30 / 42
ありがとう
29
しおりを挟む
それが終われば今度は、チャペルから車で10分くらい行った海で、表紙にもなるだろう撮影がスタートする。
ここでは俺1人のカットはないので、まずはルナのピンを見学。
白い砂浜と、真っ青な海。
ウェディングドレスという魔法に身を包んだルナは、どこまでも続く空にも負けない、圧倒的な存在感だ。
「…はいそのまま前見て~…そうそうそう…」
指示に的確に答えていく姿は、吹く風さえも意のままのよう。
見る者全てを虜にするような、うっとりする表情をする。
少し切なさのまじるその笑みは、俺と同じ気持ちでいてくれるからだと思って良いんだろうか。
この仕事を受けると決めた時の俺は、何も分かっていなかったと、ハワイに来てからもう何度も思わされている。
思い出だけでも、なんて。
そんなの無理だろう。
どうにもならないと分かっていても、どうにかしてルナを手に入れたいと思ってしまう。
『ユキ君~おいで~!』
無邪気に手を振るルナが、いつも通りで、なのにそんなに綺麗で、いや、いつも綺麗なんだけど、何かが違って。
それが、誰かと永遠を誓うための格好をしているからなのは、明白で。
分かってるんだ、これは撮影だって。
だけどウェディングドレスを見ると無意識に、幸せ、というワードを連想してしまう、人間の先入観みたいなものが邪魔して。
もしかしたら、もしかしたらこれは現実なんじゃないか、なんていう俺のポジティブすぎるアホみたいな都合の良い考えが、ふっと浮かんでは、必死に沈めこむ。
近い将来、その隣にいるのは、俺じゃない、と言い聞かせて。
そしてまたその現実に心がえぐられて、やっぱり俺の目頭はジンとして。
ああ、くそ。
「向坂君、笑顔!」
そんな気持ちでいる時に、笑える奴がいるかよ。
俺の気持ちが、誰に分かるかよ。
なんて思いつつ、もう何度目だろう、また自分を虐める。
仕事を受けたのは自分だと。
それを繰り返せば、段々耐性がついて来て、やっと俺は普通に笑顔が作れるようになる。
そんなことを知ってか知らずか、そのタイミングで高田さんは、2人で見つめ合うカットの指示を出した。
『ふふっ、何これ、照れちゃうよね。』
幸せそうなルナを見れば、やっぱり俺の口元も緩む。
俺が苦しくなるのも、幸せになるのも、全部全部ルナのせいで。
ああ、愛してるって、こういうことね。
俺の中の誰かが、妙に納得していた。
ルナの笑顔が魔法みたいに俺をリラックスさせてくれて、雰囲気が良く撮影が進んで、さあ、いざ表紙を撮るぞって時になって。
『…あー!もう、本当にごめんなさい。すみません、今すぐ、止めるから』
泣いたのは、ルナの方だった。
『わー、なんでだろ、止まんないよ。』
徐々に夕陽も傾き始めて、それが余計ルナを焦らすのか、涙は止まらないどころか、どんどん溢れる。
スタッフや俺に何度も謝るその姿が、苦しそうで。
その涙の理由を、自分に重ねるのは容易だった。
「…良いよ。」
もう、良いよ。
そう言って、ルナを抱き上げた。
ルナは慣れたようにバランスをとって俺の首に手を回しながら、へ?と聞き返した。
「…そんなに俺を好きだと思ってくれたなら、この何ヶ月かに、ちゃんと意味があったって、思える。」
それだけで、もう、良いよ。
ルナはグチャグチャな顔で、大粒の涙を溜めて、一瞬驚いたように目を見張った後、最高に優しく微笑んで、愛おしそうに俺の頬に触れた。
その、切なさを閉じ込めた、細くてか弱い指先から、なぜだろう、温かくて幸せな気持ちが俺の心に流れこんで。
「…愛してる。」
その言葉は、無意識にこぼれるものだと、初めて知った。
ここでは俺1人のカットはないので、まずはルナのピンを見学。
白い砂浜と、真っ青な海。
ウェディングドレスという魔法に身を包んだルナは、どこまでも続く空にも負けない、圧倒的な存在感だ。
「…はいそのまま前見て~…そうそうそう…」
指示に的確に答えていく姿は、吹く風さえも意のままのよう。
見る者全てを虜にするような、うっとりする表情をする。
少し切なさのまじるその笑みは、俺と同じ気持ちでいてくれるからだと思って良いんだろうか。
この仕事を受けると決めた時の俺は、何も分かっていなかったと、ハワイに来てからもう何度も思わされている。
思い出だけでも、なんて。
そんなの無理だろう。
どうにもならないと分かっていても、どうにかしてルナを手に入れたいと思ってしまう。
『ユキ君~おいで~!』
無邪気に手を振るルナが、いつも通りで、なのにそんなに綺麗で、いや、いつも綺麗なんだけど、何かが違って。
それが、誰かと永遠を誓うための格好をしているからなのは、明白で。
分かってるんだ、これは撮影だって。
だけどウェディングドレスを見ると無意識に、幸せ、というワードを連想してしまう、人間の先入観みたいなものが邪魔して。
もしかしたら、もしかしたらこれは現実なんじゃないか、なんていう俺のポジティブすぎるアホみたいな都合の良い考えが、ふっと浮かんでは、必死に沈めこむ。
近い将来、その隣にいるのは、俺じゃない、と言い聞かせて。
そしてまたその現実に心がえぐられて、やっぱり俺の目頭はジンとして。
ああ、くそ。
「向坂君、笑顔!」
そんな気持ちでいる時に、笑える奴がいるかよ。
俺の気持ちが、誰に分かるかよ。
なんて思いつつ、もう何度目だろう、また自分を虐める。
仕事を受けたのは自分だと。
それを繰り返せば、段々耐性がついて来て、やっと俺は普通に笑顔が作れるようになる。
そんなことを知ってか知らずか、そのタイミングで高田さんは、2人で見つめ合うカットの指示を出した。
『ふふっ、何これ、照れちゃうよね。』
幸せそうなルナを見れば、やっぱり俺の口元も緩む。
俺が苦しくなるのも、幸せになるのも、全部全部ルナのせいで。
ああ、愛してるって、こういうことね。
俺の中の誰かが、妙に納得していた。
ルナの笑顔が魔法みたいに俺をリラックスさせてくれて、雰囲気が良く撮影が進んで、さあ、いざ表紙を撮るぞって時になって。
『…あー!もう、本当にごめんなさい。すみません、今すぐ、止めるから』
泣いたのは、ルナの方だった。
『わー、なんでだろ、止まんないよ。』
徐々に夕陽も傾き始めて、それが余計ルナを焦らすのか、涙は止まらないどころか、どんどん溢れる。
スタッフや俺に何度も謝るその姿が、苦しそうで。
その涙の理由を、自分に重ねるのは容易だった。
「…良いよ。」
もう、良いよ。
そう言って、ルナを抱き上げた。
ルナは慣れたようにバランスをとって俺の首に手を回しながら、へ?と聞き返した。
「…そんなに俺を好きだと思ってくれたなら、この何ヶ月かに、ちゃんと意味があったって、思える。」
それだけで、もう、良いよ。
ルナはグチャグチャな顔で、大粒の涙を溜めて、一瞬驚いたように目を見張った後、最高に優しく微笑んで、愛おしそうに俺の頬に触れた。
その、切なさを閉じ込めた、細くてか弱い指先から、なぜだろう、温かくて幸せな気持ちが俺の心に流れこんで。
「…愛してる。」
その言葉は、無意識にこぼれるものだと、初めて知った。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる