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一章 獣化ウイルス
1-6 最悪の始まり
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城に着いて半刻。
赤斗は、西国のことについて架那斗王に報告へ行っているので、とりあえず私は赤斗の部屋でごろごろしていた。
一般人は王族の寝所に入ることはおろか、王族の寝所がある私宮にすら入ることはかなわない。
私は立場上、幼い頃から赤斗の部屋や、王の部屋に出入りしていたので問題ない。……別に私が一般人じゃなわけじゃないんだけれど。
……それも私に対して敵対心を持つ者が私を妬む理由になるのだが……。
赤斗と私は幼馴染のような関係だ。昔、このお城で暮らしていたことも関係している。
なんとはなしに、部屋の隅に置かれた全身鏡に目をやった。
いつもと変わらない自分。それを見て……思わず溜息。
私が水源の巫女と呼ばれる所以は、その容姿にある。
砂漠に生まれた者は、大概が茶褐色の髪を持っている。濃淡はあれど、王族以外で茶褐色以外の髪を持っているものは、他国との混血の者だけだ。
瞳は、特にこれという色はないが、私と同色の人はいまだかつて見たことがない。
私の容姿は、水源色の髪に水源色の瞳というもの。砂漠はおろか、このようないでたちの者は、世界中どこにもいない……らしい。
水源色というのは、この世界では神の色とされている。
全ての者に恵みをもたらす水源。その色を持つものは、神の使徒、とされてきた。
歴史上、何度かそのような存在は確認されてきている。皆、一様に不思議な、不可思議な力を持って生まれた存在だったと言う。
その能力の全てが全てよいものだったとはいえないが、今のところ私の力は、よい方向に働いていると自負している。
私の体は、同じ十六歳の女性からみて、かなり小さい方だ。しかし抱えている能力は強大なため、能力の制御もまた難しい。
さらに、砂漠の民に類を見ない白い肌、小柄な体つき。こんないでたちもまた、私を特別視する要因の一つ、妬みの一因になっているという。全くもって迷惑な話だ……。
そして、私の左手甲に刻まれた古代文字。
この古代文字が、私を大地神の使徒と呼ばせているものである。今だ解読できていないこの文字は、大地神が使役していた文字。数多く発掘された、大地神の像に刻まれているもの。
このような容姿だから、いやでも人目を引いてしまう。
水源色の髪と瞳。そして白い肌。どれも、砂漠の民には決して表れることのない特徴だ。
生まれたのは砂漠。でも父と母が砂漠の者ではないらしい。真相を聞こうにも、二人はもういないし、そのことについて知っている者もいない。
私の謎に包まれた出生を快く思わない者も多い。はっきりって、私自身にとっては、あまり興味のないこなんだけれど。
「……はぁ……」
声に出しての大きな溜息。
そういえば……。
「……疲れたな……」
昨日からろくろく眠っていない。今気づいたが、結構疲れているようだ。
体が小柄な分、歩くのは遅いし、体力はないし……。
まったく不便極まりない。
ばふっ。
赤斗のベッドに無意識のうちに倒れこむ。
王族のベッドというものは、ふかふかしていて寝心地がとてもいい。
……誤解無きよう言っておくが……。
別にこのベッドで一夜を明かしたことなど無い。こうやって、ごろごろすることはよくあるけれど。
まぁ、他の人にとってはそれすらも羨望することなのだろうが……。
がちゃ。
扉の開く音がした。赤斗がやっと戻ってきたようだ。
起きる気がしなく、私は寝転がったまま彼を出迎えた。
「待たせたな……どうした?」
ぎしっ、と二人分の重みでベッドが軋む。
私の隣に腰掛けた赤斗を下から見上げた。女の私から見ても、綺麗な、整った顔だと思う。
貴族の女が口々に彼を褒め称えるのがわかる気がする。
……黙ってさえいれば。
「昨夜から……あんまり眠ってなかった。なんだか疲れちゃった」
赤斗が苦笑しながら私の髪を撫でた。不思議と、彼に髪をいじられるのは心地いい。
とはいえ、このままうだっているわけにもいかない。
私は、重い身を起こした。
「転がったままで構わんぞ?」
「ちゃんとした話だからね……頼むから、茶化さないでよ?」
念を押して、赤斗の赤い瞳を見た。
「今朝、希亜が王の伝来占と詩占をやったの」
「それで?」
「結果は……最悪も最悪。水晶球が六個全部縦一列に並んだよ」
赤斗の顔つきが変わった。
赤斗は、西国のことについて架那斗王に報告へ行っているので、とりあえず私は赤斗の部屋でごろごろしていた。
一般人は王族の寝所に入ることはおろか、王族の寝所がある私宮にすら入ることはかなわない。
私は立場上、幼い頃から赤斗の部屋や、王の部屋に出入りしていたので問題ない。……別に私が一般人じゃなわけじゃないんだけれど。
……それも私に対して敵対心を持つ者が私を妬む理由になるのだが……。
赤斗と私は幼馴染のような関係だ。昔、このお城で暮らしていたことも関係している。
なんとはなしに、部屋の隅に置かれた全身鏡に目をやった。
いつもと変わらない自分。それを見て……思わず溜息。
私が水源の巫女と呼ばれる所以は、その容姿にある。
砂漠に生まれた者は、大概が茶褐色の髪を持っている。濃淡はあれど、王族以外で茶褐色以外の髪を持っているものは、他国との混血の者だけだ。
瞳は、特にこれという色はないが、私と同色の人はいまだかつて見たことがない。
私の容姿は、水源色の髪に水源色の瞳というもの。砂漠はおろか、このようないでたちの者は、世界中どこにもいない……らしい。
水源色というのは、この世界では神の色とされている。
全ての者に恵みをもたらす水源。その色を持つものは、神の使徒、とされてきた。
歴史上、何度かそのような存在は確認されてきている。皆、一様に不思議な、不可思議な力を持って生まれた存在だったと言う。
その能力の全てが全てよいものだったとはいえないが、今のところ私の力は、よい方向に働いていると自負している。
私の体は、同じ十六歳の女性からみて、かなり小さい方だ。しかし抱えている能力は強大なため、能力の制御もまた難しい。
さらに、砂漠の民に類を見ない白い肌、小柄な体つき。こんないでたちもまた、私を特別視する要因の一つ、妬みの一因になっているという。全くもって迷惑な話だ……。
そして、私の左手甲に刻まれた古代文字。
この古代文字が、私を大地神の使徒と呼ばせているものである。今だ解読できていないこの文字は、大地神が使役していた文字。数多く発掘された、大地神の像に刻まれているもの。
このような容姿だから、いやでも人目を引いてしまう。
水源色の髪と瞳。そして白い肌。どれも、砂漠の民には決して表れることのない特徴だ。
生まれたのは砂漠。でも父と母が砂漠の者ではないらしい。真相を聞こうにも、二人はもういないし、そのことについて知っている者もいない。
私の謎に包まれた出生を快く思わない者も多い。はっきりって、私自身にとっては、あまり興味のないこなんだけれど。
「……はぁ……」
声に出しての大きな溜息。
そういえば……。
「……疲れたな……」
昨日からろくろく眠っていない。今気づいたが、結構疲れているようだ。
体が小柄な分、歩くのは遅いし、体力はないし……。
まったく不便極まりない。
ばふっ。
赤斗のベッドに無意識のうちに倒れこむ。
王族のベッドというものは、ふかふかしていて寝心地がとてもいい。
……誤解無きよう言っておくが……。
別にこのベッドで一夜を明かしたことなど無い。こうやって、ごろごろすることはよくあるけれど。
まぁ、他の人にとってはそれすらも羨望することなのだろうが……。
がちゃ。
扉の開く音がした。赤斗がやっと戻ってきたようだ。
起きる気がしなく、私は寝転がったまま彼を出迎えた。
「待たせたな……どうした?」
ぎしっ、と二人分の重みでベッドが軋む。
私の隣に腰掛けた赤斗を下から見上げた。女の私から見ても、綺麗な、整った顔だと思う。
貴族の女が口々に彼を褒め称えるのがわかる気がする。
……黙ってさえいれば。
「昨夜から……あんまり眠ってなかった。なんだか疲れちゃった」
赤斗が苦笑しながら私の髪を撫でた。不思議と、彼に髪をいじられるのは心地いい。
とはいえ、このままうだっているわけにもいかない。
私は、重い身を起こした。
「転がったままで構わんぞ?」
「ちゃんとした話だからね……頼むから、茶化さないでよ?」
念を押して、赤斗の赤い瞳を見た。
「今朝、希亜が王の伝来占と詩占をやったの」
「それで?」
「結果は……最悪も最悪。水晶球が六個全部縦一列に並んだよ」
赤斗の顔つきが変わった。
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