死のうとしたらセックスしてからにしようと言われた話

梅星たね

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 俺は平内さんのことが好きみたいだ。そう気づいてから、彼のことを意識しすぎてしまい胸が苦しい。
 平内と両思いになって付き合いたいとか高望みはしてないし、気持ちを伝えるつもりもない。だからこそ、彼と二人きりでいると好きな気持ちがバレそうで怖くなった。
 
 ほとんど毎夜恒例の平内との食事会は彼と一緒に過ごせるので好きだったが、気持ちがバレて関係が壊れるくらいならと、最近はなにかと理由をつけて避けていた。このまま、平内に対する好意もなくなればいいと思っていた。
 
 
 「中原くん」
 
 仕事終わり、平内に見つかる前に帰ろうと足早に店を出ようとしていたとき、後ろから呼び止められた。
 振り返ると、平内が立っていた。 

 「あ……今日はちょっと用事が」
 「僕のこと避けてるよね」
 「……」
 
 平内を避けていたことがバレていたようだ。今まで一緒に帰っていた人が急によそよそしくなったのだ、無理もないだろう。
 悠が黙っていると、平内は困ったように笑って言った。
 
 「きみに話があるんだ。うちに来てくれない?」
 
 
 数日平内の部屋に来てないだけなのに、ひどく久しぶりに感じる。
 話の前にお腹を満たそうと、平内が夕食をご馳走してくれた。彼は、ありあわせで悪いけどと言いながらチャーハンを作ってくれた。パラパラで美味しくて、なぜだか涙が出そうになった。
 
 食事を済ませると、平内が重い口を開いた。
 
 「きみが僕を避けているのって、あの約束のせいだよね」
 「……えっ」
 
 自分の平内への好意がバレたのではないかと思っていたので、悠は拍子抜けしてしまった。
 
 「ごめんね。もっと早く話すべきだったね」
 
 約束……すっかり平内は忘れていると思っていたが、覚えていたのだ。その上で実行に移さないということは、やはり悠とはそういう行為をしたくないのだろう。では、なぜあんな約束をしたのだろうか。
 平内はどこか遠くを見つめながら話を続けた。
 
 「僕にはね友人が居たんだ。その友人とは学生時代からの付き合いで、趣味も合って仲が良かったんだ。そいつは僕と違って本当に人の良い奴だった」 
 「就職してから、お互い会う頻度が少なくなったんだ。ある日、久しぶりにそいつに電話してみたんだ。そしたらそいつの声がすごく疲れてるんだ。どうしたのか聞いてみると、どうやら仕事がつらいらしい。後日、休みを合わせて直接会うことになったんだ」
 
 悠は彼の話をじっと静かに聞いていた。
 
 「久しぶりにあった友人はひどくやつれていた。話を聞けば聞くほど友人の会社はブラックで、そんな会社辞めたほうがいいと言ったんだ。彼はそうだねと弱々しく笑うだけだった。その数日後、彼は自ら命を絶ったんだ」
 
 悠は驚きのあまり言葉を失った。
 
 「あの時、なにか出来ることがあったんじゃないか。もしかしたら、友人を助けられたかもしれない。そんなタラレバの話をしたって友人は亡くなったんだ。悔やんでも悔やみきれない後悔と共に生きていくしかなかった」 
 
 平内は悲痛な面持ちでそう話した。
  
 「そんな時、ドアを開けたら隣人が死のうとしてて内心動揺したよ。でもすぐに、きみを救いたいと思ったんだ。今思えば、きみを救うことで救えなかった友人への罪滅ぼしをしようとしたのだろう。あんな約束を取り付けたのは、今にも死のうとしている人に、綺麗事言ったってムダだと思ったからなんだ」
 
 だからあんな突拍子もないことを言ったのか。確かに、あのとき正論や綺麗事を言われてもウザいと思っただけだろう。
 
 「最初はやつれていたきみが、段々元気になっていく様子を見て嬉しかった。僕はきみを助けることができたんだと安心した」
 
 優しい笑顔をして平内は話す。
 
 「だから、あの約束はもう忘れて。気に病ませたみたいでごめんね。きみはきみのために生きていってほしい」
 
 平内は真っ直ぐこちらを見つめて言うので、悠は切なくなった。
 悠は平内とセックスをするという約束が嫌で彼を避けていたのではなかった。逆に、約束はどうなったのかと気に病むくらいだった。もちろん、そんな気持ちを悟られる訳にはいかない。
 
 「……そうだったんだ。でもよかった、いつ襲われるかビクビクしてたんだ」
 
 平内への気持ちを隠すかのように、悠は大げさに言ってみせた。
 
 「そんな、襲うなんて人聞きの悪いなぁ」
 「だって、太らせてからいただくとか言ってたじゃん」
 「それは、きみが今にも倒れそうなくらい細かったからね」
 
 いつもの調子に戻った平内に、悠はホッとした。
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