電脳恋愛のすゝめ

コトシナミノル

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第16話 牧村楓と高田ユニ

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 4月は出会いの季節だ。
 別れの季節という輩も中にはいるけれど、それは強者の意見だと思う。
 別れるためには出会う必要があり、出会える人間は必然的に強者なのだ。

 今までの私は弱者だった。

 自分から一歩を踏み出せず、集団からは孤立し、流される群衆の一人にすらなれない。
 私は強者になりたかった。
 自分が笑えば周囲も笑い、常に私が教室の中心。
 小学校、中学校といつも私はそれを見て、己の人生に悲観し、俯くことしかできなかった。
 今年こそ変えてやる。
 私は強者となり、このクラスの女王となる。
 野暮ったい眼鏡は捨て、コンタクトに変えた。
 派手になりすぎず、それでいて存在感を出せるように化粧や髪型を研究した。
 滑舌の悪さを改め、はっきりとした声が出せるよう訓練を重ねた。
 中学卒業から高校入学へのわずかな期間、私は自分を変えようと死に物狂いで努力をした。
 いよいよその成果が試される。

 俯くばかりの自分を捨て、前を向こうと私は教室に入った。


 結論から言うと弱者はやめ、強者になろう……そんな目論見は桜の花びらとともに見事に散っていった。
 なぜなら1-Aの教室で私はあの子と出会ってしまったからだ。

「……っ…………♪…………ふ……ふふ……っ」

 教室には先客がいた。
 誰もいない時間帯を狙ってきたはずだったのに、早くも計画が崩されてしまう。
 私の研究によれば、学生生活における友人作りで最も重要なのは新学期初日である。
 それも、最初のホームルームの開始前。この時点でいかに話せる人間がいるかで、今後の学生生活は大いに変わっていく。別に最初から親友を作る必要はない。要は話せる人間がいることで、将来親友になるかもしれない人間に期待を持たせる必要がある。こいつは話せる人間であり、自分から話にいく価値がある人間なのだと。
 一方コミュニティが完成してしまえば、そこに単独で介入していくのは困難だ。今まで友人なんてろくに作れなかった私に複数人を同時に相手するスキルは存在しない。
 けれど、個人の相手なら話は別だ。
 まずは1人友達を作る。
 そいつと今後どのような関係になろうとも、繋ぎとして利用することはできる。
 1を100にするためには、まず0を1にする作業が必要だ。
 そして確実に0を1にする戦略として私が出した結論は

 朝一番に教室で待ち構え、一番最初に来た人間と友人になる

 というものだった。
 さて、その結果がこれである。
 目の前にいるのは度がキツそうな野暮ったい眼鏡をかけ、伸び切ったボサボサの髪に身体中から負のオーラを発しながら手元のゲーム機をいじり続ける陰気な娘。
 中学までの私がそこにいた。
 正直なところ私はその時すごく迷った。
 いくら次への繋ぎだとしても、限度がある。目の前のこいつに話しかけて、次へと繋がるビジョンが全く見えなかった。
 しかし、同時に私には時間がなかった。
 先に述べた通り、新学期はスピードが命だ。
 教室に足を踏み入れてしまった瞬間から、私の高校生活は既に始まってしまっている。ここでの一挙手一投足が今後の3年間、場合によっては人生を決めるかもしれないほど、この瞬間は重要なのだ。
 そして、相手を認識してから刻一刻と同級生へ声をかけるタイミングというのは失われていく。時間が経てば経つほど話しかけづらくなってしまう。
 私は考えた。
 このままこいつに話しかけず、次に教室へ入ってきた相手に話しかける手もある。
 言い方は悪いが、これはゲームのガチャにおけるリセマラのようなものだ。
 目の前のRを無視してSSRを待つこともできる。
 しかし、次に来るのもRの可能性もあるし、中学からの同級生同士のような複数名が同時に教室に入る可能性もある。何ならこんな独り相撲のような心理戦を繰り広げる遥か以前に、入学者によってグループが既に形成されている可能性だってあった。
 決断が迫られる。
 もたもたしていたら次の生徒が入ってきてしまう。
 目の前のそいつをもう一度見る。
 視線は手元のゲーム機に固定され、忙しなく指は動き続けている。
 時折変な笑みを浮かべ、側から見たら完全にやばいやつだ。
 しかし……よくよく見ると顔は悪くない。
 眼鏡と目元の隈のせいでパッと見気づかなかったが、目は綺麗な青色で、ボサボサの髪は色素が薄く、太陽の光で照らされている。恐らく、異国の血が入っているのだろう。
 生まれてこの方日焼けなど知らないように肌は透き通るように白く、不健康なほど手足は細い。
 なるほど……素材は悪くない。
 磨けば光るとはこのことか。
 少女の元へ、私は歩を進めた。一歩一歩、覚悟を踏みしめる。
 私は自身の高校生活をこいつに全ベットすることに決めた。

 私が机の前に立つと、そいつはようやく私の存在を認識したようだった。
 口は半開きになり、間抜けな顔を私に晒している。
 しかし私の見立て通り、顔だけ見れば美少女の部類だ。

「それ……モンフェスよね?」

 捨てようと思って捨てきれなかったソフトの名前。
 まさか新学期初日にこの手札を使うことになるとは思わなかったけど、目の前のそいつもたまたまやっていたのだから仕方がない。
 私がこの教室の女王になるためなら何だって利用してやる。

「え……あ……あ、はい」

「そう……私もやってるのそれ」

「へ、へぇ~」

「お名前聞いていいかしら?」

「あ、わ、わたしは高田……ユニ……と、言います」

「ユニさんね。私の名前は牧村楓」

 こうして私は高田ユニと出会った。
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