異世界で迷子を保護したら懐かれました

稲刈 むぎ

文字の大きさ
29 / 40

28.再診とおねだり

しおりを挟む
「どうして…何が嫌だった…?」

腰に回る腕に力が込められる。
ノルックを見ると、瞳がわかりやすく揺れている。

「嫌とかじゃないよ。もともとノルックすぐに帰れるって言ってくれてたじゃない?すぐ戻るものと思ってたから、食料とか整理したいなと思って。あと探したいものとかもあるし。」

大丈夫だと思うけど、傷みそうな食材は持ってくるか処分したい。

「…そういうことなら。カメルの結果が出てからでもいいか?」

帰りたい理由を伝えると、あっさりといつもの顔に戻った。

「あー…うん。もう大丈夫だと思うけど、今日来るんだよね?その後でも大丈夫だよ。」

カメルさんは今日のお昼前にまた来てくれるらしいから、ノルックとお庭を散歩したり帰省用に荷物をまとめたりして待ち時間を過ごした。

予定の時間に近くなったので、応接室に移動してノルックとお茶をしていると、来訪者を知らせるベルが鳴り、扉が開けられた。

「ミノリ様の診察に参りました。」

カメルさんの手には、見たことのない道具がある。

「ミノリ様はそのままでけっこうです。昨日から何か変わったことはありますか。」

昨晩ノルックが布団に入ってきてドキドキしたけど質問はきっとそういうことじゃない。

「いえ、特に何も…。夜もぐっすり寝ちゃいましたし、朝ごはんも食べれたし、散歩もしました。」

私の回答を聞きながら、カメルさんが昨日と同様に腕を摩ったり眼に光を当てたりしてきた。

「それは安心いたしました。…大変申し訳ないのですが、私が知る限りの技術ではミノリ様のお身体に異常がないと断言できる根拠を示すことができません。
治癒者は魔力を検査して異常を調べるのですが、ミノリ様には魔力を全くございませんので。」

カメルさんが申し訳なさそうに目を伏せる。

「王国一の治癒者と謳っていながら役立たずめ。」

吐き捨てるようなノルックの言葉に、カメルさんが悔しげに睨みつけた。

「ノルックは、私の身体を調べることはできないの?」

「患者の状態を調べることができるのは治癒者だけなんだ。僕は修復はできるけど人体の探知はできない。原因がわかれば治せるけど、異常を見つけられない。」

なるほど?魔法にも特性があるのかな。目に見える傷は治せるけど、病の原因を調べて治すのは治癒者の特権みたいなこと?

「昨日、傷口の液体を採取させていただきましたが、こちらから一時的に強力な眠気を促す薬物反応がありました。既に意識があり記憶の混濁などないようですから現在は効果を失っていると思われますが、その確認が魔力から感知できませんでしたので、念のため引き続きご注意下さい。」

知らない間に体に得体のしれないものを打ち込まれていたという事実に、無意識に傷跡を探ってしまう。今回は回復できたからよかったけど、キュリテの『どうこうするくらい訳もない』という言葉が真実味を帯びてきて背筋が冷える。

「それから、僅かに外部からの魔力の残滓がありました。簡易の魔力鑑定を試みられたようです。ミノリ様に魔力がないため恐らくなんの情報も得られなかったと思いますが…」

「あいつがわざわざ薬品を使うとはどういうことだ。魔力を感知させないためなら転移してきた理由が不明だ。
ミノリに魔力がないことは、あの魔力バカが重視するとも思えないが、何をしようとしたのかは気になるな。」

キュリテの企みが見えなくて、思わず腕をさすった。魔力がなくてよかったのか、悪かったのかも今の段階では判断がつかない。

「現状申し上げられる診断結果は以上になります。」

カメルさんはそう言って深いお辞儀をした。

「ふぅん。つまり、ミノリに使われた薬物と鑑定魔法かけられたこと以外は何にもわからないわけか。」

俯きがちに座るカメルさんに、ノルックが冷水を浴びせるように言う。

「そ、そうですが、その代わりに今後を懸念しまして…」

こっち向いたかと思うと期待に満ちた目で見つめてくる。
さっきまでの落ち込んだような雰囲気と180度変わって、言葉尻の割に口角は上を向いているし、頬も上気してきている。

「ミノリ様の様々なデータを取らせていただけますか!
魔力のある私たちとの体の仕組みの違いを明確にし、どのような差があるか、ゆくゆくは実験…いえ、調査させていただき、ミノリ様の今後の健康や治療にお役立てればと…!」

あ、圧が強い…。しかも実験って言った。
今後病気になったときに治し方がわからないのは困るけど、お願いしますと即答できない程度には身の危険を感じる。

「現在の医学に治療法がないなら、お前にはもう用はない。ご苦労だった、もういい。」

何かを言おうとして口を開いた姿を最後に、運んできた荷物と共にカメルさんがいなくなった。
ノルックが魔法で追い出したことは流石にわかった。

昨日の夜ミィミがいなくなったの、ノルックの仕業の可能性もあるな。

「とりあえず、カメルさんの診断だと気をつければ大丈夫そうだし私は特に問題ないと思ってるから、早く森に行こ。」

まとめておいた荷物を掲げる。
このタイミングでどうしても一度帰りたい。

「どうしても帰りたいのか。」

「ノルックが一緒なら何があっても大丈夫でしょ?今回帰ったら、またしばらくはこっちにいてもいいから。」

掲げていた鞄を抱きしめて、ノルックを見つめながらお願いと念じる。

「…わかった。ハン。」

しばらくの沈黙の後、遂にノルックが折れてくれた。
私とノルック以外いないはずの部屋で執事さんを呼ぶ。

「承知しました。」

声のした方を見ると、いつの間にか部屋の中にハンさんがいた。
45度のお辞儀のまま停止している。

「行くぞ。」

ノルックは決めたら行動が早い。
鞄を持ちなおすと、ノルックの手を握り森へ転移した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

処理中です...