希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫

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 お店の賑わいのピークを超えてくると、俺達の仕事も少し楽になる。
 皆お酒を飲みながらマッタリとした空気になるからお酒や料理の注文もノンビリとしたペースになるからだ。
 カウンターを見ると、例の客と杜さんはウィスキー呑みながら穏やかに話をしているようだ。時々杜さんの顔が苦笑というか引き攣る所が気になる所。そして杜さんは透さんに目を合わせ呼んでカウンターのいつもの場所を透さんに譲り、珍しい事にフロアーに出てくる。そそくさと離れ常連客に声かけたり酒を勧めたりとオーナーらしいことをしている。どうやら逃げて透さんにその男の相手させたようだ。しかし二人の様子を気になるようで視線をチラチラ向けている。透さんは真剣な様子でその男と何か話しているようだ。先程杜さんとは討論という感じの対話をしていた様子のその男性は、透さんに対しては話を聞くというスタンスで、透さんの言葉に時折言葉を挟むという感じ。お客様の話を聞いてあげる感じで接する透さんにしては珍しい。杜さんは任せたものの、注文を入れるタイミングで戻りその二人の会話に入っているようだ。その中でそのこの男性の声は低いが凜としている為か、言葉低く内容が分からないレベルで響く渋くてすごくいい声。その声を澄さんは横で、子供のような無邪気な表情で聞いている。何なのだろうこの光景は?
「なんか杜さんの澄さんへの気持ち少し分かる気がしてきました。人を本気で好きになるって素敵な事なんだと実感しました。その人に会って」
 アルコールの注文通す為に近付いたら、透さんが真剣な顔で実は惚気ていた事に驚く。
「恋愛を楽しむのは良いが、杜だけは見習うな! もっと、まともな愛し方している奴もいるだろう、ソイツから学べ」
 その男性は全うな言葉を返している。
「俺には無理ですよ、杜さんのような恋愛は」
 その言葉に男は苦笑する。普通に笑うよりこういう表情の方が人間臭くなるようだ。
「大丈夫よ! 杜みたいに透ちゃんが不良化しないように見張っておくから」
 それにそう続ける澄さん。杜さんは不良という可愛い範疇なのだろうか?
「澄、お前が杜を甘やかしているから、杜は変わらずああなんだろ。夫を育てるのも妻の役割だろうに」
 そう澄さんを叱る男に透さんは『まあまあ』と宥める声を出す。しかし怒られている澄さんはニコニコと笑っている。
「でも、子供な所があの人の魅力だから♪
 それに大丈夫よ、最近は透くんというシッカリ杜を叱ってくれる存在がいるから」
 男は溜息つき、透さんに視線を向ける。そして、何か言おうとした所で店の扉が開く音がしてその会話が中断される。
「いらっしゃいませ」
 そう、声かけて視線を入口にむけると凛さんが立っていた。いつもは透さんか俺を探して笑いかけてくるのだが、今日はカウンターに座る男に視線を向けギョッとする。
「なんだ、お前も来ていたのか?
 相変わらず弟にベッタリか?」
 その男性の言葉に凛さんは少しムッとした顔をする。
「姉弟仲良いことを喜ぶべきでは?
 それに私も何時までも弟ばっかり構っている訳ではないわよ!」
 そう言い放つ。それに男は『ほう』と答える。凛さんは顔を動かし俺を見つけニヤリと笑い近付いてくる。そして俺の手を引き再びカウンターの男の所に戻る。いきなり対面させられた俺はどうして良いか分からず、取り敢えず挨拶する。その男は目を細めて俺を見つめて来て緊張感する。
「少し早いけど、紹介するわね!
私の恋人で、将来はお父さんの息子になる小野大輔さん」
 「え?!」「えぇ?!」
 俺と透さんが同時に声を上げる。
「凛、まだ小野くんを振り回して迷惑かけてるの?」「お父さんってどなたのお父さん?」
 凛さんは、俺と透さんの顔を順番に視線を移動させる。
「迷惑って何よ! ダイちゃんと私も正月から付き合っているのよ! 気付いてなかった?
 お父さんはお父さんよ! 私と透のお父さん」
 器用に両方に答えてニコリと笑う。
「え、お二人のご両親亡くなっていたのでは?」
 透と凛さんの両親は杜さんに殺されていたものと思っていたけど、御無事なようだ。無事というか、杜さんをも圧倒する程お元気なようだ。
「凛……ウチの事どういう説明を? 俺達の両親は、父もこの通りだし、母も元気だよ」
 その殺された筈の父親が俺をジッと見ていて怖い。
「そんな話したことないわよ! アンタが誤解させたのでは?」
 凛さんはネェと聞いてくる。俺頷くしかない。はい、お二人とも両親が死んだなんて一言も言っていません。俺が勘違いしただけです。
「小野くん、凛と付き合っているって本当? もしまた迷惑かけて、つきまとっているだけなら……」
 そう優しく話しかけてくる透さんの表情は優しいが、俺の前で黙ったままのお父さんの視線が怖い。
「いえ、迷惑ではないですから」
 お父さんの目が細める。こうなったら先に謝るしかない。
「お父さん、勘違いしてしまい申し訳ありません。根小山さんの元に透さんが暮らされていたので、俺が勝手に勘違いしていました」
 お父さんの唇が笑いの形になる。笑顔見せてくれたのだろうか?
「まぁ、この二人の透への言動は異様だからな。勘違いしても仕方が無い。
 ところで君は、ここでなにをしているのか? バイトか? それとも社員か?」
 やはり笑ってはいなかったようだ!  ストレート俺の事探りにきて内心慌てる。
「バイトさせて頂いています。普段は〇〇大学の法学部に通っています。今二年生です……」
「若いな」
 父親としてはそこ気になるのも当然だろう。
「でも、しっかりした子なのよ。真面目だし、良い子だし」
 澄さんがそう、フォローしてくれるがお父さんが気になるのはそこではないだろう。
「凛は親の私が言うのもなんだが、かなり個性的だろ? よく耐えられるな」
 その言葉に凛さんは少しむくれた顔になり、透さんは苦笑する。
「凛さんは素敵な女性ですよ! 俺なんかには勿体ないくらい素晴らしい女性です。真っ直ぐで行動的でパワフルで、予測つかない言動が面白くて!」
 フッ
 クク
 何故かお父さんと透さんが同時に笑い出す。こうして見ると二人の笑い顔は似ていて親子だと納得出来る。でも受ける印象が真逆だ。
「まあ互いが納得しているならば、俺は付き合う分には何も言わない。ただ結婚まで君は本当に考えているのか? もしそこまでの意思がなければ、今のうちに別れてやってくれ! 先ほどの言葉からすると、娘は君に相当入れ込んでいるようだ」
 俺はその言葉にどう反応して良いか悩む。結婚、そこまで正直考えてない。凛さんは傷ついた顔になり俺を心配そうに見上げてくる。
「お父さん! そんなの二人の問題でしょう!」
 透さんがそうキツい声をあげる。
「凛はこういう性格だ。変に期待させて失望させるのも可哀想だ。早い内に別れた方が二人の為だろう」
 そう言いながら俺と凛さんに視線を向けてくる。凛さんは子鹿のような目で俺は見つめ、おずおずと手を延ばしてくるがソレを引っ込める。不安に揺れるその瞳は、まるで迷子の子供の様にか弱く守ってあげないといけない存在に見える。そんな表情をさせてしまっている事に心が痛む。
「俺はまだ学生ですから、確かに今、結婚まで考えられない。でも真面目な気持ちで付き合っています。
 今は釣り合ってないのは理解しています。もう少し未来を見てくださいませんか?
 凛さんの隣に立つのに相応しい男になるべく勉強して努力しますから。今の俺はそう言う状態で不安に感じられるのは分かりますが、もう少し見守って下さい! 俺頑張りますから」
 ガシッ
「ダイちゃん、嬉しい! 私もダイちゃんの隣に立つのに相応しいいい女になるように努力するわ! そしてダイちゃんの良い妻となるから!」
 凜さんが俺に感動したように抱きついてくる。
 驚いた顔をするが、すぐに優しい表情で笑う透さん、ニコニコと俺達を見る澄さん、ニヤリと面白いモノ見るかのように笑っている杜さん。そして口の端を上げ、目尻を下げて多分笑みを浮かべているお父さん。
 俺は瞳を潤ませて俺に抱きつき見上げてくる凛さんを見下ろし呆然とする。なんか俺は言い方間違えたきがする。『結婚までは考えてもいないけど、真剣で真面目に付き合っている』とだけ言ったつもりだったけど……。
「そこまでの君が考えて付き合っているなら何も言わない。君なら娘を託せそうだ。
 こんな不束か者な娘だが、宜しく頼む。今度妻にも会ってやってくれ! 君という息子が出来る事喜ぶと思うよ」
 ウッカリ知り合って三か月で『娘さんとの結婚を許してください』のイベントクリアーしてしまったようだ。怖いと思っていた笑顔も、今改めてみると厳しいながらも温かみのある表情だった。つまりは父の顔である。そんな相手からの握手を求められ俺はそれに応じるしかなかった。
「目出度いわね♪ お祝しないと! 私も嬉しいわ、こんな可愛い甥っ子が出来るなんて」
 そう浮かれる澄さんの声で、俺の未来はガッチリこの一族に捕まったのを感じた。嫌な訳ではなけど、少し怖いし早まった気も若干する。
「澄さん、お店まだ営業中なので、そういう事は閉店後で、お父さん今夜はどうしますか?」
「大丈夫だ。アイツは大阪だし遅くなってもいいだろう」
 透さんが助けてくれたかというと、より怖い飲み会を企画してきている。
「だったら、泊まっていけば? ね♪」
 澄さんがそうニコニコと兄を誘うことで、俺にとってよりヘビーな状況となってきている。
「でしたら寛さん、いい日本酒もありますよ。こういう目出度い時だからこそ楽しみませんか?」
 杜さんはお父さんが泊まるのを嫌がってなんとか回避してくれるかと思ったが、俺をチラリとみてニヤリと笑いながらそう誘いそれにお父さんも『いいね』と答えている。
 閉店作業が終わり、結局根小山家での婚約祝い的な酒宴に参加させられて、散々飲まされて酔い潰されて、次の日の朝小山家の客室で凜さんに抱きしめられた状態で目を覚ます。
 澄さんに朝食に呼ばれ、リビングにて将来の妻、将来の義弟、将来の義父、将来の叔父、将来の叔母と共に朝食をとりながら溜息をついてしまう。
 幸せいっぱいの顔で俺を見つめてくる凜さんは可愛いし、優しい笑顔で珈琲を渡してくれる透さんにもホッとするし、澄さんの作ってくれた朝食は美味しい。
「ゆっくり眠れたかな? 顔色悪いな。二日酔いか?」
 しかし……そう聞いてくるお父さんと、人の悪い笑みでコチラをみてニヤニヤしている杜さんの存在が俺を落ち着かなくする。お父さんはヤクザではなく大学教授なようだ。昨晩『本当に俺でいいのか?』と再度確認してみたが『仕事柄多くの若者みてきたから、君が口先だけであの言葉を言ったのではないのくらいは理解しているつもりだ』と言われてしまい、さらに将来の進路までシッカリと言わされてしまうと、もう外務省を目指すしかなくなってしまった。
 俺という存在を受け入れてくれているホーム的な場なはずなのに、俺はモゾモゾした居心地の悪さを感じ窓の外を見る。そこには明るい朝日がさしていて眩しさに目を細めた。俺の未来のようだ、暗くはなく明るいものの明るすぎて先が逆に見えない。
 凜さんがそんな俺を見て何が楽しいのかニコニコ笑っている。美しいのに可愛くて、どこか恍けたこの笑顔。この笑顔見ていたらもういいか! って気もしてきた。というか、色々な意味で面白く、最高ともいえる状況なのかもしれない。この笑顔をズット見ていられるなら。
 俺もついつられて笑顔になってしまう。若干怖い所もあるけどこの状況を楽しみつつ頑張る事にした。


※   ※   ※

Call and Response   楽器や演奏による掛け合いのこと
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