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Live
spiritual
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同じ商店街にいる為に、一緒にバイト面接をした他のメンバーの様子は何となく見えてくる。居酒屋の『とうてつ』も、中華飯店『神神』も日中も営業しているだけでなく、かなりの繁盛店である事もあり、もう二人のダイスケ君らはいつもバタバタという感じで忙しそうに働いている。黒猫は閑古鳥で暇である訳ではないが、その二店に比べたら比較的ノンビリしていてパニックになる程の人が来ることもなく笑顔を浮かべ優雅にバイトさせてもらっている。Barという事で、お客様が時間に追われていないという事もあるのかもしれない。Jazzを楽しみたい人、ただゆったりと飲みたい人、会話を楽しみたい人とそれぞれのテンポで楽しんでいるので、そのテンポに合わせてサービスをしていけば良いからかもしれない。空気を読んで動けば良い。
今日は透さんに頼まれて早めに黒猫に行くと杜マスターがカウンターの中で仕事をしていて、澄ママはまだいなかった。挨拶の後マスターが澄ママは上の自宅部分で料理を作っていると教えてくれた。俺は頷き、荷物の置いてあるテーブルの所にいくと、そこには透さんからの指示書がある。細やかで丁寧なその連絡書にはいつも頭が下がる。助かるのだが、透さんが黒猫の仕事ができないという時は、彼が忙しい時でもあるので、こんな挨拶文から始まるような丁寧な手紙を残していかなくても大丈夫なのにと思う。
看板とお勧め調理はもう書かれていて、忙しい中でもできる限りの仕事を済ませていった事が窺えた。グラスを磨くなどのカウンター内の作業を杜マスターが行い、俺は篠宮酒店から届けられたお酒を黒猫Bar内にある倉庫に運び整理し、メニューのセットとかしていると黒猫のドアが開きKenjiさんが呑気に入ってくる。黒猫のJazzの舞台はオープンした一時間後くらいから始まるので、大体の演奏者は開店少し前に来て、楽屋で準備してお客様のいる状態で、舞台で音調整とかしてショーをする。しかしコイツは暇なのか? というくらいいつもオープン二時間前と早目に来る。杜さんとお友達という事もあるのだろうが、いつも何か飲みながら俺以外の人とおしゃべりしながら気ままに過ごす。杜さん曰く、『普段は忙しいので、ここでこうしてのんびりすることでリフレッシュしているのだろう』というが、それが甥っ子さんをナンパというので良いのですか? とは言えない。変な事言うと二人の友情を壊しそうだし、今のとこ透さんは気が付いていないし、俺もさりげなく邪魔しているからオカシナ事になりそうもない。
「あれ~ユキちゃんは?」
挨拶して二声目はソレだった。
「今日はソムリエの講習を受けに行っているのでいませんよ」
俺がそう答えるとあからさまにガッカリした顔をするのを見て、俺は心の中で『ザマアミロ』とつぶやく。作業している杜さんはそんな様子見えていないのか、Kenjiさんに穏やかにピアノ曲を強請る。
実はこの世界ではそれなりに有名な存在ならしいKenjiさんは、確かに演奏は素晴らしい。杜さんのリクエストで軽く弾いているだけですごくいい感じに聞かせる曲を奏でてくる。でこういう才能って人格と関係ないというのが良く分かる。そんな生演奏のBGMと贅沢な中で開店準備することになる。こういう意味では便利な男なのかもしれない。そんな時電話がなる。杜さんが出て話している感じだと相手は澄ママなようだ。
そんな様子を見ながらKenjiさんはピアノから離れ俺のところに近づいてきて、炭酸水を求めてくる。
「料理取りにいってくるよ」
俺が炭酸水の瓶を取りにいくと、杜さんはそう言いながら、逆にカウンターから出ていく。カウンター席に座ったKenjiさんにキャップを外した炭酸水を渡すと意味ありげにニヤリと笑い受け取った。なんか嫌な感じである。そして杜さんが扉から出ていったのを確認してからKenjiさんは口を開く。
「君さ~可愛げないとか、野暮だとか良く言われない?」
俺がかなり邪魔しているのを流石に気が付いていたようだ。会話しているのをことごとく邪魔したし、Kenjiさんが自分のライブに誘っているのを見たら、そこにいたKenjiさんの大ファンという学生バンドのメンバーを乱入させて二人っきりにさせることを阻止した。
「そんな事初めて言われます。どちらかというと気がきく男だと」
ニッコリ笑ってそう言ってやるとKenjiさんは苦笑する。
「可愛いユキちゃんへのラブアタック邪魔しないで欲しいんだけどね」
「目の前でセクハラが行われていたら、大人として何とかしないといけないと思うのは普通だと思いますけど」
こう言ってもニヤニヤしているKenjiさんは何とも不気味である。
「セクハラでなくて、大人なアプローチと言ってほしいね~」
やはりコイツはキモイ。
「そういうお遊びは余所でやってくれませんか? 何もご友人の家族に手を出さなくても貴方はそういう相手は山程いるのでは?」
杜さんがいなくなるのを見計らって、俺にそういう会話してきたという事は、コイツは杜さんにはオープンにしたくないという事だろう。
「お遊びではないよ。俺のマネージャーにしていつも可愛がってやりたいくらい」
ますます気持ち悪い。ゾワ~とする。
でも今背筋がなんか寒くなったのはKenjiさんの言葉の所為ではないようだ。俺は恐怖が近くに迫っているのを感じそっと右に顔を動かすと、そこに杜マスターが笑顔で立っていた。アレ? この人さっき出ていったのでは? 手に何も持っていないという事は料理を今持ってきた訳ではないようだ。
「Kenjiくん困るな~。かな~り苦労して手に入れた息子にそんな事してもらったら。君は下半身がだらしないのは知っていたけど、まさか男もいけるとは」
Kenjiさんも、その笑顔に何かを感じるものがあったのだろう、顔を引きつらせる。
「恋愛は自由だろ? それに透君は別にお遊びでという訳でもなく」
杜さん、一見いつもの笑顔なのにとてつもなく怖い。殺意を感じる怖さ。
「そういえば君に話していなかったっけ? 今の俺の理想の未来」
杜マスターはニコニコと穏やかに突然話を変える。怒っているように見えないのに怖いし、部屋がさっきからすごく寒い。
「透くんに可愛らしい奥さんが出来て、澄と俺と四人で楽しく暮らすんだ。そして透くんとその奥さんとの間に生まれた子供に『お祖父ちゃ~ん♪』って可愛く呼んでももらったりさ。その子をまた思いっきり可愛がりたいんだよね~」
あの透さんは杜マスターの甥っ子さんなので、貴方の孫ではないですよ。とはとてもじゃないけれどツッコめる空気ではなかった。
ゆっくりと近づいてくる杜マスターにKenjiさんは若干身体を退かせる。
「そんな俺の細やかな夢を、邪魔するなんて言わないよな~Kenji君」
笑みを浮かべたまま、杜さんは目をスッと細める。Kenjiさんの手を見ると震えている。そりゃそうだろう。杜マスターの目は殺人者の目だ。よく小説とかである人を殺した事のある人の目ってどういうモノか分らなかったけど、コレがソレだ! と思った。この方すごくヤバい!
「も、もちろんだ。お、応援するから」
Kenjiさんはすっかり白くなった顔色でそう必死で答えると、杜マスターの殺気が少し弱まり空気が少し軽くなった。
「そうか、なら安心した。
じゃあ、俺は料理取りにいってくるね」
いつものニコニコ笑顔に戻った杜さんは、今のやり取りが嘘のように明るく俺にそういって今度こそ本当に出ていった。Kenjiさんは緊張させていた身体の力をやっと抜いた。
「ヤバかった~」
そうため息交じりにつぶやく。
「大丈夫ですか?」
Kenjiさんについそう労わりの言葉をかけてしまう。
「あのさ、お前、この店でしばらく仕事するようだから忠告しておく」
炭酸水を呷って、いつになく真剣な顔で俺の方を見つめてくる。
「杜を敵に回すな、人生終わるから」
何ですか、その忠告。
「過去にアイツと揉めた奴をしっているが、一人はもうこの世におらず、一人は旅に出て二十年たった今も戻ってこない」
『冗談を』といおうとしたが、Kenjiさんの炭酸を飲む手が震えているのを見て何も言えなくなる。
杜マスターが澄ママと戻ってきた事で黒猫にはいつもの空気が戻ってくる。表面的ではだか。KenjiさんのピアノをBGMに開店準備、店も無事オープンした。そして透さんも戻ってきてお店は本格的に動き出す。ただ違うのはKenjiさんによる透さんへのセクハラがピッタリと止まった事。まあ結果平和になったから良かったのかな? とも思う。
そして月末。バイト料を杜さんから受け取る。何故かウィスキーの瓶と一緒。
「コレは?」
「Kenjiの事で君にかなり不快な気持ちにさせて、また気をつかわせてしまったから」
人の好い顔を申し訳なさそうに歪めてそう答える。
「いえ、そんな事、大した事ないです」
こういう表情をしていると、あの時の怖さが夢のようだ。
「ああいう事一人で抱え込まないで俺に相談してよ。コレでもマスターなんだから。お店の問題にはちゃんと向き合ってきたつもりだよ。
あと俺が君に教えられる事とったら、酒の事だからその勉強の一環として受け取ってよコレ」
人あたりの良い顔で笑い、瓶を撫でる。
「いえ、マスターに話してもご不快になるだけだと思って、今度から何かあったら相談しますから。ありがとうございますコレ」
「いやいや君には期待しているから、コレからもよろしくね。
……あと、アイツ変な事君に言ったかもしれないけど、気にしないでくれよ!
まったく失礼な奴だよな、冗談にしても人を犯罪者扱いするとは」
そう言って笑う杜マスターは、人を安心させるような穏やかで優しい空気を纏っている。
多分あの時感じた怖さは気のせいだろうし、Kenjiさんの質の悪い冗談だったように思えてくる。いやそう思う事にした。
貰ったお酒は、ネットで調べてみるとかなり良いモノだったようだ。その値段を見て後で仰け反った。コレってどういう意味の酒だったのか?
今後も何かあった時に情報寄越せという事なのか、口止め料? 悩ましい。
そしてKenjiさんに気になる杜さんの過去の真実を聞きたいと思ったが、あれから一か月たつけれど、何故かKenjiさんが黒猫を訪れる事がない。月二回は来ていたと思うのだが……。ついしてしまう怖い想像をふり払うように頭を降った。
※ ※ ※
spiritu 黒人霊歌 強い精神性を反映させた音という意味
今日は透さんに頼まれて早めに黒猫に行くと杜マスターがカウンターの中で仕事をしていて、澄ママはまだいなかった。挨拶の後マスターが澄ママは上の自宅部分で料理を作っていると教えてくれた。俺は頷き、荷物の置いてあるテーブルの所にいくと、そこには透さんからの指示書がある。細やかで丁寧なその連絡書にはいつも頭が下がる。助かるのだが、透さんが黒猫の仕事ができないという時は、彼が忙しい時でもあるので、こんな挨拶文から始まるような丁寧な手紙を残していかなくても大丈夫なのにと思う。
看板とお勧め調理はもう書かれていて、忙しい中でもできる限りの仕事を済ませていった事が窺えた。グラスを磨くなどのカウンター内の作業を杜マスターが行い、俺は篠宮酒店から届けられたお酒を黒猫Bar内にある倉庫に運び整理し、メニューのセットとかしていると黒猫のドアが開きKenjiさんが呑気に入ってくる。黒猫のJazzの舞台はオープンした一時間後くらいから始まるので、大体の演奏者は開店少し前に来て、楽屋で準備してお客様のいる状態で、舞台で音調整とかしてショーをする。しかしコイツは暇なのか? というくらいいつもオープン二時間前と早目に来る。杜さんとお友達という事もあるのだろうが、いつも何か飲みながら俺以外の人とおしゃべりしながら気ままに過ごす。杜さん曰く、『普段は忙しいので、ここでこうしてのんびりすることでリフレッシュしているのだろう』というが、それが甥っ子さんをナンパというので良いのですか? とは言えない。変な事言うと二人の友情を壊しそうだし、今のとこ透さんは気が付いていないし、俺もさりげなく邪魔しているからオカシナ事になりそうもない。
「あれ~ユキちゃんは?」
挨拶して二声目はソレだった。
「今日はソムリエの講習を受けに行っているのでいませんよ」
俺がそう答えるとあからさまにガッカリした顔をするのを見て、俺は心の中で『ザマアミロ』とつぶやく。作業している杜さんはそんな様子見えていないのか、Kenjiさんに穏やかにピアノ曲を強請る。
実はこの世界ではそれなりに有名な存在ならしいKenjiさんは、確かに演奏は素晴らしい。杜さんのリクエストで軽く弾いているだけですごくいい感じに聞かせる曲を奏でてくる。でこういう才能って人格と関係ないというのが良く分かる。そんな生演奏のBGMと贅沢な中で開店準備することになる。こういう意味では便利な男なのかもしれない。そんな時電話がなる。杜さんが出て話している感じだと相手は澄ママなようだ。
そんな様子を見ながらKenjiさんはピアノから離れ俺のところに近づいてきて、炭酸水を求めてくる。
「料理取りにいってくるよ」
俺が炭酸水の瓶を取りにいくと、杜さんはそう言いながら、逆にカウンターから出ていく。カウンター席に座ったKenjiさんにキャップを外した炭酸水を渡すと意味ありげにニヤリと笑い受け取った。なんか嫌な感じである。そして杜さんが扉から出ていったのを確認してからKenjiさんは口を開く。
「君さ~可愛げないとか、野暮だとか良く言われない?」
俺がかなり邪魔しているのを流石に気が付いていたようだ。会話しているのをことごとく邪魔したし、Kenjiさんが自分のライブに誘っているのを見たら、そこにいたKenjiさんの大ファンという学生バンドのメンバーを乱入させて二人っきりにさせることを阻止した。
「そんな事初めて言われます。どちらかというと気がきく男だと」
ニッコリ笑ってそう言ってやるとKenjiさんは苦笑する。
「可愛いユキちゃんへのラブアタック邪魔しないで欲しいんだけどね」
「目の前でセクハラが行われていたら、大人として何とかしないといけないと思うのは普通だと思いますけど」
こう言ってもニヤニヤしているKenjiさんは何とも不気味である。
「セクハラでなくて、大人なアプローチと言ってほしいね~」
やはりコイツはキモイ。
「そういうお遊びは余所でやってくれませんか? 何もご友人の家族に手を出さなくても貴方はそういう相手は山程いるのでは?」
杜さんがいなくなるのを見計らって、俺にそういう会話してきたという事は、コイツは杜さんにはオープンにしたくないという事だろう。
「お遊びではないよ。俺のマネージャーにしていつも可愛がってやりたいくらい」
ますます気持ち悪い。ゾワ~とする。
でも今背筋がなんか寒くなったのはKenjiさんの言葉の所為ではないようだ。俺は恐怖が近くに迫っているのを感じそっと右に顔を動かすと、そこに杜マスターが笑顔で立っていた。アレ? この人さっき出ていったのでは? 手に何も持っていないという事は料理を今持ってきた訳ではないようだ。
「Kenjiくん困るな~。かな~り苦労して手に入れた息子にそんな事してもらったら。君は下半身がだらしないのは知っていたけど、まさか男もいけるとは」
Kenjiさんも、その笑顔に何かを感じるものがあったのだろう、顔を引きつらせる。
「恋愛は自由だろ? それに透君は別にお遊びでという訳でもなく」
杜さん、一見いつもの笑顔なのにとてつもなく怖い。殺意を感じる怖さ。
「そういえば君に話していなかったっけ? 今の俺の理想の未来」
杜マスターはニコニコと穏やかに突然話を変える。怒っているように見えないのに怖いし、部屋がさっきからすごく寒い。
「透くんに可愛らしい奥さんが出来て、澄と俺と四人で楽しく暮らすんだ。そして透くんとその奥さんとの間に生まれた子供に『お祖父ちゃ~ん♪』って可愛く呼んでももらったりさ。その子をまた思いっきり可愛がりたいんだよね~」
あの透さんは杜マスターの甥っ子さんなので、貴方の孫ではないですよ。とはとてもじゃないけれどツッコめる空気ではなかった。
ゆっくりと近づいてくる杜マスターにKenjiさんは若干身体を退かせる。
「そんな俺の細やかな夢を、邪魔するなんて言わないよな~Kenji君」
笑みを浮かべたまま、杜さんは目をスッと細める。Kenjiさんの手を見ると震えている。そりゃそうだろう。杜マスターの目は殺人者の目だ。よく小説とかである人を殺した事のある人の目ってどういうモノか分らなかったけど、コレがソレだ! と思った。この方すごくヤバい!
「も、もちろんだ。お、応援するから」
Kenjiさんはすっかり白くなった顔色でそう必死で答えると、杜マスターの殺気が少し弱まり空気が少し軽くなった。
「そうか、なら安心した。
じゃあ、俺は料理取りにいってくるね」
いつものニコニコ笑顔に戻った杜さんは、今のやり取りが嘘のように明るく俺にそういって今度こそ本当に出ていった。Kenjiさんは緊張させていた身体の力をやっと抜いた。
「ヤバかった~」
そうため息交じりにつぶやく。
「大丈夫ですか?」
Kenjiさんについそう労わりの言葉をかけてしまう。
「あのさ、お前、この店でしばらく仕事するようだから忠告しておく」
炭酸水を呷って、いつになく真剣な顔で俺の方を見つめてくる。
「杜を敵に回すな、人生終わるから」
何ですか、その忠告。
「過去にアイツと揉めた奴をしっているが、一人はもうこの世におらず、一人は旅に出て二十年たった今も戻ってこない」
『冗談を』といおうとしたが、Kenjiさんの炭酸を飲む手が震えているのを見て何も言えなくなる。
杜マスターが澄ママと戻ってきた事で黒猫にはいつもの空気が戻ってくる。表面的ではだか。KenjiさんのピアノをBGMに開店準備、店も無事オープンした。そして透さんも戻ってきてお店は本格的に動き出す。ただ違うのはKenjiさんによる透さんへのセクハラがピッタリと止まった事。まあ結果平和になったから良かったのかな? とも思う。
そして月末。バイト料を杜さんから受け取る。何故かウィスキーの瓶と一緒。
「コレは?」
「Kenjiの事で君にかなり不快な気持ちにさせて、また気をつかわせてしまったから」
人の好い顔を申し訳なさそうに歪めてそう答える。
「いえ、そんな事、大した事ないです」
こういう表情をしていると、あの時の怖さが夢のようだ。
「ああいう事一人で抱え込まないで俺に相談してよ。コレでもマスターなんだから。お店の問題にはちゃんと向き合ってきたつもりだよ。
あと俺が君に教えられる事とったら、酒の事だからその勉強の一環として受け取ってよコレ」
人あたりの良い顔で笑い、瓶を撫でる。
「いえ、マスターに話してもご不快になるだけだと思って、今度から何かあったら相談しますから。ありがとうございますコレ」
「いやいや君には期待しているから、コレからもよろしくね。
……あと、アイツ変な事君に言ったかもしれないけど、気にしないでくれよ!
まったく失礼な奴だよな、冗談にしても人を犯罪者扱いするとは」
そう言って笑う杜マスターは、人を安心させるような穏やかで優しい空気を纏っている。
多分あの時感じた怖さは気のせいだろうし、Kenjiさんの質の悪い冗談だったように思えてくる。いやそう思う事にした。
貰ったお酒は、ネットで調べてみるとかなり良いモノだったようだ。その値段を見て後で仰け反った。コレってどういう意味の酒だったのか?
今後も何かあった時に情報寄越せという事なのか、口止め料? 悩ましい。
そしてKenjiさんに気になる杜さんの過去の真実を聞きたいと思ったが、あれから一か月たつけれど、何故かKenjiさんが黒猫を訪れる事がない。月二回は来ていたと思うのだが……。ついしてしまう怖い想像をふり払うように頭を降った。
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