希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫

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 黒猫でバイトしているとお客様の様々な人間関係を垣間見る事が出来る。地下のバーで、バンド演奏もある事でその音楽が良い感じでプライベートな空間を作り出す。だからデートには良いのだろう。様々な年代のカップルがデートを楽しんでいる。中には相手酔わせてという事を頼んでくる良くない輩もいるが、そういう時は杜さんに言うと男の方のカクテルのアルコール度数を上げてくれる。結果男は潰れて結局タクシーで帰るようになる。
 そんな眉を顰めるものからほのぼのしたものまで様々な人間ドラマを楽しんでいたのだが、今日は俺何故か透さんに憐れみのような視線を向けられている。気のせいだとは思うのだがやたら意味もなく透さんと目があう。
 いつもと違うのは黒猫に酒屋の息子の醸さんと、神神飯店の娘さん天衣さんがやってきてお酒を飲んでいる事ぐらい? 最近カップルと同時に婚約者となったこの二人は兎に角熱い。ラブラブという意味で熱いのではなくて、醸さんの愛が熱すぎて滾っているのだ。彼女だけでなく全世界に向けて愛を叫んでいるのではないかというくらいその愛は強く激しい。天衣さんに片思いしていた友人のダイサクもその様子に失恋のショックも吹き飛び呆然として、しまいには笑っていたくらいである。彼が笑った意味がよく解った。そして彼女への愛について熱く透さんに語り、そして結婚を早くすべきだと力説している。そんな二人の話を穏やかに聞きながら、透さんは何故か俺を気にしてきた。透さんがホール出ている時に醸さんたちの対応しようとするとやんわり止めきて透さんがその相手をする。フリーの男子を婚約者のいる女性に近づけてはいけないという商店街の裏ルールでもあるのだろうか? いや今まで桃香さんの時は普通に仕事出来ていたし、そういう事はなかった。俺は首を傾ける。

 そして、俺はその後透さんの部屋で何故こうしてこんなに良いワインを振る舞われ呑んでいるのだろうか? クリスマスには早すぎる、誕生日でもない。そんなふうに俺が振舞われている理由が分からない。
 黒猫に一番充実しているのはやはりJazzBarだからかバーボンとかウィスキー、それにその時その時手に入った美味しいワインや日本酒が加わるという感じ。
 そして透さんと呑むのもウィスキーが多い。ウィスキーの方がロックや水割りするから長く量楽しめるから、語りながら呑むのに向いている。しかし今日は何故かワイン。確かにワインも美味しいけど、こんな時間は彼女さんと過ごせば良いのにとも思う。
 そして何でもない会話しながらも、何か言いたげというか、俺の顔をチラチラ気にするかのように視線を向けてくる。
「……あの、俺何かやりました? だったらハッキリ注意して下さいよ」
 気になるので、ハッキリ聞いてみる。するとビックリしたような顔をして、透さんは慌てて横に首をふる。
「違うよ、最近イベントで色々頑張ってもらったから慰労会」
 ワインは十二月だからこの方が良いかなとモゴモゴ言う。とはいえ透さんとの呑みは好きな時間。チョッピリ大人で柔らかい時間が流れ心地よい。自分は兄貴いないけど、いたらこんな感じで酒を楽しむのだろうか? 
 そして呑んでいるウチに話題は何故か恋愛論に。もしかして先程の急展開で話を進めていっているカップルが透さんなりに気になったのだろうか? だから俺は透さんと彼女さんの二人がお似合いだし、素敵なカップルに見える事を伝えておく。
「俺だって、初めてだよ。これ程人好きになるの。こんなに相手が気になる、自分で出来る事なら何でもしてあけたい! と思う程好きになったの。それまでは、本当にただ付き合っていただけなんだなと思うもの」
 顔を赤らめてそんな惚気を言う透さん。こう言うと失礼だと思うけどはにかんだ笑みを浮かべる様子がなんか可愛い。
「俺からみたら、理想的な恋愛です! 良い自然なペースで歩み寄って、そして関係をシッカリ進めているように見えます(だから焦らなくて今のままいって良いのではないですか?)」 
 悩むことなんて全くないですよ! という意味を込めて俺はそう訴える。
「羨ましいです~俺にもそんな相手現れるのかな~」
 透さん達の事、熱く語っていると、だんだん彼らが羨ましく、そして独り身の自分が寂しくなってきた。
「現れるよ! それに小野くん俺と違って男気あるし格好いいし。
 俺が女の子だったら絶対に惚れると思う」
 透さんの根拠のない断言の言葉。だけと嬉しい。透さんが、俺という人間に好意を持ってくれているのを感じたから。
「本当に~嬉しい♪
 俺も透さん女の子だったら絶対に惚れる!
 浴衣似合ってたし♪ 性格も穏やかで優しいし♪ なんか守りたくなるというか」
 俺も同じくらい透さんが好きな事を伝えておく。シッカリしているのに天然。頼もしいのに、危うい。弱そうで、逞しい。本当に不思議な人で一緒にいて飽きない。素敵で面白い人だと思う。俺はお酒の力もありどんどん楽しくなりそのまま、透さんに甘え意識を飛ばす。
 そして朝いつものように透さんの作った朝食を楽しんでいる。考えてみたら俺がこんなに人に甘える事するのって珍しいかもしれない。それだけここは寛げて心地良い。俺はリクエストして作ってもらったフレンチトースト食べながら、透さんと素敵な朝の一時を過ごし、ご機嫌のまま大学に向かう事にした。教室で何故か友人の法学に『彼女の家からきたのかよ!』 と検討違いの事で拗ねられた。理由は昨日と同じ服装で、しかも寝不足気味できたかわりに、小奇麗にしてきたからなようだ。俺はバイト先の方のお家で呑んだだけと説明しながら、透さんってもし彼女だったら最高だったのかもしれないと可笑しな事も考える。俺を柔らかく受け入れてくれて、面倒みてくれて甘やかしてくれて、しかも料理も上手。女性だったら絶対惚れている。何処かに女性版の透さんっていないものだろうか? と馬鹿な事を考える。
 しかしこの考え方が、俺に大きな過ちを犯させる事になるなんてこの時は思ってもいなかった。そして次の日、いつものように大学から直接商店街に行き、俺はいつものように挨拶をして黒猫の扉を開ける。いつものように透さんと澄さんが笑顔で迎えてくれる。そしていつもと同じように平和で楽しい時間が始まる筈だったが……この時の俺に、嵐がすぐそこに来ている事に気付ける筈もなかった。


※   ※   ※

solo  独奏・独唱の事。曲の中で単独でアドリブで演奏される音
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