傷を舐め合うJK日常百合物語

八澤

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サボり、放課後

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「サボろーよ!」

 絶対言うと思った。
 何故なら、

 ──今日は『くまたん』の新フィギュア発売日で、
 ──金曜日午後の授業は眠たくて堪らなくて、
 ──そして音楽の授業があるから……。

「サクラ~このままふらっと帰ったらもう超気持ち良いよ~」
「行方不明って学校から連絡来るわ」
「体調不良ってことにして、さ……」
「授業の単位が」「一回くらいサボっても大丈夫大丈夫! ね、この後音楽とかめっちゃくっちゃダルいでしょ?」

 今はお昼休み。
机を向かい合わせではなく左右隣をくっつけて昼食を食べていた。レイはズズっと音を鳴らして椅子を近づけ、スリスリと体を擦り付けてくる。私におねだりする時はいつもこれ……。体温が私よりも低いからか、肌が癒着するたびに毎回ぞくっとする。けど最近それがクセになりつつある。心地良いというか安心するというか、嬉しい? ……いやありえないありえない! と湧き上がる感情を必死に抑え込む。

「……音楽がダルいのはわかるけど」
「お願い! 今日新くまたん発売日なの! これだけは見逃したくない!」
「どうせ買うんでしょ。わざわざ見に行かなくても」
「買って部屋に並べる時も格別だけど、新くまたんの発表会もスペシャルに楽しいの!」

 レイの部屋に所狭しと並ぶくまたんを思い出し、別の意味で寒気がする。
 『くまたん』とは、この地方だけで流行っているゆるキャラの名前。外見はダルメシアンのような斑点を持つ熊をデフォルメした感じで、ぼけっとした表情で温厚な性格だけどパンダと呼ぶと怒るという設定を持っている。新商品販売の時は地域活性化と話題を集めるために商店街で大々的に発表する。私はあまり興味無いのに毎回付き合わされる。

「一人で行きなさいよ」
「道連れが欲しい」
「……尚更行きたくないんだけど」
「そんなこと言って~サクラだって音楽をサボる口実がほしかったんじゃないの?」

 でしょ? と自信満々なドヤ顔を魅せるレイが憎たらしい可愛いけどまぁその通り。「別に……」
「ホント、サクラは顔に文字が浮かび上がるレベルでわかりやすい……。はぁ、サクラの将来が心配だよ。命を賭けたざわめくポーカーや麻雀したらすぐに見抜かれて負けちゃって身ぐるみ剥がされて地下へ送り込まれる」
「そんなざわざわしたとこ行かないから……。はぁ、ホントにサボるの?」
「うん!」

 ウルウルとチワワか! とツッコミたくなるほど瞳を潤ませて私を至近距離から睨む。その整った顔で凄まれるとぞわっと総毛立つ愛らしさに身震いする。無下に断わったら罪悪感を覚えてしまう。で、それを理解しておねだりしてくるからホント質悪い……。あと、断れない私にも腹立つ。

「……仕方ないわね」
「やった! ありがとサクラ!」

 ぎゅ~って抱きついてくる。毎回いちいちスキンシップ過剰なところが驚く。そろそろ慣れたいけど抱きつかれるたびにゾクゾクした。柔らかい、いい匂い、暖かい……とレイの情報が一気に私に降り注ぐ。レイの情報で全身が圧迫されるとクラクラするような高揚感に襲われた。「ホントサクラはちょろいぜ」とかなんとか言ってるけど、レイを堪能するのに忙しくて何も言い返せない……。

☆★☆★

「凄い! 可愛い~! ねぇねぇ! ルシファー・くまたんの格好良さ……」
「はいはいかわいい」
「この12枚の悪魔っぽい羽、実は元天使だったんだよ! でも色々あって堕天して、悪魔の力を得て……」
「へぇ、くまたんにそんな大げさな設定あるのね」
「ううん、今私が適当に考えた」
「……クソ、反応しなきゃよかったわ」

 商店街の広間にはそれなりに人が集まり、ちょっとしたお祭りのような雰囲気になっていた。くまたんを象った人形焼の出店もある。温かそう、一つ食べようかしら……と近づくと大きなカメラを持つ男性と、そのカメラの先にマイクを持つ女性が立っていることに気づく。嘘、地方のテレビ局が来てるじゃない!?

「レイ!」
「あ~この羽の鋭いシャープな感じ堪らない……」
「鋭いシャープって意味同じ! じゃなくて、ちょっとこっち来なさい」

 私はレイのブレザーの裾を掴むと、テレビ局のカメラに映らないであろう場所まで逃げる。

「なになに?」
「ほら見なさいよ、あれ」
「わ! リポーターとカメラマン!? はぁ……くまたんの影響力半端ないね。お茶の間テレビデビューも余裕でかましちゃいますか」
「呑気なこと言ってないでよ。映って知り合いにでも見られたらサボったことバレるじゃない」
「今更。どーせクラスの子も皆知ってるよ」
「だけど」
「はぁ、サクラは真面目ちゃんなんだから。どうせ小さなローカル番組でしょ? 映ってもとやかく言われたりしないって」

 再びくまたんの下まで戻ろうとするレイを必死に引き戻す。

「サクラ~」
「もう戻りましょう。あんたも買う気無いんでしょ?」
「……買う気はある。けど、……買えない。お金が……無い……プリーズってか買って~」
「NO」「サクラ……」「うぅ……その顔してもダメ。ホント駄目だから! ……ってかお金無いのって先月のアレでしょ」
「はい……」

 しゅん、とレイの顔から覇気が消えた。――先月、レイは限定くまたんフィギュアが当たる抽選に応募するため、ポイントのついたチョコ菓子を買い漁ったのだ。私も少し協力してあげた(正確にはさせられた)けど結果は惨敗で、それ以降レイはファンなのにくまたんを逃した事実がトラウマになっているのか、時々チョコを見ては思い出してガタガタと震えるのだった。

「まぁ、この子はいつでも買えるからね……。我慢してお金貯まったら絶対手に入れる!」
「そうして頂戴」
「でもサクラが健気なレイ可哀想じゃない、よっしゃここはいっちょ私が購入しちゃおうじゃない! って考えてるならその意志を尊重する気前の良さもある」
「さ、帰るわよ」「ほんの少しでいいから迷って……」
「……え、ちょっとなんかこっち見てるじゃない」
「嘘、くまたんが私たちを?」
「んなわけあるか! リポーターよ! あぁもう、レイ!」

 女子高生にインタビューでも取ろうと思ったのか、カメラマンがスタスタと近づいてくる。私はレイの指を掴むと、彼らから逃げるようにその場を後にした。

☆★☆★

「はぁ……はぁ……」
「サクラ……はぁ……走り……すぎ……」
「だって……カメラに……写ったら困る……じゃない……ふぅ」

 商店街を抜け、学校の最寄り駅にいつの間にか入り込んでいた。乾燥した空気で喉がカラカラに干からび、突然走ったことで全身の筋肉がきりきりと悲鳴を上げている。これが運動部だったらまだマシなんだろうけど、帰宅部の私たちにはキツい……と思ったらレイは何故かそこまで息が切れていないわね。
 私はベンチにへたり込み、何度も深呼吸してどうにか落ち着けた。

「サクラ……」
「ん?」
「このあとどうする? もう解散?」

 まだ15時だった。午後の授業をサボったのでその分一日が妙に長く感じる。
 走ることで熱を帯びた体は通り抜ける寒風であっという間に冷やされてしまった。夏が近いはずなのにまるで冬のように寒い……。

「どこか、暖かい場所に行きたいわ」
「それじゃあ商店街のパフェ喫茶行かない? 暖かいココア呑んで、美味しいパフェ食べよ!」
「行きたいのは山々だけど、場所がさっきの広間の目の前じゃない。まだくまたんフェスがやってるだろうし……」
「ハンバーガー食べる?」
「昨日食べたし……」
「うわぁ~出た出た人に意見出させといて尽く否定するの」「だって」「あ、じゃあさ……私のウチ来る?」

 にぃっとレイは微笑んだ。
 既視感を覚える笑み。そう……レイと初めて会話した時に見せた、レイ独特の笑みだった。

「また?」「親帰ってくるの遅いし、暇なんだよね」
「他に……行くトコないなら……別にいいけど」
「はい決まり。あ、電車来たよ、行こうサクラ!」

 今度はレイにぎゅっと指を掴まれる。寒々しい中でレイの指は一段と冷たい。
 電車に乗り、運良く座ることができた。私の左肩と腰がレイに触れる。制服越しにレイの体温を感じる。相変わらず冷たいような……でも温かい? 不思議な感覚だった。

「何ニヤニヤしてるの? 私の家に遊びに行くのがそんなに嬉しい?」
「笑ってないわよ」
「そぉ?」

 むしろ笑ってるのはレイでしょ。さっきからずっと変な顔しちゃって。嬉しいなんて……別にそんなことまで考えてない。無意識で……いや待て、私は無意識でレイの家に遊びに行くことを喜んでいる? まぁ嬉しい、けど、でも私のその嬉しいって感情はレイの近くで、レイの隣に、そしてレイと……。
 ぎゅっと、私の隙をつくように手を握られた。

「何?」
「サクラの手さ、めっちゃ暖かいんだよね……。ポカポカする」
「レイが冷たすぎるのよ」
「冬は重宝するよ、きっと」
「人を湯たんぽ代わりにするの辞めて」「嫌がるわりにはさ、手離さないよねー」

 レイは嘲笑うように言った。
 私の掌に指を差し込むように食い込ませ、お互いの指が絡まるように合わさった。

「ね、なんで?」レイは耳元でささやく。響くような声色に、ぶるっと体が震えそうになるのを懸命に堪えた。
「離しても……すぐ食いついてくるし」「私の指は魚か!」「しかもぐっと握ってくるじゃない」「痛い?」

 ううん、全然……。
 痛くはない。
 けど、レイは……敢えて私の傷跡をなぞる。偶然当たった風を装うけど、私はわかってるから。それが不快だった。痛みはもちろん感じないけど、私の精神的な部分をガリガリと抉られるみたいで癪に障る。
 でも、それが、「むしろ気持ち良い?」
「……は?」と声が裏返る。

「やーサクラさん、動揺し過ぎでは?」「あ、あんたが変なこと口走るからよ」「別に変じゃないよ。こうやって手を握るの、私は好きだよ。なんか安心する。特にサクラの指は暖かいから尚更ね」「そう……」「ねぇねぇ、知ってる? 指ってさ、無数の神経が存在するもうヤバイ感覚器官なんだよ。それをこうして絡ませてるのって……なんかさ……」
「……何よ」
「ううん、何でもない」

 それっきりレイは喋らなくなった。私も、言葉の接穂を失った気分で、外の景色を眺める。
 ――フリをする。

 ぎゅぅ、ぎゅぅうう……とレイは私の指を握ってくる。周りの人には見えないように二人の間で隠しながら、涼しい顔して……。レイの冷たい指が私の指に食い込むたびに、そこからポンプで血液がギュポギュポと送られてくるかのようにドキドキと心音が高鳴った。私とレイの間にもう一つ心臓が生まれた気がした。車内の温度とか関係なく、私の体に熱が灯るのを感じる。どうしよう、どうしよう……ってレイに気づかれそうで焦る。

 ――気づかれる、……って何に?
 私の中で生まれた想いに自分で問いを投げかける。
 その瞬間、先日レイの家に泊まったことを思い出す。

☆★☆★

 レイの家にはレイ以外誰も居なくて、私たちはレイの部屋で夜遅くまで談笑して、眠った。当初はレイがサクラはお客様だから……とベッドを貸してくれて、レイは床に布団を敷いて眠るはずだったのに、何故か私のベッドに入り込んできた……。

 背中合わせでいつしか眠りに落ちた。
 けど、ふと目を覚ました時、私は……レイに抱きついていることに気づく。レイの胸元に顔を埋めて。レイの柔らかい体に包まれていた。レイの体には……私の温度がまるで残り香のようにこびり付いている。思わず離れようとした。でもレイを見やると……まだスヤスヤ眠っている。

 私は、再びレイの胸元に顔を埋めるように近づいた。ふわっとレイの香りが私に降りかかる。レイの冷たい温度も、今だけは心地良い。そっと気づかれないようにレイの腰に手を回す。なんでこんなことしているんだろう……。疑問が私の中で噴出したけど、無防備なレイに身を寄せたいという欲求で全て消えた。普段、私からレイに触れるなんてありえないから、ドキドキした。ぎゅっとレイを掴むと、仄かな快楽が私の中で響き渡る。

「ふふっ」

 微かに笑う声が聴こえた。はっと現実に戻った私だけど、そんな私を逃さないようにレイは私の頭を抱え込むように抱きしめる。私は、そのまま動けず、蕩けるような安心感を覚えた瞬間眠りに落ちていた。

☆★☆★

「レイ」
「なに?」
「ごめん、やっぱり今日はもう帰るわ」
「えぇ、どうして?」「用事思い出して」「何の?」「別に……なんだっていいでしょ」「うそつき」「嘘じゃないわよ」
「サクラは、嘘つくと眉間に皺が寄るんだよ」

 思わず眉間に手を伸ばそうとして、レイがニヤニヤと勝ち誇った笑みを浮かべていることに気づく。カマかけたのね……。

「馬鹿にして」
「もう古典の域に到達する罠に引っかかるなんて……。はぁサクラ可愛い」
「うるさいわね。……もう、私は降りるから」
「えぇ、一緒に遊ぼうよ」
「明日でいい?」
「今日がいい」
「どうして」
「だって今日は寒いんだもの」「寒さは関係ないでしょ」「この前みたいにサクラが私に抱きついてくれないと、寒くて眠れないから――」


//終
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