法隆寺燃ゆ

hiro75

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第五章「生命燃えて」 後編

第35話

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「弟成!」

 名を呼んだが、反応はない。

 彼は虚ろな眼差しで、仏像を彫り続けている ―― 可愛らしい女の子のような顔だ。

「弟成、私です、八重女です。昔、お寺で一緒だった、婢の八重女です!」

 昔の名を出してみたが、男は黙々と仏像をいじっていた。

「申し訳ありませんが、ずっとあのような状況で……」

 外に出て、聞師が扉を閉めながら言った。

「もう治らないのですか? 記憶が戻ることは?」

「こればかりは分かりません、何かの拍子で戻ることもあるでしょうし、あるいは一生このままかもしれません」

「そんな……」、八重女は口元を手で覆った。

「まあ、寺では、一生彼の面倒は見るつもりですので」

「あの……、私もお世話をしてはなりませんか?」

 聞師と安麻呂は驚き、顔を合わせた。

「世話ですか? 衣食の世話なら、小僧にやらせますが……」

 聞師は、少々困惑気味だ。

 安麻呂はしばらく考えたあと、「世話というか、話し相手というか、そいうのならいいのでは? まあ、今の状況で話ができるかは分からんが。毎日は無理だろうが、お寺に行くついでということならば、いいのではないですか? あとは、お寺の方ですが……」と、聞師を見る。

 聞師のほうは、「あまり寺内に女性を入れるのは、明師みょうし殿とかが煩いのですが……、まあ、たまにであれば……、それで、もしかしたら彼の記憶も戻る切っ掛けになるかもしれませんし」と、許可をくれた。

「ありがとうございます」

 八重女は、頭を下げる。

「いえ、私も記憶が戻った彼に聞いてみたいことがありますので」

「それは、なんですか?」

 聞師は、塔の中を見つめて言った。

「お前の道は、どうだったのかと?」

「道……、そいうえば、前にもそんなことを聞いたような……」

 安麻呂が首を傾げ、何かを思い出そうとしていたので、聞師は「いえいえ、つまらない話で」と、遮った。

 帰り道、八重女は安麻呂に、「会って良かったのか? あのようなこと約束して良かったのか? もし記憶が戻らなければ、辛い思いをするかもしれないだけだぞ?」と、訊かれた。

 八重女は、しっかりと答えた。

「大丈夫です、ここをしっかりと持っていれば……」

 そっと胸を抑える。

 どくり、どくりと驚くほど勢いよく動いている。

「心を強く……」
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