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32.監禁
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目を覚ますと広いベッドの上だった。
つい最近も同じことがあった気がする。
体を起こして見渡すと、部屋の内装は王都の部屋と違っていた。お屋敷より森の家に近く、家全体が木で作られたログハウスだ。外から明るい光が入り込んでいるから半日は経ってるみたい。
「ノルック?」
「ミノリ、起きたんだね。
痛いところや気分が悪かったりしない?」
独り言で掻き消えると思った呼びかけは、思いがけず掬い上げられた。
「うん。」
ぼーっとするけど、意識を失う前のことは覚えている。頭痛とかもなくて、ただ眠っていただけみたい。
ポケットの中に置物はいるし、腕にブレスレットもいる。胸のブレスレットも確認して、ひとまず胸を撫で下ろす。
「ここはどこなの?」
ベッドから見える、窓からの景色が見慣れなかった。
見晴らしがよくて空が近く、ごつごつした岩も見える。
「儀式の祭壇の近くだよ。」
いつの間にかベッドサイドに移動していたノルックの指先が私の輪郭をなぞり、サイドの髪を耳にかけられる。
穏やかな表情を浮かべているノルックに反して、私の頭の中は絡まるばかりだ。
「祭壇…?」
「昨日ハンから連絡があったんだ。ミノリが『凶悪な洗脳者』として指名手配されているって。捜索隊が組まれて屋敷に侵入されたらしい。ミノリはここにいるし、探しても見つからないからキュリテ経由で森にも来る可能性があると思って、安全のために新しい家を建てたよ。」
し、指名手配?!
魔力もない、森で平和に暮らしていただけの人間に、どうしたら凶悪という形容動詞がつけられるのか…
洗脳にも心当たりなさすぎるし、言い掛かりだよそんなの。
王都のお屋敷のみんなは無事なのか気になるけど、ノルックが半日以内で家を一軒建てることにも驚く。
ノルックの本職って本当に魔法を使った大工さんじゃないよね?
「噂では、ミノリは“幼かった僕を洗脳して結界の代替わりを妨害している悪辣者"らしいよ。世界の破滅を目指してるんだって。」
おかしいね、といってクスクス笑う。
こっちはなんにも笑えなくて、丸めたガムテープみたいなくしゃくしゃの顔になる。
「どうせノルックが思い通りにならないからって私に矛先変えたんでしょ。
でもなんでこの場所なの?」
安全のため、というけど、祭壇の近くなんて危険なのでは?こっちの宗教はわからないけど、神事とかで訪れる人とかいないのかな。
ノルックがベッドの淵に座り、キョトン顔の私の顔をじっと見つめてくる。
「ミノリは本当に何にも影響しないんだね。」
オパールの眼が目の前に並んでいることに落ち着かない。話に集中しようと、胸の早鐘を抑えて問い返した。
「影響しないって、なんのこと?」
「魔圧。魔力による圧だよ。」
魔圧。カメルさんかミィミが確か、普通の人は魔圧が強い人の近くにいると立っていられなくなるって言ってたな。
「私は大丈夫みたい。ノルックも魔圧が強いらしいね。でも本当に何にも感じないの。」
試しに両手をグーパーしてみたけどいつもと何ら変わったようには思えなかった。
「他の奴らは祭壇に近づくと魔圧に耐えられず魔力を奪われるから、自らの命と引き換えにここに来るやつなんていない。それに、ミノリに教えてもらった砂を撒いたから、仮に来る奴がいてもここを見つけるのは困難だろうね。」
ノルックに握っていた手を掴まれる。
何?!と思ったら窓際に立っていた。
いやほんの3歩くらいの距離じゃん。言ってくれたら歩くのに。
片手は手を掴んだままだったけど、もう一方の片手は私の体を抱き込むようにして、逆側の肩に手が置かれている。
肩に置かれた手について考えていると、「寒くない?」と聞かれた。
想定外の言葉に咄嗟に反応が遅れる。ようやく浮かんだ「大丈夫。」という言葉を伝えて、窓の外を凝視した。
落ち着け、落ち着け、ノルックだから。
窓の外を見ると、緑も少しだけあった。
緑の隙間からも岩肌が見える。転んだら痛そうだ。
山の上の方みたいで、地面の先は白いもやで見えなかった。
深呼吸をしながら窓の外を凝視する私を気にすることなく、「見て。」と視線を誘導してくる。
「あれが祭壇。結界の代替わりの儀式を行う場所だよ。」
ノルックが指差す方を見ると、山の頂上あたりにドンと聳え立つ四角い建物がある。
四方を白い壁で覆っていて、3階建のビルくらいの高さがありそうだ。
「まあ、儀式があるって言っても行くのは僕だけなんだけど。」
結界の更新者は、祭壇から放たれる魔圧に耐えられる魔力が必要だから、儀式の日までに魔力を相当上げる訓練をさせられるんだそう。
だからノルックは魔力を上げるために訓練させられ続けて、今ここにいても耐えられている…
「祭壇の魔圧の影響はあの木のところまで。」
ノルックが反対側を指差すと、葉が櫛のように枝から生えて、丈夫そうな幹を覆っている木があった。
「あそこから先は、祭壇の魔圧が弱まるから、王城のやつが潜んでいるかもしれない。だからミノリは近付かないようにね。
ミノリは、僕がいる時以外この家から出たらダメだよ。」
縋り付くように、掴んだ手を強く握られた。見上げると、感情の読めない目で見下ろしている。
断る理由も特に思い浮かばない。
指名手配が嘘か本当か私には判断する材料がないけど、とりあえずここにいればノルックの安全も保障されそうなのでノルック顔にしっかりと向き合ってから
縦に一度、首を振った。
つい最近も同じことがあった気がする。
体を起こして見渡すと、部屋の内装は王都の部屋と違っていた。お屋敷より森の家に近く、家全体が木で作られたログハウスだ。外から明るい光が入り込んでいるから半日は経ってるみたい。
「ノルック?」
「ミノリ、起きたんだね。
痛いところや気分が悪かったりしない?」
独り言で掻き消えると思った呼びかけは、思いがけず掬い上げられた。
「うん。」
ぼーっとするけど、意識を失う前のことは覚えている。頭痛とかもなくて、ただ眠っていただけみたい。
ポケットの中に置物はいるし、腕にブレスレットもいる。胸のブレスレットも確認して、ひとまず胸を撫で下ろす。
「ここはどこなの?」
ベッドから見える、窓からの景色が見慣れなかった。
見晴らしがよくて空が近く、ごつごつした岩も見える。
「儀式の祭壇の近くだよ。」
いつの間にかベッドサイドに移動していたノルックの指先が私の輪郭をなぞり、サイドの髪を耳にかけられる。
穏やかな表情を浮かべているノルックに反して、私の頭の中は絡まるばかりだ。
「祭壇…?」
「昨日ハンから連絡があったんだ。ミノリが『凶悪な洗脳者』として指名手配されているって。捜索隊が組まれて屋敷に侵入されたらしい。ミノリはここにいるし、探しても見つからないからキュリテ経由で森にも来る可能性があると思って、安全のために新しい家を建てたよ。」
し、指名手配?!
魔力もない、森で平和に暮らしていただけの人間に、どうしたら凶悪という形容動詞がつけられるのか…
洗脳にも心当たりなさすぎるし、言い掛かりだよそんなの。
王都のお屋敷のみんなは無事なのか気になるけど、ノルックが半日以内で家を一軒建てることにも驚く。
ノルックの本職って本当に魔法を使った大工さんじゃないよね?
「噂では、ミノリは“幼かった僕を洗脳して結界の代替わりを妨害している悪辣者"らしいよ。世界の破滅を目指してるんだって。」
おかしいね、といってクスクス笑う。
こっちはなんにも笑えなくて、丸めたガムテープみたいなくしゃくしゃの顔になる。
「どうせノルックが思い通りにならないからって私に矛先変えたんでしょ。
でもなんでこの場所なの?」
安全のため、というけど、祭壇の近くなんて危険なのでは?こっちの宗教はわからないけど、神事とかで訪れる人とかいないのかな。
ノルックがベッドの淵に座り、キョトン顔の私の顔をじっと見つめてくる。
「ミノリは本当に何にも影響しないんだね。」
オパールの眼が目の前に並んでいることに落ち着かない。話に集中しようと、胸の早鐘を抑えて問い返した。
「影響しないって、なんのこと?」
「魔圧。魔力による圧だよ。」
魔圧。カメルさんかミィミが確か、普通の人は魔圧が強い人の近くにいると立っていられなくなるって言ってたな。
「私は大丈夫みたい。ノルックも魔圧が強いらしいね。でも本当に何にも感じないの。」
試しに両手をグーパーしてみたけどいつもと何ら変わったようには思えなかった。
「他の奴らは祭壇に近づくと魔圧に耐えられず魔力を奪われるから、自らの命と引き換えにここに来るやつなんていない。それに、ミノリに教えてもらった砂を撒いたから、仮に来る奴がいてもここを見つけるのは困難だろうね。」
ノルックに握っていた手を掴まれる。
何?!と思ったら窓際に立っていた。
いやほんの3歩くらいの距離じゃん。言ってくれたら歩くのに。
片手は手を掴んだままだったけど、もう一方の片手は私の体を抱き込むようにして、逆側の肩に手が置かれている。
肩に置かれた手について考えていると、「寒くない?」と聞かれた。
想定外の言葉に咄嗟に反応が遅れる。ようやく浮かんだ「大丈夫。」という言葉を伝えて、窓の外を凝視した。
落ち着け、落ち着け、ノルックだから。
窓の外を見ると、緑も少しだけあった。
緑の隙間からも岩肌が見える。転んだら痛そうだ。
山の上の方みたいで、地面の先は白いもやで見えなかった。
深呼吸をしながら窓の外を凝視する私を気にすることなく、「見て。」と視線を誘導してくる。
「あれが祭壇。結界の代替わりの儀式を行う場所だよ。」
ノルックが指差す方を見ると、山の頂上あたりにドンと聳え立つ四角い建物がある。
四方を白い壁で覆っていて、3階建のビルくらいの高さがありそうだ。
「まあ、儀式があるって言っても行くのは僕だけなんだけど。」
結界の更新者は、祭壇から放たれる魔圧に耐えられる魔力が必要だから、儀式の日までに魔力を相当上げる訓練をさせられるんだそう。
だからノルックは魔力を上げるために訓練させられ続けて、今ここにいても耐えられている…
「祭壇の魔圧の影響はあの木のところまで。」
ノルックが反対側を指差すと、葉が櫛のように枝から生えて、丈夫そうな幹を覆っている木があった。
「あそこから先は、祭壇の魔圧が弱まるから、王城のやつが潜んでいるかもしれない。だからミノリは近付かないようにね。
ミノリは、僕がいる時以外この家から出たらダメだよ。」
縋り付くように、掴んだ手を強く握られた。見上げると、感情の読めない目で見下ろしている。
断る理由も特に思い浮かばない。
指名手配が嘘か本当か私には判断する材料がないけど、とりあえずここにいればノルックの安全も保障されそうなのでノルック顔にしっかりと向き合ってから
縦に一度、首を振った。
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