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第三章「皇女たちの憂鬱」 中編
第7話
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難波長柄豊碕宮の間人皇女と有間皇子の間には、相変わらず大きな隔たりがあった。
間人皇女から歌詠みに誘ったり、武術の稽古を見学したりと積極的に接しては見るのだが、有間皇子の方はそんな彼女を完全に無視をする。
だが、その有間皇子の態度が、むしろ間人皇女の心に火をつけた。
―― こうなったら、絶対に有間皇子を振り向かせてみせる!
それは最早、義母としての義務というよりも、女としての意地みたいなものであった。
では、肝心の有間皇子の方は如何かといえば、こちらも自分の感情に戸惑っていた。
当初は、父を裏切った人だとの敵対意識があり、傍に寄られるだけでも憎しみが湧いてきた。
間人皇女の顔を見れば見るほど、その憎しみが強くなっていく。
だが数ヶ月経つと、彼女の顔を見ると、なぜか安心する自分がいることに気が付いた。
むしろ最近では、彼女の顔を見るたびに、心の底の押さえられない感情が溢れてくることに気付いてきたのである。
有間皇子は、それを抑えるのに必死で、あくまで彼女を無視していたのだ。
無視を続ければ、やがてその感情も、心深くに沈んでゆくであろう………………と。
が、三十代を迎えて益々艶やかになった女と、肉体と心の乖離に悩む少年のことである。
お互いの心をぶつけ合うのも、時間の問題であった。
間人皇女は、有間皇子を月夜の宴を誘った。
宴と言っても、間人皇女と有間皇子だけである。
彼女としては、何としても有間皇子を振り向かせたかった。
だが、彼は相変わらずである。
間人皇女が、「月が美しいですね」とか、「月夜に合わせた歌を作りましょうか」と誘っても、彼の答えは、「はあ……」とか、「そうですね……」という気のないものであった。
間人皇女も、かなりしつこく頑張ってはみたのだが、最後には話題がなくなり、黙って月を眺めるしかなかった。
一方、有間皇子の方は、心に沸き起こる謎の感情を、ぐっと抑えるのに必死であった。
―― 雲が月を隠す
二人は、空を見上げる。
………………互いを意識する男女が、黙って夜空を見上げる姿は、なんとも可笑しい。
再び月が顔を出し、二人を照らす。
有間皇子の目の端には、青白い女の顔が浮かび上がる。
やがて女が輝き出す………………
―― 飲みすぎたのだろうか?
酔いを醒ますため、庭に降りようとしたが、杯に足下を取られて倒れそうになった。
「あっ!」
二人の声が重なった。
月夜の下に、彼を優しく抱きかかえる彼女の姿があった。
女の色香が、少年の鼻を擽る。
その瞬間、彼は彼女を抱きかかえ、月に青白く照らされる床に押し倒した。
間人皇女から歌詠みに誘ったり、武術の稽古を見学したりと積極的に接しては見るのだが、有間皇子の方はそんな彼女を完全に無視をする。
だが、その有間皇子の態度が、むしろ間人皇女の心に火をつけた。
―― こうなったら、絶対に有間皇子を振り向かせてみせる!
それは最早、義母としての義務というよりも、女としての意地みたいなものであった。
では、肝心の有間皇子の方は如何かといえば、こちらも自分の感情に戸惑っていた。
当初は、父を裏切った人だとの敵対意識があり、傍に寄られるだけでも憎しみが湧いてきた。
間人皇女の顔を見れば見るほど、その憎しみが強くなっていく。
だが数ヶ月経つと、彼女の顔を見ると、なぜか安心する自分がいることに気が付いた。
むしろ最近では、彼女の顔を見るたびに、心の底の押さえられない感情が溢れてくることに気付いてきたのである。
有間皇子は、それを抑えるのに必死で、あくまで彼女を無視していたのだ。
無視を続ければ、やがてその感情も、心深くに沈んでゆくであろう………………と。
が、三十代を迎えて益々艶やかになった女と、肉体と心の乖離に悩む少年のことである。
お互いの心をぶつけ合うのも、時間の問題であった。
間人皇女は、有間皇子を月夜の宴を誘った。
宴と言っても、間人皇女と有間皇子だけである。
彼女としては、何としても有間皇子を振り向かせたかった。
だが、彼は相変わらずである。
間人皇女が、「月が美しいですね」とか、「月夜に合わせた歌を作りましょうか」と誘っても、彼の答えは、「はあ……」とか、「そうですね……」という気のないものであった。
間人皇女も、かなりしつこく頑張ってはみたのだが、最後には話題がなくなり、黙って月を眺めるしかなかった。
一方、有間皇子の方は、心に沸き起こる謎の感情を、ぐっと抑えるのに必死であった。
―― 雲が月を隠す
二人は、空を見上げる。
………………互いを意識する男女が、黙って夜空を見上げる姿は、なんとも可笑しい。
再び月が顔を出し、二人を照らす。
有間皇子の目の端には、青白い女の顔が浮かび上がる。
やがて女が輝き出す………………
―― 飲みすぎたのだろうか?
酔いを醒ますため、庭に降りようとしたが、杯に足下を取られて倒れそうになった。
「あっ!」
二人の声が重なった。
月夜の下に、彼を優しく抱きかかえる彼女の姿があった。
女の色香が、少年の鼻を擽る。
その瞬間、彼は彼女を抱きかかえ、月に青白く照らされる床に押し倒した。
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