希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫

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 大学の講義が終わると携帯電話にメールが入っているのに気がついた。
 『 toumei_r 』から始まるアドレスでサブジェクトは『お姉さんです♪』で相手は分かってしまう。法学が、『なんだ彼女か?』と冷やかしてきたでそのサブジェクト見せると
「なら、良かった」
 そう言って興味を無くしたようで少しホッとする。しかしハッとしたように視線を俺に戻してくる。
「お前の姉ちゃんって美人だろ、美人なんだな。
 ……でもお前に似ていたら少し嫌かな」
 ブツブツそんなことつぶやき再び離れていく法学に苦笑してしまう。俺も、もし自分に姉妹がいて、それが法学と付き合うとなると少し嫌だ。

『今日は色々と迷惑かけてごめんなさい。でもダイちゃんがいてくれて本当に助かったわ。ありがとう。
 ところで、大学は何時に終わるの?』 
 読み進めて、最後の一行に首を傾げる。
『いえいえ、お気になさらないで下さい。豪華なモーニングありつかせて頂きましたし。ご馳走様でした。
 それにお姉さんともお話出来て楽しかったです』
 教室移動しながら、敢えて最後一行無視して返事を返す。次の講義に集中して、その後も教授とのディスカッションを楽しみさらに次の講義へと走りという感じでメールの事も忘れていた。そして最後の講義終わった時に、メールが来ている事に気が付く。
『二十時五十分に大学終わるのね!
 なので二十一時頃に、朝待ち合わせた所で待っています』
 根小山家の電話周り、俺の授業スケジュールから連絡先といった個人情報が全部晒されている事を思い出す。凛さんは大学から駅までどのくらいの距離だと思っているのだろうか? どう見ても十分では無理! しかも今の段階で五十七分である。電話しようとして、凛さんの携帯電話の番号は知らない事を思い出す。
『すいません、今メールに気がつきました。
 今から急いで向かいますのが、二十分程お待たせしてしまいそうです。寒いので喫茶店でも入っていていただけませんか?』
 そうメールを返し、俺は駅に向かって走る。

 寒いのに凛さんは喫茶店にも入らず待っていてくれた。駆け付けた俺に、凛さんは俺を見てニコリと笑う。そして息切れしている俺を、心配そうに見つめ乱れた髪を直してくれる。火照って俺の頬とは逆に、凛さんの手は冷え切っている。
「そんなに急がなくても良かったのに。ゴメンね、焦らせてしまった?」
 すまなそうにそう言われると、つい顔を横に振ってしまう。この儚げに見える顔は狡いと思う。しかし勝手に呼び出したとはいえずっと待っていた凛さんは顔色も白くなっていて寒そうだ。
「凛さん、冷え切っていますよ。大丈夫ですか?」
 凛さんはフフと笑い首を縦に振る。
「ダイちゃんは暑くて苦しそう。大丈夫?」
 凛さんは両手を伸ばし俺の頬を包み込む。その冷たさは不快ではなく心地よかった。でも余りにも冷たいその手を暖めたくて、俺の手を被せる。
「ありがとうございます。冷たくて気持ち良いです」
 俺がそう言うと、凛さんは柔らかく優しく笑う。こう言う笑みも出来るんだ。こう言う表情見ると澄さんの姪だなと思う。
「ダイちゃんの優しさはとっても暖かくて心地よいね」
 可愛らしい顔で、そんな事言われて俺の心はドキドキしてくる。
「あ、あの!
 移動しませんか? 凛さん風邪ひいちゃいますよ!」
 俺は別の意味で顔が熱くなるのを感じながら離れる。凛さんは全く気にしてないないようでニコリと笑い頷く。
「じゃ、行こうか! ダイちゃんの部屋!」
「チョット待って下さい、何でウチ?!」
 凛さんは首を傾けて俺を見上げてくる。
「ダメ? 色々迷惑かけた事のお詫びをしたいし、改めてお話ししたい事があって」
 な、何を改めて話す事があるんだろうか? 慌てる俺を見てニヤリと笑ってくる。
「姉弟になるんだから、姉弟の契を結ばないとね!」
 そう言いながら床に置いていたいた荷物を一つ俺に渡す。ズシリと重い。見ると篠宮酒店の名の入ったワインが数本。
「こ、コレは??」
 凛さんは先に商店街に向けて歩き出す。俺の手を引っ張って。凛さんも、何やら重そうな荷物下げている。広口の紙袋にタッパーらしき物が入っている。
「ダイちゃんのゴハン♪ 一人暮らしなのでしょ? ロクなモノ食べてないと思って手作り料理持ってきたの♪」
 え? 俺の為に凛さんが作ってくれたというのだろうか?
 少し感動してしまった俺は引っ張られるままについていってしまった。そして二人で商店街をまた歩いていく。そして一つの疑問が……。
「あの、どうしてコチラへ」
 凛さんは振り向く。
「ダイちゃんの住んでいる所は商店街抜けた先の川の近くっていうのは聞いたの。あっているわよね」
 俺は頷く。もう俺の部屋に行く事は決定事項なのですか? そう考えている内に商店街も抜けてしまい俺は、凛さんを案内するしかなくなる。
「散らかっていますけど」
 俺は鍵をあけて電気付け、暖房を入れる。そして朝脱ぎ捨てた床に置いたままの寝巻きを手にして、ベッドの掛け布団の下に放り込む。そしてテーブルの上に散らばった本を片付ける。凛さんは面白そうに俺の部屋を見渡している。
「へぇ~思ったよりも、と言うか結構片付いているのね」
 と言うか荷物が余りないだけだと思う。収集癖はないので、生活に必要な家具以外にあるのは本と酒くらい。学生の部屋なんてそんなものである。透さんの部屋や根小山夫妻の部屋に比べたらお洒落でもないし貧乏臭くみえるだろう。
 俺はクッションをローテーブルの前に置き凛さんに座って貰う。凛さんは早速紙袋からタッパーを出し、ラタトゥユやクラブサンドイッチと言ったお洒落な手料理を並べていく。
 そして凛さん曰く篠宮酒店の店長さんが自信をもって薦めてくれたというワインを開け二人で向き合う。なんか自分の部屋に美しい女性がいるというのも変な気分である。去年までは彼女もいたので部屋に女性が来たこと無いとは言わないが、子供っぽい可愛さはあるが美人ではなかった。
「姉弟の誓いってどうするんだっけ」
 俺はそんなことした事ないから首を傾げる。ヤクザとかのは同じ杯の酒を皆で回して飲むというのがあるようだが、アレをするのだろうか?
「やった事ないからわかりませんが、一緒酒を飲めば良いのでは?」
 そう言うと、凛さんはウ~ンと悩む。そしてハッと視線を上げる。そして俺を見てワインの入ったコップを掲げる。
「我ら生まれた場所、時こそ違えど姉弟の契りを結んだからには、心を同じくして助け合う事を誓う♪ 同年、同月、同日に生まれること叶わぬとも、同年、同月、同日に死んでもいいかな~! という感じ? 乾杯♪」
 桃園の誓いですか! と内心思ったものの余りにも凛さんが楽しそうだから、俺は素直に乾杯に応じた。
「コレで私達家族ね♪」
 ワインを豪快に飲み干してから、凛さんは明るく笑った。

※   ※   ※

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