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約束の卵
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しおりを挟む義経を送り出すときのかぐっちゃんって最高に優しく微笑むよな…。俺の時は鬼かと思うくらい凄んでくるくせに…。
神楽の態度の違いに拗ねながらも、親慶は残りの短い時間でフリの確認を続ける。
見ていなくても大丈夫。今日も義経は完璧だ。
ジャンプの度に、上がる心地いい歓声に親慶はなんの心配もせずに最後のあがきに集中できた。滑り終えた時のアリーナ全体が揺れるほどの異常な歓声は親慶を煽るが、それでも義経が良い演技をしたのだと自分の事のように安堵した親慶は最後の氷の状態を確かめるためにリンクへと足を踏み入れた。
元々ここの氷とは相性が良いはずだから気負わなければいける。
良いイメージのまま練習時間は終わり最後に神楽の元に向かった親慶は驚くほどプレッシャーを感じていなかった。それは神楽にも伝わっていて、プログラムを変えたから失敗してもしょうがないと開き直っているようにも見えた。
「大丈夫そうだな」
「思ったよりは平気そう」
「…お前が楽しいスケートをしてこい。あとは…ここにいる女性ファンを全員落とす気でいけ!」
「落とすって……分かった、やってみんね!」
いつもとは違う神楽の様子に親慶は思わず笑いながらリンクの中心に向かう。
無理かも知れないけど半分……俺の演技で堕とす!!
それからは無我夢中だった。ミスをしないよう丁寧に、必要なところは大胆に。神楽に教わった言葉の一つ一つが親慶の背中を押してくれていた。
そして滑り終わった瞬間、義経と同様の…いや、それ以上の歓声に親慶は膝を震わせながら四方に頭を下げる。言うことを聞かない足の原因は疲労だけではなく、自分の中で最高の評価を与える演技の出来映えに対してであり、親慶はそこで初めて緊張を感じていた。
今回はあの二人とも対等に戦えたはずだ…。
そう確信していた親慶だったが、尚も震える足はスケート靴のカバーすら上手くはめさせてはくれず親慶の転ぶ姿はばっちりとカメラに撮られ、スクリーンに映し出されるとファンの笑い声が響いた。そして神楽に支えられながらキスアンドクライに辿り着くと膝の震えは身体中に伝播し、いつもどおり声援に応える事なんて出来ず膝の上で両手を組んで一点を見つめていた。
自分で分かるミスはなかった。あとはどんな採点をされるか…。
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