3 / 42
かわいくない
2
しおりを挟むそして今、俺は、狭間と書かれた玄関の前にいる。
あの後結局、結婚なんていう大口を叩いてしまったプロデューサーは狭間の突拍子も無い発言に反対することもできず、完全に狭間のペースで何もかも決まってしまった。
『どうぞー』
呑気にドアを開け、いい歳の男を躊躇いなく家に上げる。
…コイツ、気が強いどころの騒ぎではない。頭、おかしいだろ。
「おい、ちょっと!そんな簡単に同棲とか決めちゃって本当に良かったのか…
……?!」
話しかけながらもリビングに入ると、その光景に、言いたかったことも何もかもブッとんだ。
『ん?あ、汚くてすみません。潔癖ですか?』
「いや、まあ綺麗好きだけど潔癖ってほどでは…ってそうじゃなくて!これ…!」
思わずまた狭間のペースに巻き込まれそうになったが、綺麗とか汚いとかそういう問題じゃなくて。
…いや、確かに部屋は汚いんだけど。
そうじゃない。
『あ、これ?私このポスター気に入ってるんですよー!』
都内高級タワーマンション、最上階。
東京の摩天楼が見下ろせる大きなバルコニーに面したリビングには、俺たちBLUE、5人のポスターが、デカデカと掲げてあった。
「…!」
くそ、やられた。
そういえばコイツ、元々BLUEのファンだって公言していたじゃないか。
製作発表の時も、BLUEが主題歌に主演のドラマでの女優デビューが嬉しい、なんて言っていたのを、今になって思い出す。
そうか、お前、最初からそのつもりで…。
「…帰る。」
『へ?やっぱり嫌になりました?』
「嫌も何も…たとえ共演者でもファンと同棲なんて、他のファンがどう思うと『あ、大丈夫ですよ』」
人の言葉を遮って、満面の笑みでこう言う。
『私、ユウジのファンなんで。』
別にヒロユキ君なんかと同棲なんてしてもドキドキしないし…
なんて言われたら、もう、何も言い返せない。
…いやいやいや、ちょっと待てよ!
なんで俺が早とちりして恥ずかしいみたいになってんだよ!俺は間違ってない!
「…それでもやっぱりそういう問題じゃ『それじゃああのクソ豚プロデューサー野郎の思う壺じゃん!』」
どうも人の話を最後まで聞けないらしいコイツの癖への苛立ちと、それを超える口の悪さへの衝撃と。
もう、ダメだ…
『あいつ仕組んでたんだよ。気付いてなかった?』
完全に戦う気力をなくした俺は、そこにあったソファーに腰掛け、無言で続きを促した。
『あの飲み会の帰り、私達に先に2人でタクシーに乗り込むように指示したの、あのプロデューサーだったでしょう?』
そう言われてみれば、そうだったかもしれない。
『でも男女のタレントが2人きりでタクシー、なんて、撮られたら危険すぎるって、私マネージャーに別に帰れるように手配してって頼んだのよ。
でも、自分もすぐ行くから大丈夫ですとしか言わなくて…』
なるほど、つまりあの写真はたまたま、撮られたわけではない。
「…全部最初から仕組まれてた、ってことか。」
パパラッチにカネでも握らせて、待たせておいたんだろう。
そりゃあ、やたら綺麗に撮れてたわけだ。
『なんか変だとは思ってたけど、こんな風になるとは思わなかったの…』
困ったように眉を下げる整った顔を見ると、俺も胸が痛んだ。
くそ、注意不足だった。
いくら酒が入ってたからといって、許される失態じゃない。
でも…
「…にしても、だからってなんで、同棲…」
『うーん、それよりご飯どうする?』
「それより?」
『え、だって、もう日付変わるよ?お腹すくじゃん。』
「…じゃん」
『ユキ君て納豆とか嫌いな人?』
「ユキ君」
『あ、そう呼んじゃヤダ?』
「いや…」
ユキ君というのはBLUEファンからの俺の愛称で、ヒロユキのユキをとって…
「ってそうじゃなくて!やっぱりお前タダのファンだろ?!」
ダメだ、コイツにペースを乱されちゃいけな『パース!』
「うぉっ?!」
『おー!さすが運動神経良いね~』
お椀やら醤油やらを抱えながらキッチンから出てくる狭間の声に我に返り、思わず反射的にキャッチしたあいつからのパスがなんだったのか、手の中を確認すると。
「……オカメ納豆。」
オカメが俺に、微笑んでいた。
『ほらそれ持ってきてここ座ってー!とりまご飯食べよ。
…あ、やっぱり納豆嫌なの?』
「…納豆は、好きだよ。」
『あ、そう?良かっ「そうじゃない」』
…そうじゃないだろう。
「天下のBLUEの1番人気コウサカヒロユキに向かって、納豆投げる奴がいるかぁぁぁ?!?!?!?!」
…ああ。終わった。
ダメだ。
ここにいると俺までアホにな『あははっ!』
狭間を見れば、腹を抱えて笑っている。
『へぇー、ユキ君て自分のことそんな風に思ってんの?うけるー!!
なんかさ、ユキ君はBLUEの中でも、こう…なんだ…?
(((クールで冷静沈着?)))
そうそうそれ!クールで冷静沈「いやいやいや今喋ったの誰だよ?!」』
ここに来てからというものツッコミどころはありすぎるが、今確かに第三者の声がしたぞ?!
『…ああ!コレ?真姫ちゃん!スクフェス~』
「って、何?え?飯食いながらスマホでゲームしてんの?!」
『うん、私ラブライバーだからね~』
「いやでも今じゃなくて良くね…?」
『えー!だってLPもったいないじゃん!』
「…L, P……。」
もう、限界だ。
7つも違うからか?
コイツが何を考えているのか、サッパリ分からない。
いや、何も考えていないのか?
とりあえず、分かったことが一つある。
「…俺、もう寝るわ。」
コイツとまともに取り合ってても、今の状況は何も変えられない。
話にならないどころか、体力を無駄に消耗するだけだ。
『ご飯いいの?お風呂は?』
「疲れた。」
『あ、そう?じゃあそっち突き当たりの部屋に和室があるから、畳んである布団敷いて寝てー?』
「おっけ」
『明日はお互いオフなんだっけ?』
「うん」
『じゃあ朝は無理に起こさなくて良いよね。』
「うん」
『了解。おやすみなさい。』
「…おやすみ」
言われた通り廊下を進むと、和室があったからここだろう。
部屋に入ってそっと襖を閉めると、無意識にため息がこぼれた。
「はぁ………どこの新婚だよ。」
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる