異世界で迷子を保護したら懐かれました

稲刈 むぎ

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16.謁見

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案の定、突然現れた私たちを見て周りの人は驚いて距離を取りだした。そしてやがて驚きはヒソヒソ声に変わる。

背中から視線をビシビシ感じる。
ノルックはなんでこんな格好にしたのか…
顔がよく見えないなんて、やっぱり不敬って言われるんじゃないか。

「顔は上げなくていい。」

今まで聞いたことのないノルックの冷たい声に、自然と視線が足元に下りた。

重々しい扉がゆっくりと開く。
ノルックが歩き出したのに合わせて、足を踏み締める。

どれくらい歩いたか。長いな、とこぼしそうになったところでノルックが立ち止まった。慌てて歩みを止める。

「面を上げよ。」

王様らしき声が響き渡る。
流石に直接言われたら従わざるを得ない。

顔を上げてみたが、前髪でよく見えない。
ノルックも膝から下しか視界に入らない。
髪をかき分けるのも失礼に当たりそうで、とりあえずそのまま前を向いた姿勢になる。

玉座と思われるシルエットの両サイドや、通路に沿った壁側にかなりの人の気配を感じる。キュリテもそこにいるのだろうか。

「呪われた…還らずの森で生活していると報告を受けていたが。まさかこれほど見窄らしいとは。」

ほら!やっぱり謁見に相応しくない格好だったじゃん。悔しいけど違うんですと喚くわけにもいかなくて、横目でノルを睨んだ。

「そこのノエルジェーク・G・モンバード殿を保護していた件については礼を言う。彼は我が国に欠かせない珠玉だからな。
して、褒美は何を求める?王都で住めるように住居を与えてやろうか。苦労の多いであろう森を捨て、これからは王都で住むが良い。」

人の話を聞かず、偉そうな喋り方で延々と話を進めるところが、前世のやたらと上から目線で話してきた上司とダブって静かにスイッチが入った。

「褒美はいりません。何かが欲しくて彼を助けたわけではないので。それに私は森で住む方が馴れていますから、お気遣いは不要です。
謁見させていただけたことが、十分な褒美でございます。」

ほとんど見えてないだろうけど、精一杯の笑顔を造る。印象に残らない程度のお世辞を交ぜてしまうのは、社会人生活で身につけた哀しい職業病だ。

「ふむ。そうか。
ならば今後ともよく過ごすが良い。」

「有難きお言葉に感謝します。それでは、私は失礼いたします。」

「陛下、私も失礼いたします。」

退席の挨拶までスムーズにいけたと内心ガッツポーズしていると、それまで無言だったノルックがやっと声を出す。

ちょっと、ノルックは用件があって呼び出されたんだから、ちゃんと聞かないと。

「ノエルジェーク・G・モンバート」

当然、呼び止められる。

「…経過は順調です。状況は王宮魔術所に記録がございますので、私はこれで。」

失礼します。と、それだけ言ってノルックが退室しようとしたので、一礼して追いかけた。

ドアが閉まると同時に顔を見合わせると、転移前の部屋に戻っていた。

登城するって、まず作法を教え込まれてドレスアップを念入りにして、移動だって馬車の迎えがきて広い庭園や長い長い廊下を歩いて、少なくとも半日はかかるものだと思ってたけど、ノルックの魔法で半刻も経たずに終わってしまった。

「転移って、あのドアの外からじゃないと使えないの?」

「防衛のために謁見室は魔法を無効にされる。」

なるほど。確かに魔法が有効な状態で知らない人に会うとか普通に危険か。

「なんか、陛下ってあんまりいい印象じゃなかったな。」

ぼさぼさにされた髪を整えるように手櫛で撫でる。前髪は邪魔だから斜め分けにして視界を確保した。

「ノルックの、あんな現状報告?だけでいいならわざわざ呼び出さなくても良さそうなのに。」

緊張から解放された反動か、返事もないのに話し続けてしまう。

「すごく適当に答えたけど、あれでよかった?それにしても、なんでこんな格好にしたのよ。嫌味言われたじゃん。」

せめて戻してほしいと、髪と格闘しながら呟いてると


ちゅ

は?

ちゅ

は?ちょっと

ちゅちゅ

ま、まて
まてまてまて

え?そんなタイミングだった?
というかなんで今キスされたの?

キスといってもほっぺとかおでことか瞼とか鼻とかで、挨拶みたいなものなのかもしれないけどこちとらその辺全く耐性ないんですよ?

「ミノリが見返りを求めてないって言ってくれたのうれしくて、つい。」

うれしかったらキスするの??そういう文化?ノルックの貞操観念が緩い疑惑も湧いてきたけど。
まあ弟みたいと言えどもノルックも大人の男性だからいろいろと経験があってもおかしくはないか。
キラキラスマイルしても、私は騙されないから。

「そういうの、好きな人にするものじゃないの?」

近づいてくる顔を両手で抑えてガードしたら、思いの外すぐに離れてくれた。

「ミノリが好きな人だから問題ないよ。」

「……。」

わかった。ノルックは、私の言った“好き”が家族愛にも適用されると思ってるんだ。

背も高いし見た目もイケメンカーストがあるなら先端の小さい三角に属してるだろうし、今までに恋愛のひとつやふたつあってもおかしくなさそうなのに。残念すぎる。

あ、私のことはお察しの通りなんで気にしないでください。

再び顔が近付いてきたけど押し退ける気力もなく、家族愛なら仕方がないか、となすがままに愛の洗礼を受け入れることにした。
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