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なにこの世界最高です

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 かつて、我々の住む世界では新型のウイルスが猛威を振るっていた。多くの死亡者を出したものの、苦難の末ワクチンの開発に成功し、人類は新型ウイルスを滅ぼしたのだ。
 しかし、新型ウイルスは完全に絶滅はしていなかった! 実は異世界で猛威を振るっている最中だったのだ! 原因は異世界転移者の一人がたまたま新型ウイルス感染者だったからである。新型ウイルスは異世界でその形態を大幅に変えた。症状としては女性がかかった場合、100%死に至るものとなる! 一方、成人の男性がかかった場合だと症状はないが、成人に至ってない少年がかかると永久に少年の体のままとなるのだ! さらにこのウイルスの研究がすすみ、異世界の人類絶滅に拍車をかけない事実が分かったのだ! それについてはおいおい説明していこう!
 そんな状況を打破しようと異世界と我々の住む世界の役場で連携をはじめたのであった。



 私は富場 詩代ふじょう しよ、生まれてから彼氏もいない、男性経験もないまま今年でめでたく30歳となった。別に男性に全く興味がないというわけではないが、生活において仕事と腐女子としての趣味の時間を優先した結果こうなった。まあ、二次元にたくさん私好みの男がいるし、ぼっちでも十分だ。
 今日は役場の方から急遽呼び出しを受けた。いかないと罰金刑となるらしく、会社の上司にねちねち嫌味を言われた後に休暇を許可して貰い、向かったのだ。私が役場で、郵便で届いたはがきを見せると、地下の方へと案内された。なんか、すごく怪しい感じがするな。
 案内された部屋には『少子高齢化対策課』なる看板がはりつけてある。私がドアを開けると、この世ならざる空間が広がっていた。後ろをふりむくと、私が入ったドアはない。なにここ? すごく怪しいんですけど!?

「もうあなたは現世へは帰れません」

 黒装束で顔を隠した女性が目の前にいた。

「あの、たちの悪いどっきりですか?」

「いいえ、だましなしの現実です。あなたはこの世界において必要価値のない存在とみなされました」

「……見ず知らずの人にそこまで言われる筋合いはないんだけな……」

「はっきり言いましょう。あなたが30年間喪女だったからです」

「ちょっと待てい! それだけで必要価値のないものと見なされるのかよ!! 喪女にも人間の価値を認めろよ!! 温厚な私でもキレるぞ!!」

「いや、もうキレているのですが……それにあなたに人間の価値があることを認めません。ですので、子孫繁栄活動に非積極的な女性にはこの世からご退場を頂いているのです」

「……それって私に死ねっていっているんですか? ぶち殺されたいのですか?」

「いいえ、ご退場というのは別の世界、いわゆる異世界に行って貰うということなのです」

「……まじ? 頭大丈夫?」

「失礼な、まじですよ。ただし、あなたが異世界でも子孫繁栄活動に非積極的な場合、完全にこの世から存在が消えます」

「……いやいや待て待て! 私には会社も親もいるんですよ! 私がいなくなったら色々と問題ありでしょ!」

「大丈夫です。『住民課』のほうでこの世界のプログラムを少しいじくり、あなたの存在をなかったことにしますので、では早速」

「おい! ちょっ」

 瞬時に私の目の前の光景が変わった。風景が主に緑色メインの自然いっぱいのもとなった。目の前には私の名前の看板つきの家がある。


「……展開早すぎるでしょ……こういうのってもっと溜めるものでしょ……ほら、いわゆる転生特典とかあるし、なろう系とかいうやつだっけ? なんであれみたいな感じにならないのよ……、もうこれから先どうすればいいやら……」

ピコン ピコン

 いつの間にか私はレーダーを持っていたようだ。そのレーダーは目の前の家を示している。

「これって〇ラゴンボールレーダーみたいなもの? もしかして星が四つ描かれた球とかあったりして」

 私はとりあえず家の中に入ることにした。

「あっ」

 家の中に入るとめちゃんこ可愛い男の子がいて驚いた。栗色の髪の毛で身長は120cmほどか。

「あっ、すみません、家を間違えました。驚かせてごめんね坊や」

「お、おねえさんは詩代さんという方ですか?」

 えっ、私の名前を知っているだと!? あっ、看板あるから分かるわな。

「えぇ、詩代って名前よ」

「今日からお世話になります。レイン・スカーと申します。子作りについて指導をお願いします」

「はいはい、よろしくね坊や……おい、今なんと言った?」

「……子作りの指導です」

 待て待て待て、これっていわゆるおねショタ展開!? いや、断じてそれはならない。私が警察に捕まってしまう!!

「あ~~、子作りってどういうことだか分かるかな坊や?」

「え~~と、男の同士でセックスというのをすればできるということは分かります」

 おい、この世界の性教育はどうなってんだ?

「坊や、ここの世界の常識は私のいた世界とは違うのかな? 私の世界では女性と男性が子作りをして赤ちゃんができるの。まさか本当に男の子同士でセックスして赤ちゃんができるっていうの?」

「そうです」

 そうですときたか、何から聞けばいいのやら……。

「……そうだ、私はこの世界に来たばかりで何が何だかさっぱりの状態なの。この世界のことを簡単に説明して貰えないかな?」

「分かりました。まずあなたがこことは別の世界から転移したということはあらかじめ聞いております。そしてそういう方にはここが異世界といえば説明は簡単にすむと言われています」

「……ちなみに君にそう説明したのは誰かな?」

「名前は聞かなかったですが、役場の方ですね。黒装束を被ってよくわからなかったですが……」

 私を異世界へよこしたあのクソ女か……。

「分かったわ、説明を続けてちょうだい」

「分かりました。そもそもあなたがここへ連れてこられた理由はこの世界で人類が滅亡の危機に直面しているからです」

「え? それってもしかして、魔王がこの世界を滅ぼさんとしているからとかドラク〇的な話ですか?」

「不思議ですね、あなたのような転移者の大半がこのような説明をされるとそういう誤解をするんですよなぜか」

 いや、異世界だから魔王とかいるもんだと思うし、ね?

「ちなみに魔王なる存在は既にこの世から亡くなっています。原因はこの世界に転移してきた方が持ってきた新型のウイルスです」

 はぁ!? まさか〇〇〇ウイルス!! まさか異世界にまで迷惑をかけておまけに魔王まで滅ぼしただと!? まじっぱねえな〇〇〇ウイルス……。

「このウイルスに感染すると、女性の場合肺がまともに動かなくなり、ほぼ100%死に至る恐ろしいウイルスです。僕もここ数ヶ月生きている女性を見ることがなかったです。」

「多分そのウイルスは私のいた世界でも流行っていたやつだよ! 既にワクチンは開発されているし、誰かこの世界に持ってくればいいんだがけどね……もしかして君も既に感染したことがあるの?」

「はい、感染しています。僕だけでなく、この世界の住人の大半が感染しています」

(まじやばたにえん!? 異世界終わっているじゃん! おのれクソ公務員め、よくもこんな終わった世界によこしやがったな!)

「私は今すぐ元の世界に帰る!! つうか私も感染したら死ぬじゃん!! こんな世界にいられるかぁ!!」

「待って下さい!! あなたはこの世界の救世主になれるのです!!」

「きゅ、救世主?」

「そうです! 新型のウイルスは成人男性から命こそ奪いませんが、肉体に重度のダメージを与え、さらには生殖機能を奪い、命の種を出せなくなるのです! しかしあなたは産まれてから長年生殖活動を行わずに、生殖活動力を極限まで高めたお方! 新型ウイルスの影響を受けない守りの力に長けた人物なのです!! さらにはあなたにしかつかえない少年を探す機能を持ったショタレーダーもあるはずです!」

 守りの力云云も気になるが、それよりあのレーダー!! あれってそういう機能あったの!? やっほう、私の大好物のショタを探せるってことじゃん!!

「さらに少年がこの新型ウイルスに感染した場合、永久に成長せずに子供の姿のままとなります。そして、子供を産めるようになります……」

「なん……だと!?」

「だから、多くの女性が新型ウイルスに感染して亡くなった今、僕のような子供しか子供を産むことができないのです」

 〇〇〇ウイルス凄いことするじゃん、つうか絶対このウイルス性癖のやべーショタコンだろ!

「本当なら凄いんだけど……信じがたい話だなぁ」

「本当なんです! 研究者が新型ウイルスは元々の形態から変化したことを突き止め、結果的に僕みたいな赤ちゃんを産める少年が増えてしまったのです! この世界を救うためにはあなたには僕のような少年を探し、子作りの仕方を伝授していただきたいのです!」

 なんとなくこの世界の目的が分かってきたぞ。あの役場が私をこの世界に送り込んだのは少子高齢化対策の一環として、私が少年達に子作りをさせる、そういうことをしろってことなんだな。

「ありがとう、この世界で私のやるべき目的が分かったわ。まずは君のパートナーを探せば良いのね?」

「はい、お願いします」

 こうして私とレイン・スカー君の旅は始まった。
 ここから私のストーリーが描かれていくんだ!!
 そしてしばらく歩いて気付いた。

「……ところで魔物とかお外でもちろんでるよね?」

「はい、出ます」

「君は闘える?」

「戦力にならないと考えて下さい」

「……詰んでね?」

「???」

「こんな状態でお外に出ても私も君も死にます! 今すぐお家に帰りましょ!!」

「グルルルル!!」

 あれ、でっかい狼の魔物が現れた!? 青と白パーティーカラーで名前はフェンリルってやつだよね!! 明らかに素手で闘える相手じゃねえよ!!

「ひぃっ!!」

 レイン・スカー君が危ない!! 私なんかはすぐに死んでもいいけど、こんな可愛い男の子は長く生きて皆の目の保養になるべきだわ!! レイン・スカー君をくるむように抱きつき、私は背中でフェンリルの牙をまともにくらう覚悟を決めた。

パキン

 な、何が起こったの? 私には痛みがない。逆にフェンリルの牙が砕けてしまった。

「守護の力です。あなたにはいかなる攻撃もダメージとして通らず、カウンターとして相手にかえるのです」

 なにそのチート!? 痛い思いしたくない私にうってつけやん!!
 またフェンリルが襲いかかり、今度は爪ではたこうとするが、逆にフェンリルが私の付近ではたかれたように吹き飛ばされた。やがてフェンリルも私達を狙うのを諦めて逃げ出した。
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