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improvisation
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「お節も食べたし、次は初詣!」
凜さんはそう元気に言い放つ。
夏に訪れた月読神社に行くことにした。正月という事で、参道には屋台も並び人も多く夏祭りと変わらないくらい賑わっていた。顔見知りの人に挨拶しながら、着物姿の凛さんと歩く。気温は結構低い筈だが、アルコールが入っている事と、周りの活気の影響でテンションも上がっているためか不思議と寒さは感じなかった。お堂に続く長い列に並びお参りを終え参道の方に戻ろうとしたら、凛さんが願い紙もしたいと言う。別に他に用事もないのでそちらにも並ぶ事にする。願い紙は人気なようでコチラにも結構な人が並んでいた。
「嬉しいな、こうしてダイちゃん此処に来れるのって!」
凛さんがハアとため息をつくようにそんな事言ってくる。
「初めてですか? この神社」
凛さんは顔を横に振る。髪に刺さった簪についた飾りも軽やかに揺れる。
「よく、澄さんに連れていってもらったわ。
知ってる? ここの神様スゴク強くて、願い事を全力で叶えてくれるって評判なの ♪
だからいつも願い紙書いてきたわ。いつも同じお願い事を」
そんなに評判の良い神社とは知らなかった。でも凛さん同じ願い事し続けたって事は叶ってないということだよね? とも思う。
「今年も同じ願い事を?」
そう聞くと凛さんは頭を横に振る。
「それはほぼ叶ったから、今年はより踏み込んだ願い事する事にしたわ。ダイちゃんはここ来たのは初めて?」
「いや、夏に友人と」
何故か凛さんの顔が真顔になる。
「友達って ……女の子?」
俺は笑い否定する。
「男です!しかも暑苦しい奴。男二人で願掛け寂しい状態でした」
凛さんは再びニコニコしだす。
「で、ダイちゃんは、何をその時にお願いしたの?」
その質問に俺は内心慌てる。
【和服の似合うような超美人に熱烈に求愛されますように】
そんな下らない事をお願いしたとは言えない。
「……無難に……世界平和を」
視線を逸らしそう言うと凛さんはケラケラ笑う。
「随分大変なお願いしたものね。それは流石に難しいかも」
「ですね」
そんな他愛ない話をしているうちに順番になる。俺達は紙を購入して、願い事書く為に用意された折り畳み式の机での置かれた記入テントに移動する。
さて、何を書くか? 俺は悩む。凛さんは、もう決まっているだけあり悩みもなくサラサラと何かを書いて、慣れた手付きで紙を月の形に折っていく。そしてニコリと笑い俺に身体を寄せてくる。ジッと手元見られてしまうとますます緊張するし、変な事書けなくなる。
「今度は全人類の事でなくて、自分のために願い事をしてね。折角の願い紙だから」
そう優しく言ってくる凛さんに頷くが、改めて自分が今何を求めているのか悩む。
【誇りを持って進める目標が見つかりますように】
結局曖昧な事を書いてしまう。しかし今の自分の悩みがぼんやりと見えてくる。自分は、まだ学生で法律について学んでいるが未来の目標がまったく見えてない。そして来年から三年生。そろそろ真面目に将来を考えないといけない。走るべき方向すら定まっていないから、ここで停滞しているだけ。だから目標が欲しいのだ。
紙を月の形に折っている俺を凛さんは見守るように柔らかく笑う。
「ダイちゃんなら神様に頼らなくても見つけられるよ」
「なんか、漠然とした願いで神様も困りますよね」
凛さんは顔を横に振る。
「そんな事ないよ。神様は真面目に誠実に生きている人の味方だから。私が神様ならダイちゃんみたいな青年の願いを最優先に叶えるわよ」
凛さんと話していると、どんな事にも楽に乗り越えて行けそうに思えてきてなんかホッとする。
「神様よりもお姉さんの方が、頼もしく感じます」
凛さん『ならば、私をもっともっと頼りなさい!』と笑った。
そして箱に並んで一緒に願い紙を入れてお祈りする。今度は真面目に心の中で願いを唱えながら。
【 ……………】
ん? 何か声を聞いた気がしたけど、気のせいなのだろうか?
祈り終わると凛さんは満足そうな顔で俺に明るく笑いかけてきた。俺の手を握り参道の方へと引っ張っていく。
「屋台を楽しもう♪ 」
草履で歩きにくいと思うのに、その足取りは元気で軽い。
「さっき、お節をあんなに食べたのに」
「こういうのは別腹なの ♪」
そして手前で甘い香りを放っていた屋台へと走っていく。そして紙袋をもって戻ってくる。そんな満面の笑顔になる程美味しいとは思えない鈴カステラを摘みながら凛さんは上機嫌である。俺の方を見てまたニコリと笑う。
「ダイちゃんも食べる?」
返事も聞かず鈴カステラを1つ摘み俺の口元に差し出してくる。
「あ~ん!」
そう命じて来るので素直に口を開けると鈴カステラをほうりこまれる。その時俺の唇に凛さんの指が触れ身体の奥がジンと疼く。凛さんは、何故か自分が食べるよりも俺に食べさせる事を楽しむようにポコポコに放り込んでくる。
「美味しいでしょ?」
甘いカステラを咀嚼して飲み込んでから『美味しいです』と答えると、また嬉しそうに笑う。あまりにも艶やかな格好で笑いかけてこられて俺の目は凛さんから離せなくなる。そんな俺に、凛さんはまた鈴カステラを食べさせてくる。
「砂糖付いちゃっているよ」
凛さんは微笑みながら俺を見上げて手を伸ばしてくる。細くて綺麗なその指が俺の唇を撫でてくる。シビレに似た何かが走りビクリと身体を震わせてしまう。
俺の唇をぬぐった指を凜さんがペロリと舐めるのを俺は少し動揺しながら見詰めていた。
「甘いね」
そんな事言ってくる凛さんにドキドキして目を逸らす。屋台のソースの香りに、甘い焼き菓子の香り、そして甘酒や日本酒の香りと、人の雑踏の音と熱気が混ざったこの空間、俺を落ち着かなくさせる。人酔いしてきた?
「ここ人多いから河原でも歩きますか?」
まだ、参道を楽しみたかったかもしれない凛さんを強引に、河原に誘う。凛さんは不満も言わすニコニコ付いてきてくれたが、河原に着いてから後悔する。真冬の河原なんて風が吹き放題で寒いだけ。俺はダウン着ているけど着物の凛さんは寒いだけだろう。
「気持ちいいね~」
それなのに凛さんは舞をするような足取りで回り俺に笑いかけてくる。まだ人酔いが覚めないのか、俺の心はどこか浮ついていて、視界も凜さん以外がぼやけて見える。
「お姉さん寒くない?」
そう聞くと、『うーん』と少し悩む素振りをしてニヤリと笑う。
「だったらダイちゃんが暖めて!」
そう言って俺の腕に抱きついてくる。そんな事をされると ……。
凜さんは姉だ! 俺は弟だ! と言い聞かせる。黙ったまま互いにの体温を感じ続ける。凛さんはニコニコしているけど、俺は落ち着かない。そして必死に頭の中で話題を探す。
「そう言えば、お姉さんはさっき何をお願いしたんですか?」
凛さんの顔が、真顔に戻る。
「俺だけ丸バレって不公平ですよ」
そう言うと、凛さんは何故か顔を赤くして下を向く。そしてそっと俺の腕から手を離し、何故か俺の正面に移動して向き合うように立つ。俯いたままコチラをチラっと見上げてくる。
「今まではね、【透くらい可愛くて素敵な男性に出会えますように】だったの」
そして顔をスッと上げ見つめてくる。その黒い瞳が何か決意したような意思を帯びる。その視線に意味はないが、心臓がドキドキしてくる。
「そして今年の願い事はね ……」
その瞳に囚われたように俺は動けず、ただ凛さんの言葉を聞き続ける。
「【ダイちゃんの彼女になれますように】
そう書いたの」
その言葉は俺の胸に突き刺さり一旦背中から飛び出して周囲を一周してようやく耳に届く。
「………………………………………………………………………………… ぇ……ぇっ…… ?」
驚きすぎると人は大してリアクション出来ないものである。
俺の反応に凛さんの瞳が不安そうに揺れる。その瞳に俺の心も揺れる。
「ダイちゃんが好きの! だからダイちゃんの彼女になりたいの!」
凛さんが、俺に? そんなのは有り得ない。凛さんからひてみたら俺は大学生でガキな筈。
「有り得ないです。それは」
俺の言葉に凛さんは傷ついた顔になり、瞳が揺れる。
「私がこんなんだから?」
「違います!! 俺がこんなんだからです!! 大学生だし、お姉さんから見たら何も成しえてないガキだし!」
凜さんは微苦笑して頭を横に振る。
「それは私もだよ! 感情的で子供だし、まだまだ外交官としても半人前。未熟な人間」
俺は頭をブルンブルンと振る。
「いえ、お姉さんはスゴイ女性ですよ! タダモノではないというか。こんな輝いている女性は俺初めてですよ! 俺なんか手が届かないくらいの……」
凜さんはそっと俺の手を握ってくる。
「私はここにいる。そんな勝手に遠くに置かないで。
それにお姉さんじゃない。凜だよ。
ダイちゃんは私を女として見られない?」
凜さんの手がビックリするくらい冷たい。それは当たり前であるこんな寒い中河原を歩いていから。俺はその手を温めるように包み込む。憂いのある瞳で俺を見上げてくる凜さんに俺の心がこれ以上なくドキンドキンして苦しい。
「凜さん……貴方は最高に素敵な女性です。俺が今まで会った中で貴女以上スゴイ女性なんていないし、こらからも現れると思えない」
凜さんは顔を傾げ俺を見上げてくる。
「それは、私が好きってこと? 愛してくれているってこと?」
泣きそうな顔でそんな事いってくる凜さん。こんな美しくて、面白くて、可愛いくて、時おり怖い、様々な感情を刺激する女性は他にいない。そんな女性が俺を求めてきてくれている。その事実に俺の心に喜びと驚愕に加え恐れにも似た震えなどが混ぜ合わさった感情が熱くドロドロとうねり行き場をなくして吹き上がる、愛しさという感情に昇華して。
「ええ、好きですよ。凜さ」
ドン!
最後まで言いきらない内に、俺は強く抱きつかれそのまま抱きしめられる。震えている凜さんの身体。泣いているのが分かった。
「おね……凜さん?」
「ぅ……れし……ぃ」
凜さんが少し身体を離し俺を間近で見上げてくる。涙で濡れた瞳が俺を映し揺れている。流れる涙が滑るように頬を伝う様子に見蕩れる。その泣いている表情が男の庇護欲を沸き起こし、凛さんがどうしようもなく好きなのだと気付かされる。俺は指でその涙を拭くように頬に指を滑らすと、凛さんは目を細め眩しそうな表情で俺を見上げてくる。全ての表情が俺を夢中にさせる。
「ダイちゃんの手、暖かくて気持ちいい」
可愛い顔でそんな事言ってくる凛さんに胸がキュンとする。
「り、凛さんの頬、冷たいですよ!
さ、寒くないですか? 寒いですよね? 部屋に戻りましょう」
凛さんはコクリと幼い仕草で頷く。そのまま冷えきった凛さんの細い身体がそれ以上凍えないように抱きしめるようにして歩く。二人の間に会話はなかったけど気不味さはなかった。熱く持て余した感情と腕の中の細い凛さんの身体の存在感だけで飽和状態になり、頬に当たる風の冷たさも気にならなかった。
※ ※ ※
improvisation 瞬間的に即興で変奏して作り上げる事
凜さんはそう元気に言い放つ。
夏に訪れた月読神社に行くことにした。正月という事で、参道には屋台も並び人も多く夏祭りと変わらないくらい賑わっていた。顔見知りの人に挨拶しながら、着物姿の凛さんと歩く。気温は結構低い筈だが、アルコールが入っている事と、周りの活気の影響でテンションも上がっているためか不思議と寒さは感じなかった。お堂に続く長い列に並びお参りを終え参道の方に戻ろうとしたら、凛さんが願い紙もしたいと言う。別に他に用事もないのでそちらにも並ぶ事にする。願い紙は人気なようでコチラにも結構な人が並んでいた。
「嬉しいな、こうしてダイちゃん此処に来れるのって!」
凛さんがハアとため息をつくようにそんな事言ってくる。
「初めてですか? この神社」
凛さんは顔を横に振る。髪に刺さった簪についた飾りも軽やかに揺れる。
「よく、澄さんに連れていってもらったわ。
知ってる? ここの神様スゴク強くて、願い事を全力で叶えてくれるって評判なの ♪
だからいつも願い紙書いてきたわ。いつも同じお願い事を」
そんなに評判の良い神社とは知らなかった。でも凛さん同じ願い事し続けたって事は叶ってないということだよね? とも思う。
「今年も同じ願い事を?」
そう聞くと凛さんは頭を横に振る。
「それはほぼ叶ったから、今年はより踏み込んだ願い事する事にしたわ。ダイちゃんはここ来たのは初めて?」
「いや、夏に友人と」
何故か凛さんの顔が真顔になる。
「友達って ……女の子?」
俺は笑い否定する。
「男です!しかも暑苦しい奴。男二人で願掛け寂しい状態でした」
凛さんは再びニコニコしだす。
「で、ダイちゃんは、何をその時にお願いしたの?」
その質問に俺は内心慌てる。
【和服の似合うような超美人に熱烈に求愛されますように】
そんな下らない事をお願いしたとは言えない。
「……無難に……世界平和を」
視線を逸らしそう言うと凛さんはケラケラ笑う。
「随分大変なお願いしたものね。それは流石に難しいかも」
「ですね」
そんな他愛ない話をしているうちに順番になる。俺達は紙を購入して、願い事書く為に用意された折り畳み式の机での置かれた記入テントに移動する。
さて、何を書くか? 俺は悩む。凛さんは、もう決まっているだけあり悩みもなくサラサラと何かを書いて、慣れた手付きで紙を月の形に折っていく。そしてニコリと笑い俺に身体を寄せてくる。ジッと手元見られてしまうとますます緊張するし、変な事書けなくなる。
「今度は全人類の事でなくて、自分のために願い事をしてね。折角の願い紙だから」
そう優しく言ってくる凛さんに頷くが、改めて自分が今何を求めているのか悩む。
【誇りを持って進める目標が見つかりますように】
結局曖昧な事を書いてしまう。しかし今の自分の悩みがぼんやりと見えてくる。自分は、まだ学生で法律について学んでいるが未来の目標がまったく見えてない。そして来年から三年生。そろそろ真面目に将来を考えないといけない。走るべき方向すら定まっていないから、ここで停滞しているだけ。だから目標が欲しいのだ。
紙を月の形に折っている俺を凛さんは見守るように柔らかく笑う。
「ダイちゃんなら神様に頼らなくても見つけられるよ」
「なんか、漠然とした願いで神様も困りますよね」
凛さんは顔を横に振る。
「そんな事ないよ。神様は真面目に誠実に生きている人の味方だから。私が神様ならダイちゃんみたいな青年の願いを最優先に叶えるわよ」
凛さんと話していると、どんな事にも楽に乗り越えて行けそうに思えてきてなんかホッとする。
「神様よりもお姉さんの方が、頼もしく感じます」
凛さん『ならば、私をもっともっと頼りなさい!』と笑った。
そして箱に並んで一緒に願い紙を入れてお祈りする。今度は真面目に心の中で願いを唱えながら。
【 ……………】
ん? 何か声を聞いた気がしたけど、気のせいなのだろうか?
祈り終わると凛さんは満足そうな顔で俺に明るく笑いかけてきた。俺の手を握り参道の方へと引っ張っていく。
「屋台を楽しもう♪ 」
草履で歩きにくいと思うのに、その足取りは元気で軽い。
「さっき、お節をあんなに食べたのに」
「こういうのは別腹なの ♪」
そして手前で甘い香りを放っていた屋台へと走っていく。そして紙袋をもって戻ってくる。そんな満面の笑顔になる程美味しいとは思えない鈴カステラを摘みながら凛さんは上機嫌である。俺の方を見てまたニコリと笑う。
「ダイちゃんも食べる?」
返事も聞かず鈴カステラを1つ摘み俺の口元に差し出してくる。
「あ~ん!」
そう命じて来るので素直に口を開けると鈴カステラをほうりこまれる。その時俺の唇に凛さんの指が触れ身体の奥がジンと疼く。凛さんは、何故か自分が食べるよりも俺に食べさせる事を楽しむようにポコポコに放り込んでくる。
「美味しいでしょ?」
甘いカステラを咀嚼して飲み込んでから『美味しいです』と答えると、また嬉しそうに笑う。あまりにも艶やかな格好で笑いかけてこられて俺の目は凛さんから離せなくなる。そんな俺に、凛さんはまた鈴カステラを食べさせてくる。
「砂糖付いちゃっているよ」
凛さんは微笑みながら俺を見上げて手を伸ばしてくる。細くて綺麗なその指が俺の唇を撫でてくる。シビレに似た何かが走りビクリと身体を震わせてしまう。
俺の唇をぬぐった指を凜さんがペロリと舐めるのを俺は少し動揺しながら見詰めていた。
「甘いね」
そんな事言ってくる凛さんにドキドキして目を逸らす。屋台のソースの香りに、甘い焼き菓子の香り、そして甘酒や日本酒の香りと、人の雑踏の音と熱気が混ざったこの空間、俺を落ち着かなくさせる。人酔いしてきた?
「ここ人多いから河原でも歩きますか?」
まだ、参道を楽しみたかったかもしれない凛さんを強引に、河原に誘う。凛さんは不満も言わすニコニコ付いてきてくれたが、河原に着いてから後悔する。真冬の河原なんて風が吹き放題で寒いだけ。俺はダウン着ているけど着物の凛さんは寒いだけだろう。
「気持ちいいね~」
それなのに凛さんは舞をするような足取りで回り俺に笑いかけてくる。まだ人酔いが覚めないのか、俺の心はどこか浮ついていて、視界も凜さん以外がぼやけて見える。
「お姉さん寒くない?」
そう聞くと、『うーん』と少し悩む素振りをしてニヤリと笑う。
「だったらダイちゃんが暖めて!」
そう言って俺の腕に抱きついてくる。そんな事をされると ……。
凜さんは姉だ! 俺は弟だ! と言い聞かせる。黙ったまま互いにの体温を感じ続ける。凛さんはニコニコしているけど、俺は落ち着かない。そして必死に頭の中で話題を探す。
「そう言えば、お姉さんはさっき何をお願いしたんですか?」
凛さんの顔が、真顔に戻る。
「俺だけ丸バレって不公平ですよ」
そう言うと、凛さんは何故か顔を赤くして下を向く。そしてそっと俺の腕から手を離し、何故か俺の正面に移動して向き合うように立つ。俯いたままコチラをチラっと見上げてくる。
「今まではね、【透くらい可愛くて素敵な男性に出会えますように】だったの」
そして顔をスッと上げ見つめてくる。その黒い瞳が何か決意したような意思を帯びる。その視線に意味はないが、心臓がドキドキしてくる。
「そして今年の願い事はね ……」
その瞳に囚われたように俺は動けず、ただ凛さんの言葉を聞き続ける。
「【ダイちゃんの彼女になれますように】
そう書いたの」
その言葉は俺の胸に突き刺さり一旦背中から飛び出して周囲を一周してようやく耳に届く。
「………………………………………………………………………………… ぇ……ぇっ…… ?」
驚きすぎると人は大してリアクション出来ないものである。
俺の反応に凛さんの瞳が不安そうに揺れる。その瞳に俺の心も揺れる。
「ダイちゃんが好きの! だからダイちゃんの彼女になりたいの!」
凛さんが、俺に? そんなのは有り得ない。凛さんからひてみたら俺は大学生でガキな筈。
「有り得ないです。それは」
俺の言葉に凛さんは傷ついた顔になり、瞳が揺れる。
「私がこんなんだから?」
「違います!! 俺がこんなんだからです!! 大学生だし、お姉さんから見たら何も成しえてないガキだし!」
凜さんは微苦笑して頭を横に振る。
「それは私もだよ! 感情的で子供だし、まだまだ外交官としても半人前。未熟な人間」
俺は頭をブルンブルンと振る。
「いえ、お姉さんはスゴイ女性ですよ! タダモノではないというか。こんな輝いている女性は俺初めてですよ! 俺なんか手が届かないくらいの……」
凜さんはそっと俺の手を握ってくる。
「私はここにいる。そんな勝手に遠くに置かないで。
それにお姉さんじゃない。凜だよ。
ダイちゃんは私を女として見られない?」
凜さんの手がビックリするくらい冷たい。それは当たり前であるこんな寒い中河原を歩いていから。俺はその手を温めるように包み込む。憂いのある瞳で俺を見上げてくる凜さんに俺の心がこれ以上なくドキンドキンして苦しい。
「凜さん……貴方は最高に素敵な女性です。俺が今まで会った中で貴女以上スゴイ女性なんていないし、こらからも現れると思えない」
凜さんは顔を傾げ俺を見上げてくる。
「それは、私が好きってこと? 愛してくれているってこと?」
泣きそうな顔でそんな事いってくる凜さん。こんな美しくて、面白くて、可愛いくて、時おり怖い、様々な感情を刺激する女性は他にいない。そんな女性が俺を求めてきてくれている。その事実に俺の心に喜びと驚愕に加え恐れにも似た震えなどが混ぜ合わさった感情が熱くドロドロとうねり行き場をなくして吹き上がる、愛しさという感情に昇華して。
「ええ、好きですよ。凜さ」
ドン!
最後まで言いきらない内に、俺は強く抱きつかれそのまま抱きしめられる。震えている凜さんの身体。泣いているのが分かった。
「おね……凜さん?」
「ぅ……れし……ぃ」
凜さんが少し身体を離し俺を間近で見上げてくる。涙で濡れた瞳が俺を映し揺れている。流れる涙が滑るように頬を伝う様子に見蕩れる。その泣いている表情が男の庇護欲を沸き起こし、凛さんがどうしようもなく好きなのだと気付かされる。俺は指でその涙を拭くように頬に指を滑らすと、凛さんは目を細め眩しそうな表情で俺を見上げてくる。全ての表情が俺を夢中にさせる。
「ダイちゃんの手、暖かくて気持ちいい」
可愛い顔でそんな事言ってくる凛さんに胸がキュンとする。
「り、凛さんの頬、冷たいですよ!
さ、寒くないですか? 寒いですよね? 部屋に戻りましょう」
凛さんはコクリと幼い仕草で頷く。そのまま冷えきった凛さんの細い身体がそれ以上凍えないように抱きしめるようにして歩く。二人の間に会話はなかったけど気不味さはなかった。熱く持て余した感情と腕の中の細い凛さんの身体の存在感だけで飽和状態になり、頬に当たる風の冷たさも気にならなかった。
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