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第五章「生命燃えて」 後編
第38話
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明師が、「聞師殿、ちょっと……」というので、「また入師殿から何事か?」とあとについていくと、門のところにきて、
「ここです」
と、指さした。
辺りには、家人や奴婢たちの人だかりができている。
明師が指さしたところを見ると、大門の柱の一部が焼け焦げ、まるで蛇の鱗のようになっている。
「これは一体……」
「今朝方、奴婢が見つけたのですよ」
「そのとき火は?」
「いえ、焦げ跡だけで、周りに誰もいなかったそうです」
「自然……火ではないですよね、これは? 明らかに……」
「火付けだと思います」
聞師は、うむっと難しい顔をして考え込む。
近江では、火付けが頻繁に出ているらしい。
現政権に対する反対活動だとか ―― 政とは関係のない民の家を焼いて、何が反対活動かと思うのだが、これが政権側には刺激になるらしい。
初めは火付けに対する批判も、それが頻発し、取り締まれない状況になれば、当然批判の矛先は政権側へと向く ―― それが反体制派の思惑らしい。
そこに先日、大蔵まで焼くという事態が発生した。
表向きは舎人の火の不始末と言われたが、火付けで間違いないらしい。
すでに巷の噂になっている。
それを対岸の火事のように考えていたのだが、どうやら大和にまで入ってきたようだ。
しかも、この斑鳩寺が標的になろうとは?
しかし、この斑鳩寺を狙って、何になる?
「高安城が近いですしな、それに最近、高安城を増築し、そこに畿内の田税を収めましたから、それに対する警告でしょう」
そう話したのは、下氷雑物である。
振り返ると、かなり怖い顔をして立っている。
自分の管理する寺に火を付けられたのだから、当然だろう。
「では、やはり反体制派の?」
雑物は頷く。
「それに、この寺は百済とは縁が深いから、現政権に対する敵対行為にはもってこいでしょう」
確かに、百済由来の仏像や仏典、宝物が多い。
自分や入師も含め、僧侶の大半が百済からの渡来だ。
が、現政権とは、完全に一線を画している。
正確にいえば、厩戸皇子が建立した当時から、政とは全く無縁の、仏の教えを探求する学問寺である。
その寺を標的にし、現政権と反対勢力の争いの中に巻きこまないで欲しいのだが………………
「反対勢力からしてみれば、味噌も糞も一緒、坊主憎けりゃ袈裟まで憎しですからな」
なるほど、雑物は私たちを糞と思っているのだなと、聞師は笑い出しそうになった。
明師を見ると、明らかに嫌そうな顔をしている。
「まあ、今日から警戒を強化しますので」
「頼みます」
「おい、お前ら、見せもんじゃないぞ、さっさと仕事をせんか!」
と、鞭をもって家人や奴婢たちを追い回した。
あれがなければ良い人なのだがと思いつつ、
「まあ、我々も十分注意いたしましょう」
「はい。あっ、聞師様、大伴の……」
ふと見ると、そこに八重女の姿があった。
「どうかなされましたか?」
「いや、なに、物騒な世の中になりましたなと」
「はあ……」
「ところで、今日も弟成の話し相手に?」
「はい、よろしでしょうか?」
「助かります」
聞師は、八重女を招き入れた。
八重女は頭を下げ、弟成のいる仏塔へと向かう。
明師がそっと耳打ちをする。
「大丈夫なのですが、こんなときに余所者を入れて?」
「大丈夫ですよ、いまは大伴氏の娘ですが、むかしはこの寺にいたのですから、身内も同然。それに、弟成の話し相手をしてくれるので助かります」
「はあ……、話しっていっても……」
明師は、妙に浮かない顔だった。
「ここです」
と、指さした。
辺りには、家人や奴婢たちの人だかりができている。
明師が指さしたところを見ると、大門の柱の一部が焼け焦げ、まるで蛇の鱗のようになっている。
「これは一体……」
「今朝方、奴婢が見つけたのですよ」
「そのとき火は?」
「いえ、焦げ跡だけで、周りに誰もいなかったそうです」
「自然……火ではないですよね、これは? 明らかに……」
「火付けだと思います」
聞師は、うむっと難しい顔をして考え込む。
近江では、火付けが頻繁に出ているらしい。
現政権に対する反対活動だとか ―― 政とは関係のない民の家を焼いて、何が反対活動かと思うのだが、これが政権側には刺激になるらしい。
初めは火付けに対する批判も、それが頻発し、取り締まれない状況になれば、当然批判の矛先は政権側へと向く ―― それが反体制派の思惑らしい。
そこに先日、大蔵まで焼くという事態が発生した。
表向きは舎人の火の不始末と言われたが、火付けで間違いないらしい。
すでに巷の噂になっている。
それを対岸の火事のように考えていたのだが、どうやら大和にまで入ってきたようだ。
しかも、この斑鳩寺が標的になろうとは?
しかし、この斑鳩寺を狙って、何になる?
「高安城が近いですしな、それに最近、高安城を増築し、そこに畿内の田税を収めましたから、それに対する警告でしょう」
そう話したのは、下氷雑物である。
振り返ると、かなり怖い顔をして立っている。
自分の管理する寺に火を付けられたのだから、当然だろう。
「では、やはり反体制派の?」
雑物は頷く。
「それに、この寺は百済とは縁が深いから、現政権に対する敵対行為にはもってこいでしょう」
確かに、百済由来の仏像や仏典、宝物が多い。
自分や入師も含め、僧侶の大半が百済からの渡来だ。
が、現政権とは、完全に一線を画している。
正確にいえば、厩戸皇子が建立した当時から、政とは全く無縁の、仏の教えを探求する学問寺である。
その寺を標的にし、現政権と反対勢力の争いの中に巻きこまないで欲しいのだが………………
「反対勢力からしてみれば、味噌も糞も一緒、坊主憎けりゃ袈裟まで憎しですからな」
なるほど、雑物は私たちを糞と思っているのだなと、聞師は笑い出しそうになった。
明師を見ると、明らかに嫌そうな顔をしている。
「まあ、今日から警戒を強化しますので」
「頼みます」
「おい、お前ら、見せもんじゃないぞ、さっさと仕事をせんか!」
と、鞭をもって家人や奴婢たちを追い回した。
あれがなければ良い人なのだがと思いつつ、
「まあ、我々も十分注意いたしましょう」
「はい。あっ、聞師様、大伴の……」
ふと見ると、そこに八重女の姿があった。
「どうかなされましたか?」
「いや、なに、物騒な世の中になりましたなと」
「はあ……」
「ところで、今日も弟成の話し相手に?」
「はい、よろしでしょうか?」
「助かります」
聞師は、八重女を招き入れた。
八重女は頭を下げ、弟成のいる仏塔へと向かう。
明師がそっと耳打ちをする。
「大丈夫なのですが、こんなときに余所者を入れて?」
「大丈夫ですよ、いまは大伴氏の娘ですが、むかしはこの寺にいたのですから、身内も同然。それに、弟成の話し相手をしてくれるので助かります」
「はあ……、話しっていっても……」
明師は、妙に浮かない顔だった。
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