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第五章「生命燃えて」 前編
第19話
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間人大王は、寝台に横たわる。
―― あれが………………私なの?
本当に………………私なの?
自分の顔を擦る。
確かに頬が扱けているようだし、肌もかさつく。
―― いや……、こんなのいや!
こんな姿じゃ、有間様に会えない!
有間皇子が、天井から見つめている。
「いや! 見ないで!」
寝台を飛び降りる。
足が縺れて、その場に座り込む。
鼓動が早い。
采女は、なかなか帰って来ない。
彼女は恐る恐る器を引き寄せ、中を覗きこむ。
そこに映るのは、やつれた女の顔である。
―― 違う!
これは私ではない!
私では………………
水面に映る有間皇子の木目が、彼女を見つめる。
「ひっ!」
器を払い落とす ―― 激しい音を立って割れる。
天井を仰ぐ。
全ての木目が、彼女を見ている………………彼女を見て、笑っている。
「いやーーーーーー!」
間人大王は、顔を覆いながら外に飛び出した。
足が縺れる。
それでも走る。
時には這い蹲り、時には立ち上がり。
彼女は彷徨う。
先程までの青空が嘘のように、厚い雲が垂れ込める。
大殿は大騒ぎになった。
中臣国足の叱責が飛ぶ。
「馬鹿者! お前たちは、何のための采女だ!」
「申し訳ありません」
「あのお体だぞ! 早く見つけ出せ!」
采女や舎人が、屋敷中を探す。
だが見つからない。
何処に?
「いらっしゃったか?」
「いえ、こちらには! そちらは?」
「いや! 何処にいらっしゃったのだ?」
「もしかして、池の方では……」
舎人たちは、屋敷の北にある池の方に急いだ。
池の水面に波紋が広がる。
ひとつ………………
またひとつ………………
できては消え、消えてできる。
女は、水面に眠る。
春雨が、その美しい額を濡らしてゆく。
彼女は………………彼に会うことができるだろうか?
中大兄の称制四(六六五)年二月二十五日、愛を求め続けた間人大王は、愛を得ることなく、その短い一生を終える。
ただ『日本書紀』には、彼女が大王に即位したという記録はない。
三月一日、間人皇女のために三百三十人の人間を得度させた。
大后の死に、これだけの人間が得度したのは異例中の異例である。
これを見ても、間人皇女がただの大后でなかったことが分かる。
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本当に………………私なの?
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確かに頬が扱けているようだし、肌もかさつく。
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「いや! 見ないで!」
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鼓動が早い。
采女は、なかなか帰って来ない。
彼女は恐る恐る器を引き寄せ、中を覗きこむ。
そこに映るのは、やつれた女の顔である。
―― 違う!
これは私ではない!
私では………………
水面に映る有間皇子の木目が、彼女を見つめる。
「ひっ!」
器を払い落とす ―― 激しい音を立って割れる。
天井を仰ぐ。
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「いやーーーーーー!」
間人大王は、顔を覆いながら外に飛び出した。
足が縺れる。
それでも走る。
時には這い蹲り、時には立ち上がり。
彼女は彷徨う。
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「馬鹿者! お前たちは、何のための采女だ!」
「申し訳ありません」
「あのお体だぞ! 早く見つけ出せ!」
采女や舎人が、屋敷中を探す。
だが見つからない。
何処に?
「いらっしゃったか?」
「いえ、こちらには! そちらは?」
「いや! 何処にいらっしゃったのだ?」
「もしかして、池の方では……」
舎人たちは、屋敷の北にある池の方に急いだ。
池の水面に波紋が広がる。
ひとつ………………
またひとつ………………
できては消え、消えてできる。
女は、水面に眠る。
春雨が、その美しい額を濡らしてゆく。
彼女は………………彼に会うことができるだろうか?
中大兄の称制四(六六五)年二月二十五日、愛を求め続けた間人大王は、愛を得ることなく、その短い一生を終える。
ただ『日本書紀』には、彼女が大王に即位したという記録はない。
三月一日、間人皇女のために三百三十人の人間を得度させた。
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これを見ても、間人皇女がただの大后でなかったことが分かる。
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