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ちょうだい?【親慶×義経】
しおりを挟む2月14日。
「…これ…」
練習終わりに並んで歩く帰り道。
重い腕を上げて綺麗にラッピングされた箱を取り出してチカに差し出す。
「…ウソ…」
チカは何度か瞬きを繰り返しながらびっくりした顔でソレを見つめる。
「貰えるなんて思ってなかったから…すげー嬉し…」
「しず姉から」
「……え…ぁ、そうなんだ…」
やっぱり今日こんなの渡したらオレからだって思うよな…。
付き合いだして初めてのバレンタイン。
オレだって意識しなかった訳じゃない。
「…」
あれは事故だ。
上目でチカを伺うと明らかにがっかりした表情でしず姉からのチョコを凝視している。
さっきまで目をキラキラ輝かせてたのに…。
罪悪感に圧し潰されそうなオレはチカを横目にゆっくり歩き出した。
そのキラキラした瞳を、チカの嬉しそうな顔を…オレだって見たかった…。
だから…慣れないことをした。
「これ。俺から義経に」
「…」
隣に追いついてきたチカにさっき渡したしず姉のチョコと違う濃い赤色に白いリボンがかかった箱を渡された。
オレの中の罪悪感が余計に胸を圧し潰す。
「…ありがと…」
受け取ったチョコを見つめて、足が止まってしまった。
「あと、これはしず姉に……義経?どうした?」
オレ用とは違うピンク色の箱を差し出すチカに、オレの目はとうとう涙で滲み始めた。
「え、なんで?俺がなんかした?え?怪我した?どっか痛いのか?」
「…」
心配して覗き込んでくるチカの服を掴んで、視線から逃げるようにチカの肩に顔を埋めた。
チカが混乱しながらオレの背中を擦って落ち着くのを待ってくれる優しさも苦しくて頭突きをするように何度もチカの肩に頭を打ち付ける。
なにがしたいのかオレだって分からないけどそうしたかった。
自分の不甲斐なさに耐えきれなくて自分で自分を攻撃したくなったんだ。
「……チョコ…」
「うん?」
しばらく続けたあと、 なおも変わらずチカの肩で顔を隠したまま呟いた。
背中に回された手の温もりも、頭を撫でてくれる感触も、全部優しくて安心する。
「溶かして固めるだけならオレでも作れるかなって、思って…」
「作ってくれようとしたの?」
「溶かして…固めるだけだけど……出来ると思ったんだ…」
「うん」
「チョコに…お湯を入れちゃいけないって知らなくて…」
「お湯…入れたの…?」
「『湯煎』?の意味が分からなくて…そしたらチョコがぐちゃぐちゃになってしず姉にめちゃくちゃ怒られた…」
「ぶっ!!」
昨日起こった『事故』の経緯を説明するとチカは盛大に吹き出したあと、腹を抱えて笑い出した。
オレがこんなに落ち込んでるのに…。
「オレ…落ち込んでんだけど…」
そう恨みをこめて呟けば、チカは目元に溜まった涙を指で拭ったあと「わるい、わるい」なんて簡単に謝りながら差し出したオレの手に視線を落とす。
「これ、オレから…」
広げた掌に乗っかってるのはなんの変哲もない小さな市販のチョコ3つ。
種類は3つとも違う、いつもチカが好きで食べてるやつとオレのおすすめのやつ。
本当はしず姉があげたみたいなバレンタイン用の綺麗なチョコを買いたかったんだけど女の子だらけの場所に入っていく勇気がなくて…。
コンビニで買えるいつものチョコを選んでしまった…。
「こんなんで、ごめん…」
後ろめたくて手に汗が滲む。
震える手の中でチョコが溶けるんじゃないかって心配になるくらい、心臓が早くなる。
「ありがと。すっげぇ嬉しい」
チョコが落ちないようにチカの大きな手でそっと包み込まれた手を引かれて少しだけ抱き締められるように背中に回された腕にまた心臓が跳ねた。
はやく離れてくれないと…本当にチョコ溶けちゃう…。
「少し寄り道していい?」
「え…?いいけど…」
手の中のチョコ達はやっと解放されて、でもオレの手はチカと繋がれたまま暗い道を歩き出した。
誰かに見られたらマズいから本当ははやく、すぐに手を離さなきゃいけないのに…ずっと、こうしてたい…。
「どこ、行くの?」
「公園。近くにあっただろ」
「あるけど…」
なんで?と続くはずの言葉を飲みこんだのは見上げたチカの横顔がすごく嬉しそうで。
それが繋がれてない手に握られているオレのチョコの仕業なんだと思ったらオレの口も隠しきれないくらいニヤけてしまう。
「ここでいいか…。じゃあ早速、いただきます!」
小さな公園の動物の形をした遊具に座ったチカのマネしてオレも隣に座る。
チカはパンダでオレはうさぎ。下の部分がスプリングになってるから体重をかけるとゆらゆら左右前後に揺れて少しだけ気分が上がった。
座ってすぐチカはオレがあげたチョコの中から自分が好きなやつを口の中に放りこんで幸せそうに目尻を下げた。
「うまい!」
「…そっ…」
大袈裟に喜ぶチカに嬉しいような複雑な気分になる。
市販のチョコでこんなに喜んでくれるならオレの手作りだったら…なんて。
自分で傷に塩を塗りこむような考えはツラくなるだけだからすぐに頭を振って頭の中から追い出した。
「これは義経に」
「え?」
「義経の好きなやつだろ?ほら」
「…」
たしかにオレが好きなやつも買ったけど、それはチカに食べてもらうためで…なんでオレがあげたやつが返ってくんの…?
複雑…。
チカは嬉しそうな表情のまま手元に残った最後の一つを口の中に放りこむ。
それを見てオレも手元に返ってきたチョコを開けた。
チカはこれ、いらなかったのかな…。
きっとチカのことだからそういう考えはないんだろうけど…食べて欲しかったな…。
諦めてチョコを口に入れると、ふいにチカが座っていたパンダがギィと軋む音がしてオレが顔を上げると目の前にチカの顔があった。
「チカ…?」
「それ、ちょうだい?」
「え、っ!んっ!!…ん、ふ…ぁ…」
チカの言ってることが理解できなくて、ぽかんとしてたらチカの腕が頭と腰に回されたら逃げることも出来なくて。
優しく重ねられた唇に催促されるように薄く口を開くとゆっくり侵入してきた舌が口内を蹂躙しながら溶け始めてたチョコを奪い取っていった。
下手に動いたらバランスを崩すから、支えてくれてるチカの腕に体を預けてオレは必死に荒い呼吸とうるさい心臓を静める。
「ごちそうさん」
「んっ!」
耳元で吐息混じりに呟かれればオレの体は電気が走ったように跳ね、落ち着き始めた心臓がまた早くうるさくなる。
「…変態…」
かろうじて悪態を絞り出せば抱きしめられたまま、頭の上からはチカの笑い声が聞こえてきて。
「義経限定の変態だから大丈夫!」
そんな訳分かんないこと言いながらチカはまた嬉しそうに笑ってたけど。
「…」
目の前に押し付けられたチカの胸からオレのと同じくらいうるさく心臓の音が聞こえ続けてるのが嬉しくてもう少しこのまま聞いていたいなんて思ってしまった。
「今度はさ、一緒にチョコ作ろうよ。俺も作ったことないけど」
ようやく体を解放されてそう笑うチカの顔が少しだけ赤くなってるのが見えて慌てて両手で自分の顔を隠した。
きっとオレの顔はチカと比べ物にならないくらい赤くなってるはずだから…。
「義経?」
きっとチカはオレのことを不思議そうに見つめてるはずだ。
でもオレは恥ずかしくてチカを見れなくて…。
「…帰ろう?」
「…」
優しい声に指の隙間から周りを覗いてゆっくり立ち上がるとチカが立ち止まったまま手を差し出しているのが分かった。
「手を繋がないと帰らないよ」
「なっ?!」
「ほら!早く、義経!!」
「うー…」
きっとチカは意地悪い顔して笑ってる。
そんな事分かってるけど手を繋がなきゃこの状況は変えられないから…。
差し出された手に右手を伸ばす。
ほら、やっぱり。
「義経、可愛い」
オレが嫌がってるのを意地悪く笑って見てる。
ほんとむかつくくらいかっこいい…。
真っ赤な顔を隠すように俯けば、チカは一度優しく抱き締めてからゆっくり歩き出した。
夜の暗さに言い訳をして。
今は右手に伝わる温もりを感じられるこの時間が長く続けばいいと願わずにいられなかった。
end
バレンタインの予定でした…
きっとホワイトデーも間に合わない…
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