれた曲線が、絵を大きな一つの作品としてまとめている。
 今日のマイちゃんは、赤いノースリーブのワンピースに、裾が軽やかに揺れるシースルーの上着を羽織り、紺のフリルがあしらわれた日傘を差している。
 そんな彼女が、この派手やかな壁画の前を歩く姿は、まるで映画のワンシーンのようで、私は思わずスマホを取り出し、シャッターを切った。
 今日しか残らない一枚だけど、それでも残しておきたかった。
 シャッター音に気づいたのか、マイちゃんが振り返り、笑いながらポーズを取る。
 私はもう一度シャッターボタンを押してから、彼女のもとへ近づいた。
 撮ったばかりの写真を見せると、マイちゃんは嬉しそうに笑った。
 私はその隣で、壁画を背にアスファルトに視線を落とす。

「この小学校の前の道路で、あの人が死んだの」

 そう言って、私は前のなんかボコボコ穴あいた荒れているアスファルトに覆われた道路を指差す。

「え? 道の真ん中!?」

 マイちゃんが驚いたように声を上げる。

「この小学校の校庭で竜巻が発生して、それが校門の方へ移動してきたらしいの。門を破壊しながら通り抜けて、ちょうど道路に立っていた彼女を襲った……みたい」

「まさか、竜巻で吹っ飛んだってこと?」

 マイちゃんはおかしそうに笑い出す。

「直接の死因は、巻き上げられた破片による身体損傷。竜巻自体はすぐに消滅したって……なんだか、ちょっと奇妙じゃない?」

 マイちゃんは黙り込み、しばらく前を見つめて考え込んでいた。

「自業自得、ザマーミロって気もしますけど……呪術っていうより、むしろこの女も“呪われた”って感じしますね。

 でも、なんでこんな住宅街で? ストーカーしてた相手の家でも近くにあるんですか?」

 私はゆっくりと振り返る。

「この壁画……これをプロデュースしたのが、そのストーカー相手だった不死原渉夢さん。
 子どもたちと一緒に描き上げた作品なんだって」

 マイちゃんは驚いた顔で壁画を振り返り、じっと見つめる。

「こっちに何か呪術的な意味があるんじゃって、ちょっと警戒したけど……なさそうですね。
 いや、そんなこと言ったら失礼か。これ、素敵な壁画ですよ。子どもたちの自由な発想と、それを包み込むような優しい筆致のフォロー……この作家さん、好きかも」

 たしかに。
 見ているだけで、ちょっと元気が出るような絵だった。
 私はもう少し壁画全体を見渡そうと、少し後ろに下がる。
 そのとき、踵が何かに引っかかった。
 視線を落とすと、アスファルトに、まるで大剣でも突き刺したかのような深い穴が開いていた。
 ああ、そうだ。
 事故の記録に、「鉄骨が彼女の身体を貫いて地面に突き刺さった」と書かれていたのを思い出す。
 私が今まさに立っているこの場所で、貢門命架は死んだのだ。
 背筋を撫でるような冷たい感覚が、身体を包んだ。

「ナオコさん? 大丈夫ですか? ……顔色、すごく悪いですよ。ちょっと休みません?」

 マイちゃんが心配そうに声をかけてくる。
 私は慌てて首を横に振る。

「大丈夫……。ただね、いま気づいちゃって……私が立ってた場所が、彼女が死んだまさにその地点だって」

 言った途端、マイちゃんは素早く私の腕を掴んで、その場所から引き離した。
 そして、私が立っていた場所に向かって、なにやらお経のような言葉をぶつぶつと唱えながら、鞄から取り出したアジシオを振りかける。

「これで万全! じゃあ次、行きましょう!」

 元気よく拳を掲げるマイちゃんに、嫌な気分が吹っ飛んだ気がした。
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