期限付きの猫

結城 鈴

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 今日からずっと、あの人と仕事なのかな。
思い出すのは、アトリエで会った鈴井だ。きれいな人だった。
家に帰っても誰もいないんだよ?僕も、アンも。
三日の同窓会だって、断ったはず。淋しそうにしてたじゃないか。なのになんで?
邪魔になったのか・・・な・・・。
力なくため息をつく、ラブキャット二階の居間。こたつに潜って、紅白を見ている。もう終盤だ。もうすぐゆく年くる年が始まって・・・思っていると、気の早いお寺が鐘をつき始めた。一つ二つと増えていく。まるでため息のよう・・・。
「どうした?久しぶりの実家、嬉しくないのか?」
「お父さん・・・。僕なんか、もう帰ってくる家ここじゃない感がすごい。」
「おいおい・・・。」
そんなに居心地良いのか?高級マンション。とからかってくるがそうではない。
「僕は、孝利さんといたかったのに・・・。」
やんわりだったけど・・・拒絶された、と思う。そう感じた。
「おいおい?お前、あの人とどうにかなったんじゃないだろうな・・・。」
心配そうな声で、父親が聞いてくる。興味本位、という体ではない。
「だったら・・・どうする?」
「はぁ?・・・どこまで?まさかゴムは使ったんだろうな?」
「え。っていうか、心配するところそこ?」
当たり前だろう?と少し怒った顔をしている。
「大事な息子に病気でもうつされたら大変だからな。」
「あ。その心配は大丈夫だと思う。たぶん。」
男は初めてって言ってたし。見た感じや味も、変なところはなかったように思う。
「冗談・・・じゃないんだな?」
「年の暮れにこんな深刻な冗談言わないよ。付き合ってる。」
「付き合ってるって、じゃぁなんで帰ってきたんだ?」
そんなのこっちが聞きたいよ。
返事はため息で返した。
「おーいかあさん。ちょっと。」
父親が、キッチンで雑煮の支度をする母に、声をかける。
アンは、こたつの中でくつろいでいる。広い家で飼われたせいで、今更狭いケージには入れなかった。
「はーい。なに?」
「健斗がさ。北村さんとできちゃったらしいんだな。」
「できちゃったって、赤ちゃん?」
あっはっは、と母が笑う。
「やめてよ、そういう冗談。」
「えー?うそでしょう?いくら女の人が苦手でも・・・健斗、ゲイだったの?」
「そんなのわかんない。孝利さんがいいし、孝利さんじゃなきゃヤダ。」
佐川に触れられた時、確かに感じた違和感。あれは嫌悪感だ。
話すのは良くても、触れられるのは嫌だったのだ。
「でもねぇ。迎えに来るの、七日の朝なんでしょう?」
「そうだぞ。仕事なんだから、大人しく待ってなさい。」
他意はないよきっと。と慰められる。
そうなのかな。
メールしたら、仕事に差し支えるかな。
『両親に話しました。』なんて。
「まぁ、お前がゲイかもしれないのは、お父さんたちなんとなくは察してたから、そこは思い悩まなくていいい。ただし、セックスするときゴムだけはちゃんと使うこと。」
「・・・それだけ?」
「もちろん、玉の輿で良かったねとかいろいろあるけど、重要なのはそれだけ。病気が一番怖いからな。北村さんにだって、リスクはあるんだから。お互いのため。」
あんまり真面目に言うので、苦笑してしまった。
「笑い事じゃないぞ。」
「わかってるよ。・・・ありがとう。」
「あーあ。孫の顔は見られないかぁ。」
そこに来て、母がキッチンから手を拭きながらやってくる。
「赤ちゃんできたらいいのにねぇ。」
「そんなファンタジーないよ。」
そうよねぇ。と天を仰ぐ。
「まぁ。幸せならいいわ。」
「それがよくわからないんだよね。少しでも会いたかったら、実家に帰したりしなくない?」
「それはあれだ。北村さんなりの配慮なんだから。ありがたく休ませてもらいなさい。痩せてくるかと思ったが、少し太ったか?」
「・・・うん。」
「良くしてもらってるんだなぁ。」
「ご飯作るの、主に僕だけどね。」
そうだった。と父親が笑う。
打ち明けても、何ら変わらず接してくれるこの両親のもとに生まれてきてよかったと思った。
孝利には、迎えに来た時にでも話そう。
「あーあ。初詣くらい行きたかったなぁ。」
「例年通り家族で行けていいじゃないか。」
そうだけど。
ごーんと鐘が鳴る。
「じゃぁ、明日早いよね。僕もう寝るよ。」
「うん。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
久々の自室は、なんだかよそよそしく、布団も冷たかった。

 翌日、元旦。家族と初詣に出かけようと支度をしていると、孝利からメールがあった。『あけましておめでとう。今年もよろしくね。』と。お決まりの文面だったが、嬉しくて、おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。と返した。
仕事はひと段落したのかな。ご飯ちゃんと食べたかな。仮眠取る前にメールくれたのかな。いろんなことがぐるぐるするが、とりあえず、両親に告げてしまったことは伏せておく。眠れなくなったら大変だからだ。
とりあえずは、両親とともに、近所の神社にお参りだ。
連れだって歩いてゆく。古い稲荷神社だ。商売をしているので、いつもきまってこのお稲荷さんに来ることにしている。
お賽銭を入れて、願い事をしていると、父親が、何を祈った?と問うてきた。
「人に喋ったらだめな奴じゃん。」
「まぁそうだな。」
もちろん、期限が過ぎても、孝利と暮らせますようにと願った。
「お父さんはお屠蘇もらっていく?僕は甘酒にしようかな。」
「あぁ。」
「お母さんも甘酒。」
お酒の飲めない母も、甘酒なら大丈夫とニコニコしている。もらいに行って、境内のベンチに座った。
「お前・・・それでこれからどうするんだ?」
「どうって?」
「ハウスキーパーだよ。」
「あー・・・。仕事はしてるけど、お金貰ってないんだ。」
「なんだそれ。それじゃまるきり嫁じゃないか。」
「嫁ならいいけど、三食付きのヒモだったらやだなぁ。」
自分の言葉に自分で傷つく。
「期限、どうするんだ?」
「どうって、それはお父さんが切ったんじゃない。言うつもりなかったから、孝利さんは、まだ半年で別れると思ってるよ。」
「・・・愛人みたいだな。」
「だから、誰のせいなの!」
言葉尻が荒くなる。すると、まぁまぁと母と父親が宥める。
「お前嫌そうだったから、半年なら我慢できるかなって思ったんだよ。お前だって最初は、長い、半年も、って言ってたろう?」
「そうだけど。事情が変わったの。」
はぁ。と三人ため息をつく。
「で?北村さんはなんて言ってるんだ?」
「いっそのことぶっちゃけちゃえばいいって言ってた。」
「ぶっちゃけちゃったなぁ。」
うん。と頷く。
「じゃぁもう、期限なんて、あってないようなものじゃない?」
「お母さんそれでいいの?」
孫の顔見たいんでしょう?と言ってみるが、女性とそういうことができるとは、もはや思えなかった。
この体は、孝利のものだ。
強くそう思う。
「あなたと、北村さんがどうしたいかでしょ。」
「うん・・・。とりあえず・・・期限はそのままにしておいて・・・。やっぱり一緒にいたかったら延長する。」
「どうして?」
どうしてって、それは孝利がバイだから。鈴井とどうこうとは思わないが、やっぱり女性がいいって思う日が来るかもしれない。
孝利を、信じていないわけじゃないが・・・。
どうして、女性ではなく自分を選んだのか、核心を聞いていないから。不安が残った。
「おみくじでも引いて帰ろうか?」
「うん。」
箱にお金を入れて、おみくじを引く。
吉。『待ち人こず』
え?孝利さん迎えに来ないの?
まさか・・・ね。
不吉な予感に、おみくじは枝に結んで帰ることにした。
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