電脳恋愛のすゝめ

コトシナミノル

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第12話 小さな疑問とちょっとしたお願い

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『KUONさん……あの、私……以前から少し疑問に思っていることがあるんです』

『と……言いますと?』

『は、はい。……【エンペルクレイ】、いるじゃないですか?』

『……え?あぁ、【エンペルクレイ】。あのクエストはけっこう金稼げるのがいいですよねぇ……えっと、それが何か?』

『何で【エンペルクラブ】じゃないんでしょう?』

『あー……』

 確かにその疑問はごもっともだが、YUNIさんがその事実を知らないのは少し意外だった。ハンター界隈では周知の事実とは言わないまでも、ありふれた小ネタの一つだったからだ。
 たぶんYUNIさんのプレイスタイル的にモンスターの設定とかあんまり気にしないで、ひたすら目の前のモンスターを狩って来たんだろうなぁ……と思う。

『そもそもYUNIさんは【エンペルクレイ】って何をモチーフにしたモンスターなのか知ってます?』

『……え?蟹さんじゃないんですか?』

 なるほど……YUNIさんは動物に「~さん」とかつける系女子か。
 じゃなくて

『実はアレ蟹じゃなくてザリガニなんですよ』

『……え!?あれ……ザリガニなんですか!?』

『気持ちはわかります。どうみても蟹ですよねぇ……でも開発も言ってるんです。『あれは蟹じゃない、ザリガニだ』……って。一説だと、下請けの会社にザリガニ型モンスターのモデリングを発注したはずなのにどこでミスが起こったのか、間違って蟹型モンスターのモデリングが納品されちゃったらしいんですよ。当時は開発黎明期で、メインモンスターの方にだいぶ人員が割かれてたみたいです。気づいた時にはソフトもリリース間近。もういいやってなった開発はそのまま実装したみたいっすね』

『あの……それって後から修正しようとか思わなかったのでしょうか……?』

『【エンペルクレイ】は一作目からいて、意外と人気モンスターなんですけど、当時は今と違って修正パッチとか追加データのダウンロードみたいな概念はありませんでした。だから修正されないまま実装したら、うっかりユーザーの人気が出ちゃって……その後も変えようにも変えられない状況になっちゃったんですね』

『なるほど……それで、ザリガニの名前を冠した蟹型モンスターが爆誕したんですねぇ……』

『……ま、あくまで噂ですけどね。本当のところは開発の人しかわかりません』

『……いえ、大変興味深いです。私、恥ずかしながら今までそういう設定とかちゃんと見てこなかったので』

『そっすねぇ……もちろんモンスターを狩るのがこのゲームの醍醐味ですけど、世界観の設定とか開発裏話みたいなのも調べてみると案外楽しいですよ』

『ですねぇ……あの、KUONさん……』

『……?はい?』

『……いえ、す、すみません。何でも無かったです。……あ、あの、今日はもう遅いですし、また今度にしますか』

『あ……もうこんな時間なんですね。お開きにしましょう。今日も楽しかったです!それではまた!!』

『あ、はい。……それでは!また!』



 高田家への家庭訪問を終えた次の日の夜、僕とYUNIさんはいつも通りゲームをしていた。最初はぎこちなかったYUNIさんだったが、今では雑談のようなものができるくらいには打ち解けることができるようになった。

 次何狩りましょう→いいですね!

の繰り返しだった頃に比べたら、だいぶ大きな進歩である。
 今日の終わり際、何だか僕に聞きたいことがあったみたいだけど……あれはいったい何だったのだろう?
 少し気にはなるけれど、今は置いておこう。
 明日も忙しくなりそうだし、僕も早く寝なくては。


 翌朝、学校の廊下にて

「久遠ちゃんおまた~」

「……いや、僕もちょうどきたところ。それで、昨日お願いしたことはどうだった?」

「問題ナッシングだよ!……でも、この借りは高くつくよ~」

「覚悟はしてるさ。お礼もちゃんとする」

「ん?……今なんでもするって」

「言ってない言ってない……お礼は僕のできる範囲だ」

「楽しみにしてるね♪」

「期待はしないこと。……それで、僕はどこで待てばいい?」

「中庭で待ち合わせてるよん♪」

「オッケー、改めて恩に着るよ」

「久遠ちゃん堅苦しーなー!私と久遠ちゃんの仲じゃない~」

「今更だけど、僕と桜の仲ってなんなのさ?」

……かな?それじゃまたねー♡」

「何だそれ……って足早っ!?……相変わらずよくわからないやつだな……」


 それから僕は1限……2限と眠い目を擦りながら授業を消化し、ようやく目的の昼休みを迎える。
 久村からの昼飯の誘いを今日も丁重に断り、僕は中庭へと向かうため教室を出る。
 廊下は既に授業から解放された生徒たちの姿で溢れていた。
 学食に向かう者、別のクラスの友人に会いに行こうとする者、部活の集まりに行こうとする者……目的は様々だ。
 しばらく歩いていると、一際目立つ女子の集団が向こうから歩いてくるのが見えた。

 牧村楓と一軍女子の集団である。

 集団が歩を進めるごとに、廊下の生徒たちは道を譲ろうと次々に脇へ避けていく。
 僕もそれに倣おうと限界まで存在感を消し、脇に避ける。
 まるで自分たちが世界の中心だと思っていそうな牧村軍団は、そのまま廊下を通過していった。
 ……良かった。きっと牧村は先日のことなんて無かったかのようだ。完全に僕の存在を忘れている。
 その後は何事もなく、僕は中庭の指定された場所に辿り着いた。

「……確かこの辺のはずなんだけど……お?」

 この古城学園にはいくつかの昼食スポットがある。中庭は生徒の人気が高い場所であり、天気の良い日は特に人が多い。
 僕がいるこの場所もそんな昼食スポットの一つ、その名も【桜ベンチ】。
 入学式シーズンやクラス替えの時期は満開の桜の下で昼食を取ることができるため、陽気な生徒たちの間で特に人気が高いスポットである。しかし、桜がとっくに散ってる今の時期、教室から離れたこんなところで昼食を取る物好きはあんまりいない。
 そう、僕らみたいな物好きを除いて

 仁木円にきまどかさん……だね?」

 ベンチに座って退屈そうに端末をいじっている女生徒に僕は声を掛けた。


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