阿呆になりて直日の御霊で受けよ

降守鳳都

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其の拾肆 捕捉

天照とは何者か

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大海人皇子の名前である大海人が養育先の豪族である氏族の
大海氏から来ていることは最初に記述した。
大海氏の姓は連なので大海連となる。
大海連は、火明命(ほあかりのみこと)、
正式名称は天照国照火明命
(あまてらすくにてらすほあかりのみこと)の後裔
つまり子孫であり、天照国照火明命は元伊勢の
この神社の主祭神である。詳しく言えば、現在の
伊勢神宮が伊勢に祭られる前の伊勢神宮の主祭神
ということになる。伊勢神宮が現在の場所に
祭られるようになったいきさつは
天照大神の託宣によるものである。外宮に豊受大神が
祭られるようになったのも天照大神の託宣に
よるものであり、この託宣についてここでは
詳しくは触れないが、内容は極めて女子的な言い分で
微笑ましいものがある。先祖は火明命だが、
大海連の氏神は、綿津見神(わたつみのかみ)という
海神である。氏神とは家族やその地域に住む人たちを
守っている神のことであり、その生業を助ける点を
軸にしてこのような形になっただろうと推察できるので、
祖霊信仰とは少し違ってくる信仰の形態である。
言い換えるならばビジネスパートナーとして
オブザーバーとして祭っているという形である。
断っておくが、現在の御利益信仰ほどに荒んではいなくて、
「病める時も健やかなる時も…」的な感じである。
こちらもパートナーシップの側面が強調されているので
例えとしてはどうかと思われるが…。
のちの天皇家である大王家の氏神は天照大神とされている。
この場合は単純に祖霊信仰と捉えることが出来る。
何故ならば、大王の仕事は国を治めることであり、
国土を平穏無事に保ち、民を育むことであるから
労働的な生業というものがない。
伊勢神宮が国家神道の総社となるのは、大海人皇子に
よってであるが、それ以前においてもすでに
伊勢神宮が国家神道の総社であって、
仏教の興隆によってその影が薄れていたところを
取り返したと言えなくもない。そのように捉えてみると、
大海人皇子は天照国照火明命の後裔を後ろ盾に持った
天照大神の子孫であると言うことになる。
これは現代風に言うならば、キング・オブ・キング
ということになる。
また、天照大神には様々な見解があり、
大日孁貴と同一視する話や、天照国照火明命が
時の政権の都合により女性化されたなどの見解が
存在するわけだが、それぞれが同じでありそれぞれが
別であるという捉え方が良いように思われる。
太陽信仰は世界各地に見受けられるものであり、
また名前を受け継ぐことでその精神性を継承する
考え方は珍しいことではないので、もしかすると
それぞれは別の人物であり、同じように太陽の恵みに
基づいた尊称を与えられつつも、それぞれの個性に
基づいて呼び方が変名されたという捉え方が
出来ないわけではない。
あれこれと述べたが、このタイミングにおいての
神宮遥拝についても様々な見解が存在する。
戦勝祈願ならば三笠宮つまり今の加佐登神社に
少し足を伸ばしても問題はないだろうし、
倭姫王の駄馬を拝借した件についての謝辞についても
わざわざこのような形でする必要はない話
と言えなくもない。そのように考えてみると、
神宮遥拝の行為は、単純に彼自身が一人の人間としての
自らの在り方をリセットするために行った、
純粋な祈りだったように私には思われる。
滅亡寸前の状況の中、ただ黙って滅ぼされるのではなく
生きることを選んだ時に、大海人皇子という人が自らに
大義があるのかどうかを問いかけるタイプの人だとすれば、
この祈りの行為はごく自然な行為でしかない。
滅亡寸前の状況の中、ただ黙って滅ぼされるのではなく
生きることを選ぶ機会などに遭遇することなく、
平々凡々に生きて来た人には想定もつかないことであり、
そんなことがあるのかとしか思わない話であるが、
それは案外に不幸なのかも知れない。
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