16 / 25
第16話 牧村楓と高田ユニ
しおりを挟む
4月は出会いの季節だ。
別れの季節という輩も中にはいるけれど、それは強者の意見だと思う。
別れるためには出会う必要があり、出会える人間は必然的に強者なのだ。
今までの私は弱者だった。
自分から一歩を踏み出せず、集団からは孤立し、流される群衆の一人にすらなれない。
私は強者になりたかった。
自分が笑えば周囲も笑い、常に私が教室の中心。
小学校、中学校といつも私はそれを見て、己の人生に悲観し、俯くことしかできなかった。
今年こそ変えてやる。
私は強者となり、このクラスの女王となる。
野暮ったい眼鏡は捨て、コンタクトに変えた。
派手になりすぎず、それでいて存在感を出せるように化粧や髪型を研究した。
滑舌の悪さを改め、はっきりとした声が出せるよう訓練を重ねた。
中学卒業から高校入学へのわずかな期間、私は自分を変えようと死に物狂いで努力をした。
いよいよその成果が試される。
俯くばかりの自分を捨て、前を向こうと私は教室に入った。
結論から言うと弱者はやめ、強者になろう……そんな目論見は桜の花びらとともに見事に散っていった。
なぜなら1-Aの教室で私はあの子と出会ってしまったからだ。
「……っ…………♪…………ふ……ふふ……っ」
教室には先客がいた。
誰もいない時間帯を狙ってきたはずだったのに、早くも計画が崩されてしまう。
私の研究によれば、学生生活における友人作りで最も重要なのは新学期初日である。
それも、最初のホームルームの開始前。この時点でいかに話せる人間がいるかで、今後の学生生活は大いに変わっていく。別に最初から親友を作る必要はない。要は話せる人間がいることで、将来親友になるかもしれない人間に期待を持たせる必要がある。こいつは話せる人間であり、自分から話にいく価値がある人間なのだと。
一方コミュニティが完成してしまえば、そこに単独で介入していくのは困難だ。今まで友人なんてろくに作れなかった私に複数人を同時に相手するスキルは存在しない。
けれど、個人の相手なら話は別だ。
まずは1人友達を作る。
そいつと今後どのような関係になろうとも、繋ぎとして利用することはできる。
1を100にするためには、まず0を1にする作業が必要だ。
そして確実に0を1にする戦略として私が出した結論は
朝一番に教室で待ち構え、一番最初に来た人間と友人になる
というものだった。
さて、その結果がこれである。
目の前にいるのは度がキツそうな野暮ったい眼鏡をかけ、伸び切ったボサボサの髪に身体中から負のオーラを発しながら手元のゲーム機をいじり続ける陰気な娘。
中学までの私がそこにいた。
正直なところ私はその時すごく迷った。
いくら次への繋ぎだとしても、限度がある。目の前のこいつに話しかけて、次へと繋がるビジョンが全く見えなかった。
しかし、同時に私には時間がなかった。
先に述べた通り、新学期はスピードが命だ。
教室に足を踏み入れてしまった瞬間から、私の高校生活は既に始まってしまっている。ここでの一挙手一投足が今後の3年間、場合によっては人生を決めるかもしれないほど、この瞬間は重要なのだ。
そして、相手を認識してから刻一刻と同級生へ声をかけるタイミングというのは失われていく。時間が経てば経つほど話しかけづらくなってしまう。
私は考えた。
このままこいつに話しかけず、次に教室へ入ってきた相手に話しかける手もある。
言い方は悪いが、これはゲームのガチャにおけるリセマラのようなものだ。
目の前のRを無視してSSRを待つこともできる。
しかし、次に来るのもRの可能性もあるし、中学からの同級生同士のような複数名が同時に教室に入る可能性もある。何ならこんな独り相撲のような心理戦を繰り広げる遥か以前に、入学者によってグループが既に形成されている可能性だってあった。
決断が迫られる。
もたもたしていたら次の生徒が入ってきてしまう。
目の前のそいつをもう一度見る。
視線は手元のゲーム機に固定され、忙しなく指は動き続けている。
時折変な笑みを浮かべ、側から見たら完全にやばいやつだ。
しかし……よくよく見ると顔は悪くない。
眼鏡と目元の隈のせいでパッと見気づかなかったが、目は綺麗な青色で、ボサボサの髪は色素が薄く、太陽の光で照らされている。恐らく、異国の血が入っているのだろう。
生まれてこの方日焼けなど知らないように肌は透き通るように白く、不健康なほど手足は細い。
なるほど……素材は悪くない。
磨けば光るとはこのことか。
少女の元へ、私は歩を進めた。一歩一歩、覚悟を踏みしめる。
私は自身の高校生活をこいつに全ベットすることに決めた。
私が机の前に立つと、そいつはようやく私の存在を認識したようだった。
口は半開きになり、間抜けな顔を私に晒している。
しかし私の見立て通り、顔だけ見れば美少女の部類だ。
「それ……モンフェスよね?」
捨てようと思って捨てきれなかったソフトの名前。
まさか新学期初日にこの手札を使うことになるとは思わなかったけど、目の前のそいつもたまたまやっていたのだから仕方がない。
私がこの教室の女王になるためなら何だって利用してやる。
「え……あ……あ、はい」
「そう……私もやってるのそれ」
「へ、へぇ~」
「お名前聞いていいかしら?」
「あ、わ、わたしは高田……ユニ……と、言います」
「ユニさんね。私の名前は牧村楓」
こうして私は高田ユニと出会った。
別れの季節という輩も中にはいるけれど、それは強者の意見だと思う。
別れるためには出会う必要があり、出会える人間は必然的に強者なのだ。
今までの私は弱者だった。
自分から一歩を踏み出せず、集団からは孤立し、流される群衆の一人にすらなれない。
私は強者になりたかった。
自分が笑えば周囲も笑い、常に私が教室の中心。
小学校、中学校といつも私はそれを見て、己の人生に悲観し、俯くことしかできなかった。
今年こそ変えてやる。
私は強者となり、このクラスの女王となる。
野暮ったい眼鏡は捨て、コンタクトに変えた。
派手になりすぎず、それでいて存在感を出せるように化粧や髪型を研究した。
滑舌の悪さを改め、はっきりとした声が出せるよう訓練を重ねた。
中学卒業から高校入学へのわずかな期間、私は自分を変えようと死に物狂いで努力をした。
いよいよその成果が試される。
俯くばかりの自分を捨て、前を向こうと私は教室に入った。
結論から言うと弱者はやめ、強者になろう……そんな目論見は桜の花びらとともに見事に散っていった。
なぜなら1-Aの教室で私はあの子と出会ってしまったからだ。
「……っ…………♪…………ふ……ふふ……っ」
教室には先客がいた。
誰もいない時間帯を狙ってきたはずだったのに、早くも計画が崩されてしまう。
私の研究によれば、学生生活における友人作りで最も重要なのは新学期初日である。
それも、最初のホームルームの開始前。この時点でいかに話せる人間がいるかで、今後の学生生活は大いに変わっていく。別に最初から親友を作る必要はない。要は話せる人間がいることで、将来親友になるかもしれない人間に期待を持たせる必要がある。こいつは話せる人間であり、自分から話にいく価値がある人間なのだと。
一方コミュニティが完成してしまえば、そこに単独で介入していくのは困難だ。今まで友人なんてろくに作れなかった私に複数人を同時に相手するスキルは存在しない。
けれど、個人の相手なら話は別だ。
まずは1人友達を作る。
そいつと今後どのような関係になろうとも、繋ぎとして利用することはできる。
1を100にするためには、まず0を1にする作業が必要だ。
そして確実に0を1にする戦略として私が出した結論は
朝一番に教室で待ち構え、一番最初に来た人間と友人になる
というものだった。
さて、その結果がこれである。
目の前にいるのは度がキツそうな野暮ったい眼鏡をかけ、伸び切ったボサボサの髪に身体中から負のオーラを発しながら手元のゲーム機をいじり続ける陰気な娘。
中学までの私がそこにいた。
正直なところ私はその時すごく迷った。
いくら次への繋ぎだとしても、限度がある。目の前のこいつに話しかけて、次へと繋がるビジョンが全く見えなかった。
しかし、同時に私には時間がなかった。
先に述べた通り、新学期はスピードが命だ。
教室に足を踏み入れてしまった瞬間から、私の高校生活は既に始まってしまっている。ここでの一挙手一投足が今後の3年間、場合によっては人生を決めるかもしれないほど、この瞬間は重要なのだ。
そして、相手を認識してから刻一刻と同級生へ声をかけるタイミングというのは失われていく。時間が経てば経つほど話しかけづらくなってしまう。
私は考えた。
このままこいつに話しかけず、次に教室へ入ってきた相手に話しかける手もある。
言い方は悪いが、これはゲームのガチャにおけるリセマラのようなものだ。
目の前のRを無視してSSRを待つこともできる。
しかし、次に来るのもRの可能性もあるし、中学からの同級生同士のような複数名が同時に教室に入る可能性もある。何ならこんな独り相撲のような心理戦を繰り広げる遥か以前に、入学者によってグループが既に形成されている可能性だってあった。
決断が迫られる。
もたもたしていたら次の生徒が入ってきてしまう。
目の前のそいつをもう一度見る。
視線は手元のゲーム機に固定され、忙しなく指は動き続けている。
時折変な笑みを浮かべ、側から見たら完全にやばいやつだ。
しかし……よくよく見ると顔は悪くない。
眼鏡と目元の隈のせいでパッと見気づかなかったが、目は綺麗な青色で、ボサボサの髪は色素が薄く、太陽の光で照らされている。恐らく、異国の血が入っているのだろう。
生まれてこの方日焼けなど知らないように肌は透き通るように白く、不健康なほど手足は細い。
なるほど……素材は悪くない。
磨けば光るとはこのことか。
少女の元へ、私は歩を進めた。一歩一歩、覚悟を踏みしめる。
私は自身の高校生活をこいつに全ベットすることに決めた。
私が机の前に立つと、そいつはようやく私の存在を認識したようだった。
口は半開きになり、間抜けな顔を私に晒している。
しかし私の見立て通り、顔だけ見れば美少女の部類だ。
「それ……モンフェスよね?」
捨てようと思って捨てきれなかったソフトの名前。
まさか新学期初日にこの手札を使うことになるとは思わなかったけど、目の前のそいつもたまたまやっていたのだから仕方がない。
私がこの教室の女王になるためなら何だって利用してやる。
「え……あ……あ、はい」
「そう……私もやってるのそれ」
「へ、へぇ~」
「お名前聞いていいかしら?」
「あ、わ、わたしは高田……ユニ……と、言います」
「ユニさんね。私の名前は牧村楓」
こうして私は高田ユニと出会った。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる