半径三メートルの箱庭生活

白い黒猫

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     式場選び

元カノ/カレ

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 六月になった。今年は梅雨の気が早いのか一周目から、もう連日雨の日が続いている。
 この月に結婚する花嫁は幸せになれるというが、それは西洋での話である。
 日本においての六月というのは梅雨の季節。こんな気候の悪い時に、態々自分の結婚式に出向いてもらうなんて、なんか申し訳なくなりそうだ。
 まあ私の結婚式は九月だとはいえ、雨の危険性はゼロとはいえない。どうなるのかは分からないが、多分今年の六月よりかは雨の危険性は低いとは思う。
 私と大陽くんの日頃の行いにかかっているが、どうか晴れて欲しいものである。

 雨の所為でイマイチ仕事をする気が盛り上がらない私は、珈琲でも煎れて気分を変える事にする。私にとってカフェインはやる気をおこす為のスイッチのようなものだから。
 なんか楽しそうな声が聞こえるなと近づくと、黒くんと友ちゃんが仲良さそうに話している。
 かつての恋人同士のはずの二人が、別れた後もこんなふうに仲良く友情を続けている。そんな二人が羨ましくてつい立ち止まってジッと二人を眺めてしまった。
 そんな私の存在に気が付いたようだ。友ちゃんが私の方に気が付き、ニカっと太陽のような笑顔になり手を振ってくる。
「月ちゃん、そろそろお祝いで欲しいモノを決めてくれた? この際だから、高いモノ言ってよ!
 会社中から予算かき集めておくから、足りない分は、黒くんのポケットマネーでなんとかするし」
「俺のかよ!」
 うーん、ツッコミのタイミングまでピッタリ、なんて息の合う二人なのだろうか? 思わず二人のやり取りに笑ってしまう。
 ここで『家』とかいうのはアリなのだろうか?
「あ 電話みたい、私いくね!」
 そう言って、ブンブン私達に手を振って、友ちゃんは去っていった。それを穏やかな笑顔で送り出す黒くん。
 友ちゃんの姿が見えなくなって、改めて黒くんの顔をしみじみ見てしまう。
「どうしたの? なんか変な顔して」
 ここ最近ズッと自分の中でひっかかっていた事、この人なら聞けるかなと思った。
 逆にこういう事聞けるのはこの人しかいないような気もする。
「……あのさ、非常に聞きにくい事なんだけど、聞いていい?」
 黒くんの顔から笑顔が消え警戒した様子で私を見下ろす。
「ソレって、こんな所で会話しても大丈夫な内容?」
「大した事じゃないんだけど………………。
 黒くんは元彼女から、結婚のお知らせってどんな形で教えて欲しい?」
 私の方をビックリしたような顔で見たまま、黒くんは固まる。
「…………は?」
「……いや……成美ちゃんの時どうだったのかなと」
 成美ちゃんとは私の同期で黒くんのこの会社での最初の彼女。
 去年結婚して、二人で同期として結婚式に出席したばかりである。
「…………あのさ、まさかだと思うけど、招待状を元彼に送ろうとかしてないよね?
 ソレ絶対駄目だから! 頼むから、止めて!」
 何故かこっちの知りたかった事は答えてくれず、私を必死になって説得してくる。
 私は、ソレは大丈夫だから首を縦に振る。まさか、ソコまで私は考えていない。
「招待するとかでなくてね、『コチラは幸せに元気にやっています』というのを伝えたいだけなんだけど。
 メールで伝えるのもなんか冷たい気もするし、電話も照れるし。黒くんの時はどうだったのかな? と」
 黒くんは頭を抱えてしまった。
「あの……黒沢さん、東和さんから電話来ているのですが」
 そんな時、実和ちゃんがやってきて、遠慮がちに声をかけてくる。
 黒くんは何故か髪の毛をガシガシ掻きむしる。
 『馬鹿な真似は絶対しないように』と私に言い放って離れてしまった。
 やはり、元彼女と普通に接しているように見えて、黒くんも色々思う所があったようだ。
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