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「どんな心境ですか?」
休む間もなく次の撮影に進んだ俺たちは、今、チャペルにいる。
「…やっぱり緊張しますよね。
なんか、日本にいるうちに動画サイトに上がってる結婚式のビデオとか色々見て来たんですよ。役作り、って言ったら変ですけど、実際皆どういう反応するのかな~って。その中で、初めて花嫁姿を見た花婿の感動する表情がすごく印象的で。
ウェディングドレスって、何か特別こみ上げてくるものがあるのかな、と思うと、今からドキドキです。」
まずは俺1人のカットを撮影し終え、いよいよルナの登場を待っているところ。
休憩中もビデオの方は回っていたり、対応に忙しくてそれどころではないのが本音だ。
「ルナさん入りまーす」
スタッフの声がするので、
「ふぅ…いよいよですよ。緊張する。」
カメラに笑いかけて、チャペル後方のドアが開くのを待つ。
ガタン、と厳かな音が低く響いて扉が開き、その奥から現れたルナは………多分、この世の何よりも美しい。
『どう…?』
でも、遠慮がちに俺に聞くルナに、正直に答えるとしたら、最高に似合わない、と言わなきゃいけない。
これは本当だ。
俺も不思議なんだけど、いつものメンズLのスウェットの方がよっぽど似合うんだ。
それが、俺の知っている、家でゴロゴロする怠け者には、一番似合うし、一番ルナらしい姿だから。
だから、そんな、いつもより着飾った、重たそうなドレスなんて、似合わない。
胸に輝くその高そうなネックレスも、お前、あんなに汚いリビングじゃあ、すぐに失くすぞ。
第一、ルナはモデルなんだから、ドレス姿なんて見慣れてるんだ。
なのに、どうして、涙が出るんだろう。
「…あーあ。なんだこれ。」
メイク直さなきゃいけないじゃないか。
「…綺麗すぎるよ、ルナ」
感動と、切なさと、感謝と、愛おしさと。
もうなんて言えば良いのか分からないこの気持ちで胸を押し潰されそうになりながら、俺は、やっと、それだけ言えた。
そこに一番あるべきはずの、希望だけが、俺にはなかった。
『…ふふっ。』
ルナが優しく微笑めば、スタッフからは自然と拍手が湧いて。
「向坂君メイク直してる間に、るーなのカット行くよ~」
「「「はーい」」」
高田さんの声で、また現場が動き出す。
「どうでした?」
ニヤニヤしながらメイク直し中の俺を撮るカメラマンさんは、多分既婚者で、最初から俺が泣くと分かってたな、と思った。
「…まさか本当に泣くとは、って感じっすよ。」
恥ずかしいから撮らないで、と手でカメラを隠してみせたけど、きっとこれはいいように編集されるぞ。
男泣き、とかなんとかってね。
「向坂くーん、準備できたらスタンバイ~」
「はーい、向坂さんメイクおっけーです!」
ありがとうございます、とメイクさんに挨拶して、チャペルの祭壇へ向かう。
ルナは白いブーケを持って、俺を待っていた。
「一応、表紙はこの後の海でのカット使う予定だけど、もし天気悪くなってダメんなったらこれ使うから、2人とも気合い入れてね。」
『はい』
「はい」
まあ今日は雨降らなさそうだけど~、とは言いつつも念を押され、ルナも俺も力が入る。
そして付けられた注文は、ナチュラルに、という、もう憎たらしいとしか言いようのない、素人にはキツイあれだ。
「ルナは?ドレス、着てみてどう?」
小声で笑いかければ、
『…動きにくい。』
顔をしかめる。
本当はマーメイド型のドレスが良かったが、衣装提供なんかの事情でそれは叶わなかったらしい。
オトナの事情ってやつだ。
「るーな顔しかめない!」
『ごめんなさーい』
「舌出さない!」
『へいへい。』
「向坂君もカタイよ~」
「…すいません。」
「いいか~2人とも、世界で一番愛する人とのウェディングだぞ~」
高田さんに叱られつつも、撮影は進む。
休む間もなく次の撮影に進んだ俺たちは、今、チャペルにいる。
「…やっぱり緊張しますよね。
なんか、日本にいるうちに動画サイトに上がってる結婚式のビデオとか色々見て来たんですよ。役作り、って言ったら変ですけど、実際皆どういう反応するのかな~って。その中で、初めて花嫁姿を見た花婿の感動する表情がすごく印象的で。
ウェディングドレスって、何か特別こみ上げてくるものがあるのかな、と思うと、今からドキドキです。」
まずは俺1人のカットを撮影し終え、いよいよルナの登場を待っているところ。
休憩中もビデオの方は回っていたり、対応に忙しくてそれどころではないのが本音だ。
「ルナさん入りまーす」
スタッフの声がするので、
「ふぅ…いよいよですよ。緊張する。」
カメラに笑いかけて、チャペル後方のドアが開くのを待つ。
ガタン、と厳かな音が低く響いて扉が開き、その奥から現れたルナは………多分、この世の何よりも美しい。
『どう…?』
でも、遠慮がちに俺に聞くルナに、正直に答えるとしたら、最高に似合わない、と言わなきゃいけない。
これは本当だ。
俺も不思議なんだけど、いつものメンズLのスウェットの方がよっぽど似合うんだ。
それが、俺の知っている、家でゴロゴロする怠け者には、一番似合うし、一番ルナらしい姿だから。
だから、そんな、いつもより着飾った、重たそうなドレスなんて、似合わない。
胸に輝くその高そうなネックレスも、お前、あんなに汚いリビングじゃあ、すぐに失くすぞ。
第一、ルナはモデルなんだから、ドレス姿なんて見慣れてるんだ。
なのに、どうして、涙が出るんだろう。
「…あーあ。なんだこれ。」
メイク直さなきゃいけないじゃないか。
「…綺麗すぎるよ、ルナ」
感動と、切なさと、感謝と、愛おしさと。
もうなんて言えば良いのか分からないこの気持ちで胸を押し潰されそうになりながら、俺は、やっと、それだけ言えた。
そこに一番あるべきはずの、希望だけが、俺にはなかった。
『…ふふっ。』
ルナが優しく微笑めば、スタッフからは自然と拍手が湧いて。
「向坂君メイク直してる間に、るーなのカット行くよ~」
「「「はーい」」」
高田さんの声で、また現場が動き出す。
「どうでした?」
ニヤニヤしながらメイク直し中の俺を撮るカメラマンさんは、多分既婚者で、最初から俺が泣くと分かってたな、と思った。
「…まさか本当に泣くとは、って感じっすよ。」
恥ずかしいから撮らないで、と手でカメラを隠してみせたけど、きっとこれはいいように編集されるぞ。
男泣き、とかなんとかってね。
「向坂くーん、準備できたらスタンバイ~」
「はーい、向坂さんメイクおっけーです!」
ありがとうございます、とメイクさんに挨拶して、チャペルの祭壇へ向かう。
ルナは白いブーケを持って、俺を待っていた。
「一応、表紙はこの後の海でのカット使う予定だけど、もし天気悪くなってダメんなったらこれ使うから、2人とも気合い入れてね。」
『はい』
「はい」
まあ今日は雨降らなさそうだけど~、とは言いつつも念を押され、ルナも俺も力が入る。
そして付けられた注文は、ナチュラルに、という、もう憎たらしいとしか言いようのない、素人にはキツイあれだ。
「ルナは?ドレス、着てみてどう?」
小声で笑いかければ、
『…動きにくい。』
顔をしかめる。
本当はマーメイド型のドレスが良かったが、衣装提供なんかの事情でそれは叶わなかったらしい。
オトナの事情ってやつだ。
「るーな顔しかめない!」
『ごめんなさーい』
「舌出さない!」
『へいへい。』
「向坂君もカタイよ~」
「…すいません。」
「いいか~2人とも、世界で一番愛する人とのウェディングだぞ~」
高田さんに叱られつつも、撮影は進む。
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