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◆ 果て無きパラレル・マトリクス 03 ◇
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◆◇◆◇
──02の続きです。
──飴を食べてしまいました……。
──サクラが怖い目で睨んでます。
◆◇◆◇
──ぎゅるるるるる!
「唸り声みたいにお腹鳴らさないでよ」
「……飴……」
「うわわ、泣きそう」
「はぁ……」
「ね、ね、私を見てさ!」
「なんでよ」
「だってほら……私はこの通り大気圏よりも高く、そして深海よりも深く反省してる。ごめんなさい。この純粋無垢な瞳を見てくださいな」
「くれるって言ったのに……はぁ……」
サクラは瞳をキラキラと光らせて私を睨む。
鋭い視線。
その綺麗な表情も合わさって、刃のような切れ味に身が竦む。
めっちゃ美人だ。
めちゃんこ可愛い。
……って感じで描写でも煽てていたら許してくれないかな~。
「わざとじゃないよ。ってかサクラも目撃したでしょ?」
「えぇ、あんたが私を嘲笑いながら飴を頬張る姿を──」
「記憶改ざんするな」
「うぅ……はぁ……」
恨めしそうに何度もため息を零す。もう事故なんだから仕方ないじゃん、とサクラのおでこに頬を擦り付けても、幸福値上昇が少ない気がする。しかし、私は諦めないよ。サクラの頭を抱きかかえる感じでスリスリした。ぎゅって締め付けながら。すると、次第にサクラがふにゃっと緩むのを感じ取る。はいはいチョロい。私で圧縮するとサクラはす~ぐ溶けてしまうのだ。調子に乗って強く抱きしめると私の中でぶるんとサクラが嬉しそうに震える。
いや待って。
私が罪悪感を覚えてそれを紛らわすために密着してくる──ことを想定して、敢えてまだまだこんなモノでは私は許さないわよ! ってポーズしてやがる。まぁしてるけどぎゅ~って抱きしめてると【レイの柔らかさ無限大~~//////】ってわけわからん感想述べながら興奮するから笑う。
「許しておくれよサクラ~。ねぇ、いつもの優しい可愛いサクラに戻ってよ」
「……あ、ぅ……こ、断る」
「あ、必殺技出しやがった! サクラも本気か。だったら──」
思いっきり締め付けるように手を力を込めていくと、サクラが期待で全身を震わせた。
そのあからさま過ぎる姿に「ふふっ」と笑うとサクラもつられて微笑んだ。暗闇の中に疾走る一瞬の閃光のような笑みに思わず見惚れる。
ぞくぞく、
どきどき、
って全身が温い泥に浸かるような感触を覚えた──。
声が出ない。喋り方を忘れたよ。
不意に魅せる表情がいやらしいよね、ホント。
「……美味しい?」私が喋れない間を消すように、サクラは問う。
「まぁ甘くて一応空腹の足しにはなるよ」
「そう……」
「あらら、もう怒る気力も無し?」「頬に飴玉浮かび上がらせるの辞めなさいよ」「ほら、私の頬舐めていいよ。甘みを感じるかも?」
「……いいの?」
「冗談」
「でしょうね」
あはは、とサクラは乾いた笑いをしながら、【レイの肌を舐めるのも案外いいかもしれないわ。マシュマロみたいに柔らかもっちりの頬を……舐めたい。嗚呼、そうよ、さっき私の耳を散々舐ったじゃない! そのお返し、等価交換的な感じで、私だってレイをむしゃぶりつくす権利はある】
「サクラ、なんか目が怖いよ」
若干異なる色合いにギラギラと輝き始めた。危険な匂いがプンプンする。なんか勝手に自分の中で納得しちゃってるし、あわわわ、また拘束しようと腕がゆっくりと蠢き始めた。
「やっぱり駄目!」
「ま、まだ何も言ってないじゃない!」「あ~~サクラは危険だ。なんか飴まだ無かったっけ」
「それが最後なんでしょ」
「そうだけど……」
「じゃあしょうがないわね仕方ない……仕方ない……うんうん。ってかさっきレイが許可してくれたし」
「何を?」
「舐めていい、って」
「冗談だよ!」
恐怖を覚えて突っぱねると、サクラは鼻で笑い、はぁ……と脱力しながら私の胸元に顔を埋めた。じゃあこれはいい? って思考すらしてないけどそんな感覚が私にじわじわ伝わる。
私の視線の先からサクラの頭が消えたことで、また……ガラス戸が見えてしまう。
──私は慌ててガラス戸からサクラに視線を移す。
スリスリ、
ぬりぬり、
……はぁ~。
サクラはまるで子猫がじゃれつくみたいに鼻を私に擦りつけている。おぉ、いつもよりも大胆だ。普段は私が寝ている時とか意識が無い瞬間を狙って(意識無くてもサクラの声が聴こえるんだよね……)密着してくるのに、今は自分から。さっき限界まで追い詰めた余韻で許されるとでも思っているのかな。
【いい匂い……】めっちゃ嗅いでるよ。まぁいつものことだけど、今日はこの時間までシャワーも浴びてないから少し臭わないか、不安になる。【いつもよりも濃いレイの香り……。強レイ臭! うぅぅ最☆高!(´ε`*人)】たまにこの人マジで気持ち悪いな、と思うこともある。私が勝手に聴いちゃうから悪いんだけどさ、限度ってものがあるじゃん?
【はぁ……、今ならレイをオカズにできるわね、絶対】
ほら、こういうことすぐ言うし……っていやいやサクラはオカズ=オナニーする時のネタ、というスラングを知らないはず。ってことはつまり【この前、夕飯を一人で食べるのが寂しくて、レイの写真を眺めながら食べたら元気になって、なんと食が進んだわ。今だったらレイを見ながらご飯三杯はぺろりと平らげる自信がある!】
ホントの意味で私をオカズにしていた。うーん、それは……まぁ、健全というか、卑しくはない。でもでもあの広いリビングと大きなテーブルにサクラは一人で座り、私の写真を見ながらご飯食べるって、ね、かなり怖いぞ──。
「レイ」
「ん?」
サクラは何も言わない。ただ、じっと私を見つめてるのはわかる。視線を感じる。【飴、溶けちゃったのかしら】
こりッ、と歯で噛むと、【まだ残ってる──】とサクラは強く念じる。
ぐりぐりとサクラの想いで私の体が擦られ気がした。私がサクラから読み取るとは異なる感覚だった。サクラが自分の意志を私にぶつけて、理解させるような……強さを覚えた。
「サクラ?」
「甘い匂いがするわ」
「そりゃあ……飴、舐めてるから」
「……唾液も止まらない」
──そこまで言うけど、その先は口にしない。
この子は、私に何を伝えようとしているのか、【……舐めたい、舐めたい舐めたい舐めたい舐めたい舐めたい、レイの食べた飴を……】目で訴えかけている。読み取れちゃうからわかるんだけど、え、本気で?
舐めたいの?
私の唾液に塗れた、飴を──。
思わず聴きそうになるけど、そういうことしてこの子、実は私の心を読めるのでは? とあらぬ疑いを持たれちゃ困るので慎重に。
ごくん──。
サクラは喉を鳴らした。密着しているから、その振動が直に私の中に入り込んでくる。
「ごくん、って唾を飲み込まないで、なんか生々しい」
「だって……」
「サクラ、あの……拘束がまた強くなってますよ」
「そう?」
「うん、あと──近いし」
サクラはまるで大蛇が獲物を捕獲するかのように私を締め付け、音もなく距離を詰める。
お腹空き過ぎておかしくなったのか、それともこうして私に抱き着いていると箍が外れてしまったのか……。この不思議な世界を訪れて、理性の部分がショートしたみたいに壊れたのか、とにかく……凄く近いぞ近くない近いんですけど。
コツン、とお凸が当たる。
私からこうして近づくことがあるけど、サクラから触れるのは稀だった。
じぃっと、私の目を見つめてくる。
【舐めたい】って願いながら。
でもそれって、つまり──さ、私が舐めている飴を渡すには、どうしても──。
「じゃあ、舐めます?」
「何を?」「飴」「まだあるの?」「いや、これ……私が舐めてるやつ」
「いや、ありえないでしょ」舐めたいって思ってるクセに白々しいヤツだよ全く!
「だってめちゃくちゃ物欲しそうに眺めてくるんだもの。もうこの際レイの口の中に入った飴でも舐めたいじゃない! ってなりふり構わず、手段を選ばない感じで」
私がおどけた風に言うと、サクラはにこっと微笑むけど瞳が笑っていない。
「まだそこまで追い詰められてはないわよ」
「サクラの欲望をある程度解消しないと、なんか多分私に噛み付いてきそうで……」
「しません」
「ホントか? 目がレイのお肉美味しそうじゃない! って訴えてるよ」
どうしよう──。
本当にサクラが近い。
また僅かに距離を詰められた。
ほんの数センチに満たない感覚だけど、一段とサクラを強く感じる。
うぅ、なんか私からサクラ~って抱きつくのは気楽なのに、サクラから迫られると焦る……。今、主導権はサクラにある。ここは一旦サクラの傷を苛めて、体制を建て直さないと。
あっ。
「ん?」
「なんでも、ないよ」
咄嗟にサクラの傷を擦って私のペースに戻そうと思ったけど、指が絡まりそれができない。私たちは両手を絡めながら、体を密着させて向かい合っている。私たちの間から線が消えて、交差し、交わっているような錯覚をひしひしと感じる。
「ねぇ、舐める?」
不意に口にしていた。
観念したというか、勝負に出る感覚。
でも言った瞬間、後悔とか色々な念がわっと私に降りかかる。カチリ、と引き金を引いたような感覚。後戻りできない領域に足を一歩踏み出した。崖から身を投げ出す、とかそんな恐怖が私を貫く。「飴を?」
「そ、指を──離して」「掴んでるから、無理……」
「それじゃあ……仕方ないか」指は離れない。冗談抜きで、精神的な部分でくっついている。
「涎でベトベトなのに、指で摘んだら余計に汚いじゃない」
「私の涎は汚くないよ!」
「ふふっ」
「なんで笑うの?」
「だって……なんかレイ、可愛いから」
サクラの頬がにぃっと歪む。
妖しい笑い方。
顔の皮膚が引き伸ばされて、それが笑みとわかるのに一瞬迷う。
でも目が離せない。視界が奪われるみたい。
私の中で漣が揺れるように、感情が揺らぐ。
トプトプと液体を注がれるように、サクラからの想いが私に注がれる。普段は私のピリピリで私に支配されているのに、今は……サクラの感情で私が制御されている。
真っ暗な中でも、その笑顔だけは闇が影のようにサクラを立体的に浮かび上がらせる。
「サクラも可愛いよ」
「レイの方が可愛いわ」
吐息が、サクラの熱を感じる。
はぁ、
と呼吸も感じるくらいに。
「ね、ホントに食べるの?」
「お腹空いてるの」
言い訳「知ってるけど」にしやがって。手を使わずに、この体勢で飴を私「レイ……」の口から「ホントに?」サクラの口に移動するとなると、うーん、私瞬間移動系の能力とか持ってないからなぁ。「駄目なの?」「だって、当たりそうになるし」「唇が?」「そうだよ。キスになるよ?」
◆◇◆◇
「私、したことあるし」
「……えぇ!?」思わず声が漏れてしまう、フリをする。
「前に、あんたと」「へ、私?」「ほらぁ、なんか一度お見舞いに行った時に」「知らんけど」「レイが、添い寝したいって言うから、仕方なく私が隣に寝たら……」
やっぱり、あの時の話か。
お見舞い、マスク越し……の。私は殆ど記憶に無かったけど、そうだよ、サクラが調子に乗って私に色々感情を注いで、私はそれに耐えきれず気がついたらサクラにキスを。その後手を繋いだ時に思い出して、読み取ってしまったんだ。
「ペロペロ舐められた」
「でもマスク越しじゃん」
「まぁ、そうね」「それにね、サクラ。友達とキス程度はよくある好意なのだよ。仲いいと」「じゃあ、問題ないわね、当たっても」
誘導された。
ううん、私も……なんかサクラに合わせるように敢えて口にしたんだ。
やれやれ仕方がありませんね、って風を装い、飴を口の中で動かして、唇で挟むように咥えた。
「ほぇ、さぁうぁ(ほれ、サクラ)」
「なんか顔凄いから笑いそう」
「も~わぁっておおぁなぁいえぉ!(も~笑って落とさないでよ!)」
「うん──」
ガチッと指が握られるほど強く力が籠もる。
それは私から、もしくはサクラから──同時だったかもしれない。
その瞬間に、サクラは私の唇から飴玉を受け取り、そっと口の中に放り込む。
……あれ。
もう終わり、デスカ?
えーっと
えーっっと
う~~~~~ん
思っていたよりも呆気無く感じた。
互いに唇に触れることもなく、難なく達成しちゃった。
味気ないというか、馬鹿みたいに心臓高鳴らせてる私が初心過ぎて焦る。
サクラはサクラで、こんなもの? って顔しちゃってるし……。
「私の涎まみれの飴は美味い?」
「変な言い方辞めなさい」
「でもこれでサクラのお腹の音から解放されるのかな。ぐぅぐぅうるさかったから」
「はいはい悪うございました」
「あ、ねぇ、サクラ」
「ん?」
「やっぱり、飴返して──」
私はサクラの動きを止めるため一瞬満面の笑みを浮かべた後、
そっとサクラと唇を重ねた。
舌を侵入させる。
◆◇◆◇
ep.果て無きパラレル・マトリクス
03
続く
◆◇◆◇
──02の続きです。
──飴を食べてしまいました……。
──サクラが怖い目で睨んでます。
◆◇◆◇
──ぎゅるるるるる!
「唸り声みたいにお腹鳴らさないでよ」
「……飴……」
「うわわ、泣きそう」
「はぁ……」
「ね、ね、私を見てさ!」
「なんでよ」
「だってほら……私はこの通り大気圏よりも高く、そして深海よりも深く反省してる。ごめんなさい。この純粋無垢な瞳を見てくださいな」
「くれるって言ったのに……はぁ……」
サクラは瞳をキラキラと光らせて私を睨む。
鋭い視線。
その綺麗な表情も合わさって、刃のような切れ味に身が竦む。
めっちゃ美人だ。
めちゃんこ可愛い。
……って感じで描写でも煽てていたら許してくれないかな~。
「わざとじゃないよ。ってかサクラも目撃したでしょ?」
「えぇ、あんたが私を嘲笑いながら飴を頬張る姿を──」
「記憶改ざんするな」
「うぅ……はぁ……」
恨めしそうに何度もため息を零す。もう事故なんだから仕方ないじゃん、とサクラのおでこに頬を擦り付けても、幸福値上昇が少ない気がする。しかし、私は諦めないよ。サクラの頭を抱きかかえる感じでスリスリした。ぎゅって締め付けながら。すると、次第にサクラがふにゃっと緩むのを感じ取る。はいはいチョロい。私で圧縮するとサクラはす~ぐ溶けてしまうのだ。調子に乗って強く抱きしめると私の中でぶるんとサクラが嬉しそうに震える。
いや待って。
私が罪悪感を覚えてそれを紛らわすために密着してくる──ことを想定して、敢えてまだまだこんなモノでは私は許さないわよ! ってポーズしてやがる。まぁしてるけどぎゅ~って抱きしめてると【レイの柔らかさ無限大~~//////】ってわけわからん感想述べながら興奮するから笑う。
「許しておくれよサクラ~。ねぇ、いつもの優しい可愛いサクラに戻ってよ」
「……あ、ぅ……こ、断る」
「あ、必殺技出しやがった! サクラも本気か。だったら──」
思いっきり締め付けるように手を力を込めていくと、サクラが期待で全身を震わせた。
そのあからさま過ぎる姿に「ふふっ」と笑うとサクラもつられて微笑んだ。暗闇の中に疾走る一瞬の閃光のような笑みに思わず見惚れる。
ぞくぞく、
どきどき、
って全身が温い泥に浸かるような感触を覚えた──。
声が出ない。喋り方を忘れたよ。
不意に魅せる表情がいやらしいよね、ホント。
「……美味しい?」私が喋れない間を消すように、サクラは問う。
「まぁ甘くて一応空腹の足しにはなるよ」
「そう……」
「あらら、もう怒る気力も無し?」「頬に飴玉浮かび上がらせるの辞めなさいよ」「ほら、私の頬舐めていいよ。甘みを感じるかも?」
「……いいの?」
「冗談」
「でしょうね」
あはは、とサクラは乾いた笑いをしながら、【レイの肌を舐めるのも案外いいかもしれないわ。マシュマロみたいに柔らかもっちりの頬を……舐めたい。嗚呼、そうよ、さっき私の耳を散々舐ったじゃない! そのお返し、等価交換的な感じで、私だってレイをむしゃぶりつくす権利はある】
「サクラ、なんか目が怖いよ」
若干異なる色合いにギラギラと輝き始めた。危険な匂いがプンプンする。なんか勝手に自分の中で納得しちゃってるし、あわわわ、また拘束しようと腕がゆっくりと蠢き始めた。
「やっぱり駄目!」
「ま、まだ何も言ってないじゃない!」「あ~~サクラは危険だ。なんか飴まだ無かったっけ」
「それが最後なんでしょ」
「そうだけど……」
「じゃあしょうがないわね仕方ない……仕方ない……うんうん。ってかさっきレイが許可してくれたし」
「何を?」
「舐めていい、って」
「冗談だよ!」
恐怖を覚えて突っぱねると、サクラは鼻で笑い、はぁ……と脱力しながら私の胸元に顔を埋めた。じゃあこれはいい? って思考すらしてないけどそんな感覚が私にじわじわ伝わる。
私の視線の先からサクラの頭が消えたことで、また……ガラス戸が見えてしまう。
──私は慌ててガラス戸からサクラに視線を移す。
スリスリ、
ぬりぬり、
……はぁ~。
サクラはまるで子猫がじゃれつくみたいに鼻を私に擦りつけている。おぉ、いつもよりも大胆だ。普段は私が寝ている時とか意識が無い瞬間を狙って(意識無くてもサクラの声が聴こえるんだよね……)密着してくるのに、今は自分から。さっき限界まで追い詰めた余韻で許されるとでも思っているのかな。
【いい匂い……】めっちゃ嗅いでるよ。まぁいつものことだけど、今日はこの時間までシャワーも浴びてないから少し臭わないか、不安になる。【いつもよりも濃いレイの香り……。強レイ臭! うぅぅ最☆高!(´ε`*人)】たまにこの人マジで気持ち悪いな、と思うこともある。私が勝手に聴いちゃうから悪いんだけどさ、限度ってものがあるじゃん?
【はぁ……、今ならレイをオカズにできるわね、絶対】
ほら、こういうことすぐ言うし……っていやいやサクラはオカズ=オナニーする時のネタ、というスラングを知らないはず。ってことはつまり【この前、夕飯を一人で食べるのが寂しくて、レイの写真を眺めながら食べたら元気になって、なんと食が進んだわ。今だったらレイを見ながらご飯三杯はぺろりと平らげる自信がある!】
ホントの意味で私をオカズにしていた。うーん、それは……まぁ、健全というか、卑しくはない。でもでもあの広いリビングと大きなテーブルにサクラは一人で座り、私の写真を見ながらご飯食べるって、ね、かなり怖いぞ──。
「レイ」
「ん?」
サクラは何も言わない。ただ、じっと私を見つめてるのはわかる。視線を感じる。【飴、溶けちゃったのかしら】
こりッ、と歯で噛むと、【まだ残ってる──】とサクラは強く念じる。
ぐりぐりとサクラの想いで私の体が擦られ気がした。私がサクラから読み取るとは異なる感覚だった。サクラが自分の意志を私にぶつけて、理解させるような……強さを覚えた。
「サクラ?」
「甘い匂いがするわ」
「そりゃあ……飴、舐めてるから」
「……唾液も止まらない」
──そこまで言うけど、その先は口にしない。
この子は、私に何を伝えようとしているのか、【……舐めたい、舐めたい舐めたい舐めたい舐めたい舐めたい、レイの食べた飴を……】目で訴えかけている。読み取れちゃうからわかるんだけど、え、本気で?
舐めたいの?
私の唾液に塗れた、飴を──。
思わず聴きそうになるけど、そういうことしてこの子、実は私の心を読めるのでは? とあらぬ疑いを持たれちゃ困るので慎重に。
ごくん──。
サクラは喉を鳴らした。密着しているから、その振動が直に私の中に入り込んでくる。
「ごくん、って唾を飲み込まないで、なんか生々しい」
「だって……」
「サクラ、あの……拘束がまた強くなってますよ」
「そう?」
「うん、あと──近いし」
サクラはまるで大蛇が獲物を捕獲するかのように私を締め付け、音もなく距離を詰める。
お腹空き過ぎておかしくなったのか、それともこうして私に抱き着いていると箍が外れてしまったのか……。この不思議な世界を訪れて、理性の部分がショートしたみたいに壊れたのか、とにかく……凄く近いぞ近くない近いんですけど。
コツン、とお凸が当たる。
私からこうして近づくことがあるけど、サクラから触れるのは稀だった。
じぃっと、私の目を見つめてくる。
【舐めたい】って願いながら。
でもそれって、つまり──さ、私が舐めている飴を渡すには、どうしても──。
「じゃあ、舐めます?」
「何を?」「飴」「まだあるの?」「いや、これ……私が舐めてるやつ」
「いや、ありえないでしょ」舐めたいって思ってるクセに白々しいヤツだよ全く!
「だってめちゃくちゃ物欲しそうに眺めてくるんだもの。もうこの際レイの口の中に入った飴でも舐めたいじゃない! ってなりふり構わず、手段を選ばない感じで」
私がおどけた風に言うと、サクラはにこっと微笑むけど瞳が笑っていない。
「まだそこまで追い詰められてはないわよ」
「サクラの欲望をある程度解消しないと、なんか多分私に噛み付いてきそうで……」
「しません」
「ホントか? 目がレイのお肉美味しそうじゃない! って訴えてるよ」
どうしよう──。
本当にサクラが近い。
また僅かに距離を詰められた。
ほんの数センチに満たない感覚だけど、一段とサクラを強く感じる。
うぅ、なんか私からサクラ~って抱きつくのは気楽なのに、サクラから迫られると焦る……。今、主導権はサクラにある。ここは一旦サクラの傷を苛めて、体制を建て直さないと。
あっ。
「ん?」
「なんでも、ないよ」
咄嗟にサクラの傷を擦って私のペースに戻そうと思ったけど、指が絡まりそれができない。私たちは両手を絡めながら、体を密着させて向かい合っている。私たちの間から線が消えて、交差し、交わっているような錯覚をひしひしと感じる。
「ねぇ、舐める?」
不意に口にしていた。
観念したというか、勝負に出る感覚。
でも言った瞬間、後悔とか色々な念がわっと私に降りかかる。カチリ、と引き金を引いたような感覚。後戻りできない領域に足を一歩踏み出した。崖から身を投げ出す、とかそんな恐怖が私を貫く。「飴を?」
「そ、指を──離して」「掴んでるから、無理……」
「それじゃあ……仕方ないか」指は離れない。冗談抜きで、精神的な部分でくっついている。
「涎でベトベトなのに、指で摘んだら余計に汚いじゃない」
「私の涎は汚くないよ!」
「ふふっ」
「なんで笑うの?」
「だって……なんかレイ、可愛いから」
サクラの頬がにぃっと歪む。
妖しい笑い方。
顔の皮膚が引き伸ばされて、それが笑みとわかるのに一瞬迷う。
でも目が離せない。視界が奪われるみたい。
私の中で漣が揺れるように、感情が揺らぐ。
トプトプと液体を注がれるように、サクラからの想いが私に注がれる。普段は私のピリピリで私に支配されているのに、今は……サクラの感情で私が制御されている。
真っ暗な中でも、その笑顔だけは闇が影のようにサクラを立体的に浮かび上がらせる。
「サクラも可愛いよ」
「レイの方が可愛いわ」
吐息が、サクラの熱を感じる。
はぁ、
と呼吸も感じるくらいに。
「ね、ホントに食べるの?」
「お腹空いてるの」
言い訳「知ってるけど」にしやがって。手を使わずに、この体勢で飴を私「レイ……」の口から「ホントに?」サクラの口に移動するとなると、うーん、私瞬間移動系の能力とか持ってないからなぁ。「駄目なの?」「だって、当たりそうになるし」「唇が?」「そうだよ。キスになるよ?」
◆◇◆◇
「私、したことあるし」
「……えぇ!?」思わず声が漏れてしまう、フリをする。
「前に、あんたと」「へ、私?」「ほらぁ、なんか一度お見舞いに行った時に」「知らんけど」「レイが、添い寝したいって言うから、仕方なく私が隣に寝たら……」
やっぱり、あの時の話か。
お見舞い、マスク越し……の。私は殆ど記憶に無かったけど、そうだよ、サクラが調子に乗って私に色々感情を注いで、私はそれに耐えきれず気がついたらサクラにキスを。その後手を繋いだ時に思い出して、読み取ってしまったんだ。
「ペロペロ舐められた」
「でもマスク越しじゃん」
「まぁ、そうね」「それにね、サクラ。友達とキス程度はよくある好意なのだよ。仲いいと」「じゃあ、問題ないわね、当たっても」
誘導された。
ううん、私も……なんかサクラに合わせるように敢えて口にしたんだ。
やれやれ仕方がありませんね、って風を装い、飴を口の中で動かして、唇で挟むように咥えた。
「ほぇ、さぁうぁ(ほれ、サクラ)」
「なんか顔凄いから笑いそう」
「も~わぁっておおぁなぁいえぉ!(も~笑って落とさないでよ!)」
「うん──」
ガチッと指が握られるほど強く力が籠もる。
それは私から、もしくはサクラから──同時だったかもしれない。
その瞬間に、サクラは私の唇から飴玉を受け取り、そっと口の中に放り込む。
……あれ。
もう終わり、デスカ?
えーっと
えーっっと
う~~~~~ん
思っていたよりも呆気無く感じた。
互いに唇に触れることもなく、難なく達成しちゃった。
味気ないというか、馬鹿みたいに心臓高鳴らせてる私が初心過ぎて焦る。
サクラはサクラで、こんなもの? って顔しちゃってるし……。
「私の涎まみれの飴は美味い?」
「変な言い方辞めなさい」
「でもこれでサクラのお腹の音から解放されるのかな。ぐぅぐぅうるさかったから」
「はいはい悪うございました」
「あ、ねぇ、サクラ」
「ん?」
「やっぱり、飴返して──」
私はサクラの動きを止めるため一瞬満面の笑みを浮かべた後、
そっとサクラと唇を重ねた。
舌を侵入させる。
◆◇◆◇
ep.果て無きパラレル・マトリクス
03
続く
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