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第03話 驚愕のステータス

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 入学式から三ヶ月。学校に真面目に通い、石動教官の指導の下、訓練や勉強を重ね、初めてのE5ダンジョン。通称チュートリアルダンジョンへとやってきたまではいい。このダンジョンの1Fにはスライムがいて、そいつを倒せばステータスが手に入る、手に入った。そこまでもいい。

(このステータスはあんまりじゃないか? バグか?)

 だが、手に入ったステータスは平均を大きく下回るもの。どころではない、もしかしたら世界ワースト記録と言っていいものだ。

「よし、全員スライムを倒したな。ステータスをもらっていない者はいるか? いないな。よし、帰還だ。次のグループ。行くぞ!」

 その場でステータスを確認していた俺たちに石動教官から声が掛かる。パーティの上限は六人のため、教官が五人ずつを引率してチュートリアルダンジョンを往復している最中なのだ。俺たちは一度帰還し、ダンジョンゲートを囲うように作られている待機所で待つことになる。待機しているクラスメイトたちは教官のいないことを良いことにステータスの披露大会を始めていた。

(いや、マジでどうすんだよ、これ……)

 そんな中俺はもしかしたら直ってるんじゃないかとステータスを何度も開いては閉じて、結局変わらないステータスにどうしたものかと、頭を悩ませていた。

「ふぅ。お疲れ、辰巳どしたん? 顔色おかしいぞ? あ、分かった。さてはお前ステータスぶっ飛んでたな?」

 今しがた一緒になってスライムを倒してきたグループの一人は陽太だった。その陽太の言葉に俺の顔は引きつる。ぶっ飛んでいた? あぁ、確かにぶっ飛んでいたな。

「……陽太はどうなんだ?」

 陽太もステータス披露会をしようというわけだ。当然の流れだろう。しかし、ひとまず落ち着くためにも俺は先に陽太のステータスを聞いた。

「ん? 俺か。自分で言うのもなんだが、すげーぞ? ステータスオープン。まぁ、こんな感じ」

 ステータスオープンという言葉と同時にタブレットのような画面が何もない空間に浮かび上がる。通称ステータスボードと呼ばれるそこに映っていたのは──。

<名前> 三枝 陽太

<Lv> 1

<ステータス>
HP:580 
MP:160 
STR:224 
VIT:190 
DEX:232 
AGI:340 
INT:176 
MND:120 
LUK:24

<装備>
右手:なし 
左手:なし 
頭:なし 
上半身:なし 
下半身:なし 
靴:なし 
アクセサリー:なし

<ジョブスキル> 槍術士lv5

<アクティブスキル> トリプルスパイクLv5

<パッシブスキル> 【STR成長補正Lv1】【AGI成長補正Lv2】

<特殊スキル> 【槍の心得★】【風の恩恵★】【アイテムボックス(仮)】

<スキルポイント> 0

<称号> なし

「スゴイな……。ジョブスキルに特殊スキルまで……」

 凄まじいステータスだ。最初からジョブスキルを持っていて、且つそのレベルも五。特殊スキルが二つ付くのもヤバい。それに各ステータスも平均の二~三倍。まさに化け物だ。

「とか言って辰巳の方が上だろ? この三ヶ月身体能力や運動神経、戦いのセンスで俺が勝ち越せないなって思ったの辰巳だけだもん」

 これは何も嫌味でも謙遜でもない。陽太という人間はきちんと他者と自己を分析し、評価しているだけだ。

「……と、思うじゃん?」

 そして俺も正直に言えば、自分のステータスにはかなり期待をしていた。ステータスを貰う前の身体機能は初期ステータスに大きく影響があるし、石動教官からも厳しい言葉と同時に期待しているという言葉も貰っていたからだ。

「うん、思うよ?」

「見たい?」

「もち」

 グッと親指を立てる陽太。俺は数秒迷い、どうせ隠していてもバレることだ、と諦めステータスボードを開く。

「……え。……マジ?」

 陽太の顔が見たことのない顔になる。恐らく俺も逆の立場だったらすごい顔になっていただろう。

「……あぁ、マジだ」

「…………スキルゼロはまぁ、全然いるけどステータスヤバない?」

「ヤバい。俺も自分自身に引いてる。でもよく見ろ。特殊スキル欄を」

 スキルゼロという言葉は訂正してもらおう。俺にとっては唯一残された希望がこの特殊スキル欄の【レベル転生★】なのだから。

「ん? 【アイテムボックス(仮)】か? いや、これは全員が持ってるスキルだがカウントするのはどうかと……」

「いや違う違う。これだよ、これ」

「ん? んん??? 辰巳、何を言ってるんだ? 特殊スキル欄には【アイテムボックス(仮)】しかないぞ?」

「はぁ?」

 どうやら陽太は冗談を言ってるようではないみたいだ。俺はもう一度スキルボードを見る。【レベル転生★】は見間違えじゃないし、突然消えてなくなったわけでもなかった。だが、よく見れば【アイテムボックス(仮)】は白なのに、【レベル転生★】は色が薄く灰色になっている。そこを軽くタップしてみる。

「…………ふむ」

 謎は解けた。そこに書いてあった説明文はこうだ。【レベル転生★】:レベル100から使用可能。スキルボードにおいて本人のみ視認可能。

「おーい、辰巳。どうした?」

「いや、謎は解けた。実は俺の特殊スキルに────」

 と、そこまで言葉は出たが、そこからは口をパクパクと動かせども音が出ない。スキル名が口にできないのだ。

「……おい、どした辰巳? マジでスライムでも食っちまった?」

「……ちげぇよ」

 どうしたものかと考える。他者に視認できない。口にすることもできない。それはつまり魔王の定めたルールなわけだ。
 
「……いや、まぁいい。俺はつまり落ちこぼれなわけだ。それも恐らく歴代ぶっちぎりで。はぁ、どうしよ」

 俺はとりあえずそれに従い【レベル転生★】を必死にアピールするのはやめた。どうせレベル100まで使えないし。ここで変に意固地になって嘘つき呼ばわりされるのもイヤだし。

「だな。ハハハ、いや、本当申し訳ないんだが、ここまで来ると何て言っていいか分かんねぇな」

「ッフ。いや、俺も同じ気持ちだ。いっそ、ここまで来ると特別なんじゃないかと思えてくる。『逆に』ってヤツだ」

 陽太につられて俺も笑ってしまう。

「でも教官は何て言うかね」

「……それなんだよな。少し、どころじゃなく滅茶苦茶ビビっている」

 俺と陽太の顔が引き攣る。この令和のご時世にバリバリの体罰上等、鬼教官だからな。

「よーし、八グループ目まで終わったな。では、学校に戻る前にきちんとステータスが取得できてるか、確認する。全員ステータスボードを開け」

 そんなことを考えていたら教官が最後のグループを連れてゲートから戻ってきた。

「健闘を祈る」

「あぁ」

 陽太は気休め程度にそう言うと、くるりと前を向いて座る。俺は無表情でステータスボードを開いて、審判の時を待つこととなった。

「よし、よし、よし」

 教官は電子タブレットの名簿にチェックをしながらクラスメイトたちのステータスボードに目を通していく。次は陽太の番だ。

「よし」

 それまで表情が変わらなかった教官の顔が僅かに変わる。陽太の初期ステータスはそれほど、ということだ。そして俺の番。

「……っ!? ……よし」

 陽太越えを成したようだ。教官が戸惑う顔を初めて見たかも知れない。そして当然、この日の終わりには──。

「獅堂は後で俺のとこへ来るように」

「はい」

 呼び出しを食らったのであった。
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