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それが終われば今度は、チャペルから車で10分くらい行った海で、表紙にもなるだろう撮影がスタートする。
ここでは俺1人のカットはないので、まずはルナのピンを見学。
白い砂浜と、真っ青な海。
ウェディングドレスという魔法に身を包んだルナは、どこまでも続く空にも負けない、圧倒的な存在感だ。
「…はいそのまま前見て~…そうそうそう…」
指示に的確に答えていく姿は、吹く風さえも意のままのよう。
見る者全てを虜にするような、うっとりする表情をする。
少し切なさのまじるその笑みは、俺と同じ気持ちでいてくれるからだと思って良いんだろうか。
この仕事を受けると決めた時の俺は、何も分かっていなかったと、ハワイに来てからもう何度も思わされている。
思い出だけでも、なんて。
そんなの無理だろう。
どうにもならないと分かっていても、どうにかしてルナを手に入れたいと思ってしまう。
『ユキ君~おいで~!』
無邪気に手を振るルナが、いつも通りで、なのにそんなに綺麗で、いや、いつも綺麗なんだけど、何かが違って。
それが、誰かと永遠を誓うための格好をしているからなのは、明白で。
分かってるんだ、これは撮影だって。
だけどウェディングドレスを見ると無意識に、幸せ、というワードを連想してしまう、人間の先入観みたいなものが邪魔して。
もしかしたら、もしかしたらこれは現実なんじゃないか、なんていう俺のポジティブすぎるアホみたいな都合の良い考えが、ふっと浮かんでは、必死に沈めこむ。
近い将来、その隣にいるのは、俺じゃない、と言い聞かせて。
そしてまたその現実に心がえぐられて、やっぱり俺の目頭はジンとして。
ああ、くそ。
「向坂君、笑顔!」
そんな気持ちでいる時に、笑える奴がいるかよ。
俺の気持ちが、誰に分かるかよ。
なんて思いつつ、もう何度目だろう、また自分を虐める。
仕事を受けたのは自分だと。
それを繰り返せば、段々耐性がついて来て、やっと俺は普通に笑顔が作れるようになる。
そんなことを知ってか知らずか、そのタイミングで高田さんは、2人で見つめ合うカットの指示を出した。
『ふふっ、何これ、照れちゃうよね。』
幸せそうなルナを見れば、やっぱり俺の口元も緩む。
俺が苦しくなるのも、幸せになるのも、全部全部ルナのせいで。
ああ、愛してるって、こういうことね。
俺の中の誰かが、妙に納得していた。
ルナの笑顔が魔法みたいに俺をリラックスさせてくれて、雰囲気が良く撮影が進んで、さあ、いざ表紙を撮るぞって時になって。
『…あー!もう、本当にごめんなさい。すみません、今すぐ、止めるから』
泣いたのは、ルナの方だった。
『わー、なんでだろ、止まんないよ。』
徐々に夕陽も傾き始めて、それが余計ルナを焦らすのか、涙は止まらないどころか、どんどん溢れる。
スタッフや俺に何度も謝るその姿が、苦しそうで。
その涙の理由を、自分に重ねるのは容易だった。
「…良いよ。」
もう、良いよ。
そう言って、ルナを抱き上げた。
ルナは慣れたようにバランスをとって俺の首に手を回しながら、へ?と聞き返した。
「…そんなに俺を好きだと思ってくれたなら、この何ヶ月かに、ちゃんと意味があったって、思える。」
それだけで、もう、良いよ。
ルナはグチャグチャな顔で、大粒の涙を溜めて、一瞬驚いたように目を見張った後、最高に優しく微笑んで、愛おしそうに俺の頬に触れた。
その、切なさを閉じ込めた、細くてか弱い指先から、なぜだろう、温かくて幸せな気持ちが俺の心に流れこんで。
「…愛してる。」
その言葉は、無意識にこぼれるものだと、初めて知った。
ここでは俺1人のカットはないので、まずはルナのピンを見学。
白い砂浜と、真っ青な海。
ウェディングドレスという魔法に身を包んだルナは、どこまでも続く空にも負けない、圧倒的な存在感だ。
「…はいそのまま前見て~…そうそうそう…」
指示に的確に答えていく姿は、吹く風さえも意のままのよう。
見る者全てを虜にするような、うっとりする表情をする。
少し切なさのまじるその笑みは、俺と同じ気持ちでいてくれるからだと思って良いんだろうか。
この仕事を受けると決めた時の俺は、何も分かっていなかったと、ハワイに来てからもう何度も思わされている。
思い出だけでも、なんて。
そんなの無理だろう。
どうにもならないと分かっていても、どうにかしてルナを手に入れたいと思ってしまう。
『ユキ君~おいで~!』
無邪気に手を振るルナが、いつも通りで、なのにそんなに綺麗で、いや、いつも綺麗なんだけど、何かが違って。
それが、誰かと永遠を誓うための格好をしているからなのは、明白で。
分かってるんだ、これは撮影だって。
だけどウェディングドレスを見ると無意識に、幸せ、というワードを連想してしまう、人間の先入観みたいなものが邪魔して。
もしかしたら、もしかしたらこれは現実なんじゃないか、なんていう俺のポジティブすぎるアホみたいな都合の良い考えが、ふっと浮かんでは、必死に沈めこむ。
近い将来、その隣にいるのは、俺じゃない、と言い聞かせて。
そしてまたその現実に心がえぐられて、やっぱり俺の目頭はジンとして。
ああ、くそ。
「向坂君、笑顔!」
そんな気持ちでいる時に、笑える奴がいるかよ。
俺の気持ちが、誰に分かるかよ。
なんて思いつつ、もう何度目だろう、また自分を虐める。
仕事を受けたのは自分だと。
それを繰り返せば、段々耐性がついて来て、やっと俺は普通に笑顔が作れるようになる。
そんなことを知ってか知らずか、そのタイミングで高田さんは、2人で見つめ合うカットの指示を出した。
『ふふっ、何これ、照れちゃうよね。』
幸せそうなルナを見れば、やっぱり俺の口元も緩む。
俺が苦しくなるのも、幸せになるのも、全部全部ルナのせいで。
ああ、愛してるって、こういうことね。
俺の中の誰かが、妙に納得していた。
ルナの笑顔が魔法みたいに俺をリラックスさせてくれて、雰囲気が良く撮影が進んで、さあ、いざ表紙を撮るぞって時になって。
『…あー!もう、本当にごめんなさい。すみません、今すぐ、止めるから』
泣いたのは、ルナの方だった。
『わー、なんでだろ、止まんないよ。』
徐々に夕陽も傾き始めて、それが余計ルナを焦らすのか、涙は止まらないどころか、どんどん溢れる。
スタッフや俺に何度も謝るその姿が、苦しそうで。
その涙の理由を、自分に重ねるのは容易だった。
「…良いよ。」
もう、良いよ。
そう言って、ルナを抱き上げた。
ルナは慣れたようにバランスをとって俺の首に手を回しながら、へ?と聞き返した。
「…そんなに俺を好きだと思ってくれたなら、この何ヶ月かに、ちゃんと意味があったって、思える。」
それだけで、もう、良いよ。
ルナはグチャグチャな顔で、大粒の涙を溜めて、一瞬驚いたように目を見張った後、最高に優しく微笑んで、愛おしそうに俺の頬に触れた。
その、切なさを閉じ込めた、細くてか弱い指先から、なぜだろう、温かくて幸せな気持ちが俺の心に流れこんで。
「…愛してる。」
その言葉は、無意識にこぼれるものだと、初めて知った。
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