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エピローグ
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冬。ほぼ予定日通りに、甥っ子が生まれた。あの忠則が立ち会ったと聞いて、心底驚いた。病院には、両親で付き添ったらしい。もう、祖父母か。名前を聞いた時には、かなりリアクションに困った。父がまた天体にちなんでつけたそうなのだが、姉も忠則もよく了承したと思った。
可愛い甥っ子の名前は、『早乙女七星』これで、ななせ、と読ませるのだそうだ。北斗七星からとったのだろう。一臣と二人、こっそりとキラキラだね、星だけにねと言い合った。
とにかく無事に、あざ一つなく健康に生まれてくれて、心底ほっとしている自分がいた。毎日写真が送られてくる。産院に若い男が面会に行くのははばかられたので、退院して落ち着いたころにお祝いを持っていこうということになった。諏訪にもらった、バイト代から二万円。一臣からは、おくるみにも使える温かなタオルだった。写真だけでも、十分可愛いと思えた。実際に会うのが楽しみだった。
友成の言った通り、造形学は役に立ったらしい。本能に訴えかけるものが確かにあった。血のつながりも、確かに感じた。
姉の体調も良いらしく、しばらくは心配事と離れた生活ができそうだと思った。
「わぁ。ちっちゃーい。」
差し出した人差し指を握る七星の手。本当にモミジみたいだった。小さいながら、ちゃんと爪もついている。上下に小さく揺らして遊んでいると、姉がやってきて、ほーら七星、すばるおじちゃんですよーと紹介してくれた。そうか、叔父さんか。微妙な気持ちになったから、しばらくはお兄ちゃんて呼ばせるから!と宣言してしまった。
リビングに、ベビーベッド。この家はすっかり赤ちゃんのいる家の雰囲気になっていた。
忠則は急な仕事で不在だった。父は買い出しに出ているらしい。それにほっとしつつ、一通り七星を愛でると、リビングのソファーに座った。上機嫌の母が、温かいお茶を入れてくれる。一臣と向かい合わせに座り、手土産のクッキーをつまんだ。
「ミルクのアレルギーは大丈夫そうですね。」
一臣が、七星の顔を見て言った。まだ赤身はあるものの、きれいな肌だと思った。
「母乳だけだとまだ足りなくて、ミルクも足してるけど、飲みもいいし、下痢もないから多分大丈夫だと思うわ。」
明が答える。
「お医者さんは見るところが違うのね。」
と母が笑う。
「何かあったら診てもらおうかしら?」
「それは、ちゃんとした小児科の先生にお願いしてください。」
一臣は、慌てて申し出を断った。
「でも、日曜日に急な発熱とか、やっぱり心配よね。相談だけでもできる相手がいたら安心だわ。」
どうやら一臣はこれから、小児科の基礎知識も復習しなければならなくなったようだった。
「研修医時代に少しかじったくらいですから、アテにしないでください。」
一臣は、苦笑して、お茶で口を湿らせた。
七星が、ヒンヒンと声をあげて泣き始めた。
「あぁ。そろそろお腹空いたかしらね。」
明は、七星を抱き上げると、二階へと上がっていった。自室で母乳を与えるためだろう。長居は無用だ。可愛い七星と遊べるようになるのはまだ先のことだろう。その頃には、実家に来る頻度も増えているかもしれないと思った。
「帰ろうか。」
一臣に言うと、そうだね、と頷いて立ち上がった。湯呑にはまだお茶が残っていたけれど。この家に自分の居場所はない。
母が、玄関まで見送ってくれた。
「男の子も、可愛いものだったのね。すばるの時のことは・・・あまり覚えていないの。でもきっと、同じに可愛かったと思うわ。・・・じゃぁまた近いうちに。」
そう言うと、一臣にペコリとお辞儀した。
「すばるをよろしく頼みます。」
「もちろんです。任せてください。」
一臣はそうさわやかに応えると、二人早乙女家を後にした。
いつものコインパーキングへ向かう。歩いて十分ほどだ。
「早く帰ろう?アルが待ってる。」
アルは、外出から帰ると、玄関で迎えてくれるようになっていた。誰が教えたわけでもないが、車が車庫に入る音が聞こえるのだろう。片耳で、けなげなことだと思う。だから余計に、なるべく家にいてやりたくなる。
「うん。・・・寒いね・・・。」
一臣がそっと手を差し伸べる。それを握り返して、冷えた一臣の手を温める。
「もう少し大人になったら、パートナー、申請してくれる?」
「え?」
そうしたら、外でこんな風に手をつなぐことが、もう少し自由になるような気がして。
「・・・そうだね。君の気が変わらなければ。でも、まずは成人式だね。すばるのスーツ姿見るの楽しみだな。出会ったころは、まだ制服着てたもんね。時間が経つのは早いなぁ。」
「うん。時間が経つの怖いから、ずっとこのままいたいけど、一臣さんとだったらきっと大丈夫。」
だからずっと一緒にいてね、と微笑む。
一臣が、ずっとねと、一瞬、触れるだけのキスを頬にして離れた。
「家に帰って、ゆっくり続きしようか。」
ふふ、といたずらっぽく笑って、一臣はぎゅうっと手を握り直した。
END
可愛い甥っ子の名前は、『早乙女七星』これで、ななせ、と読ませるのだそうだ。北斗七星からとったのだろう。一臣と二人、こっそりとキラキラだね、星だけにねと言い合った。
とにかく無事に、あざ一つなく健康に生まれてくれて、心底ほっとしている自分がいた。毎日写真が送られてくる。産院に若い男が面会に行くのははばかられたので、退院して落ち着いたころにお祝いを持っていこうということになった。諏訪にもらった、バイト代から二万円。一臣からは、おくるみにも使える温かなタオルだった。写真だけでも、十分可愛いと思えた。実際に会うのが楽しみだった。
友成の言った通り、造形学は役に立ったらしい。本能に訴えかけるものが確かにあった。血のつながりも、確かに感じた。
姉の体調も良いらしく、しばらくは心配事と離れた生活ができそうだと思った。
「わぁ。ちっちゃーい。」
差し出した人差し指を握る七星の手。本当にモミジみたいだった。小さいながら、ちゃんと爪もついている。上下に小さく揺らして遊んでいると、姉がやってきて、ほーら七星、すばるおじちゃんですよーと紹介してくれた。そうか、叔父さんか。微妙な気持ちになったから、しばらくはお兄ちゃんて呼ばせるから!と宣言してしまった。
リビングに、ベビーベッド。この家はすっかり赤ちゃんのいる家の雰囲気になっていた。
忠則は急な仕事で不在だった。父は買い出しに出ているらしい。それにほっとしつつ、一通り七星を愛でると、リビングのソファーに座った。上機嫌の母が、温かいお茶を入れてくれる。一臣と向かい合わせに座り、手土産のクッキーをつまんだ。
「ミルクのアレルギーは大丈夫そうですね。」
一臣が、七星の顔を見て言った。まだ赤身はあるものの、きれいな肌だと思った。
「母乳だけだとまだ足りなくて、ミルクも足してるけど、飲みもいいし、下痢もないから多分大丈夫だと思うわ。」
明が答える。
「お医者さんは見るところが違うのね。」
と母が笑う。
「何かあったら診てもらおうかしら?」
「それは、ちゃんとした小児科の先生にお願いしてください。」
一臣は、慌てて申し出を断った。
「でも、日曜日に急な発熱とか、やっぱり心配よね。相談だけでもできる相手がいたら安心だわ。」
どうやら一臣はこれから、小児科の基礎知識も復習しなければならなくなったようだった。
「研修医時代に少しかじったくらいですから、アテにしないでください。」
一臣は、苦笑して、お茶で口を湿らせた。
七星が、ヒンヒンと声をあげて泣き始めた。
「あぁ。そろそろお腹空いたかしらね。」
明は、七星を抱き上げると、二階へと上がっていった。自室で母乳を与えるためだろう。長居は無用だ。可愛い七星と遊べるようになるのはまだ先のことだろう。その頃には、実家に来る頻度も増えているかもしれないと思った。
「帰ろうか。」
一臣に言うと、そうだね、と頷いて立ち上がった。湯呑にはまだお茶が残っていたけれど。この家に自分の居場所はない。
母が、玄関まで見送ってくれた。
「男の子も、可愛いものだったのね。すばるの時のことは・・・あまり覚えていないの。でもきっと、同じに可愛かったと思うわ。・・・じゃぁまた近いうちに。」
そう言うと、一臣にペコリとお辞儀した。
「すばるをよろしく頼みます。」
「もちろんです。任せてください。」
一臣はそうさわやかに応えると、二人早乙女家を後にした。
いつものコインパーキングへ向かう。歩いて十分ほどだ。
「早く帰ろう?アルが待ってる。」
アルは、外出から帰ると、玄関で迎えてくれるようになっていた。誰が教えたわけでもないが、車が車庫に入る音が聞こえるのだろう。片耳で、けなげなことだと思う。だから余計に、なるべく家にいてやりたくなる。
「うん。・・・寒いね・・・。」
一臣がそっと手を差し伸べる。それを握り返して、冷えた一臣の手を温める。
「もう少し大人になったら、パートナー、申請してくれる?」
「え?」
そうしたら、外でこんな風に手をつなぐことが、もう少し自由になるような気がして。
「・・・そうだね。君の気が変わらなければ。でも、まずは成人式だね。すばるのスーツ姿見るの楽しみだな。出会ったころは、まだ制服着てたもんね。時間が経つのは早いなぁ。」
「うん。時間が経つの怖いから、ずっとこのままいたいけど、一臣さんとだったらきっと大丈夫。」
だからずっと一緒にいてね、と微笑む。
一臣が、ずっとねと、一瞬、触れるだけのキスを頬にして離れた。
「家に帰って、ゆっくり続きしようか。」
ふふ、といたずらっぽく笑って、一臣はぎゅうっと手を握り直した。
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感想ありがとうございます!
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そちらも、公開予定ですので、読んでいただければ幸いです。
重ねてお礼申し上げます。