半径三メートルの箱庭生活

白い黒猫

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     式場選び

ウェディングプランナー

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 次に候補にあげたホテルは、駅から見えるところにあった。道を渡らねばならないけど、関東に慣れてない人は迷わ事はないだろう。
 ここで私達を担当してくれたのもブライダルプランナーという肩書の男性。百八十センチくらいの三十代くらいで平井堅さんぽい、かなり濃い顔をしている。
「このような顔していますが田中です。生粋の日本人ですので」
 初っぱなから、そんな挨拶で私達を和ませてくれた。
 ザ・ホテルマンという感じで物腰や柔らかく慇懃。丁寧なだけでなく心のある接し方が印象的だった。
 この式場では、たまたま九月にキャンセルが出ていたために、一番早く結婚式を挙げられる。
「この日にちだったら、ゆりぞ…百合子さんの誕生日の丁度一ヶ月前でいい感じだよね。覚えやすい」
 流石に他の人の前で、いつもの名前で呼び合うのは恥ずかしい。
 「百合子さん」「渚さん」と呼び合うのが、なんかくすぐったい。そんな二人の様子を、平井さん……ではなく田中さんはニコニコと見守ってくれている。
「しかも九月に結婚出来るのって嬉しいよね」
 他の所で上げるよりも、一ヶ月も早く二人で暮らせる。

 色々検討した結果、このホテルで式を挙げることにした。このホテルは丁度改装したてで綺麗だった。
 さらに十年記念イベントで価格的にも結構お得に豪華に挙げられるというのが大きい。いろんな意味で私達にとっては条件が良かった。
 ブライダルプランナーの田中さんという人物の魅力も大きかったのかもしれない。
 質問に真摯に答えてくれる。田中さんが担当してきた過去の結婚式の経験を元に様々なアドバイスとかもしてくれた。
 子供用の天使の羽の仮装とか、無料で使えるアイテムの存在をコッソリと教えてくれた。
 あまり年齢が誓いこともあり、提案のフィーリングが合っていたのだと思う。
 大陽くんも、他のオジチャン、オバチャンの相談員に比べて話しがやすく良かったようだ。
 でも、彼がココに決めたのは、十周年記念特別イベントである『炎のケーキ】があったからに違いない。
 新郎が炎を操りアイスケーキを仕上げて振る舞うという出し物が用意されていたのだ。
 このイベントの良いところは、新郎の手によってかなり派手なショーを来賓客に楽しんでもらえる。さらにデザートが一品増えるのだ。
 なんてお得なイベントなんだろう。しかも来賓客もビックリするのも間違いない。
 こんな面白い隠し球も用意できた結婚式、楽しいものになりそうだ。二人でワクワクしながらホテルを後にした。
 二人で手を繋いで、駅まで態と遠回りして帰る。だってここからだと二人の家は間反対にあるためにホームから違う電車に乗って帰らないと駄目だから。
「じゃあ、仮押さえしていた式場、キャンセルをいれないとね」
 すっぽりと私の手を包む、大陽くんの大きい手の温かさが気持ち良い。
「だね~。全部で六件か。
 じゃあ俺最初に行った三件はキャンセルの電話かけておくから、百合蔵さん残りお願い」
 三十センチ上から、大陽くんが私の顔を見てニコリと笑う。私も同じような笑顔を返す。
「了解! 明日でもかけておくね。なんかいよいよ走り出したって感じでワクワクするね」
 何がオカシイのか、私をみて人の悪い顔で笑う。
「そう? ま、一生に一度の事だから、楽しまないとね」
「だね!」
 私は繋いでた、大陽くんの左手を自分のほうに引っ張り両手で抱きしめる。
「重いよ!」
 大陽くんは、サッと腕を引きその手を私の左肩におきグッと力をいれて上から押す。
「重い!!」
「仕返し!」
 クスクス笑って、そのまま肩を抱き寄せてくる。
 人が少ない暗い道だとはいえ、やってることはハッキリいって馬鹿ップルである。
 自分でもある意味、こんな風に人に甘えたり、ジャレたり出来るようになった事に驚いている。でもなんでだろう、そんなに馬鹿になっている自分も嫌じゃない。
 そのまま他愛ない話をしながら、馬鹿ップルな私達は夜の道を歩いていった。

※   ※   ※

 次の日、会社の昼休み私は手帳に挟んであった、ホテルの名刺を取り出す。大きく深呼吸して一件目のキャンセルの電話をいれることにする。
「本当に申し訳ありません。担当の方にも本当にお世話になったのですが――」
 散々色々相談に乗ってもらいお世話になった事もある。出来る限り丁寧にそして誠意をもってキャンセルの意図を伝えることにした。
「そうですか、分かりました。ちなみに、ドチラの式場に決められたのでしょうか?」
 電話の向こうの女性が、あまりにも想定外の事を聞いてきた。
 ここまで聞いてくるものなのだろうか? 
「あ…………新横浜ロイヤルホテルです……」
 なんか、凄く言いにくい。内心かなりビビリながら私は自分が挙式するホテルの名前を相手に伝えた。
「そうですか」
 なんか、良くいえば落ち着いた、悪く言えば抑揚のない言葉が怖い。嫌な汗が流れる。
「では、またの機会のご利用お待ちしております」
 そう言って、電話は切れた。
(え? またの機会って、どういうこと? また結婚式挙げるときはどうぞって、嫌味?)
 残り二件、電話するのが怖くなってきて、私は大きく溜息をついた。
 でも、そのホテルのその女性だけが、おかしかったようだ。残りの二件は、穏やかに『ウチとしては残念ですが、無事会場も決まって良かったですね。式の準備頑張ってくださいね』といった暖かい言葉をで応じてくれた。
 お陰で、ドーンと落ち込んでしまった嫌な気持ちは少し治まった。大陽くんに、メールで聞いてみた所、アチラの三件も何の問題もなくキャンセル出来たらしい。
 ということは、一カ所だけが怖かったということなのね。良かったあんな式場ばかりでなくて。私は妙な事に安堵していた。
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