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カラン
軽く小さなベルの音が、客様の訪問を伝える。
『いらっしゃいませ』そう言い、入り口の方を見て思わずその人物を見て呆ける。美しい女性が立っていたから。サラサラの長い髪に鹿を思わせる黒目がちの憂いを秘めた瞳。小さく形の良く赤い果実を思わせる唇。和服が似合いそうなその美しい女性に俺は思わず見惚れる。この俺のタイプを具現化したような女性の来店に俺の心がいつになくときめく。
しかしその女性は俺の声など聞こえていないようで、お店を不安げに見渡す。待ち合わせをしていたのだろか? 探し相手を見つけ、その表情がパアと明るい笑顔に変わる。元々美しかったその顔がますます輝き、その笑顔に目を細めてしまう。俺の体温が上がるのを感じる。
女性は笑顔のまま店内をある一点に向かって真っすぐ歩き出す。
そして女性はいきなり、透さんにガバっと抱きつく。
「透、会いたかった」
抱きつかれた透さんは、目を見開くが何故か不快げにその表情を歪ませる。そしてもはや専用席となった奥のカウンターの所で澤山さんがショックを受けた表情のまま固まっている。
「凜、何しに来たの?」
透さんにしてはキツい言葉。凜と呼ばれた女性は傷つく様子もなくニッコリと笑う。寧ろ嬉しそうだ。
「決まってるじゃない! 就職祝いを渡しに♪」
凜さんは下げていた小さな手提げ袋を透さんに渡す。透さんは目を丸くしてその手提げを受け取り、途端に照れた顔になり俯く。
「ありがとうござます」
その様子を凜さんは満足げに見つめ、お淑やかに見える顔立ちに似合わないニヤリとした笑いを浮かべる。そして手を透さんの頭にやりナデナデと撫でる。
「うーんやはり、カワイイ。そういう素直な表情。嬉しいなら嬉しい顔ちゃんとしないとダメじゃない」
その言葉で透さんが顔をムッとさせている。透さんにしては珍しい子供っぽい表情だ。女性は案内されていないのにカウンターに座る。杜さんの前の超常連席に当たり前のように。
「ユキくんはいつでもカワイイよ」
杜さんがニコニコとその女性の言葉に応えている。
「そうよね!
杜さん久しぶり! 相変わらず、ダンディー♪」
「凜ちゃんもますます綺麗になったね!」
杜さんと仲良さげに会話を始めた事にも驚いてしまう。杜さんとも知り合いのようだ。
「ありがと! でも透って私にこういった言葉かけてくれないの!
カワイイとか綺麗だねとかまったくよ! 朝目覚めた時とか、行ってきますのキスの時とか言ってくれてもいいと思わない?」
透さんをチラリと見て凜さんは非難するように視線を向け、杜さんにそう訴える。顔とは異なるサバサバとしたモノの言い方、そしてその内容に俺は呆然としてしまう。この女性、誰なのでしょうか?
「私が愛の籠ったメール出してあげているのに、ユキたらそれに『大丈夫です。ありがとうございました』という素っ気ない感じで一行以上返してくれた事ないのよ!!」
杜さんはフフフとその言葉を受ける。透さんはため息をつきながら、お通しを凜さんの前に置く。
「まあ、凜ちゃんは、ユキくんが数少なくそういう甘えができる相手だから」
その言葉に凜さんはハハハと豪快に明るく笑う。おしとやかな見た目と表情が正反対でなんか違和感を覚えるが、やはり綺麗な人はどういう表情しても綺麗なようだ。
「そりゃ私も、そこは分かってるわよ! 透は私の事大好きで、愛してくれているって。でもツンデレだから」
透さんは溜息を大袈裟につく。
「ツンデレって何だよ、凜と関わると面倒だからそうなるんだろ。用事終わったら、さっさと帰ったら。疲れてるんだろ?」
あれ?透さんらしくなくフランクに会話をしている。しかも名前呼び捨てにしている。明らかに元彼女な関係。
「それは透が可愛すぎるから悪いの。それに何やかんや言って、心配してくれるところが、本当に優しいんだから」
凜さんはそう言って透さんを抱き寄せ頬にキスをする。明らかにこの元彼女さん透さんの事まだ絶賛愛してますの状況のようだ。そんな二人をカウンターの離れた所に澤山さんの真っ青な顔が見える。その角度だと本当にキスしているように見えたのだろう。澤山さん大丈夫ですよ。キスは一方的ですし、頬にされていますし、こっちからみるとそんなに甘い空気はなく透さん思いっきり顔不機嫌にしていますよ。と視線で話しかけるけど、俺の方なんて澤山さん見てもいない。
「便利の間違では? 今日は飲みすぎないでよ!」
「え~思いっきり呑むためにきたのに。今日泊まって良い?」
凜さんは可愛らしく甘えるように顔を傾け、透さんを見上げる。別れた彼女にそう言われて頷くわけにはいかないだろう。透さんは顔を顰める。
「いいですけど、着替えは?」
え? と俺は透さんの顔を見て、そっと澤山さんの方を見ると唖然と口を開けている。そりゃそうだろ。普通泊めない。
「今日帰国してそのままここきたから大丈夫! 荷物実は杜さんの家の前にもう置かせてもらっているんだ~」
「でも、俺の部屋のソファーベッドそこまで寝心地よくないよ! だったら四階の客室の方が」
流石に同じベッドでは寝ないようだ。それにしてもいつも俺が寝ているベッドに寝てもらうのね。そこに少しドキドキする。
「だったら、透のベッドでいいわよ!」
「嫌だよ!」
「一晩くらい、いいでしょ一緒に寝ても」
ユキさんも流石にそれは嫌なようで、口論になっている後ろで澤山さんが席を立ってフラフラとお金払って帰ってしまった。
「やっぱり、客室使って! いいですよね? 澄さん」
ユキさんはそう拒絶した。そして視線を巡らせ、澤山さんがいないのに気が付いたようで、『あれ?』という顔になる。でもこの状況彼女からしてみたら、怒って帰っても当たり前だと思う。
そして凜さんからそっと、離れた所に透さんを手招きしてその事を伝えると驚かれてしまう。
「え? 気を悪くなんで?」
透さん、本気で言っているのだろうか?
「だって、元彼女さんがやってきて仲良くしていたら、彼女としては嫌なものですよ!」
透さんは口をぽかんと開ける。こんなに驚いた透さんを見たのは初めてである。
「は? 誰が元彼女? まさか凜?! どうしてそんな誤解を?!
小野くん、ゴメンホール少し任せて良い?」
そう言って、杜さんとアイコンタクトしてから頷いてユキさんはそっと店を出て行った。凜さんは上機嫌で杜さんとお話しながら飲んでいる。さっきの透さんの口振りだと、元彼女ではなかったようだ。この女性って何者なの?
改めて凜さんという女性に視線を向ける。スーツ姿の為とても清楚に見えるが、活発な話し方からキャリアウーマンなんだろう。社会人といったら俺よりも上。透さんと同じくらい?
お淑やかな見た目を裏切る明るい笑顔と話し方、そのアンバランスさも不思議と彼女に魅力を与えていた。俺の視線に気が付いたのか凜さんは振り向いて怪訝そうに俺を見つめ返してくる。黒目がちの瞳に見つめられ俺はドキマキしながら、必死で笑顔を作り、頭を軽く下げる。
「何か用? でアンタ誰? さっきから人の顔ジロジロ見て!」
凜さんの目は細まり、低い声でそう尋ねてきた。もしかして俺、物凄く不審がられているのだろうか? 草食動物を思わせる黒目がちの目に、柔らかそうで小さな唇、繊細そうな細い顎、怖い要素なんてゼロの容姿なのに、なぜこんなに凄みが出るのか? 俺はその視線に蛇に睨まれたカエルのように固まってしまった。
※ ※ ※
Thrilling 聴き手が鳥肌が立つような緊張感に溢れる演奏のこと
軽く小さなベルの音が、客様の訪問を伝える。
『いらっしゃいませ』そう言い、入り口の方を見て思わずその人物を見て呆ける。美しい女性が立っていたから。サラサラの長い髪に鹿を思わせる黒目がちの憂いを秘めた瞳。小さく形の良く赤い果実を思わせる唇。和服が似合いそうなその美しい女性に俺は思わず見惚れる。この俺のタイプを具現化したような女性の来店に俺の心がいつになくときめく。
しかしその女性は俺の声など聞こえていないようで、お店を不安げに見渡す。待ち合わせをしていたのだろか? 探し相手を見つけ、その表情がパアと明るい笑顔に変わる。元々美しかったその顔がますます輝き、その笑顔に目を細めてしまう。俺の体温が上がるのを感じる。
女性は笑顔のまま店内をある一点に向かって真っすぐ歩き出す。
そして女性はいきなり、透さんにガバっと抱きつく。
「透、会いたかった」
抱きつかれた透さんは、目を見開くが何故か不快げにその表情を歪ませる。そしてもはや専用席となった奥のカウンターの所で澤山さんがショックを受けた表情のまま固まっている。
「凜、何しに来たの?」
透さんにしてはキツい言葉。凜と呼ばれた女性は傷つく様子もなくニッコリと笑う。寧ろ嬉しそうだ。
「決まってるじゃない! 就職祝いを渡しに♪」
凜さんは下げていた小さな手提げ袋を透さんに渡す。透さんは目を丸くしてその手提げを受け取り、途端に照れた顔になり俯く。
「ありがとうござます」
その様子を凜さんは満足げに見つめ、お淑やかに見える顔立ちに似合わないニヤリとした笑いを浮かべる。そして手を透さんの頭にやりナデナデと撫でる。
「うーんやはり、カワイイ。そういう素直な表情。嬉しいなら嬉しい顔ちゃんとしないとダメじゃない」
その言葉で透さんが顔をムッとさせている。透さんにしては珍しい子供っぽい表情だ。女性は案内されていないのにカウンターに座る。杜さんの前の超常連席に当たり前のように。
「ユキくんはいつでもカワイイよ」
杜さんがニコニコとその女性の言葉に応えている。
「そうよね!
杜さん久しぶり! 相変わらず、ダンディー♪」
「凜ちゃんもますます綺麗になったね!」
杜さんと仲良さげに会話を始めた事にも驚いてしまう。杜さんとも知り合いのようだ。
「ありがと! でも透って私にこういった言葉かけてくれないの!
カワイイとか綺麗だねとかまったくよ! 朝目覚めた時とか、行ってきますのキスの時とか言ってくれてもいいと思わない?」
透さんをチラリと見て凜さんは非難するように視線を向け、杜さんにそう訴える。顔とは異なるサバサバとしたモノの言い方、そしてその内容に俺は呆然としてしまう。この女性、誰なのでしょうか?
「私が愛の籠ったメール出してあげているのに、ユキたらそれに『大丈夫です。ありがとうございました』という素っ気ない感じで一行以上返してくれた事ないのよ!!」
杜さんはフフフとその言葉を受ける。透さんはため息をつきながら、お通しを凜さんの前に置く。
「まあ、凜ちゃんは、ユキくんが数少なくそういう甘えができる相手だから」
その言葉に凜さんはハハハと豪快に明るく笑う。おしとやかな見た目と表情が正反対でなんか違和感を覚えるが、やはり綺麗な人はどういう表情しても綺麗なようだ。
「そりゃ私も、そこは分かってるわよ! 透は私の事大好きで、愛してくれているって。でもツンデレだから」
透さんは溜息を大袈裟につく。
「ツンデレって何だよ、凜と関わると面倒だからそうなるんだろ。用事終わったら、さっさと帰ったら。疲れてるんだろ?」
あれ?透さんらしくなくフランクに会話をしている。しかも名前呼び捨てにしている。明らかに元彼女な関係。
「それは透が可愛すぎるから悪いの。それに何やかんや言って、心配してくれるところが、本当に優しいんだから」
凜さんはそう言って透さんを抱き寄せ頬にキスをする。明らかにこの元彼女さん透さんの事まだ絶賛愛してますの状況のようだ。そんな二人をカウンターの離れた所に澤山さんの真っ青な顔が見える。その角度だと本当にキスしているように見えたのだろう。澤山さん大丈夫ですよ。キスは一方的ですし、頬にされていますし、こっちからみるとそんなに甘い空気はなく透さん思いっきり顔不機嫌にしていますよ。と視線で話しかけるけど、俺の方なんて澤山さん見てもいない。
「便利の間違では? 今日は飲みすぎないでよ!」
「え~思いっきり呑むためにきたのに。今日泊まって良い?」
凜さんは可愛らしく甘えるように顔を傾け、透さんを見上げる。別れた彼女にそう言われて頷くわけにはいかないだろう。透さんは顔を顰める。
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え? と俺は透さんの顔を見て、そっと澤山さんの方を見ると唖然と口を開けている。そりゃそうだろ。普通泊めない。
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「でも、俺の部屋のソファーベッドそこまで寝心地よくないよ! だったら四階の客室の方が」
流石に同じベッドでは寝ないようだ。それにしてもいつも俺が寝ているベッドに寝てもらうのね。そこに少しドキドキする。
「だったら、透のベッドでいいわよ!」
「嫌だよ!」
「一晩くらい、いいでしょ一緒に寝ても」
ユキさんも流石にそれは嫌なようで、口論になっている後ろで澤山さんが席を立ってフラフラとお金払って帰ってしまった。
「やっぱり、客室使って! いいですよね? 澄さん」
ユキさんはそう拒絶した。そして視線を巡らせ、澤山さんがいないのに気が付いたようで、『あれ?』という顔になる。でもこの状況彼女からしてみたら、怒って帰っても当たり前だと思う。
そして凜さんからそっと、離れた所に透さんを手招きしてその事を伝えると驚かれてしまう。
「え? 気を悪くなんで?」
透さん、本気で言っているのだろうか?
「だって、元彼女さんがやってきて仲良くしていたら、彼女としては嫌なものですよ!」
透さんは口をぽかんと開ける。こんなに驚いた透さんを見たのは初めてである。
「は? 誰が元彼女? まさか凜?! どうしてそんな誤解を?!
小野くん、ゴメンホール少し任せて良い?」
そう言って、杜さんとアイコンタクトしてから頷いてユキさんはそっと店を出て行った。凜さんは上機嫌で杜さんとお話しながら飲んでいる。さっきの透さんの口振りだと、元彼女ではなかったようだ。この女性って何者なの?
改めて凜さんという女性に視線を向ける。スーツ姿の為とても清楚に見えるが、活発な話し方からキャリアウーマンなんだろう。社会人といったら俺よりも上。透さんと同じくらい?
お淑やかな見た目を裏切る明るい笑顔と話し方、そのアンバランスさも不思議と彼女に魅力を与えていた。俺の視線に気が付いたのか凜さんは振り向いて怪訝そうに俺を見つめ返してくる。黒目がちの瞳に見つめられ俺はドキマキしながら、必死で笑顔を作り、頭を軽く下げる。
「何か用? でアンタ誰? さっきから人の顔ジロジロ見て!」
凜さんの目は細まり、低い声でそう尋ねてきた。もしかして俺、物凄く不審がられているのだろうか? 草食動物を思わせる黒目がちの目に、柔らかそうで小さな唇、繊細そうな細い顎、怖い要素なんてゼロの容姿なのに、なぜこんなに凄みが出るのか? 俺はその視線に蛇に睨まれたカエルのように固まってしまった。
※ ※ ※
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