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5.青信号で渡れない
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しおりを挟むルリちゃんが渡り始めた時、急に大きな音がして、ルリちゃんのすぐ後ろを車がすごいスピードで走っていった!
びっくりしたらしいルリちゃんが、前にドテッて転んだ。ルリちゃんは横断歩道の上で、お人形みたいにかたまってる。
あたしは走り出した。はやく、はやく、ルリちゃんのところへ行かなくちゃ!
「ルリちゃん!」
叫んだら、ようやくお人形じゃなくなった。
ルリちゃんが、声がする方――あたしを見た。
信号は、青がピカピカしてる。
曲がろうとしている車が、じりじりと寄ってくる。
運転手さんの顔は、その場所からはよく見えなかった。
だから、運転手さんが今、どんなことを考えているのかはわからない。
でも、ぴたって止まってくれない車に、さっさと渡れよって文句を言われている気がした。
「ルリちゃん! あたしと一緒に、あっちまで行こう!」
ルリちゃんがこくんと頷く。
あたしはルリちゃんの手を引いて、一緒に横断歩道を渡りきった。
歩行者信号は赤になって、車の信号は黄色、赤って色が変わった。
動いていた流れが止まって、止まっていたものが流れだした。
まるで、何ごともなかったみたいに、いつも通りがそこに戻ってきた。
「大丈夫? 怪我はない?」
いつもだったらキラキラした可愛い声を聞かせてくれるルリちゃんだけれど、今はどうしても喋れないみたい。
あたしは血が出たりしているところがないか、ルリちゃんに声をかけながら確認した。
ふう。身体に怪我はないみたい。心は……心配だけど。
「びっくりしたよね。あたし、見てたよ。信号を守らない車が、ビューンって走っていくところ」
ルリちゃんの目に、涙がたまり始めた。あたしは言っちゃいけないことを言ったみたい。
「ごめん、ごめん」
謝ったら、ルリちゃんは首を横に振った。その拍子に、ためた涙が飛んで、目尻に涙の線ができた。
『ルリー?』
少し遠くから、大人の女の人の声がした。その人は、どんどんとこちらに近づいてくる。
「あの人、お母さん?」
って聞いたら、ルリちゃんはこくんこくんと頷いた。
「ルリー? 学校終わったらまっすぐ帰ってくるように……って、あら? お友だち……にしては高学年ね。こんにちは」
「こんにちは。わたしは寺坂ジュアと言います。同じ小学校の六年生で、異学年交流のときにペアを組ませてもらってます」
「あら、自己紹介がとっても上手! いつもルリがお世話になってます。ルリのお母さんのマリです。よろしくね」
ルリちゃんは怯えた顔で俯いて、じっとしてる。
だからあたしはマリさんに、ついさっきの出来事を説明した。
青信号で渡り始めたら、車がビューンってきて、ルリちゃんの少し後ろを駆け抜けていったっていう話を。
「怖かったね」
マリさんはそう言って、ルリちゃんのことをギュッてした。ギュッてすればするほど、だんだんいつものような笑顔に戻り始める。ルリちゃんは安心したみたいだ。
「ジュアちゃん、ありがとうね」
「いえ、当然のことをしたまでです」
「あら、かっこいい言葉を知ってるんだね。ルリ、こんな素敵な子とペアを組めて、幸せ者だね」
「うんっ!」
ルリちゃんの目がキラキラって輝いた。
落ち着きを取り戻したルリちゃんは、マリさんと一緒にお家へと帰っていく。
あたしは、お母さんと手を繋いだ、ランランと弾む黄色いランドセルカバーが小さくなっていく様子を見ていた。
そして、二人の背中が見えなくなったころ、心の中の怒りをそのままに、ついついあいまいに呪った。
「あんなやつ、一人で勝手に事故ればいいのに!」
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