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第一章「宿命の子どもたち」 前編
第18話
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岩の上に 小猿米焼く
米だにも 食げて通らせ 山羊の小父
(岩の上で小猿が米を焼いている。
せめて焼き米だけでも食べて行きなさい、山羊の小父さん)
(『日本書紀』皇極天皇二年十月戊午条)
こんな童歌が大和一帯に流行った頃、弟成は、黒万呂と一緒に斑鳩の奴婢長屋に泊まることになった。
弟成の様子を心配した三成が、男同士の方が何かと話し易かろうと雪女に言ったのがはじまりで、雪女もその方が良いと思い、弟成に斑鳩の奴婢長屋に泊まるように言ったのだが、相変わらず嫌がったので、黒万呂に頼んで一緒に付いて行ってもらうことになったのである。
黒万呂は黒万呂で、久しぶりの遠出に二つ返事で引き受けたのだった。
弟成の気持ちは沈んでいた。
いつものように、斑鳩寺の塔が見えてきた。
塔が視界に入ると、黒万呂は声を上げてはしゃいだ。
「うわあ、相変わらずでかいの!」
斑鳩寺の塔は、今日も空を貫いていた。
あの頃、弟成の心を沸き立たせた塔は、今日は心の重石となった。
黒万呂は、いつまでも塔を仰ぎ見て歩いていく。
弟成は、下を見て歩いく。
しばらく行くと、道が二股に分かれる。
奴婢長屋に行くには、左が近かった。
弟成は、右を行った。
「弟成、左の方が近いんやないんか?」
黒万呂は、弟成の背中に呼び掛けたが、彼は黙って右の道を歩いて行く。
黒万呂も、彼の後を付いて行った。
左の道は、上宮王家の東門の前を通っていた。
結局その日は、三成とも話らしい話もせず、早めに夜具に入った。
米だにも 食げて通らせ 山羊の小父
(岩の上で小猿が米を焼いている。
せめて焼き米だけでも食べて行きなさい、山羊の小父さん)
(『日本書紀』皇極天皇二年十月戊午条)
こんな童歌が大和一帯に流行った頃、弟成は、黒万呂と一緒に斑鳩の奴婢長屋に泊まることになった。
弟成の様子を心配した三成が、男同士の方が何かと話し易かろうと雪女に言ったのがはじまりで、雪女もその方が良いと思い、弟成に斑鳩の奴婢長屋に泊まるように言ったのだが、相変わらず嫌がったので、黒万呂に頼んで一緒に付いて行ってもらうことになったのである。
黒万呂は黒万呂で、久しぶりの遠出に二つ返事で引き受けたのだった。
弟成の気持ちは沈んでいた。
いつものように、斑鳩寺の塔が見えてきた。
塔が視界に入ると、黒万呂は声を上げてはしゃいだ。
「うわあ、相変わらずでかいの!」
斑鳩寺の塔は、今日も空を貫いていた。
あの頃、弟成の心を沸き立たせた塔は、今日は心の重石となった。
黒万呂は、いつまでも塔を仰ぎ見て歩いていく。
弟成は、下を見て歩いく。
しばらく行くと、道が二股に分かれる。
奴婢長屋に行くには、左が近かった。
弟成は、右を行った。
「弟成、左の方が近いんやないんか?」
黒万呂は、弟成の背中に呼び掛けたが、彼は黙って右の道を歩いて行く。
黒万呂も、彼の後を付いて行った。
左の道は、上宮王家の東門の前を通っていた。
結局その日は、三成とも話らしい話もせず、早めに夜具に入った。
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