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第十章 最後の決戦
しおりを挟むそれは唐突に始まった。月が登ると同時に徐々に赤くなっていく。そして、月が完全に登りきった時全てが赤く染まった。
森からはジョーカーの叫びが絶え間なく上がる。ジョーカーは今までのものと同じ、いやそれ以上に禍々しい姿に変異していく。それは森の中央から起こり始め、少しずつ森全体へ広がっていった。
そして、月食のエネルギーに当てられたジョーカー達は森の外へ進んでいった。
*
それぞれの王国では下級騎士達が森の入り口でジョーカーを迎え撃っていた。準備の甲斐あり、下級騎士達でも変異したジョーカーを一・二体ならばなんとか倒せていた。
その間、ミツルギ達が森の中でジョーカーを倒していた。森の入り口付近では兵・象・城までのジョーカーが出現していたため、変異していても一人もしくは二人で倒せていた。そしてあらかた倒しきると、少しずつ森の中央へ向かっていった。
「はっ、くぅ、やぁ。」
城を相手に戦っているミツルは少し押され気味になっていた。だが、隙をついて足を払い、ジョーカーを横転させた。
「いまだ、フラッシュ。」
好機と見たミツルは素早く利き足を下げて剣を斜め下に構えた。剣は青色の光を纏った。ミツルは剣をしたから振り上げ青い斬撃を飛ばした。斬撃を受けたジョーカーは青色の光に包まれて消滅した。
なんとかジョーカーを倒しきったミツルは崩れ落ちかけたが、横から腕を掴まれて止められた。
「ミツルギ、さん。」
「大丈夫か。」
腕を掴んだのはミツルギだった。彼らのそばにはすでに他のジョーカーを倒し終えたオウガ達もいた。
ミツルギに腕を引かれて体勢を立て直したミツルは、すぐに礼を言った。それにミツルギは頷くと、オウガ達の方を見た。
「城までここに侵攻してきているとなると、少しまずいな。」
「あぁ。急ごう。これ以上ジョーカーが増える前に神殿まで行くぞ。」
そう言ってミツルギ達は森の中央に向かって駆け出した。途中逸れたのか一・二体だけでいる兵や象を倒しながら、少しずつ森の中を進んでいった。
「やはり、月食の影響で変異しているせいか、いつもより侵攻具合が大きいですね。」
「あぁ。だが、幸いここまで侵攻しているジョーカーは城までだ。后や王はまだ森の奥だろう。」
ミコトの言葉に同意したオウガはミツルギを横目で見た。ミコトもその理由が分かったのか、心配そうにミツルギを見た。彼らの視線を受け、逃れるようにミツルギは顔をそらした。
「使わないさ。少なくとも、お前達が止めるうちは。」
「ぜ、絶対です、から。」
剣を納め、弱気になっているツカサが声を振り絞って言った。それに分かっていると言うようにミツルギは頷いた。
ミツルギ達は月食が起こる二日前にそれぞれの国へ帰った。その時、仲間達からあることを約束させられた。『もしも、それしか方法がない時までは封印は使わない事』だ。
月食の影響を受け変異したジョーカーに役が効かなくなったわけではない。そのため、ミツルギ達を死なせたくはないオウガ達はそのことを約束させた。初めはミツルギ達も反対していたが、説得され渋々受け入れた。
だが、もし使わなければいけない時は迷わず使うと言い、それにはオウガ達も反論できなかった。だがオウガ達も諦めたわけではない。もしその時が来てもミツルギ達を止める気だった。
そして、いつもより長い戦いになりながらも、確実にジョーカーを倒していった。
そして、神殿まであと半分というところを過ぎた頃から、后が出現しだした。ミツルギ達は后をなんとか倒してはいるが、慣れない長期戦に疲れが見え始めていた。
「フォア・カード」
ミツルギは利き足を引いて腰を落とし、剣を顔の横に構えた。剣は紫色の光を纏った。
ミツルギは飛び出すと同時に前方の二体を斬り捨てた。斬られたジョーカーは紫色の光に包まれて消滅した。
「はぁ、はぁ。」
ミツルギは肩で息をしながらも周りを見回した。
その頃にはオウガ達もジョーカーにとどめを刺していた。彼らも肩で息をしており、所々に傷があった。
「大丈夫か。」
そう言って、ミツルギはオウガに手を伸ばした。ミツルギの手を借りて立ち上がったオウガは礼を言ってミツルギを見た。
「サンキュ。…、まだ使うなよ。」
ミツルギは顔をうつむけた。
「だが、」
「俺たちはまだやれる。あと少しで神殿だ。行くぞ。」
反論しようとしたミツルギだが、オウガはそれを遮り、先を促した。 集まっていたミコト達もミツルギに頷いた。それにミツルギも迷いを捨て駆け出した。続くようにオウガ達も駆け出した。
*
神殿まであと少しというところで、そいつは現れた。ジョーカー・王。現れた王には今までのジョーカー達よりも強い威圧感があった。
「くっ、あと少しなのに。」
ジョーカーの攻撃を避けながら苦々しそうにツカサが言った。
「…、あれを使うぞ。」
決断した顔でミツルギが言った。それに嫌々ながらもオウガは了承した。
「仕方ない。ただし、封印はするなよ!」
「あぁ。」
頷くと、ミツルギは飛び出した。鋭い爪が振り下ろされるのを横に飛んで避け、すかさず後ろへ回って背中を斬りつけた。ジョーカーは少し前のめりになったが、腕を振り回しミツルギ達を後退させた。
ギリギリで避けたミツルギだったが、体勢が崩れたそこへジョーカーが腕を振り下ろした。
「フルハウス」
「フラッシュ」
ミツルとツカサが役を使って振り下ろされた腕を止めた。拮抗しているところをオウガとミコトが二人の後ろから剣を突き出した。
『フォア・カード』
紫色の光を纏った剣を受け後ろへ倒れたジョーカーがなんとか状態を起こした先には剣を顔の正面に横に構えるミツルギがいた。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
剣は赤い光を纏った。ミツルギはジョーカーに剣を振り下ろした。斬られたジョーカーは赤い光に包まれ、消滅した。
なんとか倒したミツルギ達はたまらず座り込んだ。
「はぁ、はぁ。」
「はぁ、王一体で、こんなに、手こずるとか。」
「早く、合流しないと、まずいな。」
その言葉に全員が頷き、立ち上がった。彼らは神殿までの道を駆け抜けていった。
神殿に着くと同じように息を切らしたザクロ達がいた。そこにはまだシンラとハヅキ達のとこは来ていなかった。
「大丈夫か。」
息を切らしているザクロにミツルギは近寄った。それでザクロもミツルギたちに気付いた。
「平気平気。そっちこそ大丈夫なの。」
「あぁ。だが、来る途中に王と遭遇した。なんとか倒しはしたが、まずいかもしれない。」
苦々しく言ったミツルギにザクロも同意した。
「確かに。僕たちの方も王に会ったけど、あの強さはやばいね。昔の人が封印するしかなかったってのも分かる気がするよ。」
二人が話していた時、シンラとハヅキ達も合流した。彼らも同じように息を切らしていた。
「大丈夫、お二人さん。」
「あぁ。」
「はい。」
ザクロの問いに頷いた二人の異様な疲れ様に、ミツルギは尋ねた。
「その様子だと、王に会ったか。」
「あぁ。私たちの方はハヅキ達と合流したあとだったが、二体同時でな。少し手こずった。」
「そうか。」
全員の息がそろそろ治まって来る頃、近くの草むらから音がした。全員がそちらに向けて身構えた。そこから現れたのは王が四体だった。
即座にミツルギ達が飛び出した。一体ずつ抑え込んだが、押し切られたミツルギとシンラの抑えていた二体が体勢が崩れた隙に後ろのオウガ達に迫った。
ジョーカーが腕を振り下ろした。反応できたものは腕が振り下ろされる前に離れたが、反応が遅れた者は剣で受け止めた。だが、抑え切ることができずに吹っ飛ばされた。
倒れているものに再度爪を振り下ろそうとするも間に入ったミツルギとシンラに止められた。二人が抑えているところへオウガとコウキが役を使って斬りつけた。
『ストレートフラッシュ』
だがそれもミツルギとシンラを振り切って受け止められた。
『⁉︎』
驚き、動きが止まった二人に、下から腕を振り上げた。吹き飛ばされた二人は後ろにいた数人を巻き込んで倒れた。
「オウガ!」
「コウキ!」
二人を倒したジョーカーは新たに狙いを定めたが、間に入ったミツルギとシンラに遮られた。
『はぁぁ。』
二人に押し返されジョーカーは数歩後退した。その間に態勢を立て直したオウガ達を見たミツルギ達は役を使った。
「やるぞ。」
『あぁ。』
ミツルギ達とともに離れたところで他の二体と戦っていたザクロとハヅキも同時に剣を構えた。それに仲間達は封印を使うやもと思い止めようとした。
「!待て。」
『ロイヤルストレートフラッシュ』
仲間の生死を聞かず、四人は役を使った。剣は赤色の光を纏った。四人はそれぞれジョーカーに向かって飛びかかった。
ミツルギの剣が胴を斬り、シンラの剣が上から振り下ろされた。ザクロとハヅキは同時に下から斬り上げた。
四人に切られたジョーカー達は赤色の光を纏って消滅した。
肩の力を抜いた四人に仲間達は封印を使わなかったことに安堵した。だが、すぐに剣を構えることになった。
新たに現れた大量のジョーカーは彼らの周りを囲む様に出現した。
オウガ達とともに背中合わせの状態になった彼らは、大量のジョーカーを相手に乱戦になった。
*
次々と出現するジョーカー達を倒していくミツルギ達。
「クソッ、数が多すぎる。」
悪態を吐くトウヤだが、左のジョーカーを二体斬り捨てた。だが、新たに三方向から同時に向かって来たジョーカーの攻撃を避け損ね、腕に傷を負ってしまった。
「ぐぁ。」
膝をついたトウヤに追撃しようと腕を振り上げたところへ横からアキノリが割り込みジョーカーを斬り倒した。
「大丈夫かよ。」
「あぁ。」
立ち上がったトウヤと背中合わせになり、新たなジョーカーを倒していく。倒していく中で、アキノリはハヅキを見つけようと辺りへ目をやる。
「ハヅキ達まだ封印しようとしてねえよな。」
「あぁ。まだ使ってはいねぇ様だが、いつ使おうとするかは分からん。」
「なら、できるだけ近くにいたほうがいいよな。」
二人はハヅキ達がいつ封印をしようとするかが気になっていた。トウヤはアキノリの意見に同意しながらもどうやって近づこうか迷っていた。
『ストレートフラッシュ』
そこへコウキとマサトが使った役により道ができた。二人はジョーカーを倒しながら彼らに近づいた。
「マサトさん、ハヅキは?」
「ハヅキ達は向こうです。」
マサトが示した先では四人が固まって大量のジョーカーを倒していた。
「うへぇ、すげえな向こう。」
アキノリは四人の強さに驚きを通り越して呆れていた。だが、四人を見たタイコウは目を細めた。
「動きに精彩がない。大量のジョーカーを相手にしすぎて疲れが見え始めている。」
「えぇ。このままではいつ封印を行おうとするか。」
タイコウの言葉に右のジョーカーを倒したマサトが同意した。
大量のジョーカーに囲まれたミツルギ達はいつ封印を行うべきか迷っていた。本当ならばこうなった時すぐにでも封印するつもりだった。
「確かに、こんなに大量のジョーカーを倒すには月食のエネルギーを使わなければいけなかったのも納得だ。」
前方の二体を倒したミツルギに後ろから襲いかかってきたジョーカーを斬り捨てたシンラも同意した。
「あぁ。だが、封印を行えば私たちの体が月食のエネルギーに耐えられず死ぬ。出来るなら、封印を行わずに倒し切りたいのだが。」
背中合わせになる二人の横から襲いかかろうとしたジョーカーが吹き飛んだ。その先にはザクロとハヅキがいた。二人が合流し、四人で背中合わせになった。
「でも、この状況でそれは無理そうじゃない?」
核心をつくザクロの言葉に三人の顔が曇った。
「何か、月食のエネルギーに変わるものがあればいいんですが。」
四人は同時に剣を顔の正面に横に構えた。
『ロイヤルストレートフラッシュ』
四人を中心に半径十m程のジョーカーが吹き飛んだ。ジョーカー達は赤い光に包まれ消滅した。
「…。やるしかないか。」
四人がもう一度剣を構えようとした時、剣を持つ腕を掴まれた。
『‼︎』
腕を掴まれた四人は掴んだ人物を見やった。
「何しようとしてんだ。」
「オウガ。」
ミツルギの腕をオウガが、
「あなたが犠牲になる必要はありません。」
「コウキ。」
シンラの腕をコウキが、
「たくっ、勝手に死のうとしないでくれる。」
「ミカド。」
ザクロの腕をミカドが、
「僕たちと一緒に君も生きてください。」
「マサトさん。」
ハヅキの腕をマサトが、掴んだ。
動きの止まった彼らにジョーカーが襲いかかろうとしたが、ツカサとオウキに受け止められ、他の者達に押し返された。彼らはミツルギ達を守る様にジョーカーと対峙した。
ミコト達がジョーカーを引き受けている間、ミツルギ達はオウガ達の言葉に顔をうつむけた。
「封印しなければ、この大量のジョーカーを倒すことはできない。」
「何故だ。」
「…月食のエネルギー以外に役の第一位をこの森全域に広げられる様なエネルギーがないからだ。」
「方法ならある。」
「ぇ、」
信じられない言葉にミツルギたちは勢いよく顔を上げた。オウガたちには策があった。
「俺たちの役のエネルギーを上乗せすれば、月食のエネルギーを使わなくても森の全域に浄化のエネルギーを広げられる。」
その言葉に、あの時のことを思い出した。あの時もオウガ達の役のエネルギーを取り込んで第一位の威力が上がっていた。
「だが、四人分のエネルギーを上乗せしただけでは、」
「私たちだけではありません。」
シンラが全て言い切る前にコウキが遮った。続く様にジョーカーと戦っているヒロキからも声がかかった。
「僕たち全員のエネルギーを上乗せするんです。そうすれば足りるはずです。」
「俺たちのことも忘れんな。」
そういうマサミヤ達に無茶だと言おうとしたハヅキだが、ミカドが遮った。
「こっちはもう決めてんの。そっちはどうすんの、やるかやらないか。」
迷っていたミツルギ達だが、顔を見合わせ頷きあった。
「分かった。やるぞ。」
そう言ったのにオウガ達は微笑んだ。ジョーカーと戦っていたミコト達も同じ様に笑い、一度ジョーカーを退けて後ろへ下がった。
「全員が自身の使える最上位の役を使うんだ。」
それぞれが剣を構えた。
『フラッシュ』
10の四人の剣が青色の光を纏った。
『フルハウス』
Jの四人の剣が薄い紫色の光を纏った。
『フォア・カード』
Qの四人の剣が濃い紫色の光を纏った。
『ストレートフラッシュ』
Kの四人の剣が薄い赤色の光を纏った。
『ロイヤルストレートフラッシュ』
Aの四人の剣が濃い赤色の光を纏った。
ミツルギ達が剣を振るうのと同時に、オウガ達も剣を振るった。
森全体が白い光に包まれた。
*
あの月食から一ヶ月。ミツルギ達は元気に街を歩いていた。ミツルギが城に戻ると、オウガ達が待ち構えていた。
「もう大丈夫なのかよ、ミツルギ。」
「あぁ。」
「おのとき急に倒れたので、驚きました。」
「すまない。」
ミコトに言葉にミツルギは苦笑した。
森全域に浄化のエネルギーが広がり、森にいたジョーカーは全て消滅した。そして光が収まった時、ミツルギ達は倒れた。オウガ達はそれに慌てたが、疲れて眠っているだけだと知り安堵の息を吐いた。
ミツルギ達はそれから三日間眠り続けた。彼らが起きた時仲間達の安心した顔を見て生きていて良かったと改めて思った。
目が覚めたミツルギ達に後遺症の様なものはなく、オウガ達も喜んだ。
その後、ジョーカーの正体を国に報告したことで、四大王国はまとまっていった。かつての過ちを繰り返さない様、四つの国は手を取り合い平和な世となった。
だが、人の持つ負の感情は消えることはない。それによって生まれる新たなジョーカーを倒すため、ミツルギ達は今日も戦っていた。
「行くぞ。」
『おう!』
空は今日も晴れ渡っていた。
終わり
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大変です!
四章で5つの目に集中された、総司令官の事です。
彼は緊張したのか、いきなり
『昏倒して見る価値はあるか。』
と、ボケをかましています。
昏倒して見る?
ジョーカーの前で死んだふりでもするのでしょうか?
しかも、この一世一代のボケをスルーされても、諦めず更にボケを続けています。彼は。
『善を見回した』
彼は突如として、善と悪を見る能力に目覚めたようです。
端から見るとただの危ない人です。
なるほど、だからミツルギ達もスルーしたんですね?
果たして彼に総司令官としての価値はあるのでしょうか?
逆にこれ程でなければ、総司令官に成れないのでしょうか?
私の妄想が止まりません。
私は彼の大ファンになりました。
長々と本当にスミマセン、この感想は公開されなくて構いません。
失礼いたしましたm(__)m
小説の誤字を教えて下さり、ありがとうございました。
すぐに誤字を訂正させていただきましたのでもう大丈夫だと思います。
確かに『善を見回す』ことができる能力というのはすごく危ない能力です。
それに『昏倒して見る=死んだフリをする』というのをジョーカーの前で行ってもジョーカーは襲ってきます(熊ではありませんので)。
ですがこれほどでなくとも総司令官には成れますので心配ご無用です。そして彼にもちゃんと総司令官としての価値はあります。
大変な妄想をさせてしまい申し訳ございませんでした。
今回は大変お世話になってしまいました。
今後とも同じような誤字をするかもしれませんが、私の作品を楽しんでいただけるようよろしくお願いします。