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第七話 憂いを抱えし赤き炎
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その日、村中が数日ぶりの日の光に歓喜した。村人たちは周りのものと抱き合い、涙を流して喜びを分かち合った。止むことのない歓声の中、影で動く者たちがいた。
「すげぇ歓声だな。森にまで届いてたぞ」
「そりゃそうだろ。ずっと雨だったんだぜ、ここまで喜ぶのも無理ねぇだろ」
「無駄口叩く前に足動かせ。とっとと馬車に戻って休むぞ」
それは戦いを終えたフレム達だった。疲労困憊の彼らは互いに支え合いながらようよう歩いていた。特に大技を使ったサンラはルナンの背中に背負われていた。
漸く馬車に戻ってきた時、フレム達はその場に座り込んでしまった。シデンなどは大の字になって横になっている。
「もう無理。一歩も動きたくねえ」
「同感です。これ以上は流石に無理です」
シデンとグレス、二人の言葉に全員が同意していた。サンラなどは馬車についたことで気が緩んだのか自分を背負っていたルナンに寄りかかって意識を落としていた。
「そうだな。今日はもうこのまま休もう」
フレムの言葉を合図に何とか最後の力を振り絞って自分の寝所へ向かう。サンラは途中までルナンが運び、寝所の前でミゾレに代わる。
全員が布団に入って数秒もせずに眠りに落ちた。
翌日、フレム達はルネの村で始めて演奏を行った。未だ喜びの冷めやらぬ村人達に彼らの演奏会は大好評だった。
「もう一回!もう一回!」
「アンコール!アンコール!」
何度も起こるアンコールにフレム達は応え続けた。久々の演奏ではあったが、始まる前に入念に確認し合った事で一つのミスもなく演奏し切ることができた。
「フレム!」
「あぁ。今日の演奏は、成功だ!」
頷きあったフレム達は村人達に向けて揃って一礼する。村人達の盛大な拍手で今日の演奏は幕を閉じた。
広場にいた村人達がほとんど居なくなった頃にはフレム達も楽器を片付け終えていた。集まったフレム達は今後のことを話し合う。
「さて、この後はどうしましょうか」
「そうだな。昨日までレイクの雨のせいでゆっくりしていられなかったからな。レイクの脅威も無くなったことだし、今日は夕方まで自由行動ってことでいいんじゃないか」
フレムの言葉に一番に喜んだのはサンラだった。
「賛成!久し振りに買い物に行きたかったのよね。そうだ、ミゾレも一緒に行かない?」
「そうですね、私も少し見ておきたいですね」
「なら決まり!」
サンラの言葉にミゾレも笑って頷く。その向こうでシデンが子供のようにはしゃいでいる。
「よっしゃあ、久し振りに遊べるぜ。あー、あそこにも行ってみたいし、この村は食材が豊富だから料理も多いからコンプリートしたいし、もうやりたいことがあり過ぎて選べねぇ!あいてっ!」
「騒ぎ過ぎだ馬鹿。少しは落ち着け」
あまりに騒ぐシデンの頭をルナンは叩いて止める。痛みで頭を抱えて唸るシデンを見て苦笑しか出ないフレムにアースが近寄って来た。それにフレムは首を傾げた。
「ん?どうした、アース」
「今日の馬車の留守番は俺がやる」
その言葉にフレムは驚いた。あまりにも大きな声だったため周りでそれぞれ話していたグレス達も二人に意識を向ける。
「えっ⁈でも、久し振りの村だぞ。お前は村を見て回らなくて良いのか?」
「あぁ。それに、昨日の疲れがまだ響いてるから、今日は休んでいたいんだ」
「分かった。そういう事なら無理強いはしねぇ。留守番頼んだぜ」
アースの本心である言葉に自分達に遠慮しているのではないと分かったフレムは笑顔で馬車の事を頼んだ。周りで二人の話を聞いていたグレス達も安心した笑みを浮かべてアースに「頼む」と言った。
みんなの言葉に頷いたアースを確認したフレムは「解散」と言った。フレムの号令を受けそれぞれ市場の方へ向かい、アースは馬車の中に入った。
だが、フレムだけは道を逸れて村の外へ向かった。
フレムは昨日戦っていた泉の森を歩いていた。ゆったりとした足取りで戦いの跡が残る泉に向かっていく。泉の側で足を止めると、空を睨み、何かを探すように辺りを見回す。
少しの間そうしていると落胆したように肩を落とした。
「やっぱり、もう残ってないか」
呟きを落とした時、フレムの背後から声が掛かった。
「やっぱりここに居たか」
「⁉︎」
勢いよく振り向いた先には木にもたれかかっているシデンがいた。無表情のままフレムを見るシデンの存在にフレムは戸惑いを隠せなかった。
「何で、シデンがここに。お前、市場の方に、行ったんじゃ」
「……」
フレムの問いに何も応えないままシデンはもたれ掛かっていた木から背中を離し、フレムの横まで歩み寄る。
フレムの横まで来ると、先程彼がやっていたように周りを見回すシデン。フレムは何も言えないまま顔を俯ける。
「本当に残ってねぇみてえだな」
「‼︎あっ、その、えっと」
シデンの言葉に肩を跳ねたフレムは何かを言おうとして言葉に詰まる。それでも何とか言葉にしようとするフレムの頭にシデンは手を置いて静止する。
口を噤んだフレムはいつもと違う優しい手付きで頭を撫でられ、気持ちが落ち着いていくのを自覚する。その様子を確認していたシデンは完全に落ち着くまで頭を撫で続けた。
泉の淵に並んで座った二人。フレムはレイクと戦いながら感じていた海神‘‘以外’’の神気についてシデンに包み隠さず、全て話した。時折言葉に詰まっていたが、シデンが何も言う事なく黙って聞いていることで、フレムは安心して全てを話すことができた。
「これで、全部だ」
「…そうか。それはアイツらにも言うのか?」
話が終わり、漸く口を開いたシデンのその言葉に、フレムは戸惑いを見せる。
「そ、れは」
口を噤み、話したくない様子を見せるフレムに、シデンは厳しい言葉を掛ける。
「分かっているだろうが、俺たちの目的は‘‘神を倒すこと’’だ。お前が黙っていても、戦っていればいつかはアイツらにも分かることだぞ」
「分かってる。分かってるけど、でも、俺は、」
声を荒げるフレムは両腕で自身の体を抱き締め、子供の様に震えている。横で見ているシデンはフレムに聞こえない声で呟いた。
「お前にばっか、背負わせたくねぇんだがな」
「うっ、はぁ、はぁ、はっ」
ふと、精神が不安定になっているフレムがうまく呼吸ができていないことに気付くと、肩を抱き寄せ、自身の胸でフレムの頭を抱える様に抱き締めた。フレムは自分を抱くシデンの胸元を震える手で強くしがみ付く。
震え続けるフレムの背中を撫で、落ち着かせる。しばらくすると、荒かった息が整ってくる。
(こいつが背負うモンは、いつも重過ぎる。今も、‘‘あの時’’も)
シデンは撫でる手を止める事なく、フレムの耳元に口を近付け、ゆっくりとした口調で言う。
「泣けよ、フレム。今は泣いちまえ」
「!…うっ、ひっく、」
堪え切れなくなった涙が大量に流れる。声を押し殺して泣くフレムに、シデンは抱く腕の力を強めた。
しばらくの間泣き続けたフレムの目は、泣き止んだ頃には赤くなっていた。だが、その事を気にするよりも、シデンの胸元で子供の様に泣いてしまった事の方がフレムには重要だった。
「その、悪かったな」
その言葉にシデンは初めは何の事だか分からなかったが、顔を赤らめているのを見て意味を理解すると苦笑をこぼした。そして、そっぽを向いているフレムの頭に片手を置くと、先程とは違って、強い力でフレムの頭を掻き回した。
「わっ、ちょっ、やめろよシデン」
「何だよ、恥ずかしがってんのか?」
「そ、そんな訳ねぇだろ」
「あはははは」
声を上げて笑うシデンに否定の言葉を返すが赤みの残った顔では説得力がない。次第に笑い続けるシデンにつられて、フレムも声を上げて笑った。
暫く笑っていたが、「よっ」と言って立ち上がったシデンはフレムを見下ろした。
急に立ち上がったシデンにフレムも笑いを辞め、キョトンとした顔で見上げた。それに、シデンは先程とは違い穏やかな声で告げる。
「忘れちまえよ、フレム」
「えっ、」
急な言葉に息を詰まらせるが、シデンはフレムから顔を逸らし、泉を見て続ける。
「今はその事は忘れとけ。アイツらに言うのは、お前の心が決まった時で良い」
「それは、でも」
戸惑うフレムは俯いてしまう。そんなフレムにシデンは「大丈夫だ」と言う。
「アイツらはお前が言わなかったからって、お前を責めたりしねぇよ」
だから忘れてしまえと言うシデンにフレムはゆっくりと頷く。それを見届けると、シデンは先程までよりも明るい声で話を切り替える。
「さぁてと、そんじゃあ、市場で食いモンでも見に行くか」
「え⁈今から?」
いきなりの事に驚くフレムだがシデンは当然とばかりに腕を組んで言う。
「当たり前だろうが。俺はレイクの雨の所為ずーっと馬車で留守番してたんだぜ。それに、ルネは食材が豊富だから色んな料理があるんだ、目指すは全種類コンプリートだ!」
組んでいた腕を空に突き上げ、はしゃいでいるシデンに、フレムは呆れながらも内心感謝していた。
(サンキュー、シデン)
「なぁ、俺も一緒に行って良いか?」
「あぁ。そんじゃ、どこから行くかね」
「早く行かねえと時間無くなっちまうぜ」
そう言って立ち上がったフレムはシデンを置いて森の出口へ走って行ってしまう。「あっ、ズルいぞ」と言って追いかけて行くシデン。
二人はそのまま村まで走って行った。
二人が宣言通り村の料理をコンプリートし終え、馬車に戻った時には、既に二人以外の全員が戻っていた。
馬車の前で仁王立ちをしているグレスを見た二人は顔を真っ青にして冷や汗を流していた。
「二人とも、何故こんなに帰りが遅いのですか」
「「あの、えっと「言い訳無用‼︎」すいませんでした!」」
グレスの睨みに耐え切れず、二人は深々と頭を下げて謝った。それに溜息を吐いたグレスは、先程よりも落ち着いた声で「どこに行っていたのか」と尋ねる。
それに体を強張らせたフレムを見て、シデンが代わりに話した。その時、シデンは森に行っていた事は話さず、ただ市場で料理を食べていたことだけを話した。
話を聞いたグレスは再度溜息を吐いた。グレスが納得した様子を見て、フレムは小さな声で「サンキュー」と言う。シデンもそれに頷きを返した。
二人のやりとりを見ていたサンラがグレスのそばに寄って行き、彼を宥めた。
「その辺にしてやりなよグレス。もうだいぶ暗くなってきたから、続きは明日にでもしたら」
「そうですね。二人とも、ちゃんと反省して、次は時間を守って下さい」
「あぁ」
「分かってるって」
その言葉に強く頷いたことを確認すると、グレスは説教を終える。
説教を終えると漸く、皆馬車の中に入って行く。最後に入ったシデンによって、馬車の扉は閉められた。
To be continued…
「すげぇ歓声だな。森にまで届いてたぞ」
「そりゃそうだろ。ずっと雨だったんだぜ、ここまで喜ぶのも無理ねぇだろ」
「無駄口叩く前に足動かせ。とっとと馬車に戻って休むぞ」
それは戦いを終えたフレム達だった。疲労困憊の彼らは互いに支え合いながらようよう歩いていた。特に大技を使ったサンラはルナンの背中に背負われていた。
漸く馬車に戻ってきた時、フレム達はその場に座り込んでしまった。シデンなどは大の字になって横になっている。
「もう無理。一歩も動きたくねえ」
「同感です。これ以上は流石に無理です」
シデンとグレス、二人の言葉に全員が同意していた。サンラなどは馬車についたことで気が緩んだのか自分を背負っていたルナンに寄りかかって意識を落としていた。
「そうだな。今日はもうこのまま休もう」
フレムの言葉を合図に何とか最後の力を振り絞って自分の寝所へ向かう。サンラは途中までルナンが運び、寝所の前でミゾレに代わる。
全員が布団に入って数秒もせずに眠りに落ちた。
翌日、フレム達はルネの村で始めて演奏を行った。未だ喜びの冷めやらぬ村人達に彼らの演奏会は大好評だった。
「もう一回!もう一回!」
「アンコール!アンコール!」
何度も起こるアンコールにフレム達は応え続けた。久々の演奏ではあったが、始まる前に入念に確認し合った事で一つのミスもなく演奏し切ることができた。
「フレム!」
「あぁ。今日の演奏は、成功だ!」
頷きあったフレム達は村人達に向けて揃って一礼する。村人達の盛大な拍手で今日の演奏は幕を閉じた。
広場にいた村人達がほとんど居なくなった頃にはフレム達も楽器を片付け終えていた。集まったフレム達は今後のことを話し合う。
「さて、この後はどうしましょうか」
「そうだな。昨日までレイクの雨のせいでゆっくりしていられなかったからな。レイクの脅威も無くなったことだし、今日は夕方まで自由行動ってことでいいんじゃないか」
フレムの言葉に一番に喜んだのはサンラだった。
「賛成!久し振りに買い物に行きたかったのよね。そうだ、ミゾレも一緒に行かない?」
「そうですね、私も少し見ておきたいですね」
「なら決まり!」
サンラの言葉にミゾレも笑って頷く。その向こうでシデンが子供のようにはしゃいでいる。
「よっしゃあ、久し振りに遊べるぜ。あー、あそこにも行ってみたいし、この村は食材が豊富だから料理も多いからコンプリートしたいし、もうやりたいことがあり過ぎて選べねぇ!あいてっ!」
「騒ぎ過ぎだ馬鹿。少しは落ち着け」
あまりに騒ぐシデンの頭をルナンは叩いて止める。痛みで頭を抱えて唸るシデンを見て苦笑しか出ないフレムにアースが近寄って来た。それにフレムは首を傾げた。
「ん?どうした、アース」
「今日の馬車の留守番は俺がやる」
その言葉にフレムは驚いた。あまりにも大きな声だったため周りでそれぞれ話していたグレス達も二人に意識を向ける。
「えっ⁈でも、久し振りの村だぞ。お前は村を見て回らなくて良いのか?」
「あぁ。それに、昨日の疲れがまだ響いてるから、今日は休んでいたいんだ」
「分かった。そういう事なら無理強いはしねぇ。留守番頼んだぜ」
アースの本心である言葉に自分達に遠慮しているのではないと分かったフレムは笑顔で馬車の事を頼んだ。周りで二人の話を聞いていたグレス達も安心した笑みを浮かべてアースに「頼む」と言った。
みんなの言葉に頷いたアースを確認したフレムは「解散」と言った。フレムの号令を受けそれぞれ市場の方へ向かい、アースは馬車の中に入った。
だが、フレムだけは道を逸れて村の外へ向かった。
フレムは昨日戦っていた泉の森を歩いていた。ゆったりとした足取りで戦いの跡が残る泉に向かっていく。泉の側で足を止めると、空を睨み、何かを探すように辺りを見回す。
少しの間そうしていると落胆したように肩を落とした。
「やっぱり、もう残ってないか」
呟きを落とした時、フレムの背後から声が掛かった。
「やっぱりここに居たか」
「⁉︎」
勢いよく振り向いた先には木にもたれかかっているシデンがいた。無表情のままフレムを見るシデンの存在にフレムは戸惑いを隠せなかった。
「何で、シデンがここに。お前、市場の方に、行ったんじゃ」
「……」
フレムの問いに何も応えないままシデンはもたれ掛かっていた木から背中を離し、フレムの横まで歩み寄る。
フレムの横まで来ると、先程彼がやっていたように周りを見回すシデン。フレムは何も言えないまま顔を俯ける。
「本当に残ってねぇみてえだな」
「‼︎あっ、その、えっと」
シデンの言葉に肩を跳ねたフレムは何かを言おうとして言葉に詰まる。それでも何とか言葉にしようとするフレムの頭にシデンは手を置いて静止する。
口を噤んだフレムはいつもと違う優しい手付きで頭を撫でられ、気持ちが落ち着いていくのを自覚する。その様子を確認していたシデンは完全に落ち着くまで頭を撫で続けた。
泉の淵に並んで座った二人。フレムはレイクと戦いながら感じていた海神‘‘以外’’の神気についてシデンに包み隠さず、全て話した。時折言葉に詰まっていたが、シデンが何も言う事なく黙って聞いていることで、フレムは安心して全てを話すことができた。
「これで、全部だ」
「…そうか。それはアイツらにも言うのか?」
話が終わり、漸く口を開いたシデンのその言葉に、フレムは戸惑いを見せる。
「そ、れは」
口を噤み、話したくない様子を見せるフレムに、シデンは厳しい言葉を掛ける。
「分かっているだろうが、俺たちの目的は‘‘神を倒すこと’’だ。お前が黙っていても、戦っていればいつかはアイツらにも分かることだぞ」
「分かってる。分かってるけど、でも、俺は、」
声を荒げるフレムは両腕で自身の体を抱き締め、子供の様に震えている。横で見ているシデンはフレムに聞こえない声で呟いた。
「お前にばっか、背負わせたくねぇんだがな」
「うっ、はぁ、はぁ、はっ」
ふと、精神が不安定になっているフレムがうまく呼吸ができていないことに気付くと、肩を抱き寄せ、自身の胸でフレムの頭を抱える様に抱き締めた。フレムは自分を抱くシデンの胸元を震える手で強くしがみ付く。
震え続けるフレムの背中を撫で、落ち着かせる。しばらくすると、荒かった息が整ってくる。
(こいつが背負うモンは、いつも重過ぎる。今も、‘‘あの時’’も)
シデンは撫でる手を止める事なく、フレムの耳元に口を近付け、ゆっくりとした口調で言う。
「泣けよ、フレム。今は泣いちまえ」
「!…うっ、ひっく、」
堪え切れなくなった涙が大量に流れる。声を押し殺して泣くフレムに、シデンは抱く腕の力を強めた。
しばらくの間泣き続けたフレムの目は、泣き止んだ頃には赤くなっていた。だが、その事を気にするよりも、シデンの胸元で子供の様に泣いてしまった事の方がフレムには重要だった。
「その、悪かったな」
その言葉にシデンは初めは何の事だか分からなかったが、顔を赤らめているのを見て意味を理解すると苦笑をこぼした。そして、そっぽを向いているフレムの頭に片手を置くと、先程とは違って、強い力でフレムの頭を掻き回した。
「わっ、ちょっ、やめろよシデン」
「何だよ、恥ずかしがってんのか?」
「そ、そんな訳ねぇだろ」
「あはははは」
声を上げて笑うシデンに否定の言葉を返すが赤みの残った顔では説得力がない。次第に笑い続けるシデンにつられて、フレムも声を上げて笑った。
暫く笑っていたが、「よっ」と言って立ち上がったシデンはフレムを見下ろした。
急に立ち上がったシデンにフレムも笑いを辞め、キョトンとした顔で見上げた。それに、シデンは先程とは違い穏やかな声で告げる。
「忘れちまえよ、フレム」
「えっ、」
急な言葉に息を詰まらせるが、シデンはフレムから顔を逸らし、泉を見て続ける。
「今はその事は忘れとけ。アイツらに言うのは、お前の心が決まった時で良い」
「それは、でも」
戸惑うフレムは俯いてしまう。そんなフレムにシデンは「大丈夫だ」と言う。
「アイツらはお前が言わなかったからって、お前を責めたりしねぇよ」
だから忘れてしまえと言うシデンにフレムはゆっくりと頷く。それを見届けると、シデンは先程までよりも明るい声で話を切り替える。
「さぁてと、そんじゃあ、市場で食いモンでも見に行くか」
「え⁈今から?」
いきなりの事に驚くフレムだがシデンは当然とばかりに腕を組んで言う。
「当たり前だろうが。俺はレイクの雨の所為ずーっと馬車で留守番してたんだぜ。それに、ルネは食材が豊富だから色んな料理があるんだ、目指すは全種類コンプリートだ!」
組んでいた腕を空に突き上げ、はしゃいでいるシデンに、フレムは呆れながらも内心感謝していた。
(サンキュー、シデン)
「なぁ、俺も一緒に行って良いか?」
「あぁ。そんじゃ、どこから行くかね」
「早く行かねえと時間無くなっちまうぜ」
そう言って立ち上がったフレムはシデンを置いて森の出口へ走って行ってしまう。「あっ、ズルいぞ」と言って追いかけて行くシデン。
二人はそのまま村まで走って行った。
二人が宣言通り村の料理をコンプリートし終え、馬車に戻った時には、既に二人以外の全員が戻っていた。
馬車の前で仁王立ちをしているグレスを見た二人は顔を真っ青にして冷や汗を流していた。
「二人とも、何故こんなに帰りが遅いのですか」
「「あの、えっと「言い訳無用‼︎」すいませんでした!」」
グレスの睨みに耐え切れず、二人は深々と頭を下げて謝った。それに溜息を吐いたグレスは、先程よりも落ち着いた声で「どこに行っていたのか」と尋ねる。
それに体を強張らせたフレムを見て、シデンが代わりに話した。その時、シデンは森に行っていた事は話さず、ただ市場で料理を食べていたことだけを話した。
話を聞いたグレスは再度溜息を吐いた。グレスが納得した様子を見て、フレムは小さな声で「サンキュー」と言う。シデンもそれに頷きを返した。
二人のやりとりを見ていたサンラがグレスのそばに寄って行き、彼を宥めた。
「その辺にしてやりなよグレス。もうだいぶ暗くなってきたから、続きは明日にでもしたら」
「そうですね。二人とも、ちゃんと反省して、次は時間を守って下さい」
「あぁ」
「分かってるって」
その言葉に強く頷いたことを確認すると、グレスは説教を終える。
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