希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫

文字の大きさ
24 / 41
Live

Effector

しおりを挟む
 キーボくん? ということは透さん何故通り過ぎた? と思うと器用に身体を回転させて戻ってきてコチラに突っ込んできた。慌てていたのか引き戸を開けきれないで入ってきたので通り抜けられずドアに詰まる。

ガタッ

 引き戸が少し外れた事で動かせなくなった事でそれ以上の開く事も出来なくなり、キーボくんはハマったまま動けないようただ。
「璃青さん! 璃青さん! 大丈夫ですか!!」
 キーボくんがバタバタしながらコチラに向かって叫ぶ。店の中の三人はそのオカシナ光景を唖然としながら見つめてしまった。
 流石に最初に反応出来たのは澤山さんで慌てて入り口に駆け寄る。
「ユ ……キーボくん大丈夫?!」
 俺も我に返りキーボくんで詰まった入り口に行き、外れた引戸を直して救出する。キーボくんはポーカーフェイスなので分からなかったが、近付いてみるとゼイゼイしていた。透さんこの姿で走ってきたようだ。スゴすぎる。澤山さんもその息遣いが分かったのだろう。
「ユ、……キーボくん、とりあえず休みましょう。今、お水持ってくるから待ってて」
 手を引かれ奥の方に連れていかれ椅子に座らせられる。心配して駆けつけて、逆に心配されている。
 凛さんは恐る恐るキーボくんを見つめている。
「コレ、透?」
「はい。“希望が丘商店街”のゆるキャラで『キーボくん』といいます」
「なんかカワイイ! 中に透が入ってい思うとなおさら」
 後ろから水を貰って飲み終わったキーボくんは、自分の前でニコニコしている凛さんを、キッと睨みつける。
「じゃないよ! 凛! ったく昔から考え無しで行動しすぎ! 小野くんにまで巻き込んで迷惑かけて何やっているんだよ!」
 凛さんは『あっ』という顔をしてキーボくんから少し離れて姿勢を正す。そして神妙な顔でプンプン怒っているキーボくんの小言を聞いている。まあ中身は透さんだから怒っていても理性的だし口調も激しくはない。でもそんな小言ともいうべき言葉がキーボくんから飛び出している事に違和感を覚えるのは俺だけだろうか? ゆるキャラが上品そうな大人の女性をコンコンと説教するなんて状況ハッキリ言って変である。ここに第三者が来たら訳わからないだろう。
「でも、それだけ透が心配だったの」
 チラっと上目遣いで凛さんがそう返す。凛さんは怒られている側だからこの異様な光景をツッコム事はできないのだろうか?
「凜が俺の事心配してくれているのは分かるよ。でも少しは信頼して。俺はもう大人なんだから」
 諭すように優しく語りかけるキーボくん。外見のインパクトが大き過ぎて透さんの姿が見えてこない。
「でも、まあ、この人なら認めてあげてもいいわよ」
 いや、凛さんは逆に外見が全く気になってないようだ意外と普通に対応している。視線をキーボくんから澤山さんへと動かす凛さん。その目つきは最初よりかなり柔らかくはなっている。と思ったらキラリと目が光り口角をあげ笑うような表情をする。その目は細められ澤山さんを捉えた。
「でも透を傷つけるような事したら ──」
「それは俺達二人の問題だから。多分一緒にいる間に色々あるだろうけど、それは二人で乗り越えたい」
 凛さんの言葉をキーボくんが遮る。凛さんは『うっ』と声出し黙り込む。そしてキーボくんを切なげに見つめ、その表情が明らかに傷付いた顔になる。
「あ、あのっ……。わたし、これから凛さんに色々相談させて頂いたりしてもいいですか?」
 その様子を見かねたのだろう。澤山さんが慌てたように凛さんに話しかける。澤山さんって、なんて優しい人なのだろうかと感動する。だって自分を攻撃しにきた怖い存在をそんなに気遣えるなんてそう出来るものではない。戸惑うように凛さんの瞳が揺れ澤山さんを見つめ返す。良かったこれで二人は平和的関係も築けそうである。俺は安堵のため息を吐く。
「璃青さんそれは俺にしてくださいよ。色々不安に感じることとか、不満とか俺にちゃんと言ってください。そして二人で解決していきたいから」
 ここから女の美しい友情が始まると思ったらキーボくんがそれを邪魔する。澤山さんの意識もキーボくんに持っていかれる。
「透くんに不満なんて ……。でもまた不安になったら甘えていい?」
 澤山さんはキーボくんを感動したような表情で見つめてそんな言葉を言う。
「そしてそんな風に言って頂いて嬉しいです。いつでも俺を頼って下さい! 」
「透くんこそ。わたしじゃ頼りないかもしれないけど、本当はもっと甘えて欲しいのに、っていつも思ってるのよ?」
 澤山さんはキーボくんの手をとり柔らかく頬笑む。それを見てキーボくんはコクリと元気に頷く。
「はい!
……璃青さん、やはり笑顔が一番素敵ですね。
そうやって俺の前で笑っていてください。その笑顔で俺は元気になるんです。そして俺はそれを守り続けたい」
 ウ~ン。透さん恋人へかける愛の言葉として素敵だとは思いますが、キーボくん姿だとすべて台無しです。しかしこの水色の生物がキーボくんに見えているのは俺のだけのようで、澤山さんは頬を赤らめ感動したような表情をしていて、凛さんは手を取り合って見つめ合う二人を、哀し気な表情で見つめている。澤山さんとキーボくんは完全に二人の世界に入ってしまっていて、完全に俺と凛さんは邪魔である。
「じゃあ、俺午後から授業あるんで、そろそろ失礼いたします」
 聞こえてないと思うけどそう挨拶してから、俺はそっと凛さんの肩に手を回し外へと凛さんを連れ出す。愛する可愛い弟が他の女性に首ったけな様子を見せつけられて凛さんはかなりショックだったようで放心しているのか素直に外についてきてくれた。
「あんな透、初めてみた。あんなに優しく甘い顔をして、彼女見つめるなんて事、今までもなかった……」
 キーボくんの着ぐるみの所為で表情も見えなかったと思うし、ムードもあったものではないと思うのだが、凛さんの目には中の透さんの姿は見えていたようだ。
「それだけ好きなのでしょうね。澤山さんが」
 俺がそう受けるとさらに傷付いた顔になり顔を顰めるので、慌ててしまう。
「思うのですが、透さんにとって凜さんが特別な存在って変わってないと思いますよ!!」
 そう続けると、凛さんは俺を縋るように見上げてくる。
「さっきの言葉も凜さんに『見守って』というように俺には聞こえました。
 だからこれから二人で一緒に見守りませんか?」
 出来る限り優しく笑いかけながらそう言うと、凛さんの瞳が潤み俺を映す。泣かれるかと思って緊張するが、その美しい顔は笑みのかたちへと変わる。凛さんらしい弾けるような明るい笑顔ではなく、俺の為に必死で、笑ってくれているのだろう。その証拠に涙が一粒頬から溢れる。『あっ』も思った瞬間ドンと衝撃を受ける。凛さんに抱きつかれたようだ。
「ぁりかとう、ダイちゃん」
 そして俺の胸に顔を押し付けながらワンワンと泣きはじめてしまった。ふと周りを見ると、通りすぎる人が皆、俺達をチロチロ見ている。当然である商店街の中でこんな事をやっていたら、絶対痴話げんかしたカップルに思われているんだろう。恥ずかしすぎる。
「凜さん、少し移動しましょう」
 凜さんはコクリと素直に頷く。俺はまだ泣いている凜さんの手を引いて近かった根小山ビルヂングに逃げ込んだ。

※   ※   ※

Effector   音にアレンジを加える装置の事
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...