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レイのお漏らし、ペットボトル 01
しおりを挟む放課後。
学校から最寄り駅までのいつもの帰り道。午後の授業特有のぬくい緊張感から解き放たれ、私たちはノソノソ歩く亀のようなペースで帰路につく。
さっきからレイは溜息ばかり。珍しく愚痴る姿に思わず笑ってしまう。
何故レイの愚痴が止まらないのか。それは授業中に先生に怒られたことに起因する。
英語の授業──。
先生は一心不乱に黒板にまるでチョークを叩きつけるように書きなぐり、その粉が舞って頭部が白く染まっていた。白髪交じりの黒髪が真っ白に染まっている。その変わり果てた姿にクラス皆がくすくす笑っていたら、ふと先生の動きが止まり、ぺきッ! とチョークが折れる。そして鬼のような形相で振り返り「集中しなさい!」と吠えたのだ。一瞬で静まり返った教室だったけど、先生の姿がツボに入っていたレイは笑いが堪えきれず、ぷぷぷ……と声が漏れたことで、先生にターゲットロックオンされ、集中砲火を浴びたのだった。
「あ~もうホント最悪。皆も笑ってたのに!」
「あんた体震わせて笑ってたのよ。先生だって何事だって思うじゃない」
「にしたってあんなに怒らんでも……。あと少しでよよよとハンカチ噛んで泣く所でした」「表現古すぎ」「サクラ~慰めて」「よしよし」
頭を撫でるとレイは嬉しそうに微笑む。……可愛い。サラリとした髪の感触が指に心地良いわ。思わず指にこびり付いた匂いを嗅ぎそうになるけど、流石にそんなことしたら自分に引く。抑えて、我慢しなさいと言い聞かせる。けど、レイはポケットからスマホを取り出して画面を眺めた。チャンス到来。私は、鼻の頭を掻くと見せかけて――。
「ねぇ、サクラ」
「な、なに……」
「あのさ、私……なんかねぇ……」
レイはゆらゆらと体を揺らしながら言う。ふぅ、ふぅ……と深呼吸をしながら。
「もったいぶってどうしたの?」
「お花を摘みに行きたいのです」
「……行けば?」
「でねぇ、ちょっと周りの状況を調べたんだけど」
レイはスマホの画面を見せつけてくる。マップアプリが表示され、検索欄にはトイレの文字が。
「うん」
「近くにちょうどコンビニも無く、学校戻るのに歩いて十分、駅までここから向かうのにも十分……」
「え、つまり」
「困ったことに、我慢できないっぽい」
もじもじと地団駄踏み始めた。レイの表情は青色に染まり、はぁ、はぁ……と不気味な呼吸を繰り返している。
「冗談?」
「私今真剣な話してんの! サクラ、真面目に、本当に……ヤバイんです」
いやいや、
嘘でしょ、嘘でしょ嘘でしょ?
「駅にトイレあるじゃない」
「だから我慢できない! ……かも。あ、あぁぁ……怒鳴らせないで」「いやあんたが勝手に」「と、とにかくトイレ近くに無い?」「アプリで検索したのよね?」
「無かった!」
自ら絶望溢れる事実にぶちあたったレイは、苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべる。私はレイの唐突な変貌についていけなかったけど、なんかようやく事態を呑み込めてきた。
「トイレに行きたい、でも間に合いそうにないってことよね?」
「イエス!」
「公園とか」「住宅街のど真ん中」「最悪どこかその辺の茂みに」「コンクリートジャングル! ってか十六歳の女の子が外でおしっこできないぃぃ……」
レイが全身に力を込めているのが傍目でもわかる。この零度近い気温で、たらりと冷や汗が零れたのが何よりも証拠じゃない。思わず駆け寄ると、レイは瞳に涙の膜を張りながら私を見つめている。普段の私を操作する時に魅せる妖しいニセ涙ではなく、これは本物だ。
「レイ?」
「大丈夫……まだ……大丈夫……かも」
「とにかく先に進みましょう。駅のトイレに」
「あと十分も我慢しないといけないの?」「それしかないでしょ」「そんな歩けない……」「じゃあタクシーとか通らないかしら? 呼ぶのも時間かかるし」「行こう、行こうよ、もう選択する余地なし!」
ぎゅぅっ! といつも以上に強く手を握られた。
ぬめっとした感触が指を通り抜ける。汗にまみれていた。思わず手を引っこ抜きそうになるけどレイが傷付くので寸前のところで留まる。
「ヌメヌメしてる?」私の反応で察したのか、トボトボ歩きながら囁くような声色で訊いてきた。
「……汗凄いから」
「ごめん」
「私も緊張したら汗かくわよ」「このまま汗でおしっこが出たらいいのに」「離していい?」「お願い、もう何か掴んでないと……ヤバイの」
じゃあ余計なこと言わないでよ! と睨むとレイはひぃと目を背け、ゆっくりと歩み続ける。亀のように鈍いわ。駅まで十分って言っていたけど倍近くかかりそうね。
「サクラ……」
「ん」「おんぶして」「……断る」「だってもう歩けないんですもの」「しても……いいけど、私人をおぶって十分近く歩けないし、それに」「最悪の場合を想定しないで。ノーモアネガティブ!」「いやいや私を道連れにするな!」「それじゃあお姫様だっこ。一度で良いからされてみたいんだ」「このタイミングで? もっと無理。ってか案外余裕?」「なわけないでしょ、喋ってないとヤバイの!」「ごめんごめん……レイ?」
レイは突然立ち止まった。
青ざめていた顔が、真っ白に変色する。ピンク色の唇までもが更に薄く色を変え、じっと私を眺めている。
引っ張っても、それ以上動こうと、しない。
――そして、
「サクラ……」
「な、なに……ちょ、嘘、レイ? どこかトイレ貸して貰いましょう、ね? 歩いて……レイ!?」
私に名を呼ばれたレイは、びくんッ! と体を揺らした。ぐっとお腹を押さえ込むように腰を折ると――。
太腿を伝う光のライン……。それが、ソックスにじわっと広がっていく。レイは、ほっとするような表情を浮かべている。でも、即座に瞳にうるうると涙が貯まっていき――。
「はぁぁ……うぅ……う……うぅう……うぅ……」
「レ、レイ……」
「うぅうぅぅぅう……」
「とにかく……そうよ、多機能トイレに向かいましょう。そこで待ってて……。私がコンビニで代えの下着買ってくるから」
「靴下も……」
「もちろん」
「あと靴も」「……それは無理。ほら、いつまでもこんなところで」
しかし、レイはしゃがみこむと、自らの脚を伝う液体に指を這わせた。指先に、その液体が付着する。
そして、
「はむ……」
人差し指を口に放り込む。
きゅぽん、と音が鳴るほど舐った後、その指を取り出した。
──はぁ!?
えっと、
待って、
えっと、
何したのこの子は……。
自らの脚を伝う液体を指でなぞって、そして口に含んだ。
舐めた。
――嘘、でしょ?
意味が、理解が、待って追いつかない、いやいや追いつかないで――。
「レイッ!?」
「サクラ~」
「あ、あ、あんた……何してんのッ!」
「味見」「はぁあ!? じ、自分の舐めた!? あ、あんた自分がやったこと理解してんの? 漏らして頭おかしくなった?」
レイは惚けた顔で私を睨むと、ふふっと小気味よく笑い、近づいてくる。
一歩後ずさると二歩レイは近づく。
三歩、四歩! ってレイが急接近。
危険を感じた時には目の前にレイの姿が。
「サ~クラ!」
「来ないで、ちょっと」
「ふふふっ」
レイは突然右手を私の目の前に差し出す。
――それは、小さな袋? ……ゴム製の?
「な、なによこれ……」
「水風船。この前駄菓子屋行ったじゃん。あの時買ったの。でね、その中に水を仕込んで――」
股間付近でぎゅっと絞るような動作をする。なるほど、お腹を抱えるような仕草はそのためね――じゃなくて!
「じゃあ、今までのは……全部演技!?」
「ふっふっふ、サクラちゃん見事に騙されたね」
「ありえない、人が……あぁもう、馬鹿! 心配して損したわ!」
かっと怒りが湧き、レイから早足で離れる。けど、レイは「サクラ~」と駆け足で近寄ってくる。そして、私の腕にペタペタと濡れた手を擦り付けてくる。
「や、辞めなさいよぉ!」
「水だよ」
「いやだからって……なになに? レイ?」
ヌリヌリと私の片腕から腰、そして脚へと液体を塗り込む。すると、その部分がじわっと濡れるような感覚を味わった。レイは無我夢中に擦り付けてくる。たくさんたくさんたくさん……。次第に、私の左半身が液体に沈む。レイの吐息が耳元で響いた。はぁはぁと荒い息。焦っている。
え、何?
そのしょーもない悪戯はもう終わったんじゃないの?
☆★☆★
//続く
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