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言葉の重要性【前編】
しおりを挟むあの日桜の中での告白から俺と義経は付き合って――――
いない。
分かっていたことだけど義経から返事が返ってくるはずもなく。
いつもより甘い空気の中、手を繋いで桜のライトアップまで二人きりで過ごして家まで送って手を離すときのあのお互いの指の先端がいつまでも離れないあの名残惜しい時間も。
「今となっては全部夢だったんじゃないかって思うんだぁ…」
「訳分からん事ほざいてないで練習しろ、親慶」
「かぐっちゃん、冷たぁ~い…」
女子高生をイメージした俺の渾身のぶりっ子を神楽コーチは嫌悪感たっぷりに一瞥した後、リンク上の義経を眺める。
「…ったく、義経が調子を戻したと思ったら今度はお前かよ」
俺が言うのもなんだけど神楽コーチは口が悪い。でもそれは俺達の距離が近いってことでもあって、あの義経が言いたいことを言ってるのが良い証拠だ。きっと神楽コーチじゃなければ義経はもしかしたら今までスケートを続けてなかったかもしれない。
そうなれば俺もここにはいなかったな…。
思わず見惚れてしまうほどの義経の演技に俺は一人黄昏ていた。
義経はあの日から調子を取り戻し、神楽コーチが「今ならどんな大会でも金取れるぞ」って真顔で言ってしまうくらい絶好調だ。
反比例して俺は絶不調(笑)。
「まっ、義経のあれはお前のおかげなんだろうけどな…」
神楽コーチはなにかを察しているかのように不適に笑うとすぐに義経の元へと行ってしまった。
それはどういうことなんだろうなぁ…。
涼しい顔してリンク上を舞い踊る義経には俺の心なんて知る由もなく軽々と4回転を飛んでみせる。
今すぐ考えなくていいとは言いましたよ!
えぇ確かに。
でもそれは大人の余裕っつーか?
好きな子の前でカッコつけたいじゃん?!
しかし、その余計な一言が俺をこんなに悩ませている…。
いっそ聞いてみちゃう?
結局義経は俺のことどう思ってるのかなぁ~?
なんて?
……かっこわりぃなぁ…。
かっこわりぃけど……今の俺はその答えをもらえるなら義経に土下座すら出来そうだ。
人間追い詰められると何するかわかんねぇな…。
「完璧じゃん。今度の大会が楽しみだな」
ひゅう~♪とわざとらしく口笛を吹いて休憩に入る義経を迎えると仄かに顔を赤く染めてはにかみ笑顔が返ってきた。
いつもなら「うるさい」って一蹴してくるところなのに…。
「チカは滑んないの?」
「気分が乗らなくてな…」
ふっとかっこつけて遠くを見つめる仕草に義経はまた笑った。
…いつもと反応が違いすぎて怖いんだけど…。
「じゃあ、一緒に滑ってやろうか?」
「…はぁ?」
いつもならこんなこと絶対言わないのにどうしたんだこいつは…。
周りの仲間も休憩していてリンクが空いてるのを確認すると義経は羽織ったばかりの上着を脱ぎ捨ててすぐにリンクへと戻っていった。
状況を理解できない俺を取り残して義経は背中に羽根でも生えているかのように流れるようにリンクを縦横無尽に滑り回っていて。時折こちらに視線を向けては「早く来い」と言わんばかりに満面の笑みを寄越してくれる。
…天使がいる…。
俺はその神々しいまでの可愛さに惹かれリンクに繰り出した。
そして義経は小さく軽やかに歌い出す。
曲目は『A Whole New World』。
いつかのアイスショーで二人で演じたものだ。
義経にヒロインの格好をさせて、息の合った演技は随分称賛されたな。
この時の義経の可愛さは今でも伝説になってるくらいだ。
適当に滑りながら義経の様子を伺っていると歌いながら俺の目に前に現れ一緒にやれと指示してくる。
仕方なく俺はアラジン役になりきって義経に付き合うことにした。
…恋人同士なんだよ。
このストーリーは。
だから演技中だって自然と見つめ合うし抱き寄せたり、手を繋ぐことだってある。
今の俺には拷問のような時間だぜ、これ。
終始微笑みを浮かべている義経は主人公に恋するヒロインそのもののようで…勘違いしそうになる。
最後はリンクの中心に寄り添う形で終わると周りの仲間から割れんばかりの拍手が響いた。
俺と義経はとりあえずいつものようにみんなに挨拶をしてリンクを降りた。
「覚えてるもんだよな」
横に並んだ義経はまだ微笑んだまま、上気して赤い頬に心臓が跳ねて思わずその柔らかい頬に手を伸ばした。
本当に無意識でなにがしたかったのかなんて自分でも分からない。
ただ義経が俺のその手に猫のように頬を擦りつけたことで俺の中のなにかがキレた。
「ちょっ、おい!どこ行くんだよっ、チカっ!!」
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