異世界で迷子を保護したら懐かれました

稲刈 むぎ

文字の大きさ
4 / 40

3.ノルック

しおりを挟む
銀色の髪の子は、どうやら男の子のようだった。

「ね、君の名前はなんていうの?」
「………………………………ノル………ェク」
しばらく間があってから、ものすごく小声で
答えられた。
「ん?ごめんね。ちゃんと聞き取れなかったんだけど、ノル…ック?かな?」
「…」
「あれ?違った?ノルックじゃない?ごめんね。も一回…「ノルック。」」
「あ、ノルックで合ってたのね。」
少年は、目を合わせないように足元の草をじっと見ていた。
「へへ。しばらくよろしくね。ノルック」

手を出してみたら、影で気付いたのか、指先をちょこんと掴まれた。
この世界にも握手はあるみたい。

こんな感じで名前は教えてもらえたけど、それ以外にどこからきたのかとか両親は心配していないのかとかという質問は無視されてしまった。

正直なところ、国とか地名言われてもわからないから言いたくなかったらいいんだけど、両親に連絡する方法があるなら連絡したほうが・・と言ったら「親いない」とだけ言われたので、それから深く追求するのをやめた。

子どものようだけど、落ち着いてからよくよく考えると、逃亡中の犯罪者の可能性も過ぎる。
でも観察した限りでは基本的に素直そうだし、コミュニケーションも取れてるし、異世界で身寄りもなくてただ生きてるだけの私に守るものは少ないから万が一犯罪者だったとしてもあまり関係ないだろうと、その考えは無視することにした。


その日の夜
ソニアさんとダイアさんが寝ていた部屋はベッドが2つあるから、私も今までの寝る部屋を移動してノルックと寝ることにした。

いつもより早い時間だけどお互い慣れない出来事に疲れたのか、すぐに2つの規則的な寝息が奏でられた。







夢も見ない真っ暗な空間の中
突如呻くような声が聞こえた気がして飛び起きた。
外を見ると夜が明ける兆しもない宵闇だった。

声は隣からしていた。ベッドを降りて様子を見ると、苦しむように呻いていて額には汗も噴き出ている。

「だ、大丈夫?!どこか痛いの?」

声をかけても目覚めない。額に触れると熱が出ている。
どうして?寝る前まではなんともなさそうだったのに。治療したはずの怪我が化膿したのか…
傷口を見るけど膿んだり悪化しているようには見えない。といっても医者でもないからわからない。もしかしたら見えないところで細菌が入り込んでいるのかもしれない。

とにかく熱を下げないと

キッチンに向かい、水を出してタオルとして使っている布を濡らす。
魔法が使えたら氷を出して冷やせるだろうけど、残念ながら氷室もないのでこまめに水を変えるしかない。

水を入れた桶と濡らしたタオルを持って寝室に戻り、汗を拭いてから新しいタオルでおでこを冷やす。

「ぅっ…あああっ…!!!」

首を動かすだけだったノルックが上半身を捩って暴れだした。ベッドの縁に体をぶつけるので慌てて体を抑える

「ノルック!落ち着いて!大丈夫!大丈夫だから…」

‘大丈夫’なんて口にしながら、頭の中はパニックだ。傷口に塗った薬が合わなかったのだろうか。いつも使っているから大丈夫だと思ったけど。それとも食事が良くなかった?すっかり忘れていたけど、食べたものにアレルギーがあったとか…

暴れる体を抑えながらも悪いことばかり浮かんで来る。

どうしよう。どうしたらいいの。
私のせいでノルックが死んじゃったりしたらどうしよう。

誰か、ソニアさん!ダイヤさん!助けて!!!

キラッとブレスレットが光る。
押さえつける手が滑って胸元に移動した瞬間、懐かしい感覚があった。
ソニアさんと何度も練習した
魔力を吸い取る感覚。

魔力を吸い取る程に暴れる力が弱まっていく。
ブレスレットが受け入れきれなくなって紅く光ると、手を離して“ソニアさん”に流し込む。

それを数回繰り返すと、ようやく安定したようですやすやと心地よい寝息に変わった。
額に触れると、ほんのり温かさを感じる程度になっていた。

「よ、良かった…」

安心してへたり込む。
最後の魔力を置物のソニアさんに移動して、一息ついた。

「魔力、ぼうそう…だったのかな?ひとまず、よかった…」

その日はそのまま寝てしまい、目が覚めたノルックが、ベッドに寄りかかって寝ている私を見て驚く声で目を覚ました。


ノルックはあまり喋らないけど、お願いをしたらだいたい魔法で叶えてくれる。
「お掃除魔法とか使えたりする・・?」
と言ったら魔法で部屋中をピカピカにしてくれるし
「お洗濯したいんだけど水出したりできる?」
と言ったら魔法で洗濯機みたいにまとめて洗って脱水までしてくれるし
「今日お風呂めんどくさいな」
と言ったら清浄魔法をかけてくれた。


「快適すぎてノルックが帰った後生活できなくなりそう。」とついポロッと口にしたら、ノルックが前のめり気味に「いいよ」と言うので、これ以上ダメ人間にしないでと言って笑った。

朝起きて、おはようと言いあって
包帯を変えて
ご飯を食べて
掃除して洗濯して
畑の世話をしたり
食材を調達したり
お菓子を作ったり
日が暮れたらまたご飯を食べて
包帯を変えて
夜は同じ部屋で眠り
苦しそうな時はこっそり魔力を吸い取る

魔力を吸い取っていれば、ノルックは何もなく平気そうだった。

誰にも傷つけられない2人だけの生活は
ダイアさんとソニアさんとの生活とは違うけど久しぶりに感じた温かなひと時だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

処理中です...