法隆寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
360 / 378
第五章「生命燃えて」 後編

第28話

しおりを挟む
 現在の情勢では、大海人皇子有利!

 が、大友皇子も、めきめきと力を付けてきている。

 外交においては、彼が一手に引き受けている。

 元来葛城大王の地盤が百済と懇意にしていた渡来系氏族や百済の旧臣で、そのため百済(すでに百済は滅亡しているが)には友好的で、新羅や唐には敵対心を持ち、朝貢があってもまともに取り合わない。

 以前来た新羅の朝貢に対しても、型通りの挨拶をしただけで、宴席なども開かない。

 仕方なく、代わって宴席を設け、さらには船まで与えて新羅本国へと帰したばかり。

 流石にこれではまずいと大友皇子が出てきて、最近は彼に任せているが、何かと上手くやっているようだ。

 耽羅(韓国済州島)が使者を送ってきたときは、盛大に持て成し、五穀の種子を与えて帰国させた。

 酷く感心したものだ。

 ―― これは、まさかがあるかもしれないな……

 と、すぐに大友皇子に耳面刀自みみもとじを妃として娶せた。

 他の娘……氷上娘ひかみのいらつめ五百重娘いおえのいらつめは、大海人皇子のもとに送っている。

 どっちに転んで大丈夫だ。

 ただ心配があるとすれば………………自分に有能な息子がいないこと。

 いや、息子ならいる ―― ふひとが。

 次男でありながら、父を補佐するのだと、必死で勉学に励んでいる。

 残念ながら、長兄の貞慧じょうけいはすでにいない。

 父も驚くほど有能で、外の世界を見たいと僧侶になり、唐へと渡ったが、ゆくゆくは跡取りとして政の世界に戻ってくれることを期待していた。

 が、あっさりと病に倒れた。

 本当にあっけなかった。

 人とは、こんなに簡単に死ぬものなのかと驚き、逆に涙も出なかった。

 目の前が真っ暗になった。

 息子を失った悲しみ、そして自分の代で家を終えてしまうという申し訳なさ。

 次男の史は、

『父上、自分が兄上の分まで頑張ります』

 とは言ってくれたが、不安は残る。

 次男だからではない。

 自分も次男だ。

 兄も、跡取りなく亡くなったので、自分が家を継いだ。

 それからは、重圧と不安と失敗の連続 ―― それでも、有力氏族を抑え、現在では朝廷内で首席を務めている。

 揺るぎない地位………………とはいえない、前にも言ったが、この世界は一寸先は闇………………いつ転がり落ちるかもしれない。

 その一番の機会が、代を継ぐときだ。

 史は、努力家だ。

 誰にも話していないが、血筋からいえば悪い ―― 母は、難波で春を鬻いでいた女 ―― 血だけでいえば、到底将来は望めない。

 だが、本人はそれを知らないが、自分に与えられた運命に、果敢に立ち向かおうとしている。

 貞慧が亡くなったことは誤算だったが、いまは史に賭けるしかない。

 史が、将来安心して政ができるように、家が繁栄するように、あと少し細工が必要だ。

 そのためには、もう少し時がいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

【戦国時代小説】 甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助

蔵屋
歴史・時代
 わたしは、以前、甲斐国を観光旅行したことがある。  何故、甲斐国なのか?  それは、日本を象徴する富士山があるからだ。     さて、今回のわたしが小説の題材にした『甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助』はこの甲斐国で殆どの戦国乱世の時代を生き抜いた。そして越後の雄•上杉謙信との死闘は武田信玄、山本勘助にとっては人生そのものであったことだろう。  そんな彼らにわたしはスポットライトを当て読者の皆さんに彼らの素顔を知って頂く為に物語として執筆したものである。  なお、この小説の執筆に当たり『甲陽軍鑑』を参考にしていることを申し述べておく。  それでは、わたしが執筆した小説を最後までお楽しみ下さい。  読者の皆さんの人生において、お役に立てれば幸いです。  

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

処理中です...