魂を殺された女

早坂 悠

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地味になってしまった容姿

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 走って逃げたため日頃の運動不足も相まってハルカは疲れてしまい、トボトボとしばらく歩き本来乗る予定だったバス停を、通り越してしまったので少し先のバス停まで歩いてから家に帰宅した。

 家に着くと「どうだった?あやちゃんとのランチは楽しかった?」と母親は心配そうに聞いてきた。

 「うん。そうだね。帰りにみずきにも会ったよ。……。別人って言われちゃった……。お母さん……私……って……もう前の私には戻れないのかな………」と目に涙が滲んできて、
母親の前で久しぶりに泣いてしまった。

 本当は泣きたくなどなかった。今日は彩乃あやのとのランチ。楽しいランチになる予定だった。それなのに……

 母親はスッと近寄ってきて「抱きしめていい?」「うん」と会話をしてからハルカをギュッと抱きしめた。ハルカの母はハルカの体に触れる時はハルカに了承を取ってから触るようにしてくれる。前に突然、触られた時にハルカがパニックになってしまった経緯をきちんと覚えていてくれている。

 ”前のハルカに戻れるよ”みたいな無責任な発言をするような母でなくて良かったとハルカは思った。ただ母に抱きしめられて、涙を流すだけ流した。少し落ち着いてきて「コーヒーでも飲む?」と言われて、ハルカは母親の入れたインスタントのコーヒーをリビングで飲んでから、疲れたので部屋に行くと言って自分の部屋に入る。

 彩乃とのランチはとても楽しかった。けれどそのあとで偶然、みずきに会い”別人みたい”と言われて、ハルカは心をえぐられるような衝撃を受けた。

 雑誌を買ったり流行のファッションやコスメの情報をネットで見たりと楽しむことはあっても、それらを取り入れる余力が今のハルカにはなかった。

 化粧も最小限しかしてなかったのを、就職のために久しぶりにと思い……ドラッグストアに寄ったことを思い出す。

 あの時、買ったのは「眉ペン」だけだった。バッチリと化粧していた昔のハルカなら眉毛だけ書くような女の子ではなかった。眉毛だけじゃなく、ファンデーション、アイシャドウ、チーク、マスカラ、アイライナーなどなどしっかりした美しい顔に仕上げて街を颯爽と歩いていた。

 もうそんな自分は今はいない。髪の毛は美容院に行ってないのでカラーが取れ頭の上は地毛の黒色の髪の毛が覆い、耳から下の部分だけは明るいブラウンのアンバラスの髪型で伸びっぱなしの胸まで伸びた髪の毛はとても傷んでいた。

 心だけじゃなくて体もなんだかボロボロだな……とハルカは感じる。昔はもう少し自分の手入れをきちんとしていた女性だったと思う。身だしなみを整えたり、お化粧したりするのに少し怖さを感じると共に、そういうことに意識を向ける余裕がないのだった。

 でも就活の手前、最低限の身だしなみは必要かな……と少し思い直す。前のようには出来なくても人から見て不快に感じない程度には印象を変える必要があるかもなと思った。なんとか男性の気を引くよう格好だけは避ければいいのだ。と思った矢先…スマホからLINEの着信を告げるメロディがなった。彩乃からだった。

 『大丈夫だった?突然、みずきに会ってビックリしちゃったよね?大丈夫?家には無事に帰れた?今日はランチ付き合ってくれてありがとう。また今度、一緒に遊ぼうね』

 と返事があり、ハルカは『急に帰ってしまってごめんね。今日はありがとう。それじゃまたね』と返信する。

 彩乃はどこまでも優しく、なんて人思いのだろうと思った。それに比べてみずきは……と思ってはいないと分かっていてもついつい彩乃と比べてしまう。

 よく言えば素直、悪く言えば無神経でどんどん思ったことを言ってしまうみずきは、高校の時から周囲とのトラブルが多かった。

 いや、トラブルが多いというのは語弊があるかもしれない。元気で活発で思ったことを堂々というみずきのことを羨ましいと思う子もきっと多かった。そういう子とみずきは喧嘩になることが多かったので、きっと嫉妬心から喧嘩に発展したのかもしれなかった。

 集団の中でのムードメーカー的な存在、それがみずきだった。楽しいことを楽しいと言って、不満があれば不満を漏らす。今日のこともきっとみずきのLINEを既読スルーしていたハルカに対して不満を持ち、ちょっとズケズケと物を言ってしまったのかと思った。

 みずきにこちらから謝った方がいいのだろうか?とハルカは思った。人の変わり果てた容姿に対して別人だの老けたのだのそんなことは普通は言ってはいけない言葉ではあるが………みずきは悪いことはしてない。私が変わってしまったのは事実なのだ。

 でも謝る?謝るって何を?と思うとハルカは気持ちの整理が途端に難しくなった。だってハルカも何一つ悪いことをしてないのだから。

 とその日は結局、ハルカはみずきに謝ることはせずに久しぶりに全速力で走って疲れたので早めのお風呂に入り、いつもより早めに夕飯を済ませるといつもより早めに就寝したのだった。

 疲れてて睡眠薬がなくても寝れるかもと思うが夜中に途中で起きてしまうのが怖くてハルカは睡眠薬を必ず飲んで、深い眠りの中での夜が明けるのを待つ。

 そして次の日の朝日が登り世界が周り始めるとハルカも起きてきて、いつも決められたルーチンをこなす日常が訪れる……と思っていたが……

 朝ご飯を食べて食器を洗っているとピンポーンと来客を告げるインターホンが鳴った。母親がバタバタと廊下を走って来客の対応をするのかと思いきや、母親はキッチンのハルカのところに来て、「みずきちゃんが来たよ。どうする?」とハルカに声をかける。

 ハルカは慌てて玄関に行き、玄関で立っているみずきにおはようと挨拶するとみずきは………

「昨日はごめん!
うんで今日は一緒に美容院行くってどうよ?」

とハルカに向かって声をかけるのだった。
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