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再来

プロローグ

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激しい喉の渇きと体全体の痛みにより目覚めた。
そこはトラックの荷台だろうか、ディーゼルエンジンの発動音と大きい縦揺れを感じた。
確か俺は名古屋の父方の実家に帰省中でアンダーを歩いていたら後頭部に激しい痛みを感じ…その後の記憶がない。
それより状況を確認しようと周りを見ると全員壁に背もたれて下を向いて泣きじゃくっていた。
そのほとんどの者が若く、ざっと見た感じ歳は6~8?才と思えるほどだった。
自分の母親の名前を言う者、英語で助けを呼ぶ者、諦めた目をした者、さまざまな者がいた。
運転席と思しき所を見ると中東系の男二人がアラビア語風の独特な発音で会話しており時々こちらを見て無線機を手に取り会話していた。下に目を配るとそこにはAKらしき銃が二挺置いてあった。
そこで自分は何者かに拉致されたことがわかった。まあ、荷台に若者を乗せまた尚且つ銃を持ってる時点で感づいてはいたが...
では何故私は拉致されてしまったのだろう? 俺なんかしたっけ?と考えて居ると
「おい、お前」
と小声ながら日本語が聞こえた。まさか此処にも同じ様な日本人が居るのでは?、期待とやや不安を持ちながら声の聞こえた方向を向いたが日本人らしき人物はいなかった。
「此処だよ、此処!!」
やや強い口調で言っている方向を見ると真正面にその声の主がいた。
「お前、日本人か?」
その声の主は片言ではなくスムーズな日本語を話した。見た目は金髪で俺はてっきりこの者は外国人かと思っていたが実際は違っていた。
「お前、もしかして日本人じゃないのか?」
「失礼な、俺は正真正銘の日本人さ」
「じゃあ、なんでさっきの俺の声に反応しなかった?」
「そりゃ、いきなり起きたらトラックの荷台で周りには知らない奴ばっかの混乱している状況で声出る方がおかしいわ! それよりなんでお前日本語出来るんだよ。見た目てきには白人っぽいけど、もしかして日本に滞在してたん?」
「シッ…お前声を考えろ…」
「ごめんちゃい…」
「お前さん、人を見た目だ判断してはいけねぇよ。確かに俺は白人っぽいけどこれでも一応ハーフなんだぞ。見た目は確かに外人だがちゃんと日本人の血も入り混じってるし生まれも育ちも埼玉県、その証拠にこんだけ日本語がスラスラ出来るんだよ。」
んな、偶然あってたまるか。え、何コイツ一緒の県なんですけど…まあ同じ埼玉県民であることをばらしたら面倒なことになりそうだし言うのはやめよう。
「果たして日本語がスラスラ言えることは証拠と呼べるのか…」
「なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。」
小声で言ったつもりが危ない、危ないこの男の聞いた感じ、性格上乱闘になりかねない、と心の奥でふと思った。そんな時自称ハーフが切り出す様に聞いてきた。
「そういや、お前名前を聞いてなかったな。おっと、俺から先に言っとくぜ。俺の名は柳沼ハルトシ。ハルって言ってくれ。」
「ハル? お前もしかして天才プログラマーか!」
「ハルはハルでもそっちのハルじゃねーよだいたい俺はそんな器用なことは出来ないし機械はあんま弄れないぞ。」
「ちぇ」
「何を期待しているんだお前は」
ち、コイツめわかっていやがったかと心の中で嬉しがっていると
「俺は名前を言った。お前の番だぜ。」
「そういや、そうだったな。俺の名前は小町川五十六。」
「いそろく?」
「ああ、うちの親父と母親の趣味の結果だ。」
「どんな趣味してんだよ、お前の親…」
「面倒だしコマチって呼んでな」
「五十六何処に行ったし」
そのような自己紹介で忘れていたが聞かなければいけない事があったのを思い出した。
「なんで、俺らはこんなトラックの荷台に乗っているんだ?」
周りの事を考え俺はハルの隣に移動することにした。
「俺もわからんが一つ結論に至ったことがある。」
「わかんないのか…もしかしてお前の結論ってまさか…そうだ一緒に言おう何か察した。」
同じ埼玉県民だしこんな所でも冷静だしだったら考えることも同じ方向にいくんじゃっと心の中でひしに思った。
『俺らは、テロリストにさらわれた。』
見事なまでに同じであった。謎の沈黙が訪れ約20秒最初に切り出したのはハルの方であった。
「で、意見は一致したな。だがどうする? 今の俺たちじゃ太刀打ちどころか返り討ちに遭うぜ?」
「俺に良い考えがある。」
「フラグ乙」
「フラグじゃねーよ、ちゃんとした策があるんだよ」
「ふーん、で、その策って?」
「『今の俺たちでは』太刀打ちが出来ない。だがあくまで『今の俺たちでは』ダメなだけであるのだ」
「そんで?」
周囲を気にし内諸話のように耳元でその概要を全て話すと難解問題を解いた学生の如く静かに頷き理解した。
「そんな、こと本当に出来のか?」
「偉い人は言いました志すことに意味があるのだと…」
そして五十六は罠にはめようとする悪ガキの様な黒い笑みをみせたのであった。
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