法隆寺燃ゆ

hiro75

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第五章「生命燃えて」 後編

第13話

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 彼女が、弟成の感情に気が付いたとき、軽皇子との関係は急に終わった。

 彼が通わなくなったのだ。

 聞けば、別に通うところができたらしい ―― 蘇我倉麻呂臣そがくらのまろのおみの三女姪娘めいのいらつめである。

 八重女の侍女たちは酷く落ち込み、なかには軽皇子のことを悪くいうものたちもいた。

『まだ、十歳にも満たない小娘らしいわ、姪娘は。軽皇子は、そういう娘がお好きなのだとか』

『女は若い方が良いとかいうけど、あまりにも若すぎるわよね、嫌らしい』

『男って、本当に嫌らしいわよね』

 などと、口悪い。

『そんなこと、言うものではないですわ。軽様には、軽様のお好みがあるのだし、姪娘はそれのお眼鏡に適ったわけだし、私には何かが足りなかったのでしょう』

 逆に、八重女は清々していた………………軽皇子のねっとりとした行為から逃れることができたので。

『これで、少しゆっくりできるでしょうし』

『そんな呑気な事おっしゃってる場合ではありませんわ。皇子のお通いがなくなるということは、大伴家には一大事なのですよ』

 侍女たちが何を慌てているのか分からなかった。

 だが時が経つにつれて、それが分かった。

 明らかに、大伴氏の中の自分の立場が変わってきたのだ。

 以前は、八重子様々 ―― 馬飼の弟である馬来田や吹負たちなど、まるで皇女に対するような扱いで ―― 主である馬飼自身は、初めに話をして以来、ほとんど話すことはないのだが、その息子たちも恐る恐る八重子に接しているような感じだった。

 まあ、安麻呂だけは、本当の妹のように扱ってくれていたのだが。

 だが、軽皇子の通いがなくなると、馬来田たちの態度ががらりと変わり、扱いが雑に……というよりも、かなり悪くなった。

 一族が介する場に出ても、何かと無視をされることが多い。

『あの役立たずが』

 という陰口もたたかれるし、白い目で見られる。

 やがては、その場にさえ呼んでもらえなくなり、屋敷の奥 ―― 日も当たらないような、庭だけは馬鹿に広い屋敷へと移され、

『表に出るな!』

 と、きつく言い渡される。

 なかば幽閉状態だ。

 八重女にとっては、大伴の男衆たちと話をすることもなく、皇子たちの夜の相手をすることもなく、女たちの悪口や陰口を聞かずに済むので願ったりかなったりだ。

 それでも、自分の境遇を嘆かずにはいられない。

 自分が、いったい何をしたというのだ。

 生みの親に捨てられ、育ての親に捨てられ、寺にも捨てられ、勝手に大伴氏の娘にさせられたかと思うと、皇子の相手をさせられ、挙句に皇子に捨てられると、大伴氏からも見捨てられ………………

 ―― 結局私って、道具なんだ………………

 奴婢として生まれたものは、結局奴婢として生きなければならない ―― 意思を持たぬ道具として………………
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