Knight of Ace

赤城 奏

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第一章 切り札の異変

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  ある森の中でなにか音が響いていた。音のするほうでは緑の怪物ージョーカー五体を相手に剣を持った青年五人が戦っていた。だが、彼らはジョーカーに苦戦していた。
  彼らは王国騎士と呼ばれる者達だが、彼らの状況は良くなかった。ジョーカーに押され、あと少しでも進行されれば、忽ち町を襲われてしまう。
  そんな状況を覆すカードが投げ込まれた。
「ストレート」
  そんな声が聞こえてきたと同時に、一人の青年がジョーカーの前に躍り出た。彼の持っている剣は青い光を纏っていた。そして、彼は5体もいたジョーカーを剣の一振りで倒してしまった。
「大丈夫か。」
  剣を納めた彼は後ろを振り返り声をかけた。
「はい。お助けいただき、ありがとうございました。ミツルギ様」
  ミツルギと呼ばれた青年は辺りを軽く見回した。
「もうジョーカーはいない、撤退するぞ。」
「はい。」
  ミツルギを先頭に彼らは自分たちの国へ帰っていった。
  彼らの左袖にはスペードの紋章があった。

  この世界には四つの国がある。
  ダイヤの紋章を持つ北にある国・ディアマンテ
  ハートの紋章を持つ南にある国・スピリット
  クラブの紋章を持つ西にある国・クラーバ
  スペードの紋章を持つ東にある国・ミチュ
  これらの国を四大王国と言う。
  そして、四つの国を跨いで存在している森がある。名前を“切り札の森”と言い、そこにはジョーカーと呼ばれる怪物が存在している。
  ジョーカーは闘争本能が高く、時折、町を襲ってくる。そのため、王国騎士と呼ばれる者達が十三人存在しており、脅威から守っているのだ。

     *

  国に戻ったミツルギ達は中央にある城へ向かった。
  この城はこの国を治める王のものであり、騎士達の本拠地でもある。 城に着いたミツルギは他の騎士達を帰らせ、上の者に今回のことについて報告に行くところだった。
  そんな彼へ声を掛けてくる者がいた。
「よっ、お疲れさん。」
「オウガか、帰っていたのか。」
  オウガと呼ばれた青年は寄りかかっていた壁から離れてミツルギに近づいてきた。
「あぁ、お前達が帰ってくる少し前にな。」
「そうか。」
  二人は話しながら、歩を進めていった。
「お前の方はどうだったんだ?」
ビショップが五体だ。」
「成程。俺の方はポーン八体と象二体の計十体だ。いや~、疲れた~。」
  オウガは肩を竦め、おどけたようにそう言った。だが、その表情は本当に疲れているようだった。
Kキングの称号を持つお前がその程度で疲れるものなのか。」
  そんなオウガに対してミツルギは静かにそう言った。
「言ってくれるな、お前だって最強のAエース様だろう。」
  オウガもミツルギに対抗してそう言った。
  二人の言ったAとKと言うのは二人が持つ王国騎士としての称号だ。
  王国騎士にはそれぞれ十三の称号がある。上級騎士と呼ばれるA・K・QクイーンJジャック・10と下級騎士と呼ばれる9・8・7・6・5・4・3・2だ。
  そしてミツルギは最強と謳われるAであり、オウガもAに次ぐKである。
  そんな二人はある部屋の前で足を止めた。オウガが扉を叩くと中から返事が聞こえた。二人は失礼します。と言って中へ入っていった。
  中には髭を生やし、騎士の制服を着た中年の男性がいた。彼は王国騎士の総司令官である。
「さて、それぞれ報告してもらえるかな。」
  彼がそう言うと、オウガが一歩前へ出た。
「ミチュ王国から南に二キロ先の森でジョーカー十体を確認。内兵が八体、象が二体で、いずれも凶暴性が以前よりも強くなっていました。」
  オウガが言い終わると入れ替わるようにミツルギが前に出た。
「同じく西に一キロ先の森でジョーカー五体を確認。いずれも象で、こちらの方も凶暴性が増していました。」
  言い終わるとミツルギも後ろへ下がった。
「ふむ、やはりどちらもジョーカーの凶暴性が増していた、か。」
「はい。今のところ兵だけなら下級騎士でも大丈夫ですが、それでも象や城(ルーク)までもとなると上級騎士がついた方がよろしいかと。」
  そう言った総司令官にオウガが現状を踏まえて言った。何も言わなかったが、ミツルギも同意見だった。
「分かった。これからはジョーカー討伐の際、下級騎士とともに上級騎士もついてくれ。誰がどうつくのかはお前達で決めてくれて構わない。」
「分かりました。失礼します。」
  二人は礼をして部屋を出た。廊下に出た二人は話しながら歩き出した。
「やっぱ怖ぇなあの人。それにしても、最近のジョーカーの異変は一体なんなんだ?天変地異の前触れか何かか?」
「さぁな。」
  オウガが色々言う中、ミツルギは静かに聞いていて、時々相槌を打っていた。
「そういや、お前今日非番なんだっけ?」
「あぁ。」
「いいよな~、俺なんか仕事が後三つもあんのに。」
「そうか。」
  オウガは頭の後ろで手を組み、気だるそうに天井を見上げた。それにミツルギは苦笑を零した。
  そんな話をしていると、自分たちの部屋の前についた。
「そんじゃ、お疲れさん。」
「あぁ、報告頼んだぞ。」
「任せとけって。」
  そう言い、二人はそれぞれ自室へ入っていった。
  ミツルギは部屋に入ると、机の上に置いてあった手紙を開いた。数分して読み終えると、手紙を仕舞い、剣を持って部屋を出ていった。

     *

  部屋を出たミツルギは西に向かった。彼はそのまま国を出て森に入っていった。そして、森の中央に着くと足を止めた。
  そこには石で出来た大きな神殿があった。だが、そこには誰もおらず、寂れていた。
  ミツルギは誰かを探すように辺りを見回した。
「そっちじゃなくてこっちだよ。」
  そんな彼の後ろから声が掛けられた。振り返ると、そこには三人の男女がいた。
「悪い、遅れた。」
  ミツルギは彼らにそう言った。
  彼らはミツルギの方へ寄ってきた。
「いや、私達も先程ついたばかりだ。気に病む必要は無い。」
  そう返したのは、三人の中で唯一の女性だ。彼女の右肩にはハートの紋章があった。
「そうですよ。それに、僕達があそこに居たのも、元々はこの人の提案なんですから。」
  彼女に続いて言ったのは、三人の中で一番若い少年だ。彼の服の胸元にはクラブの紋章があった。「その言い方酷いなぁ。二人とも僕の案に乗ったんだから同罪でしょ。」
  おどけたようにそう言ったのは片手に本を持った青年だ。彼のズボンにはダイヤの紋章があった。
「そうか。」
  三人の言葉を聞いて、ミツルギは少し微笑んだ。
「そうそ。それに、もしここにジョーカーが来たとしてもAである僕等が負けるわけないでしょ。」 
  ダイヤの青年はそう言った。それに誰も異を唱えなかった。
  彼らはそれぞれの国でAの称号を持つ王国騎士なのである。そんな彼らが敵対するわけでもなく、仲良く談笑している様はそれぞれの国からすれば異様としか言えなかった。だが、彼らにとってはこれが当たり前だった。
「そう言えば、最近のジョーカーの行動について、皆さんの方ではどうなっているんですか?」
  クラブの少年ーハヅキがそう聞いてきた。三人とも顔が険しくなった。
「私の方では象と城の出現率が増えている。それに、一度に現れる数も以前よりも増えている。」  
  ハートの女性ーシンラはそう答えた。
「僕の方も似たような感じかな。増えたのは兵だけだけど強さが象並にまで上がってる。」
  ダイヤの青年ーザクロも肩を竦めてそう言った。
「僕のところも同じです。出現率は変わりないのですが、強さが異常で。兵でも城並のものまで出ていて。」
  ハヅキも困ったように少し俯きながらそう言った。
「やはりか。」
  三人の話を聞いてミツルギはそう呟いた。
「そっちはどうなのよ。」
  ザクロがミツルギに問いかけた。ミツルギもその言葉に顔を上げた。
「俺の方も同じだ。兵と象の出現率が増えて、異常に強くなってる。」
  四人は俯いて考え込んだ。
  兵や象、城と言うのはジョーカーの種類のことだ。ジョーカーはそれぞれ五種類いる。
  灰色で最弱の兵
  緑色の象
  紫色のルーク
  赤色で二番手のクイーン
  青色で最強のキング
  この中で下級騎士が倒すことが可能なのは城までだ。そんな中、ジョーカーが異常に強くなってきているのだ。
「一体、何が起こっているんでしょうか?」
  ハヅキが心配そうに言った。
「分からない。だが、何かが起ころうとしているのかもしれない。」
  シンラはそう返した。
  他の二人も彼女と同じことを考えており、顔を顰めていた。
  パンッ
「そんな暗い話はやめにして、アレの特訓しようよ。」
  手を叩き、そう言ったのはザクロだった。その言葉に三人も張り詰めていた気を緩めた。
「そうですね。」
  ハヅキは少しだけ微笑み、そう言った。
「確かにな。」
  シンラも女性らしい笑みを浮かべていた。
「そうだな。ならば俺も、出来る限りアレを教えよう。」
  ミツルギも肩の力を抜いて微笑み、言った。それを聞いて、三人の目に強い光が宿った。
「今日こそアレを習得してみせる。」
  シンラは好戦的に
「ま、僕らがアレを習得するには君の知識が必要不可欠だからね。当然でしょ。」
  ザクロは挑発的に
「よろしくお願いします、ミツルギさん。」
  ハヅキは元気よく、言った。
「あぁ。」
  四人は森の奥で数時間、ある技の特訓をした後、それぞれの国へ帰っていった。

     *

  国へ戻ったミツルギは不審に思われないように城へ戻り、自室で本を読んでいた。
  そんな彼の部屋へ訪ねてくる者がいた。
  コンコン ガチャッ
「ミツルギさん、総司令官が呼んでいます。」
  訪ねてきたのは下級騎士の一人だった。彼は総司令官の招集命令をミツルギに伝えに来たのだ。「分かった。」
  ミツルギは本を置き、側においてあった剣を持って部屋を出た。
  総司令官の部屋に着くと、扉を叩き中へ入った。そこには総司令官以外にも、上級騎士であるJのツカサとQのミコトがいた。ミツルギは彼らの横に並んだ。
「ふむ、揃ったか。先程北東に二キロ先の森の中でジョーカー・后が三体発見された。街に到達する前に早急に対処せよ。」
『了解。』
  総司令官の言葉を聞き、三人は部屋を出ていった。

  外に出た三人は馬に乗り北東に向かった。
  しばらくすると、ジョーカーの姿が確認出来た。
「ジョーカーをそれぞれ引き離す。」
「分かりました。」
「は、はい。」
  丁寧に返したのはミコトの方だ。逆に怖々返し、馬の上で縮こまっているのはツカサだ。
  ミツルギはそんな二人の返事を聞くと、左側のジョーカーに向かっていった。彼はその一体を自身の剣で引き離した。他の二人もそれぞれジョーカーを引き離していった。
  ミツルギは馬から降りると、自分の前にいるジョーカーを見た。
(今のところ変わったところはないか。)
  静かにジョーカーの観察をしていると、向こうの方から襲い掛かってきた。ミツルギはそれをいなし、切りつけた。
『グオオオォォ』
  ジョーカーは数歩後退したが、また襲い掛かってきた。
(やはり、変わったところはないか。ならば、)
「フォア・カード」
  ミツルギは右足を引いて腰を落とし、剣を顔の右横に水平に構えた。その剣は紫色の光を纏っていた。
  彼は走り出し、構えていた剣でジョーカーの胴を斬った。ジョーカーは真っ二つにされ、紫色の光を纏って消滅した。
  剣を納めたミツルギは辺りを見回した。
(ミコトの方は大丈夫そうだな。だが、)
  ツカサの方を見たミツルギは顔を顰め、そちらの方へ向かった。

  同じ頃、Qであるミコトもジョーカーの様子を伺っていた。
(やはり変わったことはありませんか。Aであるミツルギならばすぐに片が付くでしょう。)
  ミコトはジョーカーからの攻撃を避け、後ろに下がった。
『グオオオォォ』
  そんな彼を追うようにジョーカーが突進してきた。だが、ミコトはそれに構わず、姿勢を正し剣を正面に構えた。
「フルハウス」
  彼が構えた剣は紫色の光を纏った。そして、突進してきたジョーカーに向かって剣を突き出した。ジョーカーは串刺しにされ、紫色の光を纏って消滅した。
「少し時間が掛かってしまいましたか。ツカサの方へはミツルギが向かったはずです。合流するとしますか。」
  ミコトも遅れてツカサの方へ向かった。

  その頃、Jであるツカサはジョーカー相手に苦戦していた。
「クソッ、何なんだよコイツ!后のクセになんでこんなに強いんだよっ!」
  さっきまでのオドオドしていた様子はなく、逆に荒々しく剣をふるっていた。彼は剣を持つと性格が変わるようだ。
  そんな彼は体に傷を負っていたが、全てかすり傷のようだった。だが、ジョーカーの攻撃に防戦一方で攻めることが出来ないでいた。
「伏せろ。」
  後ろから聞こえた声に反応して屈むと、頭上を剣が過ぎていった。後ろからの攻撃を受けたジョーカーは後退していった。
「大丈夫か。」
  ツカサの横から声が掛かってきた。見るとそこにはミツルギがいた。先程の剣はミツルギのものだった。彼は自分の相手をしていたジョーカーを倒すと、苦戦していたツカサの方へ駆けつけたのだ。
「はい。でもアイツの攻撃力が尋常じゃなくて、」
  ツカサは悔しそうに顔を歪めた。そんな彼を見たミツルギはジョーカーの方を向き、言った。
「俺がアイツの攻撃を防ぐ。その隙にお前が決めろ。」
  ツカサは勢い良く顔を上げた。その瞳には強い光を宿していた。
「いくぞ。」
「はい。」
  そう言って、ミツルギはジョーカーに向かっていった。彼はA(エース)の称号を持つ者に相応しい実力を持って、ジョーカーの攻撃を一度も浴びることなく、相手を少しずつ押していった。
  その間に体勢を立て直したツカサは剣を正面に構えた。
「フルハウス」
  構えた剣は紫色の光を纏った。そして、ミツルギがジョーカーの攻撃を弾き、下がるのと同時にツカサが前へ出た。
「はああぁ」
  ツカサは右上から斜めに剣を振るった。斬られたジョーカーは紫色の光を纏って消滅した。

     *

  剣を納めたツカサは膝に手をついて息を荒らげていた。
  そんな彼へ伸ばされた手があった。
  顔を上げるとそこにはミツルギがいつもの無表情で手を伸ばしていた。ツカサは彼の手を取り、上体を起こした。
  そこへ、ミコトも合流してきた。
「そちらの方も終わりましたか。」
「あぁ。」
「は、はい。」
  ミツルギは頷き、ツカサはさっきまでとは違って怖々と返した。
「ジョーカー討伐終了。帰還するぞ。」
『はい。』
  三人はそれぞれの馬に乗り、城へ戻っていった。
  そんな中、ミツルギは一人考えていた。
(さっきのジョーカー、后だったはずなのに何故群れて行動していたのか。それに、三体いたはずなのに、何故一体だけが凶暴性が増していたんだ。)
  彼は先程のジョーカー達のことを考えていた。そして、これからのことに思いを馳せていた。
(またすぐに集まることになりそうだ。)
  ミツルギはふと空を見上げた。空は曇ってどんよりとしていた。
  まるで、これから起こることを暗示しているかのように。
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