今宵満月の夜、ヴァンパイアの夢を

ミルク

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1章

放課後の約束

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 一体どこに行ったのだろうと、休み時間になってからカルマさんを探した。すると化学室の前あたりで何者かに手を掴まれ、そのまま引きずり込まれる。

「きゃっ!!」

 驚いて逃げようとしたけれど、包み込まれていて身動きが取れなかった。だけどすぐに相手が誰だか理解する。

 「マリア……」

「カルマさん……」

 やっぱり昨日の真っ黒な服じゃない。今日は白衣だ。顔を歪める私を前に彼はニコリと笑い

「なかなか似合うだろ?? 他のはしっくりこなかったからこれにしたんだ」

 なんて軽いノリで言った。いや、これは軽すぎる。最初の出会いなんてものすごく大げさで、ホラーかつかなりシリアス展開だったというのに。これはどういうことなの!? ツッコミどころが満載すぎる!!

「なにしてるんですか?」

「何って……毎日お前に会おうと出した結果だ。」

「け、け、結果って……」

「ここにいるやつらの記憶を少しばかり操作したけど。まぁ気にするな」

 ……気にするよ……。ヴァンパイアかなんだか知らないけど、そんなことまでできるの? まぁ確かに見た目からして、同じ生徒というのは無理があるかもしれないけれど、それでもいきなり先生として現れられたら、私も流石に追いつけない。まだヴァンパイアということだけでお腹いっぱいなのだ。

「さっきどうして無視したんですか?」

「ああ……俺は心底あの男が嫌いだ。マリアと歩いているだけで虫唾が走るからな。できれば関わりたくはない。」

 あの男とはきっと瑠偉のことを指しているのだろう。知っているような口を利くので、前世で何かあったのかな? というよりも、前世とか今世とかそんなことをもう信じてしまってる自分に驚愕だ。

 「やっと2人きりだな。マリア」

「貴方が無理矢理……」

「ずっと気になっていたが、カルマさんはやめろ。カルマでいい……ずっとそう呼んでいただろう?」

 さぁ、呼べ。そう命令するようにツゥと唇をなぞられる。私は本当に何も覚えてないし、自分がマリアさんだという自覚もない。だからそのずっとというのはわからない。それでも彼が、とても呼んでほしそうに待っているので、私はついつい名前を口にした。

「カル……マ……?」

 その瞬間カルマは嬉しそうに、そして愛しそうにニコリと笑った。こちらがなんとも言えないような顔をするので、思わずその美しい顔に見惚れてしまう。

「……ずっと待っていた……お前がまた名を呼んでくれるこの日を。」

 この前までさん付けで呼んでいたからピンと来ていなかったのかな……それにしても名前を呼んだだけでなんて嬉しそうなの。フワリと両頬を両手で包み込まれて、また彼は確かめるように私に触れてくる。

「マリア……」

 一体出会ってから何度名前を呼ばれただろう……彼が私の名を口にするたび、心臓がひどく苦しい。そして何より、もっと呼んでほしいという感情に襲われた。いままで家族にも瑠偉にも呼ばれてきた名前。17年間付き合ってきたこの名前を、ただ呼ばれただけなのに。私はこの人相手だとそれだけで泣きたくなる。

「カルマ……」

「……マリア」

 理性が吹っ飛んでいきそうだ。ギュウウと抱きしめられたら、もう何もかもどうでも良くなった。こんな気持ち知らない。ドキドキして、それでいて少し苦しくて。離れたくないと頭ではなく、身体が言う。

「貴方は……私のなんなの?」

 思わずでた質問だった。私が知っているご先祖様の話は、ひどいヴァンパイアに攫われてそれをルイという婚約者に救ってもらい、一緒になったという物語のような話。だけど、もしかしたらそんな話嘘じゃないんだろうか……

 だって本当なら……どうしてこんなに”愛しい”という気持ちに支配されるの?

「……いずれ全て思い出す日がくる。」

 切なげに笑ったカルマは、泣きそうな私の涙袋を優しくなぞる。

 「必ず思い出してくれると信じている……」

 本当にヴァンパイアなのかと疑いたくなった。突き放してしまえば壊れてしまいそうで、触れてくる手に、全てを預ける。

 思い出したい……何を思い出すのかすらわからないけれど、この人のために思い出したい。

 彼の唇がゆっくりと私に近づいてきたかと思えば、キーンコーンカーンコーンといまの雰囲気に似合わぬ音。

「なんだ、このふざけた音は……」

「チャイムだ……いかないと。」

 次の授業が始まってしまう。そう離れようとしたら掴まれて、手の甲にキス。

「放課後とやらに……ここで待っている」

 そしてそれだけ呟くと私をすんなりと解放した。……なんなの。聞きたいことは全然聞けなかったし、この状況だってわからないまま。だけど1つだけはっきりしたことがある。

 私は必ずここに来てしまうということだ。


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