異世界で迷子を保護したら懐かれました

稲刈 むぎ

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13.王命

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「わかった。受け取ったから帰れ。」

そう言って、ノルックは巻物を乱雑に受け取り、そのまま袂に入れてしまった。
見る気がないことは明らかだった。

「そうもいかないんだって。まあ開けて読んでみてよ。」

ノルックが胡乱な目をしたかと思うと、周囲で不思議なラップ音がしはじめる。

霊感はないはずだけど、思わずノルックのローブを握りしめた。

ラップ音が鳴り響く中、キュリテはずっとニヤニヤしている。
やがて諦めたのか、ノルックは巻物を開くことにしたようだ。袂から出てきた巻物はそのまま空中に浮かぶ。誰も触っていないのに紐が解かれて、文字が現れた。

後ろからこっそり覗き込んでみたけど、達筆なこともあり何が書いてあるか全く解読できない。

多少の文字はソニアさんとダイアさんに教わっている。でも、覚えたのは物の名前とかだったし、1人になってからは専ら日本語でメモをとっていたから圧倒的にこの世界の言語を知らないことを突きつけられた。

ノルックと2人だけの時はよかったけど、今後、万が一社会や法律が敵になったらノルックを守れないかもしれない。早急に文字を覚えないと。

洗練された模様のように見える文字を睨んでいると、ノルックが読み終わったのか元のように巻物が綴じられた。

「なんて書いてあったの?」

「大したことじゃない」

聞いてみたけどはぐらかされた。あわよくばもう一度見せて貰おうと思っていたのに、瞬間火が上がって巻物は消失していった。

「おい!これ一応国の重要書類なんだぜ?…ったく、城に来いってお呼び出しの内容だったんだろ?ほら、行くぞ。」

キュリテが持ってる杖で急かすように床を2回鳴らした。

「行かない。」

考えるそぶりもせずにノルックが即答した。

「おまえなぁ…」

「あの!」

言い争いになりそうな雰囲気だったので、話が進む前に手を挙げた。

「あの、ノルックは何でお城に呼ばれてるんですか?ノルックの安全性が確保されていないなら、一応、一時的にでも、身を預かった者としては快く送り出したくないんですが。」

お城に呼ばれるって、普通は相当栄誉なことだとは理解してるけど、さっき聞いた“監禁”“実験”の中身を聞かないうちには、ノルックを明け渡してはいけないような気がする。

思わずローブを握る手に力がこもったところで、ノルックがくるりと振り向いた。
ローブを掴んでいたはずが、いつの間にか掴んだ先がノルックの手に変わっている。

「ここにいるから安心していい。こんなジジイは遠くに飛ばすから」

蕩けた目に締まりのない口元に、“ジジイ”というワードはすり抜けていった。ノルックは上機嫌そうにスリスリと繋がっている手を撫でている。

「こら、ジジイとは何だ。我はまだ37だぞ。それに王命なんだ。逆らうと、そっちの嬢さんが反逆者として捕らえられることになるかもしれないんだぜ。それでもいいのか?」

言われた人はさすがにスルーできなかったようでツッコミが入ったが、その後の私が捕えられるという言葉に反応したノルックが鋭い眼光でキュリテを睨む。

「あんたを殺せばいいだけだ。初めから会っていなかったことにすれば、指示がなかったから反逆にはならない。ミノリの居場所もわからない。」

「ちょ!ちょっと!そんな簡単にコロスとか言っちゃだめ!!!」

慌ててノルックを止めると、なんで止めるのかわからないという無垢な顔をされた。

「どうして?あいつを殺せばミノリとまたずっと一緒にいられる。
ミノリだって煩わしい虫が飛んでいたら、潰すだろ。」

誰か、この子に倫理を教えた人はいないの?養成所ってところは人との関わり方についての教育はないの?!

前も見た、細められた目に上がった口角。
でも全く笑っていない笑顔がこわい。

想定外の返しに口を動かすけど言葉にならなくて、何から伝えればいいのか悩む間に横で煽り合いが始まった。

「はっ、おまえが受け取ったこと、我が何も記録していないとでも思ったのか。証拠さえあれば逃げられないぜ?」

胸を張ってドヤ顔をしているキュリテの鼻を、ノルックが折りにかかった。

「装飾、浮遊の記録水晶は破壊した。録音機も、昼間の時点で機能してないの、あんた王宮魔術師名乗ってるくせに気付いてなかったわけ?」

ノルックが人差し指を上に向けると、穴の空いた小さなガラス玉が乗っていた。

「嘘だろ!マジか」

キュリテが耳や胸元を触ったり、ローブの中を見たりし始めた。恐らくそこに仕込んだものがあったのだろう。1、2、3、、、と数えるたびに、顔が絶望に変わっていく。

もしかしてさっきのラップ音も破壊していた時の音なのかな?

「これも…これも…これも?!」

「あからさまに魔力を纏わせて、あれで気を引きつけたつもりか。緩いんだよ。」

しばらくお互いに無言で顔を見合わせた後、キュリテが不意に笑い出した。

「…くっ、ははっ。
はー、まさか仕込んでたの全部やられるとは。中核をキレイに壊してくれちゃって、魔力全然通らないわ。
さすが、稀代の魔術師様。ホレボレしちゃうねぇ」

壊されたにも関わらず何故か嬉しそうだ。
薄々思っていたけど、キュリテって変態なのかもしれない。

「あんたも、これと同じように一瞬でころ…」

「ちょっと待ったーーーーーーー!!!」

握っていた手を離して、慌ててノルックの口を塞ぐ。
そんなバイオレンスなこと何度も口にさせませんよ!!?

「あの、ちょっとノルックと2人で話したいので、ここでお茶でも飲んでいていただけますか」

「お茶なんて出さなくていい」

口を塞いでいた手をあっさり外してノルックがいう。
仮面のような、あの変な笑顔のままだ。

「まあまあ、少しじっくり話したいし。
これ、庭で取ったハーブのお茶なんです。この通り安全ですから。」

毒がないことを示すために、ポットのお茶を注いで一口飲む

「あー…悪いな。じゃあここで少し休ませてもらうわ」

「部屋のものは勝手に触るな。触ったら命はないと思え」

「おっかねえな。いつも無愛想なくせに、このが絡むとそんなキャラになんの?」

おもしろ、と言って笑うのを見て、ノルックがジロリと睨みつける。

「ノルック、とりあえずこっち。」

またノルックが不穏なことをいう前に、なんとか引っ張って、私の部屋に連れてきた。

「ここならいいかな。」

ドアを閉めると、念の為にとノルが防音の魔法をかける。

「あ、のさ、まずは、今日はごめんね。5年前、急にいなくなって寂しかったから、正直八つ当たりだったの。ずっと、また会いたかったから、会いに来てくれて、本当にうれしかったし、帰ってきてくれてありがとう。」

いつもの表情に戻って、ノルックがこくんとうなづく。
誤解ですれ違う前に、言いたかったことを伝えられてホッとする。

「それで…さっきの人の話だけど、お城に行くの?大丈夫なの?監禁実験って…」

「城には行きたくない。」

俯きながら、ノルックが噛み締めるように言った。
まだまだ見えていないことがたくさんあるけど、やっぱり少なくともここに居たいというのはノルックの本心に思えた。

ノルックが望むなら、できる限り叶えてあげたい。

「なんとか行かない方法はないのかな…
これってすぐに返事しないといけないの?1週間後にまた来てくださいとかできないのかな。その間にどうできるか考えるとか…」

社会人として会社に勤めていた時、無理な納期が提示されることが何度もあった。なんとか交渉して期限を延ばしてもらったこともあるけど、この世界の王族トップ オブ トップに交渉とか、無理…かな。

「僕は、王の眷族だから、王命は逆らえない。」

ノルックから、聞いたことのない単語が飛び出してきた。王の、眷族?!眷族って、一族ってことだよね?えっ、ノルックも王族なの?

「王族ではない。本当は呼ばれたら城にはいかないといけない。でも僕はミノリのそばにいたいから行きたくない。
…ミノリが、あんなに僕を待ってくれていたなんて…」

次から次へと出てくる新しい情報に頭が混乱しそうだ。それでも、ない頭をフル稼働してノルックの願いを叶える方法を考えることに注力していたので、後半のノルックが呟いた言葉は聞き逃してしまった。

思考の渦に溺れながら、ふと気づく。

「大丈夫なの?監禁実験って」

何度も聞いているはずなのに、監禁実験の内容について未だ説明をしてもらっていない。

「…僕の魔力を上げるために、専用の部屋に閉じ込められて魔力が尽きるまでひたすら魔法を使わされた。その時発見された古代魔法から最新の魔法まで手当たり次第。」

魔法を、魔力が尽きるほど使わされるということが、魔力を持たない私にはどういうことか想像すらできないけど、言われて思い出したのは夜中に苦しんでいた幼いノルックの姿だった。
暴走させないためにも魔力を使わせないといけなかったのかもしれない。けれどノルックからは魔法を使わされた日々が辛い思い出のように聞こえる。

「時々、こうして会いに来てもいいなら…耐えられる。僕が一番辛いのは、ミノリに会えないことだから」

「ノルックなら、もちろんいつでも大歓迎だよ!今までだって、5年も待たなくても来てくれてよかったのに。」

弱々しくなる声を元気付けたくて軽く言ったつもりだったけど、すぐに後悔した。

「うん。こんなにかかるとは思わなかった。思ったより見つからなくて、長距離の移動も安定してなかったから。」

「あ…」

ノルは魔法を使いこなすために5年間ずっといろんなことを耐えていたんだ。
それなのに、私はノルックが会いに来なかったといじけたりして、恥ずかしい。

「ノルック…」

5年分のノルックを抱きしめたくなって、腕を伸ばしかけたけど、それを上からノルックに止められた。

「待って。あいつが席を立とうとしてる」
「え」

目の前のノルックが瞬時に消えた。
あいつって、キュリテだよね?

たいした距離ではないけど、また揉め出すと困るので急いでドアを開けてリビングに走った。
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